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「知り合いだったのですか?」
「初対面です。私の画面越しの推し活相手の保護者なんです」

 讃呂さんはオランダ語も今の説明も、わけがわからないといった表情をしていた。掻い摘んで説明して、怒りがおさまるまでしばらく二人で話をさせて欲しいと頼んだ。

「確かに俺達がいないほうが良さそうですね。ただ、何かあればすぐに駆けつけられるよう隣にいます」
「はい、かしこまりました」

 ミランさんは、この部屋に私だけが残ると、大喜びで、仕事以外の普段のことなど話し始めた。

『マール、君のアカウントが、まさか初期から応援してくれているサークル・マールさんだっとは。いつも、ありがとう。皆さんからの寄付金がなければ、施設はとっくに潰れてしまい、あのコたちは行き場をなくしていた。新しい施設に引っ越せるのも、マールたちの寄付のおかげだ』
『いえ、こちらこそ、かわいい動物たちの配信を見させていただきありがとうございます。ファンのみんなも喜んでいますし、一生懸命なミランさんたちがいるから、応援したい人たちが集まってるんです』

 彼は、本当に保護動物を愛している。野生に返したあとならともかく、今回の仕事のミスで動物たちが危険にさらされることを心底心配しているのがひしひしと伝わってきた。

 現在、彼に示されている代替案では、多少の犠牲もやむを得ないコたちもいる。だから、彼にしてみればとうてい承服などできるはずもないし、私だって嫌だ。集まっている動物たちのファンは多い。

 そんなことになろうものなら、オランダどころか日本中、いや世界中からバッシングを受けて、まだ歴史の浅い彼の会社は潰れるかもしれない。つまり、彼の会社に委託した我が社もただではすまないだろう。

『あのコたちの誰も傷つかず、無事に引っ越すことができるように最善を尽くしてもらえるよう、しっかり通訳をつとめさせていただきます』
『あなたのような天使が私の前に現れるなんて。これも神の、あのコたちの導きかもしれませんね』
『私も、トラブルがきっかけですが、尊敬するミランさんにお会いできて光栄です』

 そこからは、ミランさんも冷静さを取り戻してくれた。

 ミランさんの要求は、動物たちを安全に新しい施設に引っ越しさせてあげて欲しい。ただこれだけだ。

 讃呂さんは、ミランさんの純粋な気持ちに思うところが大いにあったみたい。私利私欲で、ずいぶんふっかけられるかもしれないと思っていたようだからなおさらだったようだ。

 計画が変更になったことで、圧倒的に不足してい専門知識のあるスタッフと移動手段、一時的に保護できる場所が必要になる。

 早急に引っ越しをしないと老朽化のせいで危険なコたちを優先に新しい施設で保護できるように、かかる費用を持つことで話し合いは終わった。

 やれやれ、とりあえずは大役をはたせたと胸をなでおろす。ミランさんは、急遽日本に来たものの泊まるところなどの手配はまだだという。

「俺が、きちんとホテルを手配するし、夕食を御馳走させてもらいたいんですが」
『代表が、帰国までの間、日本で快適に過ごせるように手配させて欲しいと言っています。勿論、ミランが帰国するまで、私が通訳させていただきます』
『それはありがたい。帰りの飛行機は明日なんだ。マール、君が今回だけのピンチヒッターだということはわかっている。だが、すべてのコたちが引っ越しを終えるまで、このプロジェクトにして欲しい。信頼できるのはマールだけだ』

 最後に、とんでもないことを言い出されてしまった。確かに、再び今回のような言語のミスが起こらないとも限らない。ミランさんの危惧は理解できる。ただ、私は讃呂さんの会社の社員ではない。

 讃呂さんは困りつつも、ダメもとで上司に連絡を取った。

「日掛さんを半年もの間そちらの会社に? 断る。4ヶ国語を話せる彼女がいないと我が社も困るんだが。それに、彼女のおかげで最初見積もっていた損害額がかなり少なくなったのだろう? それでプロの通訳を雇ってくれ」

 讃呂さんが私の上司に相談すると、当然の返答が帰ってきた。私としても、あまり讃呂さんと一緒にいたくないから、心の中で上司にイイねボタンを連打した。

 しかし、その30分後。あれほど断る一点張りだった上司が、ころっと180度意見を変えた。

「なんだなんだ、日掛さんも水臭いな。いや、うちの娘もミランさんの保護動物のファンらしくてな。ミランさんのために是非とも協力をしてあげてくれたまえ。はっはっはっ」

 できればサインもほしいと言われ、私が米神をおさえたのは言うまでもない。
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