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スーパーヒーロータイム
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辺りには黒い煙が立ちこめていた。どうやら弾薬庫にあった火薬が爆発したようである。
この世界の科学力は前世に比べるとかなり低水準である。そのため、火薬を利用するようになってからまだ日が浅い。
文官であるローレンツの父親は、日々行われている火薬の研究をサポートしていたのだろう。そして、まだ謎が多い火薬の研究でこのような大惨事を引き起こしたのだ。
目の前に広がるガレキの山からローレンツの姿を探した。ユリウスは必死にローレンツの名前を呼んでいる。
火薬がどれほど保管されていたのかは不明だが、スピンオフでの記述によると爆発は一回だけだった。つまり、一度の爆発で全ての火薬が吹き飛んだのだろう。再度爆発が起こる可能性はゼロのはずだ。
この惨状を見ればそれも納得できた。そこにあったと思われる建物は完全に無くなっていた。
「ユリウス、あそこ!」
目ざとくローレンツを見つけた私はユリウスを引っ張った。しかしユリウスは動かない。どうやらその場所に行くのをためらっているようである。おそらくは私に気を使ってくれているのだろう。
ユリウスがローレンツのことを気にしていることは分かっている。そしてユリウスが私のことも気にしていることは分かっている。
それならば、私があそこまで行けばいいのだ。
もちろんそれが何を意味するのかは分かっている。おそらく、私たちにとって悲しい出来事が待っていることだろう。しかし、私たちよりもローレンツの方がもっと悲しい思いをしているはずだ。
それを支えてあげられるのはユリウスしかいないではないか。
「行くわよ、ユリウス。私について来なさい!」
「い、イザベラ様!」
すぐにローレンツがいる場所にたどり着いた。ローレンツが見つめる先には、ガレキに挟まれた男性の姿があった。
「と、父さん……」
「ろ、ローレンツ、早く逃げるんだ。どのみち私は助からんだろう。それよりもここは危険だ。またいつ、次の爆発が起こるか……!」
「と、父さん!」
「邪魔よローレンツ。そこをおどきなさい」
私の声にギョッとした様子で振り返るローレンツ。そんなことはお構いなしに、ローレンツの父親を挟み込んでいるガレキを持ち上げた。
よっこらせ。
ガラン……と乾いた音を立てて大きなガレキが持ち上がる。それを人がいない場所へと投げ捨てた。
ポカンとするクラネルト親子。ユリウスもポカンと口を開けている。いや、それだけではない。何だか周囲から視線を感じる。どうしよう。
「もう大丈夫よ、私が来たわ!」
周囲の人たちを鼓舞するべく、安心させるように笑った。
それからの私は現場の指示に従って、ガレキをちぎっては捨て、ちぎっては捨て、を繰り返した。
なぜ私がそんなことができたのか。そう、身体強化魔法を使っているのだ。
私の魔力は無限に広がる大宇宙そのものである。その魔力を身体強化魔法に使えば、どれだけのパワーとスピードを生み出せるかは言うまでもないだろう。
ガレキの山くらい「小指でチョイ」である。さすがにそれはしなかったが。
そんな私の活躍もあり、これだけの建物を損壊しながらも、死者は数名程度で済んだ。もちろん、ローレンツの父親は健在である。
あのあとすぐに騎士団専用の医務室に運ばれて治療を受けることができたのだ。そのかいあって一命を取り留めたそうである。
あの場ですぐに回復魔法を使って回復させようかと思っていたのだが、それよりも他の人たちの救助を優先した。建物の下敷きになっていた人はたくさんいて、今なら助かる可能性があったからだ。
そのかいあって多くの人を助けられたので、クラネルト親子も許してくれるだろう。
ローレンツがお礼を言いたがっていたという話を、私はユリウスから聞いた。
あのあと私がどうなったか。語るまでもないだろうが、お母様から大目玉を食らった。それはもう、怒れる大魔神のごとしだった。
そして大魔神と化したのはお母様だけではなかった。ルークにもフィル王子にも、なぜか大魔神のごとく怒られたのだ。もちろん怒られたのは私だけではない。
ユリウスも「なぜそんなところにイザベラを連れて行ったのか」と怒られた。
