完結 R18 拝啓、ポンコツ女神様。今更あなたの手違いだったと言われましても。

にじくす まさしよ

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どこにいるんだっ!

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 俺の名前は、コーキ・サンロ。28歳で勇者をしている。

「スーパーチャンスさん、ぼうっとしないで!」
「その名前で呼ぶなっ! その名は捨てた」
「はいはい、どうでもいいけど、しゃんとして! 私だって、いきなりマールが消えたことは悲しいんだから!」

 叫んだのはネオン・ナミツキ。24歳で聖女だ。

 マールとは、俺のツガイ。優しくてたおやかで、努力家で美しくて可愛くて賢くてキュートでパーフェクトな、俺だけのツガイ。そして、この国の高潔な王女。

 彼女は、圧政を強いる現王に反意を示したため、俺達のような盗賊退治という汚れ役をさせられている。蝶よ花よと育てられたはずなのに、困っている人々の手助けができるのならと、文句言わずにきつい任務についてきて、俺達のサポートや、盗賊に荒らされた村の復興に力を尽くしてくれていた。

 彼女の行動は、やがて人々の耳に入る。噂を聞いた人々は感動し、次第に感動が声になり、声が歓声に変化した。

 今では、ほとんどの国民から次期王に望まれる、慈悲深い女神のような女性として崇められているミューズ。まだまだ語り尽くせないが、それが、愛しいマール(のごく一部)である。

 先月、王が倒れたこともあり、今回の任務が終わり次第、彼女が玉座につくことが決まっている。王都にいる俺達の同志が、それを邪魔しようとする今まで利権を貪ってきた貴族たちを制圧してくれていたから、帰還後すぐに彼女と思う存分、愛あふれる輝かしい新婚生活♡を送る予定だったのに。

 そのツガイが、先日いきなり消えた。俺達の目の前で。


 飛んできた矢をはたき落とし、襲ってきた盗賊をねじ伏せる。

「勇者さま、お助けを」
「さっきまで、俺達のことをボロカスに言ってたよな? 都合のいい時だけ勇者呼ばわりするな」
「せめて、小さい子だけは。俺達は、何も好き好んで盗賊なんかになっちゃいねぇ。重税につぐ重税、税金が取れなくなったら社会保障と称した実質増税のせいで生活が苦しくなったから」
「その王がいなくなって、それは改善されたはずだ。働き場所も、次期王がきちんと作ってくれている。そこで働けばいい」
「働いても6割以上持ってかれるじゃねえか。盗めば全部俺達のもの。俺達の税金で100%贅沢する貴族のほうが、よっぽど悪どい強盗だろうが!」
「その貴族どもも、マール王女のおかげで一掃された。今まで苦労させてごめんなさい、これからは幸せになりましょうと言った王女の言葉を忘れたのか!」
「だが、本当にそんな、夢のような話があるのか? 騙されているんじゃないのか?」
「本当だ。だから、人々を襲ったことを償い、新しい国を作ろうとしてくださるマール王女といっしょに頑張らろうじゃないか」

 俺が手を差し伸ばしてそう言うと、顔を見合わせて疑念にかられていた盗賊たちは、「完全に信用はしてねぇぞ」という言葉とともに俺の手を取った。

 辺境の治安部隊に彼らを預けて、残された子供をしゃがんで見る。彼は、ガリガリにやせていて、まるで枯れ木のような手をしていた。

「僕、名前は?」
「ヒキシャゲ……ヒキサゲ・マイボチュ」
「そうかそうか。立派な名前だな。さっきの連中に親はいるのか?」

 訊ねると、首をふるふる横にふった。小さいとは言え、盗賊団の一員だった子だ。不憫だが、盗みなどの犯罪をしていただろう。

 だが、マールがここにいれば、この子の将来を案じて対策を練るはず。

「他に、ヒキサゲのような子供はいるか?」
「僕だけ」

 どうしたものかと腕を組んで考えていると、ネオンが面倒を見ると言ってくれた。

「いいのか?」
「ええ。こういうことは神殿の役目よ。もう政治とずぶずぶの利権チューチューしていた大神官たちもいないし、新しい大神官である私のツガイならこういった身寄りのない子どもたちを助けてくださるわ」
「そうか。頼もしいな。俺は引き続き、マールを探す」
「ええ。反対勢力が何かしでかしていないか、こっちはこっちで調査しておくわね。何かあったらすぐに連絡をちょうだい」

 任務が終わり、俺は単身この地に残った。まだ、ツガイを喪失した魂のきしみはない。もしも、ツガイの片割れが亡くなれば、もう片方は心がちぎれるほどの苦しみや悲しみを覚える。今はまだそれがない。だから、どこかで生きているはず。

「マール、どこかで泣いていないか? 絶対に俺が見つけて助けてやるからな」

 その日から、俺はマールを求めて世界中を旅しつづけたのだった。
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