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湖に行かないか? ※ 今回はタグ注意がいつもより多い気がします
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フェーレ視点よりも遡り、現在はラッテが捕まった後、裁判が始まったあたりになります。裁判までの期間は、異世界ですのでかなり早いです。そうしないとふたりがあっという間に30歳オーバー、いや、40超えてしまう事になってしまいます。色々ありえねーだろ、と笑い飛ばしていただけると幸いです。
レーニアのお見合いはいつするのか、相手はどんな男なのか気にはなるものの、なんだかんだで我が家に滞在している彼女を見て、そんな話はいつの間にか立ち消えになったのかなと都合よく考えた。
彼女と、仕事の合間に町に出かけたり、こんな日がいつまでも続いて欲しいと願いながら、秋がすぎ冬になった。年が明ける前、世間を騒がせた多数の被害者を出した詐欺事件の犯人、ラッテの第一公判がついに始まった。
俺は、全て明るみにされた彼女の境遇を聞き同情した。もしも、家が乗っ取られずに、すくすくと男爵家で幸せに育てば、今頃はご令嬢としてどこかいい相手と結婚できていたのかもしれない。
世論も、どうしようもない苦しい境遇に立たされた彼女を憐れみ、生家を乗っ取った親戚から彼女に本来の権利を取り戻そうとする団体までできるほど。彼女も被害者なのだと、ニュースがお涙頂戴的なドラマをしたてたのである。
だからといって、ラッテからは被害者には何一つ還ってはこないのだが。
被害者の男たちも、だいたい俺と似たり寄ったりだ。
全てを明らかにされた彼女は、あの日──エスプレッツが何者かに殺害された事を聞いた日──を境に嘘を言わなくなったそうだ。今までのことを後悔し、心から反省している事を裁判中に何度も訴えた。その様子は、国中の涙を誘うほど。さらに、被害者ひとりひとりに認められた手紙を読んで、今後の裁判次第だと考えている。
レーニアは、この茶番劇も、全ては彼女を利用した組織を一網打尽にするための布石の一部だということもあり、苦笑しながらも事の成り行きを見守った。
ちょうどその頃、近くの海に大嵐が発生し、海を隔てた大陸の大きな船が転覆したらしい。どうやら、日ごろから密入国者をたくさん乗せてぼろ儲けをしている船らしく、救助によって助け出された人々は元いた国に強制送還されたというニュースもあったが、すぐに人々の記憶から消え去って行った。
俺は日常を取り戻していった。仕事は相変わらずだが、有能なSEがあれから数人増えた。そのため少しずつ労働環境が良くなってきている。
そうなると、心も体もゆとりが出て来た。
『え? 皆、レーニアの領地出身だって?』
『はい。レーニアお嬢様が、領地を復興するのにあたって、職を失ったり、なかなかいい仕事につけない人々を育成してくださったんです。俺は、人と関わるのが苦手で。肉体労働は体力がないから自信がないし、営業とか絶対無理だし。情けない事に無職でふらふらしていたら、かなりきついけれどSEとか技術職はどうかと提案されました。
SEの分野に興味を持ったのもその時からなんです。勉強は厳しかったです。学のない俺たちは、出資していただいている以上、感謝して必死に技術を身につけました。お嬢様が、条件はいいけれど、かなり厳しいここを紹介してくださって。もとより、他に行くあてもありませんから喜んで面接と試験を受けました』
『俺もです。お嬢様は、民間企業のほうが実入りがいいし、どうも過酷な状況のために人が定着せず残った人たちが辛い環境に置かれているのが心配だったようですね。特に、とある男性が気がかりでその人の助けになりたい……って失礼、最後のは忘れてください』
『とある男性……?』
だ、誰の事だ?
『あーあ……特にカプテーノ様には絶対に言うなって、お嬢様に硬く口止めされていたのになあ。俺はけがをして肉体労働ができなくなったんです。レーニアお嬢様が、それならと。まあ、そういう事ですよ』
『そういう事……』
そういうってどういう事だ? ひょっとしてそういう事なのか?
