完結 R18 拝啓、ポンコツ女神様。今更あなたの手違いだったと言われましても。

にじくす まさしよ

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「見つけた。俺の、ツガイ。マール、マール。無事で良かった。ずっと探していたんだぞ」

 玄関が開くなり、男性が入ってきた。その人に、いきなりぎゅうぎゅう抱きしめられる。

 逞しい腕。かたい胸板。走ってきたせいで汗ばんでいるのに、甘くて爽やかな香りがした。

「ひぃっ! あ、あのあの……」
「ああ、マール。どうしてこんなところに。マールが消えた場所から、400キロ(東京大阪間くらい)は離れているじゃないか。よく顔を見せておく……れ?」
「や、やめ! 離してください。いきなり女性に抱きつくとか、セクハラですよ!」

 ぐいっと胸を押してみる。うん、びくともしない。どんな鍛え方をしたら、こんな筋肉になるというのか。

「マール? どうして失踪した時の姿のままなんだ? ま、まあいい。かわいいマールとこうして無事に会えたんだから。さあ、早く帰って結婚しよう!」
「だから、離してくださいって。おじさん!」

 私の最後の言葉に、ショックを受けたようだ。力が抜けたので、今度こそぐいっと胸を押して逃げた。

「ま、マール? もしかして、俺がわからないのか?」
「おじさんなんか、知りませんよ。ちょっと讃路さんに似てるかなって思いますけど。もしかして彼の親御さんか親戚で? 彼にはお世話になっておりますが、いくらなんでも失礼でしょう」
「そんな! いや、でも。確かにマールなのに、ツガイなのに。本当に俺がわからないのか? よーく見てくれ!」

 そう言いつつ、やたらと胸が踊る。ウキウキして、私からも彼を抱きしめたい衝動にかられた。おかしい。私は親ほどの人にときめきを感じないはずなのに。

「マール、彼こそがマールのツガイじゃよ。なんとまあ、十数年前に活躍した勇者じゃないか。なら、マールは消えた王女様だったのか」

 自分でもおかしな胸の高鳴りに戸惑っていると、ミランさんが彼の味方のような発言をした。

「え? ミランさん、この人が? しかも、勇者とか王女ってなんなんですか。そもそも、ツガイって同年代なんですよね? どうみても、私のパパよりも年上じゃないですか」

 そう反論しつつ、心の何処かでそうだそうだと頷いている。マジマジ見つめると、彼はぽっと顔を赤らめた。おじさんの恥じらいを、見ることになるとは思いもしなかった。

「うう、長年会っていなかった間、毎日のようにマールを思い浮かべていたんだが。思い出のマールよりも、100倍、いや無限大にかわいいし美しい」

 彼が顔に両手を当てて上を向く。そして、ばっ効果音が出そうなほど私を見たまま肩に手を置いてきた。加減はしているのだろうけど、握力がすごくてちょっと痛い。

 なんとかミランさんたちが彼を落ち着かせてくれて、彼と話をすることになった。そうこうしているうちにも、私の彼への想いが膨れ上がって、もう四の五の言わずにこのまま彼と一緒になりたいって抱き着きたくなって困った。

「なんと。では、マールはマールだけど、マールじゃないってことか」
「う、うん……?」

 わかったような、よくわかってないようなことを繰り返す彼に、私は本当にわかったのか同じ話を繰り返すのみ。本人がまだ受け入れられていないのだから、彼がもっと混乱するのは当たり前だ。

「とにかく、本来のツガイであるマールは、命の危険があるから別世界で健康になるまで過ごしていたというわけだな。こっちにいたのは、別の世界のマールで。うーん、別人だけどツガイであるのなら問題ないと思う。俺は、目の前の君を求めているのだから」
「でも、一緒に過ごした人じゃないですよ?」
「さっき、君も言っていたけど、記憶などが同化しているんだよな? なら、ふたりは別人であって同じ人なんだ。それとも、マールは俺をツガイだと思っていない? 何も感じないのか?」
「いえ、それは。なんだか、一気に好きになったような不思議な気持ちにはなってます」

 私が正直に自分の気持ちを伝えると、彼はまたもや私をぎゅうぎゅう抱きしめてきた。

「この十数年、ずっとマールが生きていると信じて探して純潔を守っていたんだ。若干年齢差はあるけど、はやく、結婚しよう」

 本能が急くまま、頷きたい。でも、こんなのでいいのかなーとも思いつつ、どっちにしても彼と私はツガイであることは間違いないようだ。

 結局、ミランさんたちの後押しもあって、私は彼の手を取り、そのまま私の本来いるべき場所まで行くことになった。
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