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悪役令嬢イザベラ
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ソフィアの声に、その場が騒然となる。それもそのはず。王族の発言を遮ったのだから。いくら「王立学園は皆平等が理念だ」と言っても限度があるからね。限度が。
私と同じ転生者と思われるソフィアには、そこのところが良く分かっていないのかも知れない。
もしかして、ゲームのことも良く分かっていないんじゃ……。ありえるわ。これまでのソフィアの行動を見ていると、十分にその可能性がありそうな気がするわ。ここはバシッと決めておくべきかも知れないわね。
「あらあら、どうしたのかしらソフィア様。フィリップ王子はつい今し方、このわたくしをダンスに誘って下さったのですよ。邪魔をしないでいただけませんか?」
扇で口元を隠しながら、いやらしい口調と目線でソフィアを攻撃する。あらやだ、さすがは悪役令嬢イザベラ。様になってるんじゃない? これはこれで来年の準備に向けてちょうど良いわね。
「くっ、何を言っているのかしら? 悪役令嬢の癖に、ずいぶんと余裕そうですわね?」
「オーホッホッホ! 余裕そう、ではなくて、余裕ですのよ!」
いまソフィア、私のことを悪役令嬢って言った? ということは、私が悪役令嬢イザベラであることを知っている? それならゲームのことも知っているはず。ならばどうしてこんな態度をとるのか。
悪役令嬢の私が言うのも何だが、ソフィアの周りの状況は、ソフィアにとってあまり良くないぞ。大丈夫かしら、この子。
「フッ、いつまでその状況が続くのかしらね、イザベラ? 私はね、フィル様と最初にダンスをしたいのよ」
知らんがな。ソフィアの事情なんて知らんがな。その決定権があるのは私でもあなたでもなく、フィル王子だからね。それにしてもソフィアのやつ、許可もなくフィル王子のことを愛称呼びしたな! 私でも恥ずかしくて「フィル様」って読んだことがないのに。
「君、何を言っているんだい? フィリップ王子をそのように呼ぶとは、何様のつもりかな?」
ユリウスが剣に手をかけながら私たちの前に進み出た。やばい。何がやばいって、ユリウスの殺気がやばい。こんなユリウス初めて見た。最近は女の子っぽくなっていたけど、騎士としての鍛錬は怠ってなかったのね。
ソフィアの言葉に怒り心頭に発したのはユリウスだけではなかったようだ。ローレンツもレオナールもお兄様も前に出てきた。
ダンスホールはシンと静まり返った。私たちとソフィアの周囲にポッカリと空白地帯ができる。
何この一触即発の状態。こんなのシナリオにはなかったぞ。
さてどうしたものか。私としてはソフィアを軽くたしなめて終わりにするつもりだったんだけど、ソフィアは引く気がなさそうなのよね。
「ソフィア、その服はどうしたんだ? そんなもの持っていなかっただろう? そんなものを買うお金もなかったはずだ」
「あんたには関係のない話でしょう」
レオナールの質問に突き放すように答えを返すソフィア。これは二人の中は最悪だろうな。レオナールフラグは学園に入る前から爆発四散していたようである。
「だれかに譲ってもらったのかい? それとも、悪党を操って貢いでもらったのかい?」
レオナールの「操る」発言に、ダンスホールがザワザワと音を立て始めた。「人を意のままに操ることができる魔法があるようなので、十分に注意するように」というお達しが、後期授業が始まってからすぐに通達されていたのだ。そのため今では、多くの人が例の盗賊事件のことについて知っている。
もしかして彼女が主犯なのか? そんなざわめきが聞こえてきそうであった。
チッ、っとソフィアが舌打ちをする音が聞こえた。ヒロインが舌打ちって……。
「もしそうだとしたらどうするの?」
「そうだとしたら、じゃなくて、そうなんだろう? 確か、悪党しか操れないんだよね?」
やはりレオナールは、ソフィアが人を操ることができる魔法を使えることを知っていたようである。今までレオナールがそのことを言わなかったのは、最後までソフィアを信じようと思っていたからなのだろう。何だかレオナールがかわいそうになってきたわ。
「その話は本当なのかい?」
ハッキリと、冷たい声でフィル王子がソフィアに尋ねた。そこには、静かだが、確かな怒りの感情がこもっていた。その怒りの原因が、「私の命が狙われたこと」だからだと思うのは、私の自意識が過剰すぎるだろうか。
ソフィアは目を見開き、ハッキリと驚きの表情をしていた。まるで自分がそんな冷たい声をかけられることなど、思ってもみなかったようである。
ソフィアは左右に頭を振った。そして片手で頭を押さえた。
「どうしてこうなるのかしら。人選を誤ったかしら? あーあ、せっかくうまく行っていたと思ったのに、またやり直しかー。まあ、いいわ。何度でもやり直せば良いだけだものね」
何を言っているのかしら、この子。もしかして、この世界がゲームのようにリセットできるとでも思っているのかしら? ゲームと現実を混同してない?
