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それから、ミランさんたちの勧めで居候させていただくことになった。
絶対にこっちの世界にいる私のツガイが必ず見つけてくれる予感がするから、下手に動かないほうがいいとのこと。
ミランさんは、占い師のような、未来予知のような事ができるらしい。
昔は神殿で、孤児の面倒を見たりしていたそうだ。孤児たちが独立するにあたって、ミランさんのような存在は、職業の適性などを知るうえでとても役立つ。10年くらい前に巣立った少年は、今では副団長になっているそうだ。
「あの、ツガイが見つけてくれるって言われても、良くわかんないんですけど……」
「マールの世界ではツガイがいないんじゃったかんかん。体や記憶はともかく、根っこのコアが惹かれ合うようになっていてな。おそらくは、もうひとりのマールが消えてしまったから、懸命に探しているはずぞ」
数日は、絶対に受け入れられなかった。でも、滅茶苦茶人の良いミランさんたちに八つ当たりしたり、彼らが心酔しているメ・ガーミの愚痴なんかいえるはずもなく。
平和にのほほんと時がすぎるごとに、ある変化に気づいた。どうも、記憶というか、体の隅々が違う自分になっていくような感覚を覚えたのだ。
ミランさんに聞くと、数百年前に緑茶と羊羹など和菓子文化をもたらした異世界の人も、こちらの世界に順応できるように神が祝福を授けているからだという。
「……私は、消えてしまうんでしょうか」
このまま、変化し続けたあとに、日掛 円美という存在がなくなると思うと、ぞくりと背筋が凍る。
「いや、消えるというよりも取り込むといった感じぞな。まあ、そんな怖がらずとも、この世界で今後も生きていくには便利な知識だと思っておればよかろうもん。小さな子が大人になるような、そんな感じじゃ」
「はあ……」
転移そのものは、度々あるのは本当らしい。間違った世界に生まれ落ちた人を、世界が強制的にあるべき世界に戻すのだという。
ただ、私たちのようにメ・ガーミがトレードした事例はないとのことだった。
それから一週間が経過した。ミランさんの言った通り、私のツガイが迎えに来たのである。
────
一方その頃、日本の某高級マンションでは
「コーキ♡ はい、あーん♡」
「あーん♡ 美味しいよ、マール♡」
「ふふふ、私、とーっても幸せ♡」
「俺も♡」
もうひとりのマールは、こちらの世界にあっという間に順応した。なんせ、元の世界よりも便利で清潔で、なによりも平和だ。しかも、転移したすぐ目の前に、もうひとりのツガイが酔っ払って眠っていたから。
速攻で彼がツガイだとわかった。こみあげる愛しさ。一秒でも離れていられない。着崩れのある彼の服は、第二ボタンまで外されていて、首にひっかかっている紐は外れていた。強いお酒を飲んだみたい。こっちの彼も、下戸なら弱いはず。慌てて介抱して夜が明けると、彼が感激して「一夜を共にした責任を取らせてください!」ってプロポーズしてくれた。
あっちでもなかなか決定打がなくてソワソワしていたから、二つ返事でOKした。そのまま、彼と初めてのキスをしたのだ。なんていい思い出。一生忘れられない劇的なこっちの世界のツガイとの出会いだと自慢できる。
そもそも、メ・ガーミの説明にしても、こっちの世界よりも受け入れやすい素養があった。
メ・ガーミも、もうひとりのコーキにも、ちゃんと自分自身が現れて結ばれると約束してくれている。だから互いの魂の片割れが幸せに過ごせるのなら、どこでも良いと思った。
徐々に、もうひとりの自分の記憶なども馴染んできた。今では、仕事も難なくこなせている。ほどなく、完全に同化するだろう。
もしも、ちょっとした違いがあっても、コーキは幸せそうに見つめて愛を囁いてくれる。
きっと、元いた場所でも、皆ほぼ元通りになるはず。いずれ女王になっても、この体の持ち主なら、国のためにも立派にやり遂げるだろう。
ちょっとした寂しさはあれど、不満などこれっぽっちもなかった。
「俺、こんなに幸せでいいのかな。数日前にやっと友達になったばかりなのに」
「友達なんて、コーキったら、友達で良かったの? 私は、そんなのイヤ」
「俺だって」
逞しい腕が、彼女の体を包み込む。ムチムチのお肉が彼の腕を包みこんでいると言ってもいいかも知れない。
「これって、互いに包み込み合えるし最高ってことよね」
「ん? そうだね。いつ、俺達の赤ちゃんが来てもいいように、早く結婚式をあげようね」
「やだ、赤ちゃんだなんて、ちょっと恥ずかしいわ。でも、嬉しいっ!」
互いに微笑んで、唇を合わせる。もう一人のコーキは、純情すぎてキスひとつかわしたことがなかった。せいぜい、頬や額への軽いキスだけ。
結婚前にはしたないかしらと思っても、こっちの世界では、婚前に深く結びつくなんてことは当たり前らしい。
この世界でも裕福な家庭に生まれたようだし、これまで辛い仕事をしてきた分、しっかり幸せになろうと、甘い時間と幸せに酔いしれたのであった。
