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はじめましてで、いきなり睨み合いなのだけれども。①
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これから毎日とか、最後にほのめかしておきながらの※の続きは少々お預けです。その分、のちのちエロ満載にしようと努力しましたので、作者にあたたか~い缶などを投げつけようとせず、呼吸を整え、このフェーズも楽しみつつお待ち下さればありがたいです。
「は? よく、聞こえなかった。もう一度言ってみてくれないか?」
地の底から響いてくる悪鬼のような雰囲気と、普段の声よりも10オクターブほど低い音が、均整の取れた男から発せられた。男の名はボックスといい、ボルトナット領の子爵家の3男で、齢28歳。家を継げない彼は、現在、騎士団の団長をしている。毎日のように、団員のみならず、自らも鍛え上げられた彼の、成熟した肉体と、どのような魔物と対峙しても動じない強靭な精神力を兼ね備えている。
彼が動じるのは、辺境伯として、また、テイマーとしてともに行動している彼の主たるレンチに関することだけ。彼は、外見も性格も、地位的にも超優良物件として、妙齢の女性に大人気だ。そんな彼が、浮いた噂の一つもないのは、6歳下のレンチが原因でしかない。
「ですから、お嬢は、例の王都のおぼっちゃんと一夜を過ごしたそうです。ひぃぃ!」
「おかしいな、あり得ない報告だ。俺の耳が悪いのか、お前の口が悪いのか。どっちだ?」
「だ、だんちょ。おおお、落ち着いて聞いてくださいいぃぃいいい!」
「俺は、至極落ち着いているが?」
部下が先ほど聞いた話を伝えたところ、指一本すら動かさなかったにも関わらずボックスの足元の地面が3センチほど凹み、ヒビを入れながら割れたのである。
※
よく晴れた8月の吉日。初代王が結婚し、王妃と仲睦まじく人生を謳歌したという、今日の佳き日に結婚する男女は多い。彼らの主であるレンチも、その日にあやかり挙式をする予定だった。
といっても、大喜びだったのはレンチの両親と兄と王家だけ。
当事者であるレンチや騎士団の一部は、内心、王都の侯爵家の令息が辺境の地に来ることに眉をしかめ、この日が無くなることすら願っていた。
レンチが辺境伯として跡継ぎを作らねばならないことは、騎士団の連中も頭では理解している。この結婚は王命であり、当のレンチが頷いたものの往生際悪くずっとグチグチ言っていたので、ぎりぎりまで成り行きを見守っていたものも少なくない。
「あーあ、私も年貢の納め時かー。8月なんてこなければいいのに」
「レンチ様、どうしても嫌ならお断りすれば? できるのでしょう?」
「ボックス、考えてもみてくれ。今更、たいした理由もなく断ったりしたら、早く結婚しろしろうるさい、父と、特に母が半狂乱になるではないか」
レンチは、ボックスの心知らず、のんきにそんなことを言っていた。そんなこんなで、彼の気持ちにまったくもって気づかなかったレンチが渋々ながら結婚に頷いた時から、周囲は、ふたりというよりも、ボックスの様子を恐る恐るうかがっていたのである。
ところが、ソケットが辺境に来て結婚する日に、幸か不幸か魔の森で魔物が大暴れをした。魔物を早急に落ち着かせるにはレンチのテイマーとしての能力があったほうがいい。それに、ボックスとしては、結婚式をドタキャンしたことで、ソケットが怒り、あわよくば王都に帰れば上々という下心もあったので、ウェディングドレスを着ようとしていたレンチに出動要請したのである。
「なりません! ボックス様、なんと無体なことを! こんな日にお嬢様が行かなくても良いではないですか!」
ボックスから魔物が大暴れしていると聞いたレンチは、すぐさま魔の森に向かおうとした。だが、不在のレンチの両親の代わりに、満面の笑顔で準備を手伝っていた乳母が、両腕を伸ばして阻止しようと声を荒げた。
「メガネ、それでは傷つくものが増え被害も大きくなるだろう。私は、辺境伯として行かねばならない」
困ったわがままな子供を見るような目つきで、レンチが乳母にそう言うと、彼女は悲鳴をあげるように更に大きな声で叫び、花嫁を連れ去ろうとする騎士団長を睨みつけた。
「騎士団長も、よりにもよって、なんだって今、この時に、報告したりなんかするのですか! 今日は、お嬢様の結婚式なのですよ! あと数時間、せめて式が終わるまで自分たちでなんとかしようと思わなかったのですか!」
「それは知っている。だが、なにごとも報告は迅速にしなければならないだろう。被害が甚大になるとわかっているのに、我々だけで対峙しようとすればどうなるか、乳母殿もわかるだろう? レンチ様が行ったほうが解決が早いのは事実だ。俺とて、水を指すのは忍びない。だが、婿殿も、辺境に来たからには、レンチ様が魔の森に緊急に行かねばならない事くらい承知の上だろう。このようなことで怒るような相手なら、とっとと家に追い返せばいい」
「ネガネ、ボックスの言う通りだ。これで物を言うような相手は、辺境には必要ではない。それどころか害になる。そうだ、いっそのこと、クレームとともに王都に逃げ帰って貰えたらいい。って、いたたたたたただだだだた! メガネ、耳がちぎれるぅ!」
レンチのあまりの言い草に、卒倒しそうになったメガネによって耳をつねられた。
ボックスは、いつものやり取りに口角をあげつつ、レンチのこの言葉に、この結婚がどう転んでもなくなると確信した。そして、あれこれ言い続けるメガネを置いて魔の森に向かったのである。
魔物をなだめるのに真夜中近くまでかかったレンチを屋敷に送り届けたあと、残務処理をして、明朝には結婚そのものがなくなったという報告が聞けるだろうと、眠りについたのだ。
