完結 R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版

にじくす まさしよ

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「はぁ、幸せすぎて、怖いくらい。まだ夢の中なのでしょうか」
「それを言うのなら僕のほうだ。キャロルは、いつも綺麗でかわいいけれど、ドレスがよく似あっているね。脱ぐのが勿体ないね。でも、体がそろそろ辛いんじゃないかい?」
「まあ、誉めて頂いてありがとうございます。そうですわね、お母様の思い出の品ですが、宝石もあって、多少重いですわね。元々の総重量が35キロだとか。わたくしと、わたくしを抱き上げるトーラの負担がかからないように、宝石は半分取り除いたのですが」
「いや。キャロルもドレスも、僕の剣より全然軽かったよ。キャロルの体が元に戻ったら、義母上のドレスを完全に再現して着てみて欲しいな。軽々、抱っこして見せるから」
「ふふふ、かなり重いですわよ? それにしても、トーラは逞しくて、力持ちで……。本当に軽々抱き上げていただけそうですわね。はぁ、優しいし、こんなにも素敵なあなたの妻になれただなんて、わたくし幸せすぎて……困ってしまいます」
「キャ、キャロル?」

 わたくしの背中にあるくるみボタンを取ろうとしている彼の、目の前にある分厚くて大きな胸元をうっとり見つめる。
 彼が腕を背中に回して取ろうとしているボタンは、バヨータジュ公爵領で作られた芸術作品と見まごう程の見事な生地で包まれている。だから、滑りが非常に悪くて、ウールスタたちも手間取っていたほど固い。彼の大きな指では、ドレスをきつめに止めている小さなボタンはとても外しづらそうだ。

(あら? 物凄くナチュラルにドレスを脱がされているんですけれど……。これはもしや、今から念願の初夜というやつでは?)

 ドキドキして、どうにかなってしまいそうな気持ちを誤魔化すように、彼の胸板を指先で撫でた。

(ふふふ、表面は柔らかいのに、このすぐ奥に固い彼の努力の賜物があるのね。ぷにって押しても全然引っ込まないわ。うわあ、肩もパンッパン……! 腕なんか、力こぶを作ったら袖が破れるんじゃないかしら? どれどれ、お腹は……?)

「こら、キャロル。くすぐったいよ。それ以上は、ダメだ」
「トーラ? え? あ! やだ、わたくしったら、なんてことを! ごめんなさい、余りにも見事だったから、つい……。他意はないんです! 他意は!」

 彼の肉体に、すっかり魅了されたようだ。事もあろうに、彼の腕だけでなく、胸やら脇腹、おへそのあたりまで思う存分撫でまわしていたのである。

 必死に言い訳をしようとしても、何も言葉が浮かび上がらない。

 これでは、困窮した家から妻として買った涙を浮かべて震える年端も行かない少女に、「ほぉほぉ、これはなんと初々しい。ぐふふ、恥ずかしがらずとも良い。全て、わしに任せるといい」と言いつつ、淫らな行為をしているスケベおやじのようではないか。

(わたくしの意識を奪うだなんて、トーラが素敵すぎるからいけないのよ。まるで魅了魔法かけられたみたい。魅了魔法が禁じられたのもわかるわ。自我が吹き飛ぶなんて怖い。でも、ほんっと素敵!)

「君は動けないから、今日も添い寝だけのつもりだったんだ。けれど、いいのかい? そんな風に、僕を誘ってくれてるなら、君に触れるよ?」

 そう言われて見上げると、頭巾の中の青に、一瞬で囚われる。その瞳には、わたくしを欲のまま求める激しい感情が溢れていた。

「誘ったわけでは……ないんですよ? でも、……わたくしも、トーラに触れて欲しいです」
「キャロル、僕の言っている意味、わかってる?」

 綺麗な揺らめいている瞳に吸い込まれそう。頷いた記憶もないまま、いつの間にかベッドに横たえられていた。

「キャロル、ドレスのボタンなんだけれど、取れない。強く引っ張るから千切れたらごめん。もう、嫌だと言っても、止められないからね?」
「嫌なんて、言いません。止めないで下さい……」