レーニアが知っている、彼らが就職した職場の男なんて俺しかいない。自惚れでなければ、俺のために彼らを遣わしてくれたのだろうか。
いや、特別な感情がなくても、レーニアなら、過労でぶっ倒れそうな俺を見て、幼馴染として動いてくれるかもしれないし、彼らだって王都の公務員のほうが無職よりもいいだろう。
※
「レーニア、その……。良かったら湖に行かないか?」
近郊にある湖に氷が張ったらしい。昼間はスケートをしたり、穴をあけて小さな魚を釣ったりできる人気のスポットだ。夜は満点の星空のカーテンがかかり、ここで過ごした男女は幸せな結婚ができるという。意中の相手を連れて行って告白すれば、成功率100%だって新入職のあいつらに教わった。
「テーノ、いきなりどうしたの? わたくしなら構わないけれど。湖なんて久しぶりで楽しみだわ」
「じゃあ、今度の週末。連休なんだ。都合つくか?」
「え? 連休って事は日帰りじゃないの?」
「ああ。なんでも宿泊したほうがいいみたいだ」
「宿泊……お泊りってこと? テーノと?」
「そうだけど」
「………………」
最初は嬉しそうに湖に行く事に乗り気だったのに、宿泊だと伝えた途端、レーニアは顔を俯き加減にして口を閉ざした。どうしたのか覗きこむように腰を折る。すると、彼女の耳などが真っ赤になっていた。
「レーニア? やっぱり都合が悪いか? 嫌か?」
「……嫌じゃない、よ……うん……」
「じゃあ、行こうぜ」
「…………そうよね。うん、わかってる。テーノに他意はないのは。わたくしが……だからってそんな……でも……」
「レーニア? どうしたんだよ。行くの? 行かないの?」
「そうよ、……単に観光のつもりでのお誘いなのよ。だって、テーノだもの。そうに決まっているわ」
ぼそぼそ何か独り言を言っていた彼女は、視線をうろうろさせたまま。
「レーニア?」
「行く。行きます」
それだけを言うと、顔まで真っ赤にさせたレーニアが、準備を始めなきゃって声を大きくして言いながら俺の部屋から出ていった。
それからというもの、なぜかレーニアがよそよそしい。挨拶はするし、普通に会話もできるんだけど、なんというか、少し距離を置かれているというか、そんな感じ。嫌がれてる風ではないけど。
気軽に俺の部屋に来てくれる事もなくなり、少しは意識をしてくれているのかななんて気軽に考えていた。
夜になり、翌日の旅行の準備をしていると、母にいきなり呼び出された。
「テーノ、あなたね。しっかり立場を固めてもいないのに……なんてこと。さっきメイド長に聞いたら、レーニアさんとふたりで旅行ですって? しかも泊りで」
「は? あ、いや……実はそうなんだ。俺はレーニアが好きだ。情けない俺だけど、みすみす他の男に渡したくないんだ。だから、旅行先で求婚しようと思ってる。母上もレーニアが義娘になってもらうほうがいいんだろ?」
「そんな事、今更いわなくても皆知っているわ。レーニアさん以外はね。そういう事じゃないの。未婚の男女が、新婚旅行にも使われるような場所に行くだなんて。あなたはともかく、レーニアさんは女性なのよ? お泊りデートだなんて、何を考えているのよ」
「あ……」
なるほど、レーニアだけでなく、使用人たち、とくにメイドたちが浮足立って俺たちを意味ありげに見つめていたのは、そういうことだったのか。
ようするに、あれだ。男女のアレでコレで……告白前に男女の仲になろうって誘ったという事になる。うわ、俺って最低野郎じゃないか?
で、でも。あの時レーニアもたぶんそういう事を誘われたって思ったんだって事で。行くって言ってくれたんだから。つまりは……
「テーノ、聞いているの?」
俺の頭は、もうその事だけでいっぱいだ。母の小言なんて聞いてなんかいるわけがない。でも、叱りつつも母だってなんだか嬉しそうだ。それもそうだろう。レーニアをこの家の嫁にしろって散々言われてきたのだから。
ようするに、既成事実を作れと言う事だ。
既成事実。きせいじじつ。きせい、じじつ。き・せ・い・じ・じ・つ。
親に言われるのは、非常にアレだが。
そんなつもりで誘ったわけではない。ただ、皆から教えてもらったところで、明け方のロマンチックな風景を見ながらプロポーズするには泊まりじゃないとだめだから……。いや、ちょっとだけ、本能的にそういう期待をしていなかったといえば嘘になる。
てことは、だ。当然、レーニアも、期待してくれているって事だよな?
