4 / 17
4 真冬の屋上庭園はすぐに撤退だ
しおりを挟む
地下駐車場の寒さは、俺でもキツイ。着慣れていない振り袖姿の彼女を、こんな所でいさせるなんて彼氏失格だ。うっとりと、潤んだ表情の愛らしい彼女を抱きしめていられる時間が名残り惜しいけれど、慌ててエレベーターでホテルのロビーに移動した。
やっと快適温度を保つ暖房の効いた場所に来られてほっとする。
「うーん。庭園に行ってみる? それともそこのオープンカフェに行く?」
「じゃあ、庭園! ふふ、ここの屋上庭園って雑誌に載ってるし行ってみたかったの!」
その雑誌知ってる。先月のクリスマスのデート特集で載っていたから、ここを選んだのだから。庭園でロマンチックに寄り添ってムードが高まり、そのままこのホテルに泊まる……。なんて、ちょっと今は時間が早いけどそんな感じの所なのだ。
雑誌は勿論健全なデートスポットとして紹介している。プロポーズや告白にもぴったりだと。だけど、邪な下心丸出しの目的の男なんて俺以外にも多いだろう。
彼女のリクエスト通りにエレベーターでそこに上がった。扉を開けてみると、びゅーびゅー凍り付くような風が吹き荒れていた。空は成人式の会館で見上げた時よりも暗くなっていて、その暗さよりも黒く厚い雲が広がっていてまだまだ勢いを増しそうだ。速攻扉をバタンと閉めたのは言うまでもない。
「どうりで誰もいないなって思ったんだぁ。いつもはカップルだらけだって聞いていたのに」
「ちょっと、今日は無謀だね。風邪をひくかもしれないからまた今度、あったかい時に来ようか」
「うん!」
残念だけど、彼女を連れて階下に降りるエレベーターの前まで戻る。こんな日に、わざわざここに来ようとする人はいなさそうで、今は広い廊下にいるのは俺たちふたりだけだった。
俺は、なかなか来ないエレベーターの前から、少し隠れるような曲がり角まで彼女の手を引き連れて行った。とてとてついてくる彼女は本当に可愛くて最高だ。
「ひふみくん……? もうすぐエレベーターが来ちゃうよ?」
「うん。ちょっとだけ」
そう言うと、小さな彼女の体をすっぽり囲い込むように抱きしめた。ぴくっとびっくりして体に力が入った彼女がすぐに俺を抱きしめ返してくれる。
「はぁ……、好きだよ。誰にも取られたくない。ごめんね、ちょっと考えたら寒すぎるってわかりそうなものなのに。カッコ悪い所ばかり見せちゃって……」
「ひふみくん、私も。えっとね? ここが寒すぎるなんて来てみなきゃわかんない事だったよ? それに、……私がいいなんて言うのはひふみくんくらいだと思う」
「いろはちゃんは可愛いし魅力的だよ。優しいし。ふんわりしていてずっとこうしていたい。気づいてないだけで、いろはちゃんを狙う男は沢山いると思う」
「うーん? 全くモテた事ないけど?」
「まあ、他の男が寄ってこないならそれでいいけど」
こういうやり取りは今までにも何度もしている。俺は本心で言っているのに、彼女は全然信じてくれない。確かに彼女は一見地味だし、大人しいし。でも、こんなにも優しくて可愛くて奥さんにするには最高の女性だと、男の本命にいつもなれる人だと思う。
今までモテなくて良かった。俺のために一人でいさせてくれてありがとう!
目を閉じてぎゅっと抱きしめて、信じていない神様に感謝なんかしてしまう。
「こんな、チビでデブを好きだって言ってくれるの、ひふみくんが初めてだし、これからずっとそうだよ?」
「だから、いろはちゃんはチビじゃなくて可愛いんだし、デブじゃなくてちょうどいいんだ。今どきの痩せすぎた子より、ふわふわした君がいい。それに、俺と出会ってからダイエットして標準体重まで落ちたんでしょ? 俺はあのままでいいのに……。これ以上痩せちゃダメ。死んじゃうよ?」
「うん。もうこれ以上はきつくって。だけど、維持するのは頑張る。だって、ひふみくんの隣にいるのに、ちょっとでも可愛い彼女でいたいから……」
もう、この子はいつだってこんな風に自信がないけれど、すんごい魅力的で。絶対、ふわふわした彼女のほうが抱き心地が良いに決まってる。今だって、俺にしてみたら痩せすぎて心配になるのに。でも、健康的な標準体重のほうがいいんだろう。どんな姿だって、たとえいろはちゃんが100キロ……は病気が心配だからアレだけど愛せる自信がある。
「うん。もう少しふわっとしてもいいけど……。でも、いろはちゃんが自分で好きになれる体型を維持してくれたらいいよ」
「ありがと……。嬉しいな、男の子ってモデル体型の明るくて綺麗な子が好きだと思っていたから。私、ひふみくんに会えてよかった。幸せ……ひふみくんこそ、とってもカッコいいのに、私なんかでいいのかなあって……美人さんとかかわいい人、会社にいっぱいいてそうだし……」
「俺、いつも怒ったみたいな顔だし。モテないどころか怖がられているよ。それに、ほかのどんな子にモテたって、いろはちゃんにモテなかったら意味ないし。はぁ……いろはちゃん、大好き」
「私も大好き」
にこにこ笑って、こつんと額をつけたりは身長差がありすぎて無理だ。でも、座ったりしたら出来るから、それは後でするとして。
かがんで、化粧が取れないように唇にちゅってキスをした。
