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12 最高の日に① R
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駐車場からアパートまでの短い距離でも、私たちの頭とかに雪が容赦なく降ってくる。体が一気に冷えて少し震えた。
「いろはちゃん、暖房すぐ入れるから。あと、湯船張るからちょっとこたつに入って待ってて」
慌ててアパートのエアコンとこたつのスイッチをつけてお風呂に行く彼。
ふるっ、ぶるりっ
お腹の底から寒さが来て体が震えてしまう。足は氷のように冷たくて、行儀が悪いけど見えないし、こたつの上の赤外線の所の網に足先をぴとってつける。
あったかさが足に伝わるけれど足らない。コートを着たままこたつの布団に上半身の前を全部被った。
「あと15分くらいでお風呂に入れるから。ティーバックだけどお茶飲んで」
「うん、ありがとう」
かじかんだ手で、普通の湯飲みだったら熱すぎて持てなかっただろう。彼の事だから、そこまで考えていなかっただろうけどマグカップでお茶を差し出してくれてそっと熱いお茶を飲んだ。さらさらとお茶が体に入る度に体の中が温かくなる。
「いろはちゃん、俺が気が利かないばかりにこんな事になってごめんね」
「ううん、もう謝らないで……。お母さんの言いつけ通りすぐに着替えなかった私が悪いの」
ひふみくんが私の対面に座ってしまった。足がぶつかりそうで避ける。遠くなってしまった彼との距離に寂しくなった。
「ひふみくん、こっち来て欲しいな……」
「うん」
こたつの足に、おしりをぎりぎりつけてもまだ狭そうで彼が入れない事に気づく。すると、ひふみくんが真後ろに来て、和室でしていたみたいに足の間にすっぽり入れてくれた。
「ふわーあったかい」
「……いろはちゃん」
そっと私の体の前に大きな手がやってきて組まれた。もうどこにも逃げられない、そんな感覚が私を襲う。
「好きだ……好きなんだ……」
「私も、大好き」
後ろから耳元でそんな風に言われて首を竦める。くすぐったいけど、心地のいい何かが体を駆け巡って行った。
そっと後ろを向こうとすると、彼も体勢を変えてキスをした。ちゅっちゅっていう軽いフレンチキスを繰り返す。
「好きだ……」
唇を少しあけると、いつもにゅるっと入って来る彼の大きな舌が入ってこない。唇が離れて行き、頬や額に当てられた。
──ひょっとして、さっきのキスを気にしているのかな?
今は体を締め付けていないし、まだ少し気だるいくらいで大丈夫そうだ。体をひねって彼の頬に手を当ててキスを唇に強請る。
そっと、また軽く当てられた時、私から舌をのばした。
「ん……、いろはちゃん……」
「も、だいじょうぶ、だから」
恐る恐るゆっくりと彼の舌が私に絡んでくる。徐々に深くなっていくけれど、やっぱりどこかでストップがかかっているみたい。
「ん、はぁ……」
「今日はここまでね」
「えー」
もっとして欲しいのにって少し拗ねると、彼は困ったみたいになった。
「また体調が悪くなると大変だよ」
──それを言われるとぐうの字も出ない……
「……」
私が返事もせず、いきなりキスをしたからびっくりしたみたい。もっともっとって彼のキスが欲しくなる。息を荒げて頬を赤く染めだした彼の大きな手が、がしっと私の体と頭を押さえた。
〈お風呂が沸きました。お風呂が沸きました〉
彼の理性が少し飛んだかなって思ったら給湯器が明るくそんな風にしゃべった。
──……折角、彼氏がその気になってくれて、いいとこだったのに
ほとんど男の子みたいな考えだななんて、少し自分で自分を笑ってしまう。
「俺の服を貸すからお風呂に入ってあったまっておいで」
「はーい」
ほら、もうすっかり冷静になってしまった。邪魔した給湯器のお姉さんの声に恨めしく感じてしまう。
こたつから出てすぐそこにあるお風呂に行くと、男の人の住む部屋なのに少しも汚れていなかった。タオルもきちんとたたまれていて、輪のほうが手前にある。
髪の毛一本も落ちていない洗面台はぴかぴかで、入ったお風呂場もきれいだった。
「きれい好きなんだなあ……」
不器用だけど気配りは出来るし、食事もスマート。お母さんがベタ褒めするくらい礼儀正しいし、こんな風にきちんと躾けられている彼。
「ひょっとして、お母さんが言うようにいい所の家の人なのかな? どっちでもいいけど、あんまりセレブな家だと嫌だなあ……」
体をざっと洗って、湯船に浸かって足を延ばして伸びをした。氷のようだった足に血が通い、彼の寒いだろうからさっとお風呂から出る。