しかし「私が嫌がるユリウスを無理やり引きずって行った」と言うと、「やっぱりそうか」とみんな納得した。
そして無事にユリウスは無罪放免となった。解せぬ。
私にかばわれたユリウスは、「イザベラ様が私をかばうためにウソを言っている」と言ってくれたようだったが、認められなかったそうである。
そのときユリウスはマジ泣きしたらしい。彼女には悪いことをしてしまった。
でもちょっと見てみたかったな、と思ったのはここだけの秘密である。ユリウスが泣く姿は美しかっただろうな。惜しいことをしたものだ。
かくして私は現在自宅で謹慎中である。今回の件で、さすがにフィル王子も私をお城に呼び出すことをためらっているようである。
それもそうか。いつ自分に「大魔神お母様の怒り」が飛び火するか分からないものね。さすが豆腐メンタル。
でもこれはこれで王子と疎遠になるわけで、良かったのかも知れない。ちょっぴりさみしいが。
そういえば、ローレンツ覚醒フラグを折ってしまったのだが大丈夫だろうか? まあ、脳筋のローレンツのことだ。父親が死ななくても、あのとき何もできなかった自分を悔しいと思っていることだろう。
その気持ちがあれば、きっと脳筋魔法使いとして覚醒してくれるはずだ。
そんなことを思っていると、どうやら私に客人が来たようである。使用人から呼び出したかかった。
「一体誰かしら? もしかしてユリウスかな? でもユリウスにはついこのあいだ会ったばかりよね」
私が姿を整えてホールに向かうと、そこにはローレンツが待っていた。何やら真剣な表情である。お礼を言いに来たにしてはどこか決意に満ちた顔をしている。
「イザベラ様、先日は父を助けていただきありがとうございます」
「当然のことをしたまでよ。お礼なんていらないわ」
ツンツン。これこそが悪役令嬢の真骨頂である。肩にかかっているブロンドのサラサラヘアーをさらりと払った。
そんな私の様子にひるむこともなく、ローレンツはこちらを見つめていた。
「今日はお礼とともに、お願いがあって来ました」
「お願い?」
お願いって何よ。公爵のご令嬢である私にお願いするだなんて。もしかしてケンカを売ってるのかしら?
「イザベラ様、どうか自分を弟子にして下さい!」
ローレンツはその場にハハーってなった。
うん、確かにローレンツの覚醒フラグは欲しい。でも多分、こうじゃない。どうしてこうなった。
この世界の科学力は前世に比べるとかなり低水準である。そのため、火薬を利用するようになってからまだ日が浅い。
文官であるローレンツの父親は、日々行われている火薬の研究をサポートしていたのだろう。そして、まだ謎が多い火薬の研究でこのような大惨事を引き起こしたのだ。
目の前に広がるガレキの山からローレンツの姿を探した。ユリウスは必死にローレンツの名前を呼んでいる。
火薬がどれほど保管されていたのかは不明だが、スピンオフでの記述によると爆発は一回だけだった。つまり、一度の爆発で全ての火薬が吹き飛んだのだろう。再度爆発が起こる可能性はゼロのはずだ。
この惨状を見ればそれも納得できた。そこにあったと思われる建物は完全に無くなっていた。
「ユリウス、あそこ!」
目ざとくローレンツを見つけた私はユリウスを引っ張った。しかしユリウスは動かない。どうやらその場所に行くのをためらっているようである。おそらくは私に気を使ってくれているのだろう。
ユリウスがローレンツのことを気にしていることは分かっている。そしてユリウスが私のことも気にしていることは分かっている。
それならば、私があそこまで行けばいいのだ。
もちろんそれが何を意味するのかは分かっている。おそらく、私たちにとって悲しい出来事が待っていることだろう。しかし、私たちよりもローレンツの方がもっと悲しい思いをしているはずだ。
それを支えてあげられるのはユリウスしかいないではないか。
「行くわよ、ユリウス。私について来なさい!」
「い、イザベラ様!」
すぐにローレンツがいる場所にたどり着いた。ローレンツが見つめる先には、ガレキに挟まれた男性の姿があった。
「と、父さん……」
「ろ、ローレンツ、早く逃げるんだ。どのみち私は助からんだろう。それよりもここは危険だ。またいつ、次の爆発が起こるか……!」
「と、父さん!」
「邪魔よローレンツ。そこをおどきなさい」
私の声にギョッとした様子で振り返るローレンツ。そんなことはお構いなしに、ローレンツの父親を挟み込んでいるガレキを持ち上げた。
