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第一章・スフェルセ大陸 一節・北国
二十話:運命の廻る夜の日
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——中央・首都リゼルト。
「……〝厄災〟が、北国に、ね」
「まだ個体数は少ないですけど、増えていくと思うのですよ」
情報はスカイルから送られてきたものだ。それを濁す事なく一問一句とアリュヴェージュに報告に上がっていたトルテは小さく息をついた。〝厄災〟の状態はまだ警戒するには薄いが、中央にも数体出現しては危害を加えているのは分かっている。
〝厄災〟に魔力は通じず、魔力を使った魔法も通じない。原液を極限にまで薄めた液体が原液に勝てないのと一緒であり、倒せる人物は限られてくるのだから厄介だ。
中央四将のキアー、アルフィルネ、紅は〝力〟を持たず、攻撃すら効かないのも問題視されている。
そう容易く〝力〟を入手できないのは致し方ない事ではあるのだが現時点で中央国全域をトルテが対応し、首都リゼルト一帯はアリュヴェージュ自ら出向いていた。
——それも最近は追いつかなくなってしまっている現状にアリュヴェージュも非常に頭を悩ませ当惑の眉を潜めていた。
時刻は既に夜が深く、地上は厚い闇に閉ざされる。この問題視されてる事象もまさに今晩のような闇に閉ざされていると言っても過言ではないだろう。
「〝妖精〟の代わりが〝厄災〟か」
「エンジェルとしては〝妖精〟は同じ眷属だった所がありますので、複雑な心境なのですよ」
「でも生き残りの〝妖精〟はこのスフェルセ大陸に〝転生〟しているんでしょ?」
「間違いないです。〝祝福〟の応用によって——転生前の記憶はない筈ですけど、本質は同じ、だと思います」
〝妖精〟とは、〝厄災〟と逆の本質を持ち合わせ、エンジェルと同じく〝眷属〟の一つであった。
——しかし、〝流転〟した事で〝厄災〟が生まれ〝妖精〟は草木が枯れるように息を絶える。
ほんの僅かに〝厄災〟と同じ力を持っていたエンジェルは今も生き長らえているが、やはり同志の絶滅には憐憫の眼差しを送ってしまう。
同じ〝眷属〟としては見つけ出したいのは山々だったが、〝天空の巫女〟であるトルテでもそれは叶わない。
〝妖精〟の力であればこの大陸内何処であろうとトルテは感知出来るのだが、問題の転生先がまだ〝妖精〟の力を使えてないというならば話は別になる。ただの魔力当然となれば、誰かも分からない状態での感知はまず不可能だ。
出来ない事を考えても出来ないと割り切って、トルテは憑きものが落ちたようにあっさりと諦めたように目を伏せる。
「さて、〝クリュー〟や〝厄災〟にこのスフェルセ大陸でまともに戦える人物。君は分かるかい?」
「もちろんなのです。選ばれたアリュヴェージュさん。エンジェルの中でも天空の巫女として力が濃いわたし、それから、力の濃さと量だけなら一番の〝片割れ〟、レフィシアさんとリシェルティアさん。後は最後にもう二人もしかしたら、ですけど」
「へえ。初耳だね」
アリュヴェージュは自らとトルテ、紅、レフィシアとリシェルティア……リシェントに〝厄災〟に対抗する力があるとは分かっていた。しかし、残り二人の人物とやらにその可能性があるのを聞いたのは初めてで、素直に眼を凝らす。
一人は、〝妖精〟の唯一の生き残りだった〝フェリシテ〟の転生者。
もう一人、トルテとは一応関係者。
トルテがそう告げると、一応という単語が気になってアリュヴェージュは興味本位に首を傾げる。
「君とその人とはどんな関係なんだい?」
「うー……えっと、ですね……それは……」
この問いには言いづらそうにダークブルーの瞳を逸らされたが、アリュヴェージュにも譲れないものはある。〝クリュー〟や〝厄災〟との対抗手段は多い方がいいというならば、どのような人物かは知っておく必要があった。
