完結R18 異世界に召喚されたら、いきなり頬を叩かれました。

にじくす まさしよ

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おじさんじゃあないそうです 

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「……。一体何なんですかぁ! 年上だからって、いきなりほっぺたビンタするとかないわぁ。初対面なのに」

 あまりの出来事に、ついクレームを言ってしまった。多分、転移したから逆らったらヤバいのかもしれない。でも、口が先に出てしまって、言ってからどうしようってお腹が痛くなるほどマズい事をしたと後悔した。だけど、もう遅いみたい。おじいさんが怒り出してしまう。

「あーコホン。神託の乙女とはいえ、こちらにおわすかたはどなたと心得るんですじゃ!」

 なんだろう? おじいさんは怒っている。真剣に怒っている。だけど、弁護士のおじいちゃん先生が好きな時代劇のセリフっぽいものを言うから、ふざけているみたいで、あんまり怖いとは思えない。

「じぃ、いいからいいから。じいがハマってるケープ国に伝わるジダイゲキとかそういうのもいいから。ちょっと黙ってて」

 すると、おじさんが、さっきまで座り込んでいる私に合わせていた視線をあげておじいさんを窘めた。マジマジ見つめると、黒い髪に黒い瞳、さっきまで赤かった顔は、若干日焼けしているのか肌も少し濃い肌色だ。

 すくっと立ち上がったら、へたり込んでいるのもあるんだけど、まるで巨人みたいに大きい。縦も横も、今までに見た事がないほど。まるでプロレスラーさんみたい。

 それにしても、ホントに異世界にも時代劇ってあるのかとちょっとびっくり。

「しかし……」

「しかしもだがしかしもおかしもないから。あー、いきなりすまなかったね。僕もかなり焦っていてから、いきなりここに来させられた君の気持ちを考えずに求婚なんてしてしまうなんて。異世界から君のように来てくださった神託の乙女たちであるビィノ様やカレン様のエッセイを読んで、こういう場合にはアウェー状態である乙女の事を第一に考えようと思っていたのに。びっくりさせてしまってごめんね」

 ネットのネタにある古いギャグみたいな事をやり取りしている二人を呆然と見ていたら、最後に信じられない事をおじさんが言った。

「え?」

 内容もなんだけど、大きくて、ちょっと迫力のありすぎる人の言葉遣いにしては、ちょっとギャップがありすぎて戸惑う。30くらいでも、僕って言う人もいるとは思うんだけど、なんというか、目の前の人は俺とかいうのが似合いそうなのに。
 見た目と違って、優しい人っぽい。後ろで、ですじゃですじゃって息巻いているおじいさんより、このおじさんのほうがいいと思ったから、さっと立ちあがって、おじいさんからおじさんの体に隠れるようにした。

「……! ちょ、近い。あー、嬉しいんだけど、離れて」

 ところが、近づいた途端、おじさんがのけ反ったから、そのぶんずいっと前にすすんで、胸元あたりのタスキみたいな布を、逃がさないようにぎゅうっと握った。

「だって、あのおじいさん怒ってばっかりで怖いもん……おじさん、助けてください」

「かわいい……! ケド……おじさん……って……、おじさん………………おじさん…………」

「また、なんと無礼な! この方は、フロント・フラッシャー・トータス、御年20歳のトータス国第四王子であらせられるんじゃぞ!」

「え?」

 私は、おじいさんが言った事が信じられなくて、マジマジマジマジとプロレスラーみたいなおじさんを見続けた。すると、耳まで真っ赤になった彼が、照れくさそうにそっぽを向いたのである。

「おうじさま、なんですか?」

 言われてみれば、デェズニーに出てくる王子様みたいな格好だ。カボチャパンツじゃないけど、上等のスーツに、煌びやかなボタンとかバッチとかついているし、肩にも紐とかあって、マントもしている。

