完結 R18 拝啓、ポンコツ女神様。今更あなたの手違いだったと言われましても。

にじくす まさしよ

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 日本で上司だった須藤課長を彷彿させる人と出会ったのは、コーキさんのお葬式の時だった。彼とは旧知で、スドオシさんは死別、ヒキサゲくんは未婚だからあえて私に紹介しなかったっぽい。私にはコーキさんしかいないのに、やきもちやきにもほどがあるなと笑ったもの懐かしくも哀しい思い出だ。

 時々ミランさんのところに行き、その度にメ・ガーミと会えずに落ち込むものの、スドオシさんとヒキサゲくんが、力づけようとしてくれているお陰で、娘とふたりで暗い淵の中で過ごすなんて最悪の状況になることはなかった。

 コーキさんという強力な庇護がなくなった私は、方方から狙われているらしい。だから、スドオシさんとヒキサゲくんが護衛してくれているのだけど、いわば閑職だろうここにいつまでも未来ある彼らを縛り付けておくわけにはいかない。

 ネオン様が、自分たちがいなくなったあとが心配だから、彼の代わりに庇護をしてもらえる相手を探すほうがいいと言われたものの、たとえ愛する娘のためとはいえ、それって再婚してコーキさんを裏切ることになるんじゃと思うとなかなか踏ん切りがつかなかった。

「きゅー」
「ぷわっぶわっ」
「かわいいです」
「ひきしゃげー、こっちこっちー」

 今日は、ミランさんのところからの帰りに、4人で海辺に立ち寄った。このあたりは、昔コーキさんとネオン様、そしてもうひとりの私が派遣されるまで荒れ果てた場所だったらしい。でも、先々代の王様が引退して私の兄が王になってからは徐々に景気も回復して、こういう場所も安全に過ごせるように発展したのだ。
 元気よく人々が行き交い、新鮮な海産物がならんでいる。元の世界だと、絶対に万は軽く超えるだろう天然ものの海鮮料理が、なんと500円くらいなのだ。

 コーキさんの持つプライベートビーチで、娘はふりふりのビキニを来て、スドオシさんはアザラシになってぷっかぷっか浮いたり、潜って魚を取ったりしていて微笑ましい。ヒキサゲさんは、娘の面倒を見つつ、逆に、よちよち歩いて娘に面倒をみてもらいつつ和やかに過ごしていた。

 そんな平和な一コマも、私達に気取られることなく、狙ってくる人たちからしっかり守ってくれているからだと思うとありがたくて、そしてコーキさんがここにいてくれたらって涙があふれそうになる。

 ビーチからあがり、ランチをとるために近くのレストランに入った。すると、いきなりヒキサゲさんが、かわいいウェイトレスの女の子に近づいて抱きしめたのだ。
 赤毛のそばかすがチャーミングな女の子に、かわいい系のイケメンだが男子が抱きついたのだからびっくりした。

 ツガイを見つけた人にはよくある普通の光景らしいけど、元の世界だと、いくらイケメンであっても即警察沙汰だろう。

 偶然にもツガイと出会うことができたふたり。いきなり意気投合したし、周囲も大賑わい。レストランにいたお客さんも大ノリで、即興の結婚式があげられた。

「団長、マール様、すみません。僕、休暇をいただきたいです」
「ああ、代わりは任せておくといい」
「ええ、蜜月に入るんですよね。おめでとうございます」

 同年代のお似合いのふたり。彼らはもう、ふたりだけの世界に入っていて、仕事だなんだというのは野暮というもの。ヒキサゲくんと一ヶ月ほど離れると言われた娘は、ちょっとムッとしていたけど、生まれてくる赤ちゃんを一番に見せてもらうという約束をしてくれたようで、はやく赤ちゃんを産んできてって頼んでいた。

「ヒキサゲがいない期間ですが、俺だけになりますが安心してください」
「はい、ご面倒をおかけしますがよろしくお願いします」

 ますます、コーキさんの代わりになれる人を探す必要性に迫られてしまった。しかも、護衛して貰う必要がないほどの人を。

 再婚しても、男女としてではなく、一時の友人のような家族になって貰える人は少ない上に、暗殺者から守ってもらえるような人。

……

 いないよねー

 心当たりなんて全く無い。地位だけでも、力だけでも、娘を大事にしてもらえなければ嫌だ。いっそ、お金で名ばかりの夫を募集しようかと考えていると、ネオン様が倒れたという知らせを聞き慌ててお城に向かった。

「マール、もう少しあなたを守ってあげたかったけれど、もうお迎えが来たみたい。あの人が待っている場所に行くわ」
「ネオン様……私のことは心配なさらず、どうか、また幸せになるための良い旅立ちをお祈りしております」
「ふふふ、また、必ず会いましょうね」
「はい、また……」

 皆、私を置いていくのかと思うと、胸に冷たい風が吹き抜けるかのようにさみしくて悲しい。でも、この世界では本当に一時の別れなのだ。
 今度出会う時、私と彼女はどんな関係なのだろうか。どんな出会いだったとしても、仲良くなれる、そんな気がした。

「マール様、こちらを」

 静かに眠りについた彼女の侍女に、ぶ厚めの封筒を渡された。そこには、私ともうひとりの私と出会えて幸せだったこと、危険なめに合わせてしまい申し訳ないことなどが、丁寧に綴られている。どこまでも、優しい彼女の気持ちに、胸が熱くなった。

 そして、今後はスドオシさんと再婚して守ってもらうようにと書かれており、騎士団長である彼が、コーキさんが亡くなってから護衛についているのか、別の思惑があったことを知ったのである。

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