完結 R18(複数) 身代わりの夫を受け入れた噂のカイブツ女辺境伯は、ぴえん超えてぱおん

にじくす まさしよ

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はじめましてで、いきなり初夜なのだけれども。④ ※身代わりの夫によるコース修正

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 トルクスがまた小さなころ、美しい母が存命だったころは、母が彼をかばい、父も母をそこそこ大切にしていたので、義母も屋敷の者も優しいとは言えないが、普通に接してくれていたのである。

 ところが、母が病気で亡くなってからは、母しか興味のなかった父は、トルクスをいない者同然のように扱った。一家の長である父が、トルクスを完全に放置するようになると、義母はトルクスをひび割れた壁に、瓦が数なく屋根の基礎がむき出しの取り壊す予定の離れに押し込めた。

 それ以降、下男同然のように働かされ、失敗すれば怒声を浴びせられ、大柄な体形の彼は、ひどい時には殴られることもあった。最低限の食事は与えられるものの、罰として食事抜きの日もあり、トルクスは離れの近くの雑木林に自生している植物や川の魚などを採って食べたりもしてなんとか生きてきたのである。

 ひどい境遇ではあるが、親のいない幼い子が街に出たところで、まともな暮らしなどできない。一度、離れから抜け出し下町に行ったことがある。その際には、数日のうちに行き場のない孤児として、離れにいるよりももっと劣悪な環境で過ごす事になってしまった。

 腹違いの兄であるソケットが、トルクスを心配して救ってくれなければ、今頃どうなっていたか想像に難くない。

「トルクス、ローカクさんが亡くなってから、ずっとつらい思いをしていたんだね。母上から、トルクスはローカクさんの親戚が引き取ったと聞かされていて。今まで気が付かずごめん。でも、母上に表立って逆らうのは俺も無理なんだ。今の俺に出来ることは少ないけれど、治安の悪い下町にいるよりもうちにいたほうがいいから、自立できるまでここで暮らそう」
「あにうえぇ…………」

 ソケットもまだまだ未成年であるにもかかわらず、トルクスが勝手にいなくなってせいせいしたという使用人たちの話を聞いて、必死に探し出してくれたらしい。とはいえ、ソケット自身も、子供に無関心の両親に可愛がられているわけではない。だが、彼らが無関心であるがゆえに、ソケットがトルクスに対して手助けするチャンスをくれたといえよう。

 家出から戻ったトルクスは、それまで通り下男として働くこととなった。ソケットから日々の糧と自立して生き抜くための勉強を教えてもらいつつ成人になる今年まで家で過ごしたのである。

 もうすぐ成人して、本格的に家から自立するための準備をしていた時、ソケットが辺境伯と結婚する話が持ち上がった。トルクスは、ソケットのことを心配していたものの、彼自身はこの縁談に対して嫌がるどころか乗り気だったようでほっとしていたのである。

「でも、兄上。辺境伯になったという女性は、乱暴で、見た目も心も醜いというではありませんか。しかも、周囲に男をはべらせて、身持ちも悪いとか。兄上に嫁ぎたいというご令嬢も多いというのに、どうしてまた、そのような女性との結婚を? 王家の提案とはいえ、お断りできたのでしょう?」
「あのな、辺境伯は王都に来たことがない。しかも、魔の森で魔物と対峙してくれている。誰のためか? 勿論、伯爵領の人々のためだろう。だけど、彼女の働きによって、ここ王都も魔物の脅威から守られている。女性なのに辺境伯となった彼女の地位を嫉む者も多く、好き勝手に噂をしているにすぎない。だから、ちょっと辺境に行って自分の目で見て来ようと思う。それからでも、断ることができると思うんだ」
「でも、辺境は魔の森が近くにあるのだから、危険です。それに、何もないド田舎だって。それに、この家はどうするんですか?」
「正直、俺もお前と同じようにこの家にいたくないんだ。ここにいればずっとあのふたりと顔を合わさなきゃいけないからな。トルクス、俺が結婚していなくなったら、お前に白羽の矢が立つかもしれない。今は父も母もお前の存在を忘れている。だから、俺が結婚してこの家を出ていく前、今のうちにお前が先に家を出ろ」

 そうして、ソケットは辺境に行った。1か月もしないうちに帰ってくるだろうと思ったのだが、突然連絡が取れなくなり行方不明となる。

 ソケットが見つからない以上、代わりが必要だ。侯爵は数年忘れていたトルクスを思い出し、王命で逆らえないからと、ソケットが心配で自立しそびれたトルクスに、彼のふりをして辺境に行くように命令したのである。

 侯爵からの命令もあったが、辺境にくればソケットの消息がわかるかもしれないという思いもあり、トルクスは、バレたら処罰される覚悟で辺境に来たのである。

(追い出されないように、レンチ様に絶対気に入られなければ。でも、こんなにもかわいい人だったなんて)

 ソケットはああ言っていたが、バケモノという噂のせいで、どうしても最悪の女性像を思い浮かべていた。だが、寝室に現れたレンチを見た瞬間、彼女の愛らしい姿と、見事な赤の髪、何よりも意思の堅そうな煌めく赤い瞳に心を奪われたのである。

(剣を突き付けられた時、怖かったけど、でも)

 問答無用で切られることもなく、謝罪も受けた。見た目だけでなく、心もバケモノどころか素晴らしい女性だと、ほんの短い時間ではあるがトルクスは完全にレンチに堕ちてしまう。

 自分を押し倒して、何度もキスをくれる彼女は、男慣れしてそうだと思った。これだけは噂通りだったのかと思うと、悲しさと、顔もわからない男たちに嫉妬し、自分の上で別のことを考え始めた彼女に胸がじりじりとした気持ちの悪い焦げ付いたフライパンのような感覚を覚える。

(僕が不慣れなのがバレたのかな。彼女と違って、僕は経験がない。男女のアレコレは、屋敷の使用人たちが外でやっていたのを見たくらいだけど、頑張るから、他の男のことなんて考えてほしくない)

「レンチ様」
「え? わ!」

 自分以外の男に負けたくないという思いに駆られ、レンチの意識を自分だけに向けたくなったトルクスは、小柄な彼女の細い腰に手を回し、そっと上下を反転させたのである。


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