これは鉄拳制裁したくらいじゃ、ダメかも分からないわね。
私と同じ転生者と思われるソフィアには、そこのところが良く分かっていないのかも知れない。
もしかして、ゲームのことも良く分かっていないんじゃ……。ありえるわ。これまでのソフィアの行動を見ていると、十分にその可能性がありそうな気がするわ。ここはバシッと決めておくべきかも知れないわね。
「あらあら、どうしたのかしらソフィア様。フィリップ王子はつい今し方、このわたくしをダンスに誘って下さったのですよ。邪魔をしないでいただけませんか?」
扇で口元を隠しながら、いやらしい口調と目線でソフィアを攻撃する。あらやだ、さすがは悪役令嬢イザベラ。様になってるんじゃない? これはこれで来年の準備に向けてちょうど良いわね。
「くっ、何を言っているのかしら? 悪役令嬢の癖に、ずいぶんと余裕そうですわね?」
「オーホッホッホ! 余裕そう、ではなくて、余裕ですのよ!」
いまソフィア、私のことを悪役令嬢って言った? ということは、私が悪役令嬢イザベラであることを知っている? それならゲームのことも知っているはず。ならばどうしてこんな態度をとるのか。
悪役令嬢の私が言うのも何だが、ソフィアの周りの状況は、ソフィアにとってあまり良くないぞ。大丈夫かしら、この子。
「フッ、いつまでその状況が続くのかしらね、イザベラ? 私はね、フィル様と最初にダンスをしたいのよ」
知らんがな。ソフィアの事情なんて知らんがな。その決定権があるのは私でもあなたでもなく、フィル王子だからね。それにしてもソフィアのやつ、許可もなくフィル王子のことを愛称呼びしたな! 私でも恥ずかしくて「フィル様」って読んだことがないのに。
「君、何を言っているんだい? フィリップ王子をそのように呼ぶとは、何様のつもりかな?」
ユリウスが剣に手をかけながら私たちの前に進み出た。やばい。何がやばいって、ユリウスの殺気がやばい。こんなユリウス初めて見た。最近は女の子っぽくなっていたけど、騎士としての鍛錬は怠ってなかったのね。
ソフィアの言葉に怒り心頭に発したのはユリウスだけではなかったようだ。ローレンツもレオナールもお兄様も前に出てきた。
ダンスホールはシンと静まり返った。私たちとソフィアの周囲にポッカリと空白地帯ができる。
何この一触即発の状態。こんなのシナリオにはなかったぞ。
さてどうしたものか。私としてはソフィアを軽くたしなめて終わりにするつもりだったんだけど、ソフィアは引く気がなさそうなのよね。
「ソフィア、その服はどうしたんだ? そんなもの持っていなかっただろう? そんなものを買うお金もなかったはずだ」
「あんたには関係のない話でしょう」
レオナールの質問に突き放すように答えを返すソフィア。これは二人の中は最悪だろうな。レオナールフラグは学園に入る前から爆発四散していたようである。
「だれかに譲ってもらったのかい? それとも、悪党を操って貢いでもらったのかい?」
レオナールの「操る」発言に、ダンスホールがザワザワと音を立て始めた。「人を意のままに操ることができる魔法があるようなので、十分に注意するように」というお達しが、後期授業が始まってからすぐに通達されていたのだ。そのため今では、多くの人が例の盗賊事件のことについて知っている。
もしかして彼女が主犯なのか? そんなざわめきが聞こえてきそうであった。
チッ、っとソフィアが舌打ちをする音が聞こえた。ヒロインが舌打ちって……。
「もしそうだとしたらどうするの?」
「そうだとしたら、じゃなくて、そうなんだろう? 確か、悪党しか操れないんだよね?」
やはりレオナールは、ソフィアが人を操ることができる魔法を使えることを知っていたようである。今までレオナールがそのことを言わなかったのは、最後までソフィアを信じようと思っていたからなのだろう。何だかレオナールがかわいそうになってきたわ。
「その話は本当なのかい?」
ハッキリと、冷たい声でフィル王子がソフィアに尋ねた。そこには、静かだが、確かな怒りの感情がこもっていた。その怒りの原因が、「私の命が狙われたこと」だからだと思うのは、私の自意識が過剰すぎるだろうか。
ソフィアは目を見開き、ハッキリと驚きの表情をしていた。まるで自分がそんな冷たい声をかけられることなど、思ってもみなかったようである。
ソフィアは左右に頭を振った。そして片手で頭を押さえた。
「どうしてこうなるのかしら。人選を誤ったかしら? あーあ、せっかくうまく行っていたと思ったのに、またやり直しかー。まあ、いいわ。何度でもやり直せば良いだけだものね」
何を言っているのかしら、この子。もしかして、この世界がゲームのようにリセットできるとでも思っているのかしら? ゲームと現実を混同してない?
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