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見た目と声が変わったトーラに、周囲は戸惑っていたものの徐々に慣れつつある。特に以前のトーラの姿を知っている世代の方々は、面影が残っている彼をまじまじと見ては涙して喜んでいた。
わたくしはというと……。
「あ……ああ……。トーラ、トーラ」
「キャロル、目を開いて」
「だって、恥ずかしい……んっ!」
「目を閉じていると、僕の声が違うから別人みたいに思えて恥ずかしいって言っていたのは誰だったかな」
「んんっ! 意地悪、ですわ」
「キャロル、口を開けて。ああ、愛している」
毎夜、ベッドの上で以前よりもわたくしを求める彼の攻撃に応えるだけで精一杯。言われるがまま口を開けば、にゅるりと大きな舌が入って来て、中心部分だけでなく、口の中まで浸食されそうになる。
今、わたくしはベッドにうつ伏せにされていて、おしりを高く持ち上げられている。激しい彼の腰の動きに、立てた膝が崩れ落ちそうになるのを辛うじて堪えていた。キスを交わすため、首をねじりながら揺らされているため、自分でもどこをどうすれば体勢を保つ事が出来るのかわからない。その分、トーラが軽々とわたくしの体を持ち上げているのだけれども。
(ずっと願っていた姿に戻れたのですもの。暫くは、頑張って付き合わないと……。でも、もうこれで6回目なのよ。そろそろ、彼だって疲れて眠ってくれる、はず)
すでに、蕩けるチーズよりももっとドロドロになった身も心。もう、なんの憂いもなく、彼はわたくしに全てを贈ってくれる。それはとても嬉しいけれど、もう下腹がぽこっと膨らんでいるほどいっぱいになっていた。それどころか、入りきらない彼の熱が、互いの下半身とベッドのシーツを汚している始末。
無尽蔵にも思える彼の体力と精力に出来る限り応えようとしたけれど、もう一度と請われたところで、意識のほうがギブアップした。
目が覚めると、彼はもう仕事をしているのかいなかった。少し寂しいけれど、昼過ぎまで惰眠を貪るわけにはいかない。
ウールスタとシュメージュたちが、頃合いを見計らって指一本動かせないほど疲労困憊になっているわたくしを、細やかに世話をしてくれる。まるで、まな板の鯉状態だ。
情事の生々しい跡は、トーラが綺麗にしてくれているみたいで、彼女たちが入って来る頃にはシーツの皺もほとんどないし、どこも濡れていないのがせめてもの救いだ。
「ああ、奥様。体がまるで水ゼリーのようです。旦那様も、もう少し手加減というものを……」
「仲がよろしいのは結構ですが、これでは奥様の身が持ちません」
そんな状態が5日ほど続いた日、彼女たちがトーラに直訴したようだ。それ以来、トーラは3回までと言いつつ、なんだかんだで、暗にもう一回をおねだりをにおわせて来るから断れない。というよりも、わたくしが受け入れたくて、お互いの合意の上愛し合うのだから、ウールスタたちの溜息は当分の間続くのだった。
トーラの呪いが解けた事は、国中にあっという間に広まった。両陛下や王太子殿下が我が事のように喜んで、すぐにでも国を挙げての祝福をするとの知らせが来たのである。王太子殿下を救った英雄として、また、辺境のみならず世界の危機に立ち向かい、見事フレースヴェルグを封印した宴と祭りを開催する事になった。
トーラが呪いを解いたあの日、偶然にも遺跡の罠に囚われていた人物がいた。その者こそ、チャツィーネを甘言で魔の森まで連れてきてフレースヴェルグの封印を解いた、ヤーリ殿下の侍従だった。
随分長い間、虚無の世界に閉じ込められていた彼は、すっかり人が変わったかのように小心者になっていた。とても、大それたことを仕出かした人物とは思えないほど。
結局、チャツィーネを愛するが故に、自分のものに絶対になりそうにない彼女をこの世界ごと滅ぼそうとしたのだというなんとも身勝手な思いで、チャツィーネから聞き出した情報を元に封印を解いたのだという。
