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讃呂さんと和解し、ちょっとだけ体に入れたアルコールのせいでウキウキ気分だ。
「タクシー呼んでますから、ちょっとここでじっとしてください」
「らいじょーぶ、らいじょー、ぶっ! 酔ってない、でぇすよー!」
私とは比べ物にならないほど、もっとウキウキ上機嫌で、鼻歌まで歌っているのは讃呂さん。どうやら、カクテルがアルコール度数40%くらいあるものだったそうだ。
「ひかけしゃーん」
「はいはい」
「ともだ、ち。ですよね? ね?」
「はいはい、友達ですよ」
「なら、あの人みたいにぃ、まーるって言っていいでしょ? ね?」
「はいはい、いいですよ」
酔っ払いの戯言だ。どうせ覚えているまい。タクシーが到着して、押し込む。
「讃呂さん、住所言えますよね?」
「にほん、でぇーす!」
こりゃダメだ。エリート実業家の片鱗どころか純度100%の酔っ払いでしかない。
私はサイフを探すために胸ポケットに手を入れた。
「ひゃっ。まーるは、えっちでせっきょくてきですね。でも、まーるになら、いいでぇすよっ! ははは」
「誰がエッチですか。人を変態みたいに言わないでください。もう、これだから酔っ払いは……。サイフ探しているだけですから。出しますよ。運転手さん、ここに連れて行ってください」
サイフから2万取り出して、運転手さんに彼を家まで放り込むところまで頼んだ。私の金ではないので、おつりはいらないという言葉とともに。
タクシーを見送り歩き出す。とっくに家に連絡はいれているけれど、もう23時を過ぎたから、パパたちはかなり心配しているだろう。
まさか、讃呂さんから告白されるとは思わなかった。ツンデレっていうのかしら?
正直、嬉しいよりも困っている。今まで散々コケにされたから、告白されたからってはいそうですかと気持ちを切り替えるなんて無理。
「一応、健康面は心配しているけど、パパやママと一緒で、ぽっちゃり好きってことなのかな?」
歩きながら、ふにっと脇腹を摘む。内もももなんだか以前よりもくっついてしまっていて、せっかく始めたダイエットが無駄だったことに落ち込んだ。
「うー、なんだかんだで、糖度の高いアルコール飲んだし。もう、ほんとに明日から。また、明日から頑張るっ!」
そう思いつつ、駅に向かった。今日は金曜だから、人通りが多い。酔っ払っているのに、器用に人並みを避けて歩く人に関心してしまう。
「あ、あと10分で電車が来ちゃう」
私は、その時、どうしてタクシーを呼ばなかったのかと後悔するなんて思いもしなかった。
早足でかけていくと、いきなり森が現れた。
「は?」
辺りを見渡しても、木、木、木、そして草、花。しかも、夜だったはずなのに、太陽が昇っている。振り返ってもくるりと回っても、同じような景色が広がっていた。
「……」
酔っ払って醜態をさらしていたのは讃呂さんのはず。なのに、どういうことだろう。
なにがなんだかわからないまま呆然としていると、顔に何かがバチンと当たった。結構痛い。
何事かと当たってきたそれを見ると、手のひらよりも大きなセミだった。
「~~~……っ! ぎゃっ! ぎゃああああっ!」
真剣にびっくりしたときは、「きゃ♡」「やだ、びっくりー♡」「こわーい♡」なんてかわいらしく言えるわけがないと聞いたことがある。女性らしからぬ野太い声が、森の中にこだました。
すると、周囲がざわめきだしたようだ。静寂で平和な森で、いきなり私の悲鳴が響いたのだ。そりゃ、虫や動物たちもびっくりするだろう。
もしかしたら、獰猛な動物を刺激したかも?
はっとして口を手で抑える。すると、がさっとひときわ大きな音がして、目の前に大きな影が現れたのであった。
「タクシー呼んでますから、ちょっとここでじっとしてください」
「らいじょーぶ、らいじょー、ぶっ! 酔ってない、でぇすよー!」
私とは比べ物にならないほど、もっとウキウキ上機嫌で、鼻歌まで歌っているのは讃呂さん。どうやら、カクテルがアルコール度数40%くらいあるものだったそうだ。
「ひかけしゃーん」
「はいはい」
「ともだ、ち。ですよね? ね?」
「はいはい、友達ですよ」
「なら、あの人みたいにぃ、まーるって言っていいでしょ? ね?」
「はいはい、いいですよ」
酔っ払いの戯言だ。どうせ覚えているまい。タクシーが到着して、押し込む。
「讃呂さん、住所言えますよね?」
「にほん、でぇーす!」
こりゃダメだ。エリート実業家の片鱗どころか純度100%の酔っ払いでしかない。
私はサイフを探すために胸ポケットに手を入れた。
「ひゃっ。まーるは、えっちでせっきょくてきですね。でも、まーるになら、いいでぇすよっ! ははは」
「誰がエッチですか。人を変態みたいに言わないでください。もう、これだから酔っ払いは……。サイフ探しているだけですから。出しますよ。運転手さん、ここに連れて行ってください」
サイフから2万取り出して、運転手さんに彼を家まで放り込むところまで頼んだ。私の金ではないので、おつりはいらないという言葉とともに。
タクシーを見送り歩き出す。とっくに家に連絡はいれているけれど、もう23時を過ぎたから、パパたちはかなり心配しているだろう。
まさか、讃呂さんから告白されるとは思わなかった。ツンデレっていうのかしら?
正直、嬉しいよりも困っている。今まで散々コケにされたから、告白されたからってはいそうですかと気持ちを切り替えるなんて無理。
「一応、健康面は心配しているけど、パパやママと一緒で、ぽっちゃり好きってことなのかな?」
歩きながら、ふにっと脇腹を摘む。内もももなんだか以前よりもくっついてしまっていて、せっかく始めたダイエットが無駄だったことに落ち込んだ。
「うー、なんだかんだで、糖度の高いアルコール飲んだし。もう、ほんとに明日から。また、明日から頑張るっ!」
そう思いつつ、駅に向かった。今日は金曜だから、人通りが多い。酔っ払っているのに、器用に人並みを避けて歩く人に関心してしまう。
「あ、あと10分で電車が来ちゃう」
私は、その時、どうしてタクシーを呼ばなかったのかと後悔するなんて思いもしなかった。
早足でかけていくと、いきなり森が現れた。
「は?」
辺りを見渡しても、木、木、木、そして草、花。しかも、夜だったはずなのに、太陽が昇っている。振り返ってもくるりと回っても、同じような景色が広がっていた。
「……」
酔っ払って醜態をさらしていたのは讃呂さんのはず。なのに、どういうことだろう。
なにがなんだかわからないまま呆然としていると、顔に何かがバチンと当たった。結構痛い。
何事かと当たってきたそれを見ると、手のひらよりも大きなセミだった。
「~~~……っ! ぎゃっ! ぎゃああああっ!」
真剣にびっくりしたときは、「きゃ♡」「やだ、びっくりー♡」「こわーい♡」なんてかわいらしく言えるわけがないと聞いたことがある。女性らしからぬ野太い声が、森の中にこだました。
すると、周囲がざわめきだしたようだ。静寂で平和な森で、いきなり私の悲鳴が響いたのだ。そりゃ、虫や動物たちもびっくりするだろう。
もしかしたら、獰猛な動物を刺激したかも?
はっとして口を手で抑える。すると、がさっとひときわ大きな音がして、目の前に大きな影が現れたのであった。
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