未だに答えを渋られるが答えを待つようにアリュヴェージュはトルテのダークブルーの瞳を捉える。
「アリュヴェージュ。入るよ」
偶然にも会話が遮られ、話は中断された。扉を引いたキアーが、山程の髪の束を片手にわざとらしくアリュヴェージュの机に音を立てて置き、その後、一番上の紙だけ器用に取り上げて文章を確認する。会話が中断された所でほっと胸を撫で下ろしているトルテを、アリュヴェージュは見逃さなかった。譲りたくはなかったが無理強いも良くないかと察して、何事もなかったかのように次いで言葉を紡ぐキアーに目を向けた。
「東国の首都、リーロンの、あのちびっこ国王陛下と謁見してくるんだけど……」
「東国……東、国……」
東国、という単語をくりかえしては思い出して、アリュヴェージュは思い出したような声を上げた。
「そうだ。トルテ。君も東国に行くといい」
「ほえっ!?」
「キアー。紅と、トルテも連れて行くように。彼、東国の薬草に興味があっただろう」
アリュヴェージュが提案すると「えー、あいつ苦手なんだけど……トルテは嫌じゃないけどさ、完全に保護者になるじゃん」と、キアーはあからさまにふてくされた口調で顔を顰めてきた。紅は他国にて何度か面倒事を起こしてしまっているのだが、キアーを信頼した上での判断であるとアリュヴェージュが付け足す。幼馴染に近い付き合いでもある二人の信頼関係に何人たりとも傷をつけたくない思いからか、キアーは渋々と首を縦に振る。
どうにかその場をやりきって、キアーとトルテが退室した頃。
「——必ず」
思い出すように華やかなラベンダーの瞳を閉じる。
真っ白な夢の中に幼きアリュヴェージュはそこに居た。
だが、一人ではない。
ペリドットの宝石のように鮮やかなオリーブグリーンのミディアムにパーマをかけていて、二十過ぎの男はその身なりからも相応の身分に間違いはないだろう。
瞳もローズクォーツのような薄紅色で、男の身なりからは想像も出来ないほどに優しい色をしていた。
もう一人。
銀の髪に毛先が青がかって、夜空のような深い群青の眼を持つ少女。身なりも衣服の素材や細部の作りこそ違うっていた気もしたが、身分相応であった。
「必ず、僕がやってみせるから、待っていてくれ」
まずは自分が壊さなければ、逢いには行けない。
約束を守れない。
〝セカイ〟も、レフィシアも守るためには、約束を守る必要があった。
「三人で〝セカイ〟を救おう」
執務室やその付近に誰も居なくなったのを魔力感知で確認してから、窓に映る空を見上げる。
雲で隠れ、よく見えぬが淡く月の光が照らすが今晩の星は見えず。
静かに嘆く様に、懐かしき名を呼んだ——。
*
絢爛な光達。
豪華な食事と貴族王族。
広々とした会場の隅っこで何やら会話をしている様子のリシェントとレフィシアに、曇らせたダークブルーの瞳を細める。
「お? どーしたの、ノエア!」
左手にコップを持ちながら、ミエルが顔色を伺うようにノエアの顔を覗き込んできた。
ノエアの考えていたのは——今後の事である。
確かに戦争に向けた準備の為に東国と南国を回らないといけないのは必須であるが、〝あれ〟を調べなければならない。
とはいえ、一人では解析に骨が折れるのは確かだ。ノエア自身一旦故郷に向かうかの選択肢を生み出していたが、正直おっくうであった。
「昼のアレを、ルーベルグの他の魔法士の力も借りて解析したいんだけど……正直、行きたくねえ」
「じゃあ行かなければ?」
「おま……結構毒舌な所あるよな。でも、それでも……オレはルーベルグに行く。あいつらの物語を、邪魔させはしない。アレは、その障害になり得るものだ」
ルーベルグに赴く、即ちそれは嫌でも過去を思い出させる行為である。
過去から逃げるとまでは言わないが、目の前の現実とこれからの未来にだけ眼を向けていたかったノエアにとってはまるで突然降りかかった火の粉。その火の粉を被ってまでもルーベルグに行く必要がある。
例え自分が嫌でも——二人を守る為に。
どんなに自分が苦しもうとも、未来に繋がるのなら。