王都に連れて行った後、彼は名ばかりの裁判にかけられ、未来はその瞬間途切れる事になるだろう。
王宮で両陛下と王太子殿下と会見し、トーラを讃えるための舞踏会が始まった。するとどうだろう、逞しくて素敵なトーラの姿を見て、ついこの間までは好き放題言っていた人たちが、手のひらを翻して褒めたたえて来たではないか。
鼻が高いような、虫の良すぎる態度にその態度にモヤモヤーっとしていた。
さらに、看過できない事が目の前で繰り広げられている。社交界のトップを切っていた頃のように顎を少し上げた状態で、トーラの体に遠慮なく手を当て、転げそうなふりをしてしな垂れかかっている令嬢を睨みつけた。
「あ、キャロライン様……」
「今は辺境伯夫人ですわ。あなた、最近デビューしたばかりのご令嬢ですわよね。夫に何か? 未婚の若いご令嬢が、なんとはしたない……」
「ひっ……! いえ、わ、わたくしは、転びそうになったところをこの方に助けていただいただけで、ええ。ええ……。し、失礼いたしましたぁあぁああっ!」
トーラに、あちこちの令嬢が彼に秋波を送っている。いや、令嬢だけではない。既婚の御婦人や、未亡人まで。
(別に、これほどモテモテの素敵な男性に嫁ぎたいなんて思っていなかったのに。こんな事なら、エリンギのままで良かったわ……トーラには申し訳ないけど)
トーラの気持ちを思えば、人間の姿を取り戻したほうがいい。だけど、これでは一生気が休まらないではないか。ひとりで勝手にイライラしてヤキモチを焼いていると、トーラがそういう女性たちの視線に気づかないというよりも全く興味がなさそうに、わたくしだけを見て腰を抱いてくれた。
「キャロル、ごめん。さっきのは本当に不可抗力で……」
「知りません」
少し拗ねて、そっぽを向く。すると、彼がわたくしを、大勢の前だというのに抱きしめた。
「トーラ?」
「僕がどんな姿でも、恐ろしい噂や見た目や声も、全て受け入れてくれたのはキャロルだけだ。さっきの令嬢もだけど、自分の娘を側室や妾にって言ってくる人々だって、また僕の見目が変わった瞬間、今までと同じようになる。そんな者たちの言う事なんて信じられるはずがない」
「……側室や妾、ですってぇ?」
(なんて事。トーラに別の女性が来るなんて、絶対にイヤ。どこの家の人たちなの? 全ての家を潰さないと……)
わたくしは、今世紀一番の悪だくみが似合う笑顔をして、周囲の人々に視線を向ける。すると、心あたりのある十数人が顔を青ざめて視線を逸らした。
(全員、覚えたわ。見ていなさい……。二度とふざけた事を言えないようにしてあげる。ふふふ)
そんな風に、悪い笑みを浮かべていると、トーラがわたくしの頬にキスをした。びっくりして彼を見ると、切なそうに揺らめく青が至近距離にあった。瞬間、そこだけに意識が集中する。
「それに……。僕にはキャロルだけ。キャロル、今日の君を見る男たちの視線に気づいていないだろう? 綺麗で魅力的な君を、これ以上誰の目にも触れさせたくない。部屋に閉じ込めて、僕だけを見ていて欲しいくらいだ」
周囲には、まだ多くの人がいる。そんな中、堂々と監禁まがいな事をいう彼に、わたくしは嬉しくなった。周囲は若干引いているようだけれども。
「まあ、わたくしの事なんて、誰も興味なんてありませんわよ?」
「……これだから、君は。はぁ、もしも別の男に攫われたら……そんなふざけた男は、フレースヴェルグと同じ空間に封印してやる」
「トーラったら。では、わたくしも、トーラをわたくしから奪おうとする人を同じようにしませんとね?」
「はは、それがいいね。今からでもそうしようか」
トーラを虎視眈々と狙っていた人々は、わたくしたちの言葉を聞いて震えあがり、さーっと去って行った。その様子を見て、トーラや父たち、両陛下まで笑っている。彼らを笑わせる余興をしたわけではないが、これで近づいてこなければ良し。