「うん」

「で、20歳?」

「……うん」

 ……

「……」

「……」

 シーンと静まり返った狭い部屋。おじいさんもどうだわかったかと言わんばかりに胸をのけぞらせてドヤって感じで鼻から息を吐きだしている。

 しまった。お母さんから散々言われていたのに。見た目より5歳は年若く言いなさいって。でも、この人、どう見ても30歳くらいに見えるから、25歳だって思ってもアウトだった。私からしたら、25歳でもおじさんだもん。


 私と、おじさん改めフロント王子様(20)は、見つめ合ったまま2.3分は経過した。すると、部屋の音が、ガチャガチャわいわいと、鉄のぶつかるような音共に、大勢の騒めく声で五月蠅くなった。

「え、何何何々、なんなのー?」

 ドアがバタンと勢いよく開いた。するとそこに、今度こそ45歳くらいだろうひげを生やした、これまた、特にお腹が大きなおじさんが、背後にフルメイルを着た大きな人たちを従えて偉そうに入って来たのである。
 王子さまやおじいさんといい、現れた人たちといい、この国は大きなマッチョ人ばっかりなのかもしれない。

「ひっ!」

 さっきは、打算で近づいたのもあったけど、今度はマジで怖くて、王子様に飛びつく。すると、王子様はあたふたしつつ、今度はよけようとせずに肩を抱きしめてくれた。

「おお……これはこれは……。賢者殿とコソコソ何をしているのかと思えば。フロント殿下、我々に秘密にしてこのような大それた事をなさっていたのですね? この事は、陛下はご存じなのですかな?」

「宰相どの、あまりにも無礼すぎますぞ! 先ぶれなく、いきなり押し入るなど。言語道断ですじゃ!」

「じい、大丈夫だから。じいも魔法で攻撃しようとしないで。こんな所で、じいの巨大な重力魔法を使ったら、魔法を使える僕たちはほとんど無傷だろうけど、乙女は傷つくでしょ。たぶん、ビィノ様たちと同じで、この乙女も魔法なんて使えないと思う」

「仕方ありませんの。王子と乙女のためにひきましょう。宰相どの、命拾いしましたなぁ? ふぇっふえっふぇっ」

「おのれ、前々から偉そうに……たかが、魔法塔の賢者の分際で……」

 なんだか、おじいさんとサイショーって人は犬猿の仲っぽい。おじいさんはあからさまにおじさんを煽ってる。普段からこんな感じなのかもしれない。

 争いごとなんて身近にはなかった。私が怖くて本気で震えているから、そっと守るように肩に手を置かれた。なんだか、さっきとは違ってあったかい大きな手のひらで安心する。

「カバー侯爵、勿論陛下には許可は頂いている。といっても、成功するとは思ってなさそうだったが、この通り、じいの研究が実を結んだ。父上も喜ばれるだろう」

 まだ、文句を言い足らなさそうなおじさんを遮って、堂々と王子様がおじさんを制した。

 おお……!

 フルメイルの人たちから野太い歓声が上がったみたい。カバコウシャクとか、サイショーとか言われたおじさんは、くやしそうに王子様を睨んで、ぐぬぬとか言っちゃってる。

「理解したのなら、乙女をこれ以上寒くて小さな部屋にいてもらうわけにはいかない。道をあけてもらおう」

 そう言った彼は、なんだか、サマになってるーって思った。私よりも30センチは背が高そうな彼を見上げると、視線に気づいた彼が私を見て微笑んだ。その表情は、かわいく思えて、たしかに大学生くらいの青年に見える。

 さっきまで緊張していた様子の彼の、突然の笑顔を見て、胸がドキってなる。一度跳ねた鼓動は、すぐには止まらなくて、彼に優しく肩を抱かれて立派な応接室に連れていかれるまでドキドキしっぱなしだった。








 テイルたちのその後は、もう少し異世界の恋愛が進んでから載せますが、ざまあ成分は期待しないようにお願いします。
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