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王子からの手紙

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 フランツが言うにはこうだ。
 どうやら私の魔力量が多いことは分かっていたが、実際にどの程度の量があるのかまでは魔眼でも分からなかったということだ。

 それでも、である。「魔力量が多いから、手加減しろ」だとか、「すぐに黄金色のカップが反応しないからと言って、魔力を込め過ぎるな」とか、色々と助言はあったはずである。
 そう私が抗議すると、それを聞いたフランツが大きく目を見開き、驚きの声を上げた。

「魔力測定の魔道具が反応しなかった? そんな話、初めて聞きました。イザベラお嬢様の全魔力量を判定するのに、それだけ時間がかかったということなのではないでしょうか」

 あごに手を当てて、フランツが考え込んだ。それを聞いたお母様の表情は、あまり良くない。

「それじゃあ、フランツ、それだけイザベラの魔力量が多いということなのかしら?」
「おそらくは……。あの水の吹き出し具合から言って、イザベラお嬢様の魔力量の一部しか判定できなかったのかも知れません。きっと耐えられなくて、あの様に吹き上がったのでしょう」

 やだ、何それ怖い。確かに水が吹き上がった瞬間に魔力をそそぎ込むのを止めたけど、それはないんじゃないかしら? そんなとき、ルークと目が合った。

「さすがは僕の可愛いイザベラ。そんじょそこらのご令嬢とは格が違うのは当然だよね」

 うんうんと一人うなずくルーク。もうこの子は放っておく方がいいだろう。ヤレヤレだぜ。

「こんなことなら、カップに流し込む魔力を抑えておけば良かったわ」

 私は左右に頭を振る。そうしておけばこんな騒ぎにはならなかったはずだ。不可抗力とはいえ、申し訳ないことをしてしまったな。

「……イザベラ、今なんて?」
「え? ど、どうしたのですか、お母様?」

 どうしたのだろうか。お母様の顔色が優れない。いや、お母様だけではない。フランツの顔色も優れない。何だかすっごく嫌な予感がするわ。何だかもう一度、怒られそうな予感。

「イザベラお嬢様、もしかして魔力判定の聖杯に魔力を流し込んだのですか?」
「だ、ダメだった?」

 それを聞いたフランツは口を大きく開けた。まるで「しまった!」と叫びたい様子である。

「イザベラ~、どのくらい魔力を流したのかしら~?」

 妙に優しい感じで話しかけてくるお母様。これはまずい。洗いざらい話さないと、あとで怒れるやつだ。

「あ、ありったけを……で、でも、水が噴き出したときすぐに魔力を流すのを止めましたわ!」
「イザベラー!!」

 お母様にしこたま怒られた。フランツ曰く、魔力を流してはいけなかったようである。と言うか、本来ならばあの儀式が終わらないと、魔力を操れる様にはならないそうである。

 お嬢様がすでに魔法を使えることを失念していました、とあとから謝られたが、後の祭りである。本当にフランツはうっかりやさんなんだから。
 
 
 私がやらかしたあとの後片付けは、喜々としてお父様がやってくれたそうである。お父様だけではない。聞いた話によると国王陛下も率先して片付けをしてくれたそうである。

 お城を汚した罪で捕まらなくて良かった、とホッとしたのもつかの間。私たちが帰ろうかとしているところに、お城の使用人が駆け込んできた。

「イザベラ様にお手紙が届いております」
「手紙? 私に?」

 恐る恐るその手紙を受け取ると、差出人はフィリップ王子であった。差出人を見た私とお母様、そしてルークは同時に顔を見合わせた。悪い予感がする。

「イザベラ、すぐに中身を確認してちょうだい」
「家に帰ってからでも……」
「今すぐよ」
「ハイ」

 使用人からペーパーナイフを受け取ると、中身を確認した。手紙は予想通り、「今から二人だけでお茶にしませんか」とのお誘いである。
 
 ああ、今すぐこの手紙を破り捨てたい。でもそれをしたら不敬罪になってしまう。それをすれば、今度こそ、牢屋に入れられることになるだろう。私は王子の誘いを受けるしかなかった。

 だが私には頼もしき兄、ルークがいる。一緒についてきてもらおう。

「お兄様、一緒に来てもらえませんか? フィリップ王子と二人きりだと不安なのです」

 キュルンと上目遣いでルークを見る。この仕草が弱点であることはすでに分かっているのだよ! この攻撃、かわせるものなら、かわしてみ……あ、これ、やり過ぎたわ。
 ルークの顔が百年の恋も冷めそうな、だらしない顔になっている。とても他のご令嬢には見せられないよ!

「もちろんだよ。僕と王子は顔見知りだからね。一緒について行っても問題ないはずだよ」
「そうね、ルークが一緒について行ってくれるなら安心ね。イザベラ一人だと、何をしでかすか分かったものではありませんからね。本当はお母様も一緒に行きたいのだけれど、手紙には「二人だけで」と書いてありますからね」

 フィリップ王子の手紙を見て、お母様は一緒について行くのを断念したらしい。すでに「二人だけで」という王子の希望はないがしろにされているのだが、そこには深く突っ込まないようである。

 こうして私はルークと二人でお城の奥まったところにある王族のプライベートスペースへと向かったのであった。

 フィリップ王子が指定した場所は、プライベートスペースにある小さな庭園であった。
 魔法の儀式が事故により中止を余儀なくされたので、太陽はまだ高い位置にある。

 日の光を受けて、庭園の草花がキレイに輝いている。さすがは王宮だけあって、素晴らしい庭園だ。芸術センスがそれほどない私にでも、その素晴らしさが分かるくらいに。

 そんな素晴らしい場所にテーブルを置き、私を待っていてくれたようである。イスの数はもちろん二つである。デスヨネ。
 すでにイスに座って待って下さっている