するとトーラは、わたくしを横抱きにした。帰るにはあまりにも早い時間で、ダンスすら始まっていない。だというのに、彼は王族に一礼した後会場を去ったのである。
誰にも邪魔される事無く、辺境で覚めるどころか増していくばかりの彼からの愛に包まれて過ごした。2年後、かわいい双子の赤ちゃんが産まれる。
さらに数年後、皆でバーベキューをしている時に、元気にはしゃぎながら走って来る我が子たちを抱き上げた。
「ははうえー、これあげるー。バヨータージユのおしるしがあるのー」
「まあ、シィタ。確かにバヨータジユ公爵家のお手紙だけど。随分古いものね。一体どこにあったの?」
「おとうさまのしつむしつの、つくえのしたにはりついていたのー」
「まあ、ミィソったら。また、お兄様と執務室でかくれんぼをしていたのね? お仕事をする大事な場所だから遊んではいけないとあれほど」
「はーい、もうしませーん」
「わかりましたー」
叱られたばかりのふたりは、笑顔でそう誓う。今この時だけの誓いを。数分後にはそれを忘れるやんちゃな双子に、周囲は振り回されっぱなしだ。
「キャロル、その分厚い手紙は一体なんだい?」
「ふふふ、もう忘れていた例の手紙ですわ。どれほど探しても見つからないし郵送システムのバグなんてないと思っていたら、見つからないはずですわ。無事にきちんと届いていたのですね」
「そうみたいだね……まさか、僕の足元にあったなんて……」
直火でレアに焼いた、厚切りのお肉は、中までしっかり火が通っているのにとてもジューシーだ。蕩けるような柔らかさのそれを、お互いにあーんと食べさせ合う。
ふたりで微笑みながら、双子が見つけたかつて父がこちらに送った冤罪の証拠の手紙を、バーベキューの火種に放り込む。そして、過去の苦い思い出ごと、次々焼ける様々な料理を美味しく食べたのであった。
R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版──完
わたくしはというと……。
「あ……ああ……。トーラ、トーラ」
「キャロル、目を開いて」
「だって、恥ずかしい……んっ!」
「目を閉じていると、僕の声が違うから別人みたいに思えて恥ずかしいって言っていたのは誰だったかな」
「んんっ! 意地悪、ですわ」
「キャロル、口を開けて。ああ、愛している」
毎夜、ベッドの上で以前よりもわたくしを求める彼の攻撃に応えるだけで精一杯。言われるがまま口を開けば、にゅるりと大きな舌が入って来て、中心部分だけでなく、口の中まで浸食されそうになる。
今、わたくしはベッドにうつ伏せにされていて、おしりを高く持ち上げられている。激しい彼の腰の動きに、立てた膝が崩れ落ちそうになるのを辛うじて堪えていた。キスを交わすため、首をねじりながら揺らされているため、自分でもどこをどうすれば体勢を保つ事が出来るのかわからない。その分、トーラが軽々とわたくしの体を持ち上げているのだけれども。
(ずっと願っていた姿に戻れたのですもの。暫くは、頑張って付き合わないと……。でも、もうこれで6回目なのよ。そろそろ、彼だって疲れて眠ってくれる、はず)
すでに、蕩けるチーズよりももっとドロドロになった身も心。もう、なんの憂いもなく、彼はわたくしに全てを贈ってくれる。それはとても嬉しいけれど、もう下腹がぽこっと膨らんでいるほどいっぱいになっていた。それどころか、入りきらない彼の熱が、互いの下半身とベッドのシーツを汚している始末。
無尽蔵にも思える彼の体力と精力に出来る限り応えようとしたけれど、もう一度と請われたところで、意識のほうがギブアップした。
目が覚めると、彼はもう仕事をしているのかいなかった。少し寂しいけれど、昼過ぎまで惰眠を貪るわけにはいかない。