 ぷちぷち、20個以上背中に付けられているボタンが外されていく。とても長い時間がかかると思っていたのに、半分外された時、肩からぐいっと外された。

「キャロル、綺麗だ。白くて、とても滑らかで。壊れそうだな」

 チュっと露になった肩にキスされる。突然の事にびっくりして体が揺れた。
 そこまで脱がされたら、あとは簡単だったようだ。
 初夜を迎える妻のドレスは夫が脱がせる。だから、コルセットもヒモを解けば、体からいとも簡単に外れるのだ。

「かわいい。好きだ」
「あんっ!」

 あっという間に、薄すぎるレース仕立ての下着とガーターストッキングだけの姿になった。ささやかな胸は、白い生地では隠されていない。はっきりとわかる尖りとその色をじっと見られているのが分かって、首から上が火傷しそうなほど熱くなった。

 居たたまれなくてそっぽを向いた瞬間、しゅるりと胸元のリボンを解かれた。下着を左右に広げられ、完全に彼の目に晒された胸の先端を腕で隠す。

「キャロル、隠さないで」
「見ないでください」
「キャロルの胸はとても魅力的だよ」
「だって、小さいから……」

 彼の大きな手が、わたくしの腕をそっと胸から外した。右手で左の胸を覆われると、彼の手の平で易々と隠される。胸を大きくするための食事も、体操は、悉く成果に繋がらなかった。

「大きさを気にしているのかい? 僕は、キャロルだから、どこもかしこも可愛いと思うし愛しい。そんなに気にしているのなら、大きくする方法があると聞いた事があるけれど。やってみるかい?」
「え? 大きく出来るのですか? 是非、お願いします」

 すごく恥ずかしい会話のやり取りだ。普段なら、このようなはしたない事を言わない。興奮のあまり、思考がおかしくなっていたようだ。

(辺境に伝わる秘伝のバストアップマッサージでもあるのかしら? あ、それなら、シュメージュにしてもらえばいいじゃない)

「あの、トーラ。それは、また、シュメージュにしてもらおうと思います」
「……無理。シュメージュでは出来ない。この方法は、キャロル限定で僕だけが使える」
「そうなのですね。では、トーラにマッサージをお願いするのは気が引けますが、お暇な時にお願いしても?」
「キャロル、暇な時というよりも、その方法は、こういう時にするんだ。あと、頭巾を取る必要がある。だから、目を閉じていて」
「はい、絶対に見ないように努力しますわ。でも、うっかり開いたらどうしましょう」
「部屋を暗くしても、徐々に目が慣れるだろうし。でも、頭巾があったら、無理な方法なんだ」
「あ、では。わたくし、いい方法を思いつきましたわ」

 わたくしはそう言うと、側にあったタオルで目を隠した。

「これなら、どうでしょうか。トーラ、頭の後ろでタオルを結んでいただけますか?」
「キャ、キャロル。初夜なのに、目隠しとか」

 「ハードすぎないか? いや、だけど。嬉しい。いやいや、いくらなんでも、それは」という呟きが耳に入る。でも、トーラを見ないようにするためには、目を覆うしかないもの。アイマスクがあればいいのだけれど、生憎ないのだ。タオルを頭の後ろで括るのは、確かにハードかもしれないけれど、やってもらうしかない。

「わたくし、トーラのためなら、なんだってできますわ。ですが、自分では上手く結べません。タオルを結ぶ事はやり辛いとは思いますが、お願いします」
「やり、づらく、は、ない……よ? でも、いいのかい? 本当に、結んでしまうよ?」

 わたくしは、この時、あらゆる意味で、ふたりの相互理解が、大海を隔てた大陸なみに離れている事に気が付かなかったのである。



 
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