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二人だけの秘密
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ゴホンゴホンと、明らかなせきをするルーク。まるで自分の存在をアピールしているかのようである。
私が自分の目を自由に魔眼にできるとには、誰にも話してはいけないことになっていた。そのため、「魔眼で見ちゃった」とは口が裂けても言えないのである。ああするしかなかったんや。
元から知ってました、なんて、論外だしね。
こちらは何だか微妙な空気をしていたが、フィル王子の魔法の訓練が終わったようである。王子がこちらに向かって歩いてきた。これでもう解散かな? と思っていると、どうやらこのまま剣術の訓練も行うそうである。
「君たちも一緒にやらないかい?」
いいですとも! 剣術の訓練、私もやりたい!
私がサッと手を上げると三人がそろってけげんな顔をしてきた。いや、王子とルークは分かる。「女性が剣術をするだなんて、はしたない」と思っているのだろう。
だがしかし、ユリウスにそんな顔をされるのは心外だ。あなたも女の子でしょうが。自分のことをよっこらせ、と棚に置くんじゃない。
私の半眼に気がついたのだろう。ユリウスが視線をそらした。どうやら心当たりがあるらしい。
「そ、それではイザベラ様も一緒にやりましょうか。僕が責任を持って指導しますよ」
この三人の中で一番強いのはユリウスだろう。さすがのルークも剣術は得意ではない。たしなみ程度しかできないのだ。だが、それはルークだけではない。基本的に貴族は魔法がメインウエポンなのだ。剣術はあくまでもおまけである。
「分かったよ。絶対にケガをさせてはならないよ、ユリウス」
「ハッ!」
フィル王子の声にビシッと応えるユリウス。豆腐でも王子の命令である。さすがのルークでも覆すことはできなかった。問題を起こさないように、と再三にわたってルークに言われたあと、ユリウスと二人っきりになった。
もしかしなくても、これはチャンスなのでは?
何って、ユリウスに嫌われるチャンスよ。
「こうやって握って……そうそう、お上手ですよ」
「ありがとう。一度やって見たかったのよね~。家じゃ、全力疾走することさえも許されないからね」
「フフッ」
ユリウスが可愛らしく笑った。そしてそのまま会話がしやすいように、こちらへと近づいてきた。
「お嬢様にも、お嬢様なりの苦労があるのですね」
「そうよ。運動不足でいつか太るんじゃないかって、いつも不安でいっぱいよ」
「フフフ。……イザベラ様、僕が女の子だってことに気がついているんでしょう?」
ギックー! 他の人には聞こえないようなささやき声が耳元で聞こえる。ユリウスの美しい顔がすぐそばにあって、ドキドキしちゃう! って、そうじゃない。何でそれを私にカミングアウトするの!?
それをするのは私じゃなくてヒロインに対してでしょう!? 「緊急スクープ! ユリウスは実は女の子だった!?」と脅しに使って、あんなことや、こんなことをするつもりだったのに、どうしてこうなった!?
「ま、まあね~」
視線は絶対に合わせない。合わせてはいけない。これはまずいパターンだわ。手玉に取るつもりが、いつの間にか手玉に取られてしまうパターンだわ。
「やっぱり。イザベラ様とは初めて会ったと思うんだけど、以前どこかで会ったことがあるのかな?」
「いえ、ないわ。今日が初めてよ」
「ふ~ん、初めてでバレちゃったのか。家族以外には誰にもバレたことはないんだけどね」
ようやく顔を離したユリウスは真剣な表情でこちらを見つめていた。初めて会ったのはウソではないが、前世でユリウスのことは知っているので、どうにも気まずい。ウソをつくことがこんなに気まずい気持ちになるとは想定外だ。
「ユリウス様、このことは他の人には内緒なのよね?」
「うん? ……まあ、そうだね」
ユリウスの目が伏し目がちになった。どうやら本人にとっては不本意なことであるらしい。本当は女の子として堂々としていたいのだろう。だがしかし、周囲の大人は許してくれないようである。
ユリウスが大人になれば、いつかはバレることなのにね。どうしてそんなことするのかしら。一応、男女平等を掲げた国で育った身としては理解できなかった。そんなに総隊長の子供が「息子」であることが大事なのか。
しかしユリウスには申し訳ないが、これはユリウスの弱点を握れるチャンスである。ユリウスにも事情があるのだろうが、私にも悪役令嬢としての事情があるのだ。
やるなら今しかねぇ。
「ユリウス、このことは秘密にしておいてあげましょうか?」
悪役令嬢らしく片方だけ口角を上げてニタリと笑った。
決まった。こんなこともあろうかと、自室で毎日練習をしていたかいがあったわ。ユリウスの瞳がまん丸に見開かれた。
ウフフ、驚いてる、驚いてる。
「うん。今は二人だけの秘密にしておいて欲しい」
ユリウスは私の両手を手に取って訴えかけた。ほほを赤くして、目を潤ませて。
これは端から見られるとかなりヤバいヤツである。年頃の男女が手を取り合ってるなんて、非常によろしくないな。
それを敏感に察知したルークとフィル王子が慌ててやって来た。しかも何だか気まずい雰囲気を醸し出している。
「何をしているんだい、ユリウス?」
「ユリウス、僕は君にイザベラに剣術を教えるように言ったはず何だけどなあ」
二人とも目が怖いです。そんな目をしなくても、そんな関係じゃないので大丈夫ですよー。でもそんなこと言えないんですよねー。あー、困ります、困りますお二人ともー。
「何を言っているのですか。こうやって手取り足取り、教えているだけですよ。そうですよね、イザベラ様?」
私だけに見えるようにウインクをしてくるユリウス。
私は「左様でございます」と答えることしかできなかった。
私が自分の目を自由に魔眼にできるとには、誰にも話してはいけないことになっていた。そのため、「魔眼で見ちゃった」とは口が裂けても言えないのである。ああするしかなかったんや。
元から知ってました、なんて、論外だしね。
こちらは何だか微妙な空気をしていたが、フィル王子の魔法の訓練が終わったようである。王子がこちらに向かって歩いてきた。これでもう解散かな? と思っていると、どうやらこのまま剣術の訓練も行うそうである。
「君たちも一緒にやらないかい?」
いいですとも! 剣術の訓練、私もやりたい!