ウールスタとシュメージュたちが、頃合いを見計らって指一本動かせないほど疲労困憊になっているわたくしを、細やかに世話をしてくれる。まるで、まな板の鯉状態だ。
情事の生々しい跡は、トーラが綺麗にしてくれているみたいで、彼女たちが入って来る頃にはシーツの皺もほとんどないし、どこも濡れていないのがせめてもの救いだ。
「ああ、奥様。体がまるで水ゼリーのようです。旦那様も、もう少し手加減というものを……」
「仲がよろしいのは結構ですが、これでは奥様の身が持ちません」
そんな状態が5日ほど続いた日、彼女たちがトーラに直訴したようだ。それ以来、トーラは3回までと言いつつ、なんだかんだで、暗にもう一回をおねだりをにおわせて来るから断れない。というよりも、わたくしが受け入れたくて、お互いの合意の上愛し合うのだから、ウールスタたちの溜息は当分の間続くのだった。
トーラの呪いが解けた事は、国中にあっという間に広まった。両陛下や王太子殿下が我が事のように喜んで、すぐにでも国を挙げての祝福をするとの知らせが来たのである。王太子殿下を救った英雄として、また、辺境のみならず世界の危機に立ち向かい、見事フレースヴェルグを封印した宴と祭りを開催する事になった。
トーラが呪いを解いたあの日、偶然にも遺跡の罠に囚われていた人物がいた。その者こそ、チャツィーネを甘言で魔の森まで連れてきてフレースヴェルグの封印を解いた、ヤーリ殿下の侍従だった。
随分長い間、虚無の世界に閉じ込められていた彼は、すっかり人が変わったかのように小心者になっていた。とても、大それたことを仕出かした人物とは思えないほど。
結局、チャツィーネを愛するが故に、自分のものに絶対になりそうにない彼女をこの世界ごと滅ぼそうとしたのだというなんとも身勝手な思いで、チャツィーネから聞き出した情報を元に封印を解いたのだという。
王都に連れて行った後、彼は名ばかりの裁判にかけられ、未来はその瞬間途切れる事になるだろう。
王宮で両陛下と王太子殿下と会見し、トーラを讃えるための舞踏会が始まった。するとどうだろう、逞しくて素敵なトーラの姿を見て、ついこの間までは好き放題言っていた人たちが、手のひらを翻して褒めたたえて来たではないか。
鼻が高いような、虫の良すぎる態度にその態度にモヤモヤーっとしていた。
さらに、看過できない事が目の前で繰り広げられている。社交界のトップを切っていた頃のように顎を少し上げた状態で、トーラの体に遠慮なく手を当て、転げそうなふりをしてしな垂れかかっている令嬢を睨みつけた。
「あ、キャロライン様……」
「今は辺境伯夫人ですわ。あなた、最近デビューしたばかりのご令嬢ですわよね。夫に何か? 未婚の若いご令嬢が、なんとはしたない……」
「ひっ……! いえ、わ、わたくしは、転びそうになったところをこの方に助けていただいただけで、ええ。ええ……。し、失礼いたしましたぁあぁああっ!」
トーラに、あちこちの令嬢が彼に秋波を送っている。いや、令嬢だけではない。既婚の御婦人や、未亡人まで。
(別に、これほどモテモテの素敵な男性に嫁ぎたいなんて思っていなかったのに。こんな事なら、エリンギのままで良かったわ……トーラには申し訳ないけど)
トーラの気持ちを思えば、人間の姿を取り戻したほうがいい。だけど、これでは一生気が休まらないではないか。ひとりで勝手にイライラしてヤキモチを焼いていると、トーラがそういう女性たちの視線に気づかないというよりも全く興味がなさそうに、わたくしだけを見て腰を抱いてくれた。
「キャロル、ごめん。さっきのは本当に不可抗力で……」
「知りません」
少し拗ねて、そっぽを向く。すると、彼がわたくしを、大勢の前だというのに抱きしめた。
「トーラ?」
「僕がどんな姿でも、恐ろしい噂や見た目や声も、全て受け入れてくれたのはキャロルだけだ。さっきの令嬢もだけど、自分の娘を側室や妾にって言ってくる人々だって、また僕の見目が変わった瞬間、今までと同じようになる。そんな者たちの言う事なんて信じられるはずがない」