「よし! 決めた!ノエア! あたしの目標増えた!」
ノエアの話を珍しく静かに聞いていたと思えば、急に声を大にしてきたミエル。びくっと今度は何だと肩を引きつらせた。
ころころ変わる言動にいちいち反応をしても疲れるばかりだが、逆を返せば彼女の変わらぬ人間性は見ていて安心できる。
「一つ! 戦争で勝つし生き残る! もう一つは全部終わったら西国の食堂を再開する! で、最後は——二人を必ず、死なせない」
アップされたポニーテールを振り返り際に揺れた。
装いのせいか或いは——。
小さな花の妖精のような愛らしさの中に垣間見る、何かに抗おうとする意志。彼女の生活環境がそうさせた面ももちろんあるだろうが、それ以前の問題なのかもしれない。
最近になってノエアはミエリーゼ・ウィデアルインという人物にそのような考察を抱いていた。
基本的には感情に素直、純粋無垢という言葉を体現したかのようだが、その本質は——。
「ああ。頼むぜ、相棒」
「おっけまる! めっちゃ頼りにしてる~!」
互いに手に軽く拳を作って、こつんと当てる。
本質はどうであれ、互いにレフィシアとリシェントを守るという誓いは真実だ。
*
廻る。 廻る。
——中央・東国境付近。
「は!? 何だァ、ここ! オレ、寮に戻ってた筈じゃん! え!? 何!? 違う所って何だよ! はあ!? じゃあ今日は野宿!? 野宿はっ、野宿はヤダァァァァ!!」
少年は立ち上がる。
まるで見えない何かと会話をしているように。
顔ごと首を角度を変えて、知らぬ人から見る独り言を繰り広げた。
——南国・首都サレシオ。
「……この空、は」
少女はよく見るはずの深い夜空の様子に、ずれた眼鏡を整えてから目を凝らす。
まるで夜空を見た事がないように。
身体は静かに、心は慌ただしい。両肩に背負う荷物からカシャカシャと音が鳴った。
世界、いや、〝スフェルセ大陸〟の常識を覆す——。
◼️◼️◼️◼️の少年。
◼️◼️◼️◼️◼️の少女。
運命に関係はあらず、ただ運命の近くにいただけのごく普通の人物。
〝異変〟に巻き込まれた二人は——同刻、各々の場所で足を踏み出した。
「……〝厄災〟が、北国に、ね」
「まだ個体数は少ないですけど、増えていくと思うのですよ」
情報はスカイルから送られてきたものだ。それを濁す事なく一問一句とアリュヴェージュに報告に上がっていたトルテは小さく息をついた。〝厄災〟の状態はまだ警戒するには薄いが、中央にも数体出現しては危害を加えているのは分かっている。
〝厄災〟に魔力は通じず、魔力を使った魔法も通じない。原液を極限にまで薄めた液体が原液に勝てないのと一緒であり、倒せる人物は限られてくるのだから厄介だ。
中央四将のキアー、アルフィルネ、紅は〝力〟を持たず、攻撃すら効かないのも問題視されている。
そう容易く〝力〟を入手できないのは致し方ない事ではあるのだが現時点で中央国全域をトルテが対応し、首都リゼルト一帯はアリュヴェージュ自ら出向いていた。
——それも最近は追いつかなくなってしまっている現状にアリュヴェージュも非常に頭を悩ませ当惑の眉を潜めていた。
時刻は既に夜が深く、地上は厚い闇に閉ざされる。この問題視されてる事象もまさに今晩のような闇に閉ざされていると言っても過言ではないだろう。
「〝妖精〟の代わりが〝厄災〟か」
「エンジェルとしては〝妖精〟は同じ眷属だった所がありますので、複雑な心境なのですよ」
「でも生き残りの〝妖精〟はこのスフェルセ大陸に〝転生〟しているんでしょ?」
「間違いないです。〝祝福〟の応用によって——転生前の記憶はない筈ですけど、本質は同じ、だと思います」
〝妖精〟とは、〝厄災〟と逆の本質を持ち合わせ、エンジェルと同じく〝眷属〟の一つであった。
——しかし、〝流転〟した事で〝厄災〟が生まれ〝妖精〟は草木が枯れるように息を絶える。
ほんの僅かに〝厄災〟と同じ力を持っていたエンジェルは今も生き長らえているが、やはり同志の絶滅には憐憫の眼差しを送ってしまう。