私がサッと手を上げると三人がそろってけげんな顔をしてきた。いや、王子とルークは分かる。「女性が剣術をするだなんて、はしたない」と思っているのだろう。
だがしかし、ユリウスにそんな顔をされるのは心外だ。あなたも女の子でしょうが。自分のことをよっこらせ、と棚に置くんじゃない。
私の半眼に気がついたのだろう。ユリウスが視線をそらした。どうやら心当たりがあるらしい。
「そ、それではイザベラ様も一緒にやりましょうか。僕が責任を持って指導しますよ」
この三人の中で一番強いのはユリウスだろう。さすがのルークも剣術は得意ではない。たしなみ程度しかできないのだ。だが、それはルークだけではない。基本的に貴族は魔法がメインウエポンなのだ。剣術はあくまでもおまけである。
「分かったよ。絶対にケガをさせてはならないよ、ユリウス」
「ハッ!」
フィル王子の声にビシッと応えるユリウス。豆腐でも王子の命令である。さすがのルークでも覆すことはできなかった。問題を起こさないように、と再三にわたってルークに言われたあと、ユリウスと二人っきりになった。
もしかしなくても、これはチャンスなのでは?
何って、ユリウスに嫌われるチャンスよ。
「こうやって握って……そうそう、お上手ですよ」
「ありがとう。一度やって見たかったのよね~。家じゃ、全力疾走することさえも許されないからね」
「フフッ」
ユリウスが可愛らしく笑った。そしてそのまま会話がしやすいように、こちらへと近づいてきた。
「お嬢様にも、お嬢様なりの苦労があるのですね」
「そうよ。運動不足でいつか太るんじゃないかって、いつも不安でいっぱいよ」
「フフフ。……イザベラ様、僕が女の子だってことに気がついているんでしょう?」
ギックー! 他の人には聞こえないようなささやき声が耳元で聞こえる。ユリウスの美しい顔がすぐそばにあって、ドキドキしちゃう! って、そうじゃない。何でそれを私にカミングアウトするの!?
それをするのは私じゃなくてヒロインに対してでしょう!? 「緊急スクープ! ユリウスは実は女の子だった!?」と脅しに使って、あんなことや、こんなことをするつもりだったのに、どうしてこうなった!?
「ま、まあね~」
視線は絶対に合わせない。合わせてはいけない。これはまずいパターンだわ。手玉に取るつもりが、いつの間にか手玉に取られてしまうパターンだわ。
「やっぱり。イザベラ様とは初めて会ったと思うんだけど、以前どこかで会ったことがあるのかな?」
「いえ、ないわ。今日が初めてよ」
「ふ~ん、初めてでバレちゃったのか。家族以外には誰にもバレたことはないんだけどね」
ようやく顔を離したユリウスは真剣な表情でこちらを見つめていた。初めて会ったのはウソではないが、前世でユリウスのことは知っているので、どうにも気まずい。ウソをつくことがこんなに気まずい気持ちになるとは想定外だ。
「ユリウス様、このことは他の人には内緒なのよね?」
「うん? ……まあ、そうだね」
ユリウスの目が伏し目がちになった。どうやら本人にとっては不本意なことであるらしい。本当は女の子として堂々としていたいのだろう。だがしかし、周囲の大人は許してくれないようである。
ユリウスが大人になれば、いつかはバレることなのにね。どうしてそんなことするのかしら。一応、男女平等を掲げた国で育った身としては理解できなかった。そんなに総隊長の子供が「息子」であることが大事なのか。
しかしユリウスには申し訳ないが、これはユリウスの弱点を握れるチャンスである。ユリウスにも事情があるのだろうが、私にも悪役令嬢としての事情があるのだ。
やるなら今しかねぇ。
「ユリウス、このことは秘密にしておいてあげましょうか?」
悪役令嬢らしく片方だけ口角を上げてニタリと笑った。
決まった。こんなこともあろうかと、自室で毎日練習をしていたかいがあったわ。ユリウスの瞳がまん丸に見開かれた。
ウフフ、驚いてる、驚いてる。
「うん。今は二人だけの秘密にしておいて欲しい」
ユリウスは私の両手を手に取って訴えかけた。ほほを赤くして、目を潤ませて。
これは端から見られるとかなりヤバいヤツである。年頃の男女が手を取り合ってるなんて、非常によろしくないな。
それを敏感に察知したルークとフィル王子が慌ててやって来た。しかも何だか気まずい雰囲気を醸し出している。
「何をしているんだい、ユリウス?」
「ユリウス、僕は君にイザベラに剣術を教えるように言ったはず何だけどなあ」
二人とも目が怖いです。そんな目をしなくても、そんな関係じゃないので大丈夫ですよー。でもそんなこと言えないんですよねー。あー、困ります、困りますお二人ともー。
「何を言っているのですか。こうやって手取り足取り、教えているだけですよ。そうですよね、イザベラ様?」
私だけに見えるようにウインクをしてくるユリウス。
私は「左様でございます」と答えることしかできなかった。
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