「……側室や妾、ですってぇ?」
(なんて事。トーラに別の女性が来るなんて、絶対にイヤ。どこの家の人たちなの? 全ての家を潰さないと……)
わたくしは、今世紀一番の悪だくみが似合う笑顔をして、周囲の人々に視線を向ける。すると、心あたりのある十数人が顔を青ざめて視線を逸らした。
(全員、覚えたわ。見ていなさい……。二度とふざけた事を言えないようにしてあげる。ふふふ)
そんな風に、悪い笑みを浮かべていると、トーラがわたくしの頬にキスをした。びっくりして彼を見ると、切なそうに揺らめく青が至近距離にあった。瞬間、そこだけに意識が集中する。
「それに……。僕にはキャロルだけ。キャロル、今日の君を見る男たちの視線に気づいていないだろう? 綺麗で魅力的な君を、これ以上誰の目にも触れさせたくない。部屋に閉じ込めて、僕だけを見ていて欲しいくらいだ」
周囲には、まだ多くの人がいる。そんな中、堂々と監禁まがいな事をいう彼に、わたくしは嬉しくなった。周囲は若干引いているようだけれども。
「まあ、わたくしの事なんて、誰も興味なんてありませんわよ?」
「……これだから、君は。はぁ、もしも別の男に攫われたら……そんなふざけた男は、フレースヴェルグと同じ空間に封印してやる」
「トーラったら。では、わたくしも、トーラをわたくしから奪おうとする人を同じようにしませんとね?」
「はは、それがいいね。今からでもそうしようか」
トーラを虎視眈々と狙っていた人々は、わたくしたちの言葉を聞いて震えあがり、さーっと去って行った。その様子を見て、トーラや父たち、両陛下まで笑っている。彼らを笑わせる余興をしたわけではないが、これで近づいてこなければ良し。
するとトーラは、わたくしを横抱きにした。帰るにはあまりにも早い時間で、ダンスすら始まっていない。だというのに、彼は王族に一礼した後会場を去ったのである。
誰にも邪魔される事無く、辺境で覚めるどころか増していくばかりの彼からの愛に包まれて過ごした。2年後、かわいい双子の赤ちゃんが産まれる。
さらに数年後、皆でバーベキューをしている時に、元気にはしゃぎながら走って来る我が子たちを抱き上げた。
「ははうえー、これあげるー。バヨータージユのおしるしがあるのー」
「まあ、シィタ。確かにバヨータジユ公爵家のお手紙だけど。随分古いものね。一体どこにあったの?」
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「まあ、ミィソったら。また、お兄様と執務室でかくれんぼをしていたのね? お仕事をする大事な場所だから遊んではいけないとあれほど」
「はーい、もうしませーん」
「わかりましたー」
叱られたばかりのふたりは、笑顔でそう誓う。今この時だけの誓いを。数分後にはそれを忘れるやんちゃな双子に、周囲は振り回されっぱなしだ。
「キャロル、その分厚い手紙は一体なんだい?」
「ふふふ、もう忘れていた例の手紙ですわ。どれほど探しても見つからないし郵送システムのバグなんてないと思っていたら、見つからないはずですわ。無事にきちんと届いていたのですね」
「そうみたいだね……まさか、僕の足元にあったなんて……」
直火でレアに焼いた、厚切りのお肉は、中までしっかり火が通っているのにとてもジューシーだ。蕩けるような柔らかさのそれを、お互いにあーんと食べさせ合う。
ふたりで微笑みながら、双子が見つけたかつて父がこちらに送った冤罪の証拠の手紙を、バーベキューの火種に放り込む。そして、過去の苦い思い出ごと、次々焼ける様々な料理を美味しく食べたのであった。
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