同じ〝眷属〟としては見つけ出したいのは山々だったが、〝天空の巫女〟であるトルテでもそれは叶わない。
〝妖精〟の力であればこの大陸内何処であろうとトルテは感知出来るのだが、問題の転生先がまだ〝妖精〟の力を使えてないというならば話は別になる。ただの魔力当然となれば、誰かも分からない状態での感知はまず不可能だ。
出来ない事を考えても出来ないと割り切って、トルテは憑きものが落ちたようにあっさりと諦めたように目を伏せる。
「さて、〝クリュー〟や〝厄災〟にこのスフェルセ大陸でまともに戦える人物。君は分かるかい?」
「もちろんなのです。選ばれたアリュヴェージュさん。エンジェルの中でも天空の巫女として力が濃いわたし、それから、力の濃さと量だけなら一番の〝片割れ〟、レフィシアさんとリシェルティアさん。後は最後にもう二人もしかしたら、ですけど」
「へえ。初耳だね」
アリュヴェージュは自らとトルテ、紅、レフィシアとリシェルティア……リシェントに〝厄災〟に対抗する力があるとは分かっていた。しかし、残り二人の人物とやらにその可能性があるのを聞いたのは初めてで、素直に眼を凝らす。
一人は、〝妖精〟の唯一の生き残りだった〝フェリシテ〟の転生者。
もう一人、トルテとは一応関係者。
トルテがそう告げると、一応という単語が気になってアリュヴェージュは興味本位に首を傾げる。
「君とその人とはどんな関係なんだい?」
「うー……えっと、ですね……それは……」
この問いには言いづらそうにダークブルーの瞳を逸らされたが、アリュヴェージュにも譲れないものはある。〝クリュー〟や〝厄災〟との対抗手段は多い方がいいというならば、どのような人物かは知っておく必要があった。
未だに答えを渋られるが答えを待つようにアリュヴェージュはトルテのダークブルーの瞳を捉える。
「アリュヴェージュ。入るよ」
偶然にも会話が遮られ、話は中断された。扉を引いたキアーが、山程の髪の束を片手にわざとらしくアリュヴェージュの机に音を立てて置き、その後、一番上の紙だけ器用に取り上げて文章を確認する。会話が中断された所でほっと胸を撫で下ろしているトルテを、アリュヴェージュは見逃さなかった。譲りたくはなかったが無理強いも良くないかと察して、何事もなかったかのように次いで言葉を紡ぐキアーに目を向けた。
「東国の首都、リーロンの、あのちびっこ国王陛下と謁見してくるんだけど……」
「東国……東、国……」
東国、という単語をくりかえしては思い出して、アリュヴェージュは思い出したような声を上げた。
「そうだ。トルテ。君も東国に行くといい」
「ほえっ!?」
「キアー。紅と、トルテも連れて行くように。彼、東国の薬草に興味があっただろう」
アリュヴェージュが提案すると「えー、あいつ苦手なんだけど……トルテは嫌じゃないけどさ、完全に保護者になるじゃん」と、キアーはあからさまにふてくされた口調で顔を顰めてきた。紅は他国にて何度か面倒事を起こしてしまっているのだが、キアーを信頼した上での判断であるとアリュヴェージュが付け足す。幼馴染に近い付き合いでもある二人の信頼関係に何人たりとも傷をつけたくない思いからか、キアーは渋々と首を縦に振る。
どうにかその場をやりきって、キアーとトルテが退室した頃。
「——必ず」
思い出すように華やかなラベンダーの瞳を閉じる。
真っ白な夢の中に幼きアリュヴェージュはそこに居た。
だが、一人ではない。
ペリドットの宝石のように鮮やかなオリーブグリーンのミディアムにパーマをかけていて、二十過ぎの男はその身なりからも相応の身分に間違いはないだろう。
瞳もローズクォーツのような薄紅色で、男の身なりからは想像も出来ないほどに優しい色をしていた。
もう一人。
銀の髪に毛先が青がかって、夜空のような深い群青の眼を持つ少女。身なりも衣服の素材や細部の作りこそ違うっていた気もしたが、身分相応であった。
「必ず、僕がやってみせるから、待っていてくれ」