──このキスで、君がどれほど好きなのか、気持ちの全部が伝わればいいのに……
やっと快適温度を保つ暖房の効いた場所に来られてほっとする。
「うーん。庭園に行ってみる? それともそこのオープンカフェに行く?」
「じゃあ、庭園! ふふ、ここの屋上庭園って雑誌に載ってるし行ってみたかったの!」
その雑誌知ってる。先月のクリスマスのデート特集で載っていたから、ここを選んだのだから。庭園でロマンチックに寄り添ってムードが高まり、そのままこのホテルに泊まる……。なんて、ちょっと今は時間が早いけどそんな感じの所なのだ。
雑誌は勿論健全なデートスポットとして紹介している。プロポーズや告白にもぴったりだと。だけど、邪な下心丸出しの目的の男なんて俺以外にも多いだろう。
彼女のリクエスト通りにエレベーターでそこに上がった。扉を開けてみると、びゅーびゅー凍り付くような風が吹き荒れていた。空は成人式の会館で見上げた時よりも暗くなっていて、その暗さよりも黒く厚い雲が広がっていてまだまだ勢いを増しそうだ。速攻扉をバタンと閉めたのは言うまでもない。
「どうりで誰もいないなって思ったんだぁ。いつもはカップルだらけだって聞いていたのに」
「ちょっと、今日は無謀だね。風邪をひくかもしれないからまた今度、あったかい時に来ようか」
「うん!」
残念だけど、彼女を連れて階下に降りるエレベーターの前まで戻る。こんな日に、わざわざここに来ようとする人はいなさそうで、今は広い廊下にいるのは俺たちふたりだけだった。
俺は、なかなか来ないエレベーターの前から、少し隠れるような曲がり角まで彼女の手を引き連れて行った。とてとてついてくる彼女は本当に可愛くて最高だ。
「ひふみくん……? もうすぐエレベーターが来ちゃうよ?」
「うん。ちょっとだけ」
そう言うと、小さな彼女の体をすっぽり囲い込むように抱きしめた。ぴくっとびっくりして体に力が入った彼女がすぐに俺を抱きしめ返してくれる。
「はぁ……、好きだよ。誰にも取られたくない。ごめんね、ちょっと考えたら寒すぎるってわかりそうなものなのに。カッコ悪い所ばかり見せちゃって……」
「ひふみくん、私も。えっとね? ここが寒すぎるなんて来てみなきゃわかんない事だったよ? それに、……私がいいなんて言うのはひふみくんくらいだと思う」
「いろはちゃんは可愛いし魅力的だよ。優しいし。ふんわりしていてずっとこうしていたい。気づいてないだけで、いろはちゃんを狙う男は沢山いると思う」
「うーん? 全くモテた事ないけど?」
「まあ、他の男が寄ってこないならそれでいいけど」
こういうやり取りは今までにも何度もしている。俺は本心で言っているのに、彼女は全然信じてくれない。確かに彼女は一見地味だし、大人しいし。でも、こんなにも優しくて可愛くて奥さんにするには最高の女性だと、男の本命にいつもなれる人だと思う。
今までモテなくて良かった。俺のために一人でいさせてくれてありがとう!
目を閉じてぎゅっと抱きしめて、信じていない神様に感謝なんかしてしまう。
「こんな、チビでデブを好きだって言ってくれるの、ひふみくんが初めてだし、これからずっとそうだよ?」
「だから、いろはちゃんはチビじゃなくて可愛いんだし、デブじゃなくてちょうどいいんだ。今どきの痩せすぎた子より、ふわふわした君がいい。それに、俺と出会ってからダイエットして標準体重まで落ちたんでしょ? 俺はあのままでいいのに……。これ以上痩せちゃダメ。死んじゃうよ?」
「うん。もうこれ以上はきつくって。だけど、維持するのは頑張る。だって、ひふみくんの隣にいるのに、ちょっとでも可愛い彼女でいたいから……」
もう、この子はいつだってこんな風に自信がないけれど、すんごい魅力的で。絶対、ふわふわした彼女のほうが抱き心地が良いに決まってる。今だって、俺にしてみたら痩せすぎて心配になるのに。でも、健康的な標準体重のほうがいいんだろう。どんな姿だって、たとえいろはちゃんが100キロ……は病気が心配だからアレだけど愛せる自信がある。
「うん。もう少しふわっとしてもいいけど……。でも、いろはちゃんが自分で好きになれる体型を維持してくれたらいいよ」
「ありがと……。嬉しいな、男の子ってモデル体型の明るくて綺麗な子が好きだと思っていたから。私、ひふみくんに会えてよかった。幸せ……ひふみくんこそ、とってもカッコいいのに、私なんかでいいのかなあって……美人さんとかかわいい人、会社にいっぱいいてそうだし……」
「俺、いつも怒ったみたいな顔だし。モテないどころか怖がられているよ。それに、ほかのどんな子にモテたって、いろはちゃんにモテなかったら意味ないし。はぁ……いろはちゃん、大好き」
「私も大好き」
にこにこ笑って、こつんと額をつけたりは身長差がありすぎて無理だ。でも、座ったりしたら出来るから、それは後でするとして。
かがんで、化粧が取れないように唇にちゅってキスをした。
──このキスで、君がどれほど好きなのか、気持ちの全部が伝わればいいのに……
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる