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明かされる秘密

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「おいお前、これが何か分かるか?」

 俺は魔物を操ることができるアイテムをその場で掲げた。見たことがあったのだろう。ヒディンク公爵の顔色が明らかに変わった。

「そ、そんなものは知らん」

 パメラも、ライネック伯爵夫妻もキョトンとした目で見ている。見た目はただの色あせた金色の呼び鈴だ。

「これはお前の部下が持っていたものだ。これでレッドドラゴンやオークたちを操っていたのだろう? そして、パメラやライネック伯爵家が窮地に陥ったときに助けに現れるつもりだった。恩を売るために」

 さらにヒディンク公爵の顔色が悪くなった。おいおい、そんなんでよく公爵が務まるな。よほど周りの人間が優れていたのか、バカだったのかのどちらかだな。

「な、何の証拠があってそんなことを言っているんだ。それに俺は公爵だぞ。その無礼な態度を改めよ」
「このアイテムはな、俺の国で禁断の道具として厳しく管理されているはずのものなんだよ」

 俺の言葉に周囲がざわついた。俺の言葉が分からずにみんな困惑しているようだった。しかし、その意味が分かるヒディンク公爵は小刻みに震え、汗をかきはじめた。

「それがなぜここにあるのか。ちなみに本国ではすでに盗み出した犯人は特定され、処刑された。現在、そいつのつながりを調査中だ。近いうちに結果が出るだろう」

 ついにガクガクと震えだしたヒディンク公爵。そんな公爵の様子をライネック伯爵夫妻が目を大きく見開いて見ていた。
 パメラもそのことを理解したのか、汚物を見るような目でヒディンク公爵を見ていた。おお怖い。あの目でパメラに睨まれたらドキドキしそう。

「楽しみだなぁ。そう思わないかね? ヒディンク君」
「左様でございますね、エルネスト殿下」
「うわっと! カーク、お前か! もう来たのか!?」

 ヒディンク公爵が入って来た扉のさらに向こうから、金色の刺繍が入った、濃紺のローブをまとった集団がやってきた。その左胸には我が国の紋章が施されている。
 それを見たライネック伯爵とヒディンク公爵が「まさか、イデア王国の使者か!?」とうめき声をあげた。
 その中でも一際豪華な意匠をしたローブを着た人物が前に進み出た。

「もちろんでございます、殿下。お呼びとあらば即参上、にございます」
「いや、呼んでないし」

 片方の眉を上にあげ、銀縁の眼鏡を右手の中指でクイッと直した。
 まさか宰相のカークが指揮を執っているとは思わなかった。通りで解決が早いわけだ。ということは、首謀者は第二王子かな? 俺とは血がつながっていない、第二王妃の子供だったが、最後まで役立たずだったな。俺の穴埋めくらいにはなるかと思ったのに。

「エルネスト……殿下?」

 パメラがサファイアのような美しい目をこれ以上ないくらいに見開いている。今にも目玉が飛び出しそうだ。本当に飛び出したらちょっと困るぞ。

「そうでございます、パメラ・ジェローム・ライネック伯爵令嬢。この大陸の隣、魔法大国イデアの第三王子、エルネスト・ベルセリウス・イデア殿下にございます」

 どうだ! と言わんばかりに宰相が胸を張って言った。それ以上はやめてくれ。本当にパメラの目玉が飛び出しそうだ。
 俺がどうやってパメラに説明しようかと迷っていると、宰相のカークはすかさずパメラの元にスルスルと近づきその手を握った。

「ありがとうございます、パメラ様。まさかエルネスト殿下が本当に結婚相手を見つけて来るとは思ってもみませんでした。しかも紛失すれば国際問題に発展する危険性のあるアイテムを無事に回収するという手柄つきとは! この宰相、感激致しました」

 シクシクと泣きだす宰相。カークは俺を孫のように可愛がっていたからなー。孫が立派に成長してうれしいんだろう、ってそうじゃない。

「ちょっと待て、カーク! 話をゴチャゴチャにするな。今はそのアイテムについての話だろうが」
「おっと、そうでした。つい。すでに調べはついています。元はと言えば我が国の不始末が原因。この国の国王にはそれなりの配慮をお願いするつもりです。ですがエルネスト殿下の婚約者を奪おうとした罪は問わねばなりません」

 あ、やばい。目が据わってる。これは本気だ。この国よりも俺の国の方が何倍も力を持っているから、マジでたたきつぶしかねない。下手すれば国ごと潰すつもりだ。
 外交とは、宰相とは、と小一時間くらい問い詰めたい。

 ヒディンク公爵の顔色は青を通り越して土気色になっている。ざまぁないぜとは思うが、その妻や子供たちには罪はないはずだ。そのあたりはしっかりと考慮してもらいたい。
 それをするためには……俺が国に帰ってこの件に関しての指揮を執るしかないか。いや、もしかしたら宰相の狙いは、初めからそれなのかも知れない。謀ったな、カーク!

 カークが後ろで控えていた集団に目配せすると、すぐにヒディンク公爵はしょっ引かれていった。うん、とりあえず彼は終わったな。あとはこちらの後始末をすれば万事解決なのだが――。

「エルネスト殿下、これまでのご無礼の数々、どうかお許し下さい」

 パメラを先頭にライネック伯爵家の人たちが頭を下げた。まあ、そうなるよね。

「全員顔を上げるように。身分を偽っていたのは私だ。非は私にある。従って、これまでのことは不問とする」

 ようやくパメラが顔を上げてくれた。だが、表情は蜂蜜が固まったかのように固い。しょうがないな。やるなら今しかない。パメラの近くに移動すると、片膝をついた。

「パメラ、これまで黙っていて済まない。いつかは言わなければと思っていた。しかし、私の身分を知るとパメラが拒絶するのではないかと思い、怖かった」
「エル様……」

 俺はそっとパメラの震える両手を取った。パメラの表情がだんだんと柔らかくなっていることが分かる。

「パメラ、きみのことが好きだ。どうか、私の婚約者になっていただけないだろうか?」
「!! もちろんですわ。私もエル様のことが大好きですわ!」

 飛びついてきたパメラをしっかりと抱きとめた。周囲からは大きな歓声が上がった。
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