まずは自分が壊さなければ、逢いには行けない。
約束を守れない。
〝セカイ〟も、レフィシアも守るためには、約束を守る必要があった。
「三人で〝セカイ〟を救おう」
執務室やその付近に誰も居なくなったのを魔力感知で確認してから、窓に映る空を見上げる。
雲で隠れ、よく見えぬが淡く月の光が照らすが今晩の星は見えず。
静かに嘆く様に、懐かしき名を呼んだ——。
*
絢爛な光達。
豪華な食事と貴族王族。
広々とした会場の隅っこで何やら会話をしている様子のリシェントとレフィシアに、曇らせたダークブルーの瞳を細める。
「お? どーしたの、ノエア!」
左手にコップを持ちながら、ミエルが顔色を伺うようにノエアの顔を覗き込んできた。
ノエアの考えていたのは——今後の事である。
確かに戦争に向けた準備の為に東国と南国を回らないといけないのは必須であるが、〝あれ〟を調べなければならない。
とはいえ、一人では解析に骨が折れるのは確かだ。ノエア自身一旦故郷に向かうかの選択肢を生み出していたが、正直おっくうであった。
「昼のアレを、ルーベルグの他の魔法士の力も借りて解析したいんだけど……正直、行きたくねえ」
「じゃあ行かなければ?」
「おま……結構毒舌な所あるよな。でも、それでも……オレはルーベルグに行く。あいつらの物語を、邪魔させはしない。アレは、その障害になり得るものだ」
ルーベルグに赴く、即ちそれは嫌でも過去を思い出させる行為である。
過去から逃げるとまでは言わないが、目の前の現実とこれからの未来にだけ眼を向けていたかったノエアにとってはまるで突然降りかかった火の粉。その火の粉を被ってまでもルーベルグに行く必要がある。
例え自分が嫌でも——二人を守る為に。
どんなに自分が苦しもうとも、未来に繋がるのなら。
「よし! 決めた!ノエア! あたしの目標増えた!」
ノエアの話を珍しく静かに聞いていたと思えば、急に声を大にしてきたミエル。びくっと今度は何だと肩を引きつらせた。
ころころ変わる言動にいちいち反応をしても疲れるばかりだが、逆を返せば彼女の変わらぬ人間性は見ていて安心できる。
「一つ! 戦争で勝つし生き残る! もう一つは全部終わったら西国の食堂を再開する! で、最後は——二人を必ず、死なせない」
アップされたポニーテールを振り返り際に揺れた。
装いのせいか或いは——。
小さな花の妖精のような愛らしさの中に垣間見る、何かに抗おうとする意志。彼女の生活環境がそうさせた面ももちろんあるだろうが、それ以前の問題なのかもしれない。
最近になってノエアはミエリーゼ・ウィデアルインという人物にそのような考察を抱いていた。
基本的には感情に素直、純粋無垢という言葉を体現したかのようだが、その本質は——。
「ああ。頼むぜ、相棒」
「おっけまる! めっちゃ頼りにしてる~!」
互いに手に軽く拳を作って、こつんと当てる。
本質はどうであれ、互いにレフィシアとリシェントを守るという誓いは真実だ。
*
廻る。 廻る。
——中央・東国境付近。
「は!? 何だァ、ここ! オレ、寮に戻ってた筈じゃん! え!? 何!? 違う所って何だよ! はあ!? じゃあ今日は野宿!? 野宿はっ、野宿はヤダァァァァ!!」
少年は立ち上がる。
まるで見えない何かと会話をしているように。
顔ごと首を角度を変えて、知らぬ人から見る独り言を繰り広げた。
——南国・首都サレシオ。
「……この空、は」
少女はよく見るはずの深い夜空の様子に、ずれた眼鏡を整えてから目を凝らす。
まるで夜空を見た事がないように。
身体は静かに、心は慌ただしい。両肩に背負う荷物からカシャカシャと音が鳴った。
世界、いや、〝スフェルセ大陸〟の常識を覆す——。
◼️◼️◼️◼️の少年。
◼️◼️◼️◼️◼️の少女。
運命に関係はあらず、ただ運命の近くにいただけのごく普通の人物。
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