絶対にこっちの世界にいる私のツガイが必ず見つけてくれる予感がするから、下手に動かないほうがいいとのこと。
ミランさんは、占い師のような、未来予知のような事ができるらしい。
昔は神殿で、孤児の面倒を見たりしていたそうだ。孤児たちが独立するにあたって、ミランさんのような存在は、職業の適性などを知るうえでとても役立つ。10年くらい前に巣立った少年は、今では副団長になっているそうだ。
「あの、ツガイが見つけてくれるって言われても、良くわかんないんですけど……」
「マールの世界ではツガイがいないんじゃったかんかん。体や記憶はともかく、根っこのコアが惹かれ合うようになっていてな。おそらくは、もうひとりのマールが消えてしまったから、懸命に探しているはずぞ」
数日は、絶対に受け入れられなかった。でも、滅茶苦茶人の良いミランさんたちに八つ当たりしたり、彼らが心酔しているメ・ガーミの愚痴なんかいえるはずもなく。
平和にのほほんと時がすぎるごとに、ある変化に気づいた。どうも、記憶というか、体の隅々が違う自分になっていくような感覚を覚えたのだ。
ミランさんに聞くと、数百年前に緑茶と羊羹など和菓子文化をもたらした異世界の人も、こちらの世界に順応できるように神が祝福を授けているからだという。
「……私は、消えてしまうんでしょうか」
このまま、変化し続けたあとに、日掛 円美という存在がなくなると思うと、ぞくりと背筋が凍る。
「いや、消えるというよりも取り込むといった感じぞな。まあ、そんな怖がらずとも、この世界で今後も生きていくには便利な知識だと思っておればよかろうもん。小さな子が大人になるような、そんな感じじゃ」
「はあ……」
転移そのものは、度々あるのは本当らしい。間違った世界に生まれ落ちた人を、世界が強制的にあるべき世界に戻すのだという。
ただ、私たちのようにメ・ガーミがトレードした事例はないとのことだった。
それから一週間が経過した。ミランさんの言った通り、私のツガイが迎えに来たのである。
────
一方その頃、日本の某高級マンションでは
「コーキ♡ はい、あーん♡」
「あーん♡ 美味しいよ、マール♡」
「ふふふ、私、とーっても幸せ♡」
「俺も♡」
もうひとりのマールは、こちらの世界にあっという間に順応した。なんせ、元の世界よりも便利で清潔で、なによりも平和だ。しかも、転移したすぐ目の前に、もうひとりのツガイが酔っ払って眠っていたから。
速攻で彼がツガイだとわかった。こみあげる愛しさ。一秒でも離れていられない。着崩れのある彼の服は、第二ボタンまで外されていて、首にひっかかっている紐は外れていた。強いお酒を飲んだみたい。こっちの彼も、下戸なら弱いはず。慌てて介抱して夜が明けると、彼が感激して「一夜を共にした責任を取らせてください!」ってプロポーズしてくれた。
あっちでもなかなか決定打がなくてソワソワしていたから、二つ返事でOKした。そのまま、彼と初めてのキスをしたのだ。なんていい思い出。一生忘れられない劇的なこっちの世界のツガイとの出会いだと自慢できる。
そもそも、メ・ガーミの説明にしても、こっちの世界よりも受け入れやすい素養があった。
メ・ガーミも、もうひとりのコーキにも、ちゃんと自分自身が現れて結ばれると約束してくれている。だから互いの魂の片割れが幸せに過ごせるのなら、どこでも良いと思った。
徐々に、もうひとりの自分の記憶なども馴染んできた。今では、仕事も難なくこなせている。ほどなく、完全に同化するだろう。
もしも、ちょっとした違いがあっても、コーキは幸せそうに見つめて愛を囁いてくれる。
きっと、元いた場所でも、皆ほぼ元通りになるはず。いずれ女王になっても、この体の持ち主なら、国のためにも立派にやり遂げるだろう。
ちょっとした寂しさはあれど、不満などこれっぽっちもなかった。
「俺、こんなに幸せでいいのかな。数日前にやっと友達になったばかりなのに」
「友達なんて、コーキったら、友達で良かったの? 私は、そんなのイヤ」
「俺だって」
逞しい腕が、彼女の体を包み込む。ムチムチのお肉が彼の腕を包みこんでいると言ってもいいかも知れない。
「これって、互いに包み込み合えるし最高ってことよね」
「ん? そうだね。いつ、俺達の赤ちゃんが来てもいいように、早く結婚式をあげようね」
「やだ、赤ちゃんだなんて、ちょっと恥ずかしいわ。でも、嬉しいっ!」
互いに微笑んで、唇を合わせる。もう一人のコーキは、純情すぎてキスひとつかわしたことがなかった。せいぜい、頬や額への軽いキスだけ。
結婚前にはしたないかしらと思っても、こっちの世界では、婚前に深く結びつくなんてことは当たり前らしい。
この世界でも裕福な家庭に生まれたようだし、これまで辛い仕事をしてきた分、しっかり幸せになろうと、甘い時間と幸せに酔いしれたのであった。
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