完結 R18 拝啓、ポンコツ女神様。今更あなたの手違いだったと言われましても。

にじくす まさしよ

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 あれから、基本的に讃呂さんの会社で週の半分は仕事をするようになった。課長に引き続き、私まで欠員となる日の事業部は阿鼻叫喚の騒ぎらしいけど。急用の時は、リモートで対応しているから問題はあまりない。

「日掛さん、すみませんが添削していただいてもいいですか?」
「日掛さん、あなたのおかげで大恥をかくのを免れました。今度、よかったら奢らせてください!」

 なぜだろう。讃呂さんの会社で、私はミランさん専属みたいな感じでオランダ語の通訳のために出向しているはずなのに、英語だけでなくフランス語やドイツ語の添削までしている。

 これというのも、困っている人がいたら放っておけないし、頼まれたら断れない私のおひとよしな性格のせい。

 まあ、本来の職場よりも忙しくないので楽ちんだし、誰かのためになるのならいいかな。

「日掛さん、今日の夜なんだが残業を頼めないか?」
「はい、わかっています。時差の関係ですよね。大丈夫です。わかっていますから。ミランさんの施設のライブ見ながらでいいですよね?」
「いつもすみません。ライブは先方もそのほうが喜んでくださっているから是非」

 オランダとは約半日の時差がある。ミランさんとの話し合いがある日は、必ずこうやって残業をたのまれるのだ。

 すでに、ミランさんは、トラブルがあったものの、讃呂さんたちのことを認めているし、プロジェクトは順調にすすんでいる。英語で問題なさそうだから、もう私なんていらないんじゃないかなって思うんだけど。

 とはいえ、やっぱり推し活である皆のパパミランさんに、画面越しであっても会えるのは嬉しい。スタッフの皆さんとも、ライブで投げ銭だけをしていた頃とは比べ物にならないほど仲良くさせていただいて、私はうっきうきで残業を引き受けていた。

 しかも、今回の件は、残業代が2倍なのよねー。

 今回のプロジェクトの成功は、今後のオランダとの発展にも期待できる。だから、破格値を約束してくれた。さらに、讃呂さんからも特別ボーナスを貰えるらしい。

 推し活がてらなのに、いいのかなーと思うけど、稼いだお金でオランダの新しい施設に行こうと思っている。

 かわいい動物たちのライブを見ながら、ミランさんたちと動物のことを語らう。あっという間に時間が過ぎて、時計のデジタル表示はもう21時だ。

 仕事の話? そんなもの、3分で終わったけど何か?

 なんなら、ずーっとこの仕事をしていたい。

 そろそろ推し活のお開きをする時間になり、名残惜しいけどミランさんとのチャットをオフにした。

「ああ、今日も癒やされたー。アザラシちゃん、もっふもふの換毛期が終わったら、ツルッツルのボテボテ魅惑のボディになるんだもん。かわいすぎ。ぽてんぽてんって動くと、ぽよんぽよんだし。プールでぷかぷかして、最っ高! ああ、触りたーい」

 本気で飼育員に転職したい。そう思いながら、椅子の上で伸びをする。

 すると、スカートのウエストが腰に食い込んだ。最近、触らなくても脇腹が大きくなってきた。袖も窮屈で、胸のボタンはパチンパチン。アザラシならかわいいけど、人間の私はそうではないだろう。

 せっかく始めたダイエットがまたもや失敗。なぜなら、讃呂さんの会社の人達が外食にさそってくれるから。

 外食でも一応は気をつけている。気をつけていても、やっぱり低カロリー高タンパクには程遠いし、薬のせいでお腹が空くから食べちゃう。

「またリバウンドしちゃった……」

 両手を顔の前で組み、ゲンドゥーポーズでため息をつく。

「日掛さん、ちょっといいですか?」
「讃呂さん、どうかなさいましたか?」

 仕事は終わったはずなのに、少し言いづらそうな讃呂さんに呼び止められた。少しは慣れたけど、相変わらず、この人とふたりになるのは苦手だ。

「あー、制服なんだが、サイズアップしたほうがいいか? きつくなったんだろう?」
「……」

 ぎゃー。まただ。また、こんなデリカシーマイナスなことを言ってくる。

 この数ヶ月、彼と仕事をするようになって、彼が、本気で悪気なく、こんなことを言ってくる人なのはわかった。つもり。

 他の社員さんたちには、絶対にこんなことないのに、なんで私だけ?

 有能だし、なんだかんだで部下思いだから慕われているのだ。だから、私にだって、普通に対応できるはずなのに。

 一応、他の人には聞こえないように配慮してくれている。以前の、ところ構わずではないことを考えると、彼なりの成長かもしれない。

 でも、女性の社員さんに聞いてもらうとか、他に方法はあるよね?

 せっかく癒やされたのに、直後の讃呂さんに台無しにされた。

「お気遣い、ありがとう、ございまス。ですが、この仕事の契約期間ももうすぐ終わりますしおかまいなく!」

 なんとか、なんとか理性を保ってお礼を言う。セクハラとして報告してやると決意したのだが、これ以上は無理。

 頭を上げると同時に、くるりと体を反転させて部屋を出ていく。ロッカーに小走りで移動してさっさと着替えを済ませた。

「あ、日掛さん、ちょっと待って」

 後ろで讃呂さんの声がする。もう仕事は終わった。だから、聞こえないふりをしてさささーっと早足でエレベーターに乗り込んだ。

 タタッタタタタタタタン

 閉まるボタンを、これ以上はないくらい連打する。だがしかし、努力も虚しく追いつかれてしまった。
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