完結 R20 罪人(つみびと)の公爵令嬢と異形の辺境伯~呪われた絶品の契約結婚をお召し上がりくださいませ 改稿版

にじくす まさしよ

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「わたくしだって、気になる所はあると言えばあるわよ。やだわ、皆して、神妙な顔をするからびっくりしたじゃない。そうね、お父様やお兄様も、無駄に体を鍛えているからムキムキだけど、辺境伯爵様は、さらにふた回りも大きいわねぇ。パンパンにはちきれそうなほどの腕や太腿。逆三角形の見事な胸板なのに、腰はきゅっと締まっていて。背も高いし、逞しくて手足も長い。確かに、あの素晴らしい肉体美は、滅多に見る事が出来ないわよね。はぁ、なんて素敵なの……」

 是非、腕や体にぐっと力を入れてポーズを決めて貰いたいと思う。もしくは、彼の武器である大剣を構えて欲しい。きっと、とても凛々しいに違いない。世界一恰好良くて素敵な騎士の姿がそこにはあるだろう。
 彼の雄々しくてキリッとした姿を想像して、ほぅと溜息を吐く。手を当てた頬が少し熱い気がして、慌てて手で顔を仰いだ。

「いえ、確かにそうですが、そうではなくてですね。首から上ですよ!」
「なによ、トーンカッソスったら。まだあるの? えー、首から上~? うーん、うーん? ああ、珍しいわよね。辺境伯爵様の瞳は、とても美しい青だわ。魔法を使う事が出来る魔力がほとんどないと仰るけれど、あの独特な揺らぎのある青い瞳は、純度の高い魔力を帯びた者だという証拠よ。不思議と、彼からは魔力を感じる事ができないのよね。だけど、きっと、わたくしよりも強大な魔力を、その身の内に持っていらっしゃるに違いないわ」
「そうなのですか? 近くで見た事がないから、気づきませんでした」
「ええ、ウールスタ。わたくしたち三人でかかっても、太刀打ちできないと思うわよ」
「辺境伯爵様は、素晴らしい方なのですね。ところで、頭の形についてはどのようにお考えで?」

 ウールスタの質問を聞いて、トーンカッソスとシュメージュが体をびくりと揺らした。三人とも、わたくしのほうを凝視している。あまり考えた事がないその問いに、一瞬考え込んだものの、これも今の正直な気持ちを伝えた。

「頭の形、ねぇ? ああ、そう言えば、少し大きい、かしら? 縦に長いような、頭の天辺が丸みを帯びて尖っていて。でも、それがどうかしたの?」
「お嬢様、皆が気にするのは、まさにそこなんですがねぇ」
「トーンカッソスったら。頭巾を被っていらっしゃるのだから、形しかわからないじゃない。でも、そうね。辺境伯爵様が呪われた場所は、そこなのでしょう? 確かに、皆が気にするかもしれないけれど。でも、だからといって、辺境伯爵様の本質が変わるわけではないと思うの。わたくしは気にならないわ」

 質問の意図がようやくわかった。なるほど、彼らはわたくしが辺境伯の頭や呪いを気にしているかどうかを気に病んでいたようだ。
 三人に、極々当たり前だと思っているわたくしの考えを伝えると、シュメージュがハンカチで目を抑えた。いきなり泣き出した彼女を、慌てて慰めようと駆け寄ると、ガシッと手を掴まれる。

「奥様……! ああ、なんと……。なんという……。そのお言葉をお聞きすれば、旦那様もお喜びになられますわ。うう……。この10数年。きっと、きっと旦那様を理解してくださる方がおられると信じてお待ちした甲斐がありました。良かった、本当に良かったですわぁ……!」
「そ、そうかしら? 本当に当たり前の事だと思うのよ? シュメージュだって、フクロールケタが大けがをして、どのような姿になっても愛するでしょう? それと同じ事だわ。ああ、シュメージュ、泣き止んでちょうだい。ね?」
「当たり前じゃない事を当たり前と普通に言うんだもんなぁ。お嬢様しか、ここには嫁げなかったかもしれませんね」
「お嬢様は、一般人とはかけ離れた素晴らしいお方ですからね」

 シュメージュがあまりにも泣き止んでくれないため、オロオロとしているわたくしをしり目に、トーンカッソスとウールスタが、やれやれと肩を竦めたのであった。

 シュメージュが泣き止む頃、ようやく焼けたミルフィーユを冷却魔法で冷やし、カスタードクリームと苺を挟み4段重ねにした。上に乗せる苺のヘタだけ採らせてもらい、そうっと倒さないように乗せる。小さなミントを添えて粉砂糖を振りかけようとしたところ、粉振るいを奪われた。

「ちょっとー、ウールスタ。粉砂糖を振りかけるくらい、わたくしにだって出来るわよー」
「いけません、お嬢様。この粉砂糖を振るう作業は、一粒一粒の砂糖の着地点を見極める熟練の技が必要なのです。ミルフィーユの上に、厚い部分と薄い部分をバランスよく振るうために、最低でも粉砂糖を30キロは使用するくらい練習なさらないと。辺境伯爵様に、粉砂糖で埋もれたミルフィーユを召し上がっていただきたいのであればお止め致しませんが」
「むむむ……。そう言われると、自信がないわ。自分で食べるものならともかく、大切な辺境伯爵様に差し上げるのですもの。今日の所はお任せするわ」
「では、僭越ながら私が仕上げをさせていただきますね」

 辺境伯とは、食事を一緒にするのは2回ではあるが、実は、毎日会っている。というより、シュメージュの勧めで、わたくしが彼の執務室にずうずうしくも毎日押しかけているというわけだ。

 今日は、苺とカスタードクリームのミルフィーユと、やや苦めの緑茶。遥か海の向こうにあるという島国で好まれる伝統のお茶は、紅茶と違って独特の苦みと爽やかさがある。森の葉を溶かしたかのような緑色のお茶は、それに合う脂肪分が少なめの甘いお菓子が合うらしいが、この間試したところ、ロールケーキに合ったのでこの組み合わせにしてみたのだった。

 辺境伯は、わたくしが持って行く物全てに対して美味しいと言ってくださるから、本当の本当に、そう思っているのか自信がない。

 離れから、彼のいる所までの数百メートルがとても長い。
  早く、彼の喜ぶ顔というか目元を見て、「ありがとう」という言葉が聞きたくて心が急く。素早く、かつ優雅に見えるように、やや早歩きで本邸に向かったのである。






 

 
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