【完結】【R18】悪役令嬢は、婚約者を狙う幼馴染みの少女をストーカーする男に凌辱されるらしい

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
6 / 15

段ボールに入れられた捨てストーカー。元の場所に返して……、あら? ※

しおりを挟む
 わたくしは、胸を隠すのも忘れてしまうほど、目の前のアイラに騙された一途なストーカーの手を両手でぎゅっと握った。

 残念ながら、平民の彼をアイラは視界にも入れないだろう。それなのに、アイラを恋い慕う彼が切なくて、悲しくてたまらない。それに、不器用な彼の中の純粋さを失って欲しくなかった。

「キリアン様、申し訳ございませんが、貴方に伝えておくべき話があります……」

「な、なんだよ、いきなり。ま、まあ、俺だってその。カティの想いをちゃんと全部聞いてやってもいい。安心して言ってくれ。けど、照れ臭いな……」

  わたくしがそう言い出すと、キリアンは耳どころか首まで赤くなり焦り出した。やはり彼の言う言葉の後半は言いにくいのか聞き取れない。

  後頭部に右手を当てて照れているように見えなくもないけれど……。なぜ?

  とにかく、薄々気づいていたのだろう受け入れがたいアイラの真実に対して、真正面から向き合うと決めた彼は、真っ赤になりながらもわたくしの視線を真っ直ぐに受け止めた。

「キリアン様、わたくしは騎士団長の令息であるサーシア様の婚約者です。つまり、わたくし自身も高位貴族ですのよ?」

「そりゃそうだろ。だから、傷物にしないと婚約を壊せないんだろう?」

「ええ。それも一手ですが、もみ消せばどうという事はございませんの。わたくし、自分で言うのもなんですが達観しておりまして。わたくしと同じように、いつ何時攫われて凌辱されるかもしれない立場の令嬢もたくさんいますの。純潔を散らされた彼女たちは、皆が皆、修道院にいったり、行方知れずになるとお思いですか? そのまま結婚する場合だって多いのですよ?」

「そ、そうなのか? だって、純潔を失えば……、それに、傷物となれば相手だって……」

「政略なのです。それに、お相手だって、純潔を絶対的に望まれるわけでもございませんし、殿方だって遊ばれるでしょう?」

「だが、男と女では立場が違うだろ? 襲われた男の子を身ごもったら……」

「……、薬がございますの。なので、あなたはご存じなさそうですけれども、ご令嬢たちも火遊びを楽しんでいる一定数がおりますわよ?」

「そんな……」

 キリアンの、ご令嬢のイメージを壊してしまったかなと思いつつも、いっそ崩壊させようと、そのままたたみみかけた。

「アイラとて、同じでしたわよ? サーシアともですが、他のご令息とのあれこれの報告を受けておりますの」

 あらいやだ。様をつけるのを忘れてしまっていたわ。

「そんなっ、アイラが……、そんなバカなっ……!」

「学園でひっそりとですので……。特段めずらしくもありませんし、校舎に入れないキリアン様ではわからないのも無理はございません」

 キリアンは、呆然と、灰になったかのようにぴくりとも動かなくなった。瞬きすらせず、息も止まっているように見える。

  まるで捨てられた段ボールにはいってクゥンクゥンと鳴く犬のように見えて切ない。庇護欲を誘うその姿を見て、わたくしは本気で気の毒だと思った。

「あの、キリアン様、お気をたしかに……」

「…………のか?」

「え?」

「あんたも、そうなのか? その、色んな男と遊んでいたのか?」

「わたくしは興味ございませんでしたし、結婚してからサーシア様とそういった関係になるとは考えておりましたが、別の殿方と、なんて考えた事もありませんわ。それにわたくしが無垢な事はキリアン様が一番ご存じかと……」