が、結婚式の翌日、彼の思惑の真逆のことを部下から聞かされたボックスは、これは夢だと現実逃避したのである。
「は? よく、聞こえなかった。もう一度言ってみてくれないか?」
地の底から響いてくる悪鬼のような雰囲気と、普段の声よりも10オクターブほど低い音が、均整の取れた男から発せられた。男の名はボックスといい、ボルトナット領の子爵家の3男で、齢28歳。家を継げない彼は、現在、騎士団の団長をしている。毎日のように、団員のみならず、自らも鍛え上げられた彼の、成熟した肉体と、どのような魔物と対峙しても動じない強靭な精神力を兼ね備えている。
彼が動じるのは、辺境伯として、また、テイマーとしてともに行動している彼の主たるレンチに関することだけ。彼は、外見も性格も、地位的にも超優良物件として、妙齢の女性に大人気だ。そんな彼が、浮いた噂の一つもないのは、6歳下のレンチが原因でしかない。
「ですから、お嬢は、例の王都のおぼっちゃんと一夜を過ごしたそうです。ひぃぃ!」
「おかしいな、あり得ない報告だ。俺の耳が悪いのか、お前の口が悪いのか。どっちだ?」
「だ、だんちょ。おおお、落ち着いて聞いてくださいいぃぃいいい!」
「俺は、至極落ち着いているが?」
部下が先ほど聞いた話を伝えたところ、指一本すら動かさなかったにも関わらずボックスの足元の地面が3センチほど凹み、ヒビを入れながら割れたのである。
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よく晴れた8月の吉日。初代王が結婚し、王妃と仲睦まじく人生を謳歌したという、今日の佳き日に結婚する男女は多い。彼らの主であるレンチも、その日にあやかり挙式をする予定だった。
といっても、大喜びだったのはレンチの両親と兄と王家だけ。
当事者であるレンチや騎士団の一部は、内心、王都の侯爵家の令息が辺境の地に来ることに眉をしかめ、この日が無くなることすら願っていた。
レンチが辺境伯として跡継ぎを作らねばならないことは、騎士団の連中も頭では理解している。この結婚は王命であり、当のレンチが頷いたものの往生際悪くずっとグチグチ言っていたので、ぎりぎりまで成り行きを見守っていたものも少なくない。
「あーあ、私も年貢の納め時かー。8月なんてこなければいいのに」
「レンチ様、どうしても嫌ならお断りすれば? できるのでしょう?」
「ボックス、考えてもみてくれ。今更、たいした理由もなく断ったりしたら、早く結婚しろしろうるさい、父と、特に母が半狂乱になるではないか」
レンチは、ボックスの心知らず、のんきにそんなことを言っていた。そんなこんなで、彼の気持ちにまったくもって気づかなかったレンチが渋々ながら結婚に頷いた時から、周囲は、ふたりというよりも、ボックスの様子を恐る恐るうかがっていたのである。
ところが、ソケットが辺境に来て結婚する日に、幸か不幸か魔の森で魔物が大暴れをした。魔物を早急に落ち着かせるにはレンチのテイマーとしての能力があったほうがいい。それに、ボックスとしては、結婚式をドタキャンしたことで、ソケットが怒り、あわよくば王都に帰れば上々という下心もあったので、ウェディングドレスを着ようとしていたレンチに出動要請したのである。
「なりません! ボックス様、なんと無体なことを! こんな日にお嬢様が行かなくても良いではないですか!」
ボックスから魔物が大暴れしていると聞いたレンチは、すぐさま魔の森に向かおうとした。だが、不在のレンチの両親の代わりに、満面の笑顔で準備を手伝っていた乳母が、両腕を伸ばして阻止しようと声を荒げた。
「メガネ、それでは傷つくものが増え被害も大きくなるだろう。私は、辺境伯として行かねばならない」
困ったわがままな子供を見るような目つきで、レンチが乳母にそう言うと、彼女は悲鳴をあげるように更に大きな声で叫び、花嫁を連れ去ろうとする騎士団長を睨みつけた。
「騎士団長も、よりにもよって、なんだって今、この時に、報告したりなんかするのですか! 今日は、お嬢様の結婚式なのですよ! あと数時間、せめて式が終わるまで自分たちでなんとかしようと思わなかったのですか!」
「それは知っている。だが、なにごとも報告は迅速にしなければならないだろう。被害が甚大になるとわかっているのに、我々だけで対峙しようとすればどうなるか、乳母殿もわかるだろう? レンチ様が行ったほうが解決が早いのは事実だ。俺とて、水を指すのは忍びない。だが、婿殿も、辺境に来たからには、レンチ様が魔の森に緊急に行かねばならない事くらい承知の上だろう。このようなことで怒るような相手なら、とっとと家に追い返せばいい」
「ネガネ、ボックスの言う通りだ。これで物を言うような相手は、辺境には必要ではない。それどころか害になる。そうだ、いっそのこと、クレームとともに王都に逃げ帰って貰えたらいい。って、いたたたたたただだだだた! メガネ、耳がちぎれるぅ!」
レンチのあまりの言い草に、卒倒しそうになったメガネによって耳をつねられた。
ボックスは、いつものやり取りに口角をあげつつ、レンチのこの言葉に、この結婚がどう転んでもなくなると確信した。そして、あれこれ言い続けるメガネを置いて魔の森に向かったのである。
魔物をなだめるのに真夜中近くまでかかったレンチを屋敷に送り届けたあと、残務処理をして、明朝には結婚そのものがなくなったという報告が聞けるだろうと、眠りについたのだ。
が、結婚式の翌日、彼の思惑の真逆のことを部下から聞かされたボックスは、これは夢だと現実逃避したのである。
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