よっこらせ。
ガラン……と乾いた音を立てて大きなガレキが持ち上がる。それを人がいない場所へと投げ捨てた。
ポカンとするクラネルト親子。ユリウスもポカンと口を開けている。いや、それだけではない。何だか周囲から視線を感じる。どうしよう。
「もう大丈夫よ、私が来たわ!」
周囲の人たちを鼓舞するべく、安心させるように笑った。
それからの私は現場の指示に従って、ガレキをちぎっては捨て、ちぎっては捨て、を繰り返した。
なぜ私がそんなことができたのか。そう、身体強化魔法を使っているのだ。
私の魔力は無限に広がる大宇宙そのものである。その魔力を身体強化魔法に使えば、どれだけのパワーとスピードを生み出せるかは言うまでもないだろう。
ガレキの山くらい「小指でチョイ」である。さすがにそれはしなかったが。
そんな私の活躍もあり、これだけの建物を損壊しながらも、死者は数名程度で済んだ。もちろん、ローレンツの父親は健在である。
あのあとすぐに騎士団専用の医務室に運ばれて治療を受けることができたのだ。そのかいあって一命を取り留めたそうである。
あの場ですぐに回復魔法を使って回復させようかと思っていたのだが、それよりも他の人たちの救助を優先した。建物の下敷きになっていた人はたくさんいて、今なら助かる可能性があったからだ。
そのかいあって多くの人を助けられたので、クラネルト親子も許してくれるだろう。
ローレンツがお礼を言いたがっていたという話を、私はユリウスから聞いた。
あのあと私がどうなったか。語るまでもないだろうが、お母様から大目玉を食らった。それはもう、怒れる大魔神のごとしだった。
そして大魔神と化したのはお母様だけではなかった。ルークにもフィル王子にも、なぜか大魔神のごとく怒られたのだ。もちろん怒られたのは私だけではない。
ユリウスも「なぜそんなところにイザベラを連れて行ったのか」と怒られた。
しかし「私が嫌がるユリウスを無理やり引きずって行った」と言うと、「やっぱりそうか」とみんな納得した。
そして無事にユリウスは無罪放免となった。解せぬ。
私にかばわれたユリウスは、「イザベラ様が私をかばうためにウソを言っている」と言ってくれたようだったが、認められなかったそうである。
そのときユリウスはマジ泣きしたらしい。彼女には悪いことをしてしまった。
でもちょっと見てみたかったな、と思ったのはここだけの秘密である。ユリウスが泣く姿は美しかっただろうな。惜しいことをしたものだ。
かくして私は現在自宅で謹慎中である。今回の件で、さすがにフィル王子も私をお城に呼び出すことをためらっているようである。
それもそうか。いつ自分に「大魔神お母様の怒り」が飛び火するか分からないものね。さすが豆腐メンタル。
でもこれはこれで王子と疎遠になるわけで、良かったのかも知れない。ちょっぴりさみしいが。
そういえば、ローレンツ覚醒フラグを折ってしまったのだが大丈夫だろうか? まあ、脳筋のローレンツのことだ。父親が死ななくても、あのとき何もできなかった自分を悔しいと思っていることだろう。
その気持ちがあれば、きっと脳筋魔法使いとして覚醒してくれるはずだ。
そんなことを思っていると、どうやら私に客人が来たようである。使用人から呼び出したかかった。
「一体誰かしら? もしかしてユリウスかな? でもユリウスにはついこのあいだ会ったばかりよね」
私が姿を整えてホールに向かうと、そこにはローレンツが待っていた。何やら真剣な表情である。お礼を言いに来たにしてはどこか決意に満ちた顔をしている。
「イザベラ様、先日は父を助けていただきありがとうございます」
「当然のことをしたまでよ。お礼なんていらないわ」
ツンツン。これこそが悪役令嬢の真骨頂である。肩にかかっているブロンドのサラサラヘアーをさらりと払った。
そんな私の様子にひるむこともなく、ローレンツはこちらを見つめていた。
「今日はお礼とともに、お願いがあって来ました」
「お願い?」
お願いって何よ。公爵のご令嬢である私にお願いするだなんて。もしかしてケンカを売ってるのかしら?
「イザベラ様、どうか自分を弟子にして下さい!」
ローレンツはその場にハハーってなった。
うん、確かにローレンツの覚醒フラグは欲しい。でも多分、こうじゃない。どうしてこうなった。
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