 わたくしは、遊び女ではない。誤解だと伝えつつ、流石にはしたない事を言うと恥ずかしくて頬が熱くなり俯いた。

「そ、そうか……!」

 なんだかうれしそうに声が弾んでいる。なんで? と訝しみながら、首をコテンと傾けた。

「あのさ、カ、カトリーナ、さん」

「先ほどのようにカティと呼んでいただいてもよろしくてよ?」

 あんたではなく、名前で呼んでくれた事に、なぜか嬉しくなり、満面の笑顔でそう言った。

「じゃ、じゃあ、カティ……。その……、俺……」

「なんですの? キリアン様?」

「俺、誤解していたみたいだ。アイラの事は確認しないといけないと思うし、それよりも、きちんと調べもしないでこんな事をしでかしてごめん……」

「いいえ、わかってくださればよろしくてよ。そうですわね、日記や薬の残りなどございますか?  わたくしも我が身の潔白の証明をしたくて……」

「ああ、持ってるし全部、こんな俺を想ってくれてるカティに渡す。あのさ、で、さ。俺、カティと、その……」

「……?」

 言葉をにごしつつも、チラチラとわたくしを見て来る少年のような彼をじっと見つめた。

「俺、カティを抱きしめたい、と、思う」

 意を決したように、キリアンが顔を真っ赤に染めて言い切った。

「はい?」

「こんな事をしでかした俺を受け入れてくれるのか? なんて優しいんだ……。綺麗で、かわいくて……。いろっぽくて……、カティ、カティッ!」

 キリアンは、わたくしの「はい?」という疑問符を肯定と捉えたようで、感極まってわたくしを、がしっと抱きしめて来た。

 暫く、目を白黒させて軽いパニック状態になったものの、これ以上は酷い状況にはならなさそうだと思い安堵した。

 なんにせよ、護衛たちに見つかる前に彼の心のガードを下げて懐柔出来たようでホッとする。これならば護衛や家の者にいくらでも取り繕う事が出来そうだ。

  逞しく鍛え上げられた騎士の彼は、平民だから実働部隊であるはずだ。貴族の騎士とは比べものにならないほど鍛錬された腕と胸は固い筋肉で作られ、ぎゅうぎゅうと抱きしめられると痛いほど。

  彼のこの力が、アイラへの裏切りに傷ついた深さなのだろう。

  少しでも癒されて欲しい気持ちが、わたくしの強張りをとき、そっと背に手を回した。

  

 ああ、このまま抱きしめていて欲しい、なんて考えが頭に浮かび狼狽えてしまった。それと同時に、ミシミシと肋骨が歪み呼吸がままならない時間が過ぎていく。

「ん、あ……、キリアン……、さま、く、くるし……」

 なんとか、羽の生えたエンジェルたちが遊び、花がいっぱい咲いている丘を見る前に声を出す事が出来た。

「あ、カティ、ごめん……。俺、カティに酷い事をしなくて良かった。いや、すでに酷い事をしたけど、あのまま傷物にしなくて良かった……。ごめん、俺、なんてことを……!」

「わかってくださればいいのです。アイラ様を慕うあまりの行動ですし、こうして思いとどまってくださったのですから」

 緩めた腕は、相変わらずわたくしの体に巻き付いている。息を整えていると、ぽすんと、やさしくベッドに寝かされた。

「カティ、俺、頭も心も……、体も全部が君でいっぱいだ。実は、ひとめ目カティを見た時から、一生懸命自分の恋する心を誤魔化していた。でも、まさか、ひと目で恋に落ちた君の愛が得られるなんて……、そんな幸せな事があるなんて思ってもみなかった」

「はい?」

「ああ、カティも、俺と同じように幸せなのか? 嬉しい……。酷い事をしてごめん。カティ、愛している」

 そう言いながら、キリアンがわたくしに近づき、やがて、お互いの唇が優しく触れあったのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ、始められました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
ごくごく平凡な女性と、彼女に執着する騎士団副隊長の恋愛話。Rシーンは超あっさりです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...