俺は、母の部屋から事実に戻った記憶がすっぽり抜け落ちていた。
いつの間にシャワーを浴びているのだろう。いったいいつから反り返っていたのか、俺の分身はもうすでに、ごちゃごちゃいわずにレーニアとキメてしまえ! と叫ばんばかりにフィーバー状態だ。
熱いシャワーを浴びながら右手で擦り合わせる。先端から流れ落ちるぬめっとした液が、シャワーで流れるよりも多く出てくるため、しごく手を強くしても痛みはない。
その夜、というよりも旅行に出発する数時間前まで、俺はレーニアを想いながら、なんども欲を放ったのは言うまでもない。
レーニアのお見合いはいつするのか、相手はどんな男なのか気にはなるものの、なんだかんだで我が家に滞在している彼女を見て、そんな話はいつの間にか立ち消えになったのかなと都合よく考えた。
彼女と、仕事の合間に町に出かけたり、こんな日がいつまでも続いて欲しいと願いながら、秋がすぎ冬になった。年が明ける前、世間を騒がせた多数の被害者を出した詐欺事件の犯人、ラッテの第一公判がついに始まった。
俺は、全て明るみにされた彼女の境遇を聞き同情した。もしも、家が乗っ取られずに、すくすくと男爵家で幸せに育てば、今頃はご令嬢としてどこかいい相手と結婚できていたのかもしれない。
世論も、どうしようもない苦しい境遇に立たされた彼女を憐れみ、生家を乗っ取った親戚から彼女に本来の権利を取り戻そうとする団体までできるほど。彼女も被害者なのだと、ニュースがお涙頂戴的なドラマをしたてたのである。
だからといって、ラッテからは被害者には何一つ還ってはこないのだが。
被害者の男たちも、だいたい俺と似たり寄ったりだ。
全てを明らかにされた彼女は、あの日──エスプレッツが何者かに殺害された事を聞いた日──を境に嘘を言わなくなったそうだ。今までのことを後悔し、心から反省している事を裁判中に何度も訴えた。その様子は、国中の涙を誘うほど。さらに、被害者ひとりひとりに認められた手紙を読んで、今後の裁判次第だと考えている。
レーニアは、この茶番劇も、全ては彼女を利用した組織を一網打尽にするための布石の一部だということもあり、苦笑しながらも事の成り行きを見守った。
ちょうどその頃、近くの海に大嵐が発生し、海を隔てた大陸の大きな船が転覆したらしい。どうやら、日ごろから密入国者をたくさん乗せてぼろ儲けをしている船らしく、救助によって助け出された人々は元いた国に強制送還されたというニュースもあったが、すぐに人々の記憶から消え去って行った。
俺は日常を取り戻していった。仕事は相変わらずだが、有能なSEがあれから数人増えた。そのため少しずつ労働環境が良くなってきている。
そうなると、心も体もゆとりが出て来た。
『え? 皆、レーニアの領地出身だって?』
『はい。レーニアお嬢様が、領地を復興するのにあたって、職を失ったり、なかなかいい仕事につけない人々を育成してくださったんです。俺は、人と関わるのが苦手で。肉体労働は体力がないから自信がないし、営業とか絶対無理だし。情けない事に無職でふらふらしていたら、かなりきついけれどSEとか技術職はどうかと提案されました。
SEの分野に興味を持ったのもその時からなんです。勉強は厳しかったです。学のない俺たちは、出資していただいている以上、感謝して必死に技術を身につけました。お嬢様が、条件はいいけれど、かなり厳しいここを紹介してくださって。もとより、他に行くあてもありませんから喜んで面接と試験を受けました』
『俺もです。お嬢様は、民間企業のほうが実入りがいいし、どうも過酷な状況のために人が定着せず残った人たちが辛い環境に置かれているのが心配だったようですね。特に、とある男性が気がかりでその人の助けになりたい……って失礼、最後のは忘れてください』
『とある男性……?』
だ、誰の事だ?
『あーあ……特にカプテーノ様には絶対に言うなって、お嬢様に硬く口止めされていたのになあ。俺はけがをして肉体労働ができなくなったんです。レーニアお嬢様が、それならと。まあ、そういう事ですよ』
『そういう事……』
そういうってどういう事だ? ひょっとしてそういう事なのか?