「あ……、ブラがベトベトしてる……」
胸についたオレンジジュースがブラに移ったみたいだ。悩んで、私はノーブラで彼の用意したスエットを着る。
ダボッとしているけど、手を降ろすとはっきりおっぱいの形が分かってしまう。先ももちろんどこにあるのか一目瞭然だ。
「…………よしっ!」
私は、大きなズボンの裾を折り、胸元を手で隠しながら彼の待つこたつまで戻った。
「いろはちゃん……」
彼の視線が、濡れたままの髪と、そらそうとしても見てしまうのか胸元に当てられた。
──……やっぱりブラしとけばよかったかも……恥ずかしい
「えっと、おふろご馳走さまでした」
首筋まで、お風呂上りだからというだけではない熱が上がる。化粧品の入ったスーツケースも車の中だしすっぴんだ。
「……かわいい。ヤバ……俺の服着た湯上り彼女とか……サイコー」
口に手を当てて、私に見とれてくれていた。言葉が口から出たなんて気づいていなさそう。かわいいって言ってくれて嬉しい。
「あのね、ひふみくんもお風呂に入って来る……?」
「俺は後でいいよ。そ、それより、ここに来て」
「うん」
「かわいい。好き。あったかい。柔らかい……」
テレビがついていて、画面の中のニュースキャスターが東京の雪で大混乱な状況を伝えていた。私をさっきみたいに後ろから抱きしめてそんな風にずっと言い続けられてますます照れてしまう。
どこに視線を持って行けばいいのかわからなくてテレビを見ているけれど、心は彼一色だった。ふわふわのタオルで彼が髪を拭いてくれる。ドライヤーは後でいいかと思い、大きな手がガシガシって頭を拭くに任せた。
きっと力加減をしているつもりなんだろうけど、頭が揺れてしまう。でも、女の子の髪を拭くのが上手なんて慣れている証拠だから、不器用なこの感じがとても嬉しくて幸せ。
「俺と同じシャンプーの香りとか……マジヤバい。でもダメだ。今日はダメだ」
思った通り、私があんな風にならなかったら今日彼と初体験するはずだったんだ。
「ダメ、じゃないよ……?」
独り言を繰り返して自分に言い聞かせていた彼にそう伝える。
「え?」
「だから、ダメじゃない……」
私は、止まった彼の手をそっと握って胸元に寄せた。
「ダメじゃないから……」
そして、いつも猫みたいに丸めていた背を伸ばして胸を張ると、その手をノーブラのおっぱいに当てたのだった。
続きは20時ごろからです
「いろはちゃん、暖房すぐ入れるから。あと、湯船張るからちょっとこたつに入って待ってて」
慌ててアパートのエアコンとこたつのスイッチをつけてお風呂に行く彼。
ふるっ、ぶるりっ
お腹の底から寒さが来て体が震えてしまう。足は氷のように冷たくて、行儀が悪いけど見えないし、こたつの上の赤外線の所の網に足先をぴとってつける。
あったかさが足に伝わるけれど足らない。コートを着たままこたつの布団に上半身の前を全部被った。
「あと15分くらいでお風呂に入れるから。ティーバックだけどお茶飲んで」
「うん、ありがとう」
かじかんだ手で、普通の湯飲みだったら熱すぎて持てなかっただろう。彼の事だから、そこまで考えていなかっただろうけどマグカップでお茶を差し出してくれてそっと熱いお茶を飲んだ。さらさらとお茶が体に入る度に体の中が温かくなる。
「いろはちゃん、俺が気が利かないばかりにこんな事になってごめんね」
「ううん、もう謝らないで……。お母さんの言いつけ通りすぐに着替えなかった私が悪いの」
ひふみくんが私の対面に座ってしまった。足がぶつかりそうで避ける。遠くなってしまった彼との距離に寂しくなった。
「ひふみくん、こっち来て欲しいな……」
「うん」
こたつの足に、おしりをぎりぎりつけてもまだ狭そうで彼が入れない事に気づく。すると、ひふみくんが真後ろに来て、和室でしていたみたいに足の間にすっぽり入れてくれた。
「ふわーあったかい」
「……いろはちゃん」
そっと私の体の前に大きな手がやってきて組まれた。もうどこにも逃げられない、そんな感覚が私を襲う。
「好きだ……好きなんだ……」
「私も、大好き」
後ろから耳元でそんな風に言われて首を竦める。くすぐったいけど、心地のいい何かが体を駆け巡って行った。
そっと後ろを向こうとすると、彼も体勢を変えてキスをした。ちゅっちゅっていう軽いフレンチキスを繰り返す。
「好きだ……」
唇を少しあけると、いつもにゅるっと入って来る彼の大きな舌が入ってこない。唇が離れて行き、頬や額に当てられた。
──ひょっとして、さっきのキスを気にしているのかな?
今は体を締め付けていないし、まだ少し気だるいくらいで大丈夫そうだ。体をひねって彼の頬に手を当ててキスを唇に強請る。
そっと、また軽く当てられた時、私から舌をのばした。
「ん……、いろはちゃん……」
「も、だいじょうぶ、だから」
恐る恐るゆっくりと彼の舌が私に絡んでくる。徐々に深くなっていくけれど、やっぱりどこかでストップがかかっているみたい。
「ん、はぁ……」
「今日はここまでね」
「えー」
もっとして欲しいのにって少し拗ねると、彼は困ったみたいになった。
「また体調が悪くなると大変だよ」
──それを言われるとぐうの字も出ない……
「……」
私が返事もせず、いきなりキスをしたからびっくりしたみたい。もっともっとって彼のキスが欲しくなる。息を荒げて頬を赤く染めだした彼の大きな手が、がしっと私の体と頭を押さえた。
〈お風呂が沸きました。お風呂が沸きました〉
彼の理性が少し飛んだかなって思ったら給湯器が明るくそんな風にしゃべった。
──……折角、彼氏がその気になってくれて、いいとこだったのに
ほとんど男の子みたいな考えだななんて、少し自分で自分を笑ってしまう。
「俺の服を貸すからお風呂に入ってあったまっておいで」
「はーい」
ほら、もうすっかり冷静になってしまった。邪魔した給湯器のお姉さんの声に恨めしく感じてしまう。
こたつから出てすぐそこにあるお風呂に行くと、男の人の住む部屋なのに少しも汚れていなかった。タオルもきちんとたたまれていて、輪のほうが手前にある。
髪の毛一本も落ちていない洗面台はぴかぴかで、入ったお風呂場もきれいだった。
「きれい好きなんだなあ……」
不器用だけど気配りは出来るし、食事もスマート。お母さんがベタ褒めするくらい礼儀正しいし、こんな風にきちんと躾けられている彼。
「ひょっとして、お母さんが言うようにいい所の家の人なのかな? どっちでもいいけど、あんまりセレブな家だと嫌だなあ……」
体をざっと洗って、湯船に浸かって足を延ばして伸びをした。氷のようだった足に血が通い、彼の寒いだろうからさっとお風呂から出る。
「あ……、ブラがベトベトしてる……」
胸についたオレンジジュースがブラに移ったみたいだ。悩んで、私はノーブラで彼の用意したスエットを着る。
ダボッとしているけど、手を降ろすとはっきりおっぱいの形が分かってしまう。先ももちろんどこにあるのか一目瞭然だ。
「…………よしっ!」
私は、大きなズボンの裾を折り、胸元を手で隠しながら彼の待つこたつまで戻った。
「いろはちゃん……」
彼の視線が、濡れたままの髪と、そらそうとしても見てしまうのか胸元に当てられた。
──……やっぱりブラしとけばよかったかも……恥ずかしい
「えっと、おふろご馳走さまでした」
首筋まで、お風呂上りだからというだけではない熱が上がる。化粧品の入ったスーツケースも車の中だしすっぴんだ。
「……かわいい。ヤバ……俺の服着た湯上り彼女とか……サイコー」
口に手を当てて、私に見とれてくれていた。言葉が口から出たなんて気づいていなさそう。かわいいって言ってくれて嬉しい。
「あのね、ひふみくんもお風呂に入って来る……?」
「俺は後でいいよ。そ、それより、ここに来て」
「うん」
「かわいい。好き。あったかい。柔らかい……」
テレビがついていて、画面の中のニュースキャスターが東京の雪で大混乱な状況を伝えていた。私をさっきみたいに後ろから抱きしめてそんな風にずっと言い続けられてますます照れてしまう。
どこに視線を持って行けばいいのかわからなくてテレビを見ているけれど、心は彼一色だった。ふわふわのタオルで彼が髪を拭いてくれる。ドライヤーは後でいいかと思い、大きな手がガシガシって頭を拭くに任せた。
きっと力加減をしているつもりなんだろうけど、頭が揺れてしまう。でも、女の子の髪を拭くのが上手なんて慣れている証拠だから、不器用なこの感じがとても嬉しくて幸せ。
「俺と同じシャンプーの香りとか……マジヤバい。でもダメだ。今日はダメだ」
思った通り、私があんな風にならなかったら今日彼と初体験するはずだったんだ。
「ダメ、じゃないよ……?」
独り言を繰り返して自分に言い聞かせていた彼にそう伝える。
「え?」
「だから、ダメじゃない……」
私は、止まった彼の手をそっと握って胸元に寄せた。
「ダメじゃないから……」
そして、いつも猫みたいに丸めていた背を伸ばして胸を張ると、その手をノーブラのおっぱいに当てたのだった。
続きは20時ごろからです
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