上 下
12 / 15

とんだ悪女に捕まっていたようだ。カトリーナ、やり直そう ※※

しおりを挟む
 俺は、カトリーナに面会を求めたが、門番がどうしても許さない。

 たかが門番の分際で生意気な!

 かっとなり、胸ぐらを掴もうとしたが、子供のようにあしらわれ、しりもちをつく。

  バカな!  俺はこれでも未来の騎士団長だった。訓練でもどんな屈強な男相手でもこれまで一度も負けたことがないのに!

「騒がしいですわ」

  愛しい俺の訪問を知ったカトリーナがやってきた。門が開かぬため、柵ごしに会話をして全てを話した。

「だ、だからな、私は騙されていただけなんだ。他ならぬ俺を愛するお前が一番知っているだろう?  カティ、俺が間違っていた。俺を真実愛し支えてくれるのはお前だけなんだとやっと気づいたんだ! アイラは子を孕んでいなかったし、過去は水に流して俺とやり直そう!」

「わたくしの知人と名乗ると言うから来てみたものの……。どちら様でしょうか?」

「ああ、こんな格好をしているからわからないのか?  俺だ!  サーシ」

「黙れ、無礼者!  カトリーナ様、ここは私に任せてお行きください」

  カトリーナの側にいた大きな男が殺気を込めて俺を睨みながら彼女を背に隠す。俺は、男のあまりの迫力に尻を地面につけたまま腰を抜かしガタガタ震えてしまった。

「でも……」

「おそらく、どこかで貴女を見て言い寄ってくる愚かで憐れな男たちの一人でしょう。目と耳が汚れます」

「お嬢様、キリアン様の仰る通りです。ここにいたら危ないです! さあ、行きましょう!」

「ま、待ってくれ! 俺は悪女に騙されていただけなんだっ! カティ! やり直そう!」

「黙れっ! 彼女の名を、ましてや今の立場を心得ぬ破落戸がカティなどと気軽に言うなどと……。万死に値する」

「ひ、ひぃいいぃっ!」

  柵の間から、鞘付の剣先が瞬時に喉に当てられる。一瞬、そのまま貫かれたかと思い、股間が温かく濡れていった。

 唖然としているうちに、屋敷の外に出た男に引きずられてカトリーナからどんどん離されていった。


「いいか? 二度はない。今後、彼女の半径1キロ以内に現れてみろ。その時は……」

 低い男の声が体の芯に響く。がたがた体が震えて奥歯がカチカチと鳴った。俺は、言葉をなに一つ発する事もできずに、震えながら緩慢に何度も首を縦に振り続けた。

 せめてもの情けだと、下着とトラウザースが投げてよこされる。無礼な態度ではあるが、反論する気持ちが一ミクロンもなかった。男が去って行ったあと、のろのろと汚れた下半身を着替える。ここにいつまでもいれば、男に殺される。一刻も早く、もつれる足でカトリーナの家から遠ざかって行った。



※※※※


「カティ? どうした?」


 夜中にベッドの上で抱きかかえられていると、心ここにあらずといったわたくしにキリアンが訊ねた。

「……、コーンビアードのおじ様たちは善良な方たちだったのです……。サーシアだって、一時の気の迷いでしたでしょうし、わたくしを蔑ろにしたとはいえ、少々お気の毒だなって……」

「俺のカティは優しすぎる。たとえ、彼らが被害者の部分があろうとも、彼らの地位や立場なら彼女の実家を調べれば明るみになっただろう? それもせず妻として迎える事を決めたのは侯爵たちだ。俺の父上も、騙されて爵位をとられたが、貴族として無知は罪であると思う。貴族の判断でどれほどの平民たちの人生がかわるのか。確かにコーンビアード団長は誠実で実直だったが、だからこそ、騎士の長として役割を果たすべきだったと思う。幸い、家名は残るし、夫妻もあいつも贅沢しなければ生活に困らないのだから、カティはこれ以上あの人たちの事で心を痛めなくていい」

「キリアン様……」

  やや汗ばんだたくましい胸に頬をつけてそっと身を寄せる。きゅっと抱き締めて頭を優しく撫でてくれた。

  まだ正式に婚約はなされていない。お義父様が爵位と領地を取り戻してから、彼と正式に婚約して、大麻の栽培のためにめちゃくちゃになった領地を復興のお手伝いをする事になった。

「カティ……、サーシアの事を後悔してるのか?」

  自信なさげに問いかけてくる彼の上腕の筋肉が強張りを見せた。

「わたくしも離れたかったので誤解を解こうとしませんでしたから。ただ、おじ様たちのために、せめて彼らの結婚前に行動を起こしたかったとは思います」

「……。本来なら、貴族結婚は一年後だろう? 妊娠していなかったとはいえ、何度も言うが調査もせずに鵜呑みにして期間を短くしたのは彼らだ。この数か月、お義父さんたちはこれ以上はないスピードで証拠を集めたのだからこのタイミングになったのは仕方がない。俺はこれで良かったと思う。それにあのまま後日になればなるほど、誰よりも彼らの領民が気の毒だ。きっとアイラの実家が良からぬ事に利用したに違いないのだから」