レーニアが知っている、彼らが就職した職場の男なんて俺しかいない。自惚れでなければ、俺のために彼らを遣わしてくれたのだろうか。
いや、特別な感情がなくても、レーニアなら、過労でぶっ倒れそうな俺を見て、幼馴染として動いてくれるかもしれないし、彼らだって王都の公務員のほうが無職よりもいいだろう。
※
「レーニア、その……。良かったら湖に行かないか?」
近郊にある湖に氷が張ったらしい。昼間はスケートをしたり、穴をあけて小さな魚を釣ったりできる人気のスポットだ。夜は満点の星空のカーテンがかかり、ここで過ごした男女は幸せな結婚ができるという。意中の相手を連れて行って告白すれば、成功率100%だって新入職のあいつらに教わった。
「テーノ、いきなりどうしたの? わたくしなら構わないけれど。湖なんて久しぶりで楽しみだわ」
「じゃあ、今度の週末。連休なんだ。都合つくか?」
「え? 連休って事は日帰りじゃないの?」
「ああ。なんでも宿泊したほうがいいみたいだ」
「宿泊……お泊りってこと? テーノと?」
「そうだけど」
「………………」
最初は嬉しそうに湖に行く事に乗り気だったのに、宿泊だと伝えた途端、レーニアは顔を俯き加減にして口を閉ざした。どうしたのか覗きこむように腰を折る。すると、彼女の耳などが真っ赤になっていた。
「レーニア? やっぱり都合が悪いか? 嫌か?」
「……嫌じゃない、よ……うん……」
「じゃあ、行こうぜ」
「…………そうよね。うん、わかってる。テーノに他意はないのは。わたくしが……だからってそんな……でも……」
「レーニア? どうしたんだよ。行くの? 行かないの?」
「そうよ、……単に観光のつもりでのお誘いなのよ。だって、テーノだもの。そうに決まっているわ」
ぼそぼそ何か独り言を言っていた彼女は、視線をうろうろさせたまま。
「レーニア?」
「行く。行きます」
それだけを言うと、顔まで真っ赤にさせたレーニアが、準備を始めなきゃって声を大きくして言いながら俺の部屋から出ていった。
それからというもの、なぜかレーニアがよそよそしい。挨拶はするし、普通に会話もできるんだけど、なんというか、少し距離を置かれているというか、そんな感じ。嫌がれてる風ではないけど。
気軽に俺の部屋に来てくれる事もなくなり、少しは意識をしてくれているのかななんて気軽に考えていた。
夜になり、翌日の旅行の準備をしていると、母にいきなり呼び出された。
「テーノ、あなたね。しっかり立場を固めてもいないのに……なんてこと。さっきメイド長に聞いたら、レーニアさんとふたりで旅行ですって? しかも泊りで」
「は? あ、いや……実はそうなんだ。俺はレーニアが好きだ。情けない俺だけど、みすみす他の男に渡したくないんだ。だから、旅行先で求婚しようと思ってる。母上もレーニアが義娘になってもらうほうがいいんだろ?」
「そんな事、今更いわなくても皆知っているわ。レーニアさん以外はね。そういう事じゃないの。未婚の男女が、新婚旅行にも使われるような場所に行くだなんて。あなたはともかく、レーニアさんは女性なのよ? お泊りデートだなんて、何を考えているのよ」
「あ……」
なるほど、レーニアだけでなく、使用人たち、とくにメイドたちが浮足立って俺たちを意味ありげに見つめていたのは、そういうことだったのか。
ようするに、あれだ。男女のアレでコレで……告白前に男女の仲になろうって誘ったという事になる。うわ、俺って最低野郎じゃないか?
で、でも。あの時レーニアもたぶんそういう事を誘われたって思ったんだって事で。行くって言ってくれたんだから。つまりは……
「テーノ、聞いているの?」
俺の頭は、もうその事だけでいっぱいだ。母の小言なんて聞いてなんかいるわけがない。でも、叱りつつも母だってなんだか嬉しそうだ。それもそうだろう。レーニアをこの家の嫁にしろって散々言われてきたのだから。
ようするに、既成事実を作れと言う事だ。
既成事実。きせいじじつ。きせい、じじつ。き・せ・い・じ・じ・つ。
親に言われるのは、非常にアレだが。
そんなつもりで誘ったわけではない。ただ、皆から教えてもらったところで、明け方のロマンチックな風景を見ながらプロポーズするには泊まりじゃないとだめだから……。いや、ちょっとだけ、本能的にそういう期待をしていなかったといえば嘘になる。
てことは、だ。当然、レーニアも、期待してくれているって事だよな?
俺は、母の部屋から事実に戻った記憶がすっぽり抜け落ちていた。
いつの間にシャワーを浴びているのだろう。いったいいつから反り返っていたのか、俺の分身はもうすでに、ごちゃごちゃいわずにレーニアとキメてしまえ! と叫ばんばかりにフィーバー状態だ。
熱いシャワーを浴びながら右手で擦り合わせる。先端から流れ落ちるぬめっとした液が、シャワーで流れるよりも多く出てくるため、しごく手を強くしても痛みはない。
その夜、というよりも旅行に出発する数時間前まで、俺はレーニアを想いながら、なんども欲を放ったのは言うまでもない。
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