「キリアン様。ええ、わたくしたちは、権利を沢山の領民たちから預かっています。自己を研鑽し還元しなければ民が苦しみ、やがて自分に返ってますもの」

「それを理解していないあいつでは、いずれ領地が廃れただろ?  だから、あいつはあいつの丈にあった人生を送ればいいと思う。餓えて死ぬような状況になるとは、普通では考えられないから。これでダメになるなら、あいつの資質がそうだっただけだと思う」

 わたくしは、キリアンが真面目にそう言ってくれているのを聞いて、ツキンと少々罪悪感が擡げる。
  実は、挙式当日に踏み込む事に決めたのは兄なのだ。わたくしをコケにしたサーシアやアイラ、それを許した侯爵夫妻に泡を吹かせるために。常に足元を掬われかねない貴族社会なのだ。

 でも、こんな風に純粋に考える愛しい人の言葉を聞くと、眩しすぎて胸が少々痛み居心地が悪い。彼の素直な性格は強烈にわたくしたちのような貴族を吸い寄せる魅力があると思う。

「ところで……。ベッドの上で他の男の事を考えるなんて、いけない子だ」

「え?  きゃぁっ!」

  いきなり体勢を変えられた。

「カティ、俺だけで埋めつくしたい」

「あんっ!」


   先ほど欲望を吐き出したばかりだというのに、彼の高ぶりは大きく反り返っていた。表面は乾いてきていたとはいえ、まだまだ蜜で潤う中に、切っ先が入り込む。幾度も受け入れ、何度も肌を重ねたわたくしの体は瞬時に高みにのぼる。

 わたくしの反応を見ながら知り尽くした快楽の芽を、これでもかというほど激しく責め立てられた。

 深い絶頂を迎えた時、プシュッとはしたない液体が彼の股間を濡らす。これは、汚水ではないと知らなかった時、粗相をしてしまったと泣いたものだ。もちろん、キリアンも狼狽えてしまっていたが、なんだか、わたくしの粗相を見て、頬を染めとても嬉しそうにはしていた。

「あ、ああああ!」

「カティ、カティ……! もう……」

「奥に、奥に沢山下さいませぇ!」

 わたくしの懇願に応えるように、ガツガツと体を揺さぶられ、叩きつけられる股間が痛くなるほどパンッと腰を押し付けられた。ぐりっと奥の奥に入り込むような彼の動きが止まり、ぶるっと震えた。

「あぁ……」

 とても気持ちよさそうな、幸せそうに目を瞑り熱いほとばしりを受けると、わたくしはその姿と、奥の刺激でピクピク達する。

「……っ、……、う……」

 数度、腰を押し付けられて、吐き出した子種を奥に送り込もうとしているみたいにぐりぐりされると、奥と心が堪らなく切なくなる。

「……あ、はぁん……」

「カティ……」

 愛していると、覆いかぶされて彼の逞しい胸と腕にすっぽり囲われる。中の彼の熱情は、やや硬度がなくなりずるりと出て行ってしまう時は悲しい。

 こぷっと、彼の子種とわたくしの体液が外に出る感触がする。翻弄され、揺さぶられたわたくしは、彼に守られているような、沢山の愛を受けた後のこの幸せな時間が好きだ。

 彼がうちに身を寄せていた当初はともかく、今は、両親はなんとなく察しているだろうが止めない。兄から避妊薬を渡された時は居たたまれなかったが、ありがたくちょうだいした。

 キリアンは、兄の指導の下、領地経営や貴族としての教育を受け始めている。
  わたくしの恥にならないようにかなり厳しいらしいが、ついていっているようで、砂が水を吸うように吸収するため兄も嬉しそうだ。

  その代わり、わたくしと離れる時間が増えて彼も不安なのだろう。

「愛しています……。ずっとそばにいてくださいませ……」

 勿論だ。何があっても離れないという、わたくし専用のストーカーの声を子守歌にして、幸せな夢の中に旅立つのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜人王の伴侶

朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語 国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます 作者独自の世界観ですのでご都合主義です 過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください) 40話前後で完結予定です 拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください 4/4にて完結しました ご覧いただきありがとうございました

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

【完結】美人悪役公爵令嬢はループで婚約者の謀略に気づいて幸せになって、後悔させる

西野歌夏
恋愛
私の名前はフラン・マルガレーテ・ロベールベルク。ローベルベルク公爵家の長女16歳だ。私は大金持ちなのに進退極まっていた。 *** 裏切られた公爵令嬢フランは、ループ何回目で謀略に気づくのか。 フラれて全財産を婚約者に騙し取られた公爵令嬢フラン・マルガレーテ・ロベールベルクは、財産を取り戻そうと送り込んだ刺客と敵が恋に落ちてしまい、許すと伝えようとしたら、なぜか命を狙われてしまう。 ざまぁというか、悪い奴には消えていただきます ※の付いたタイトルには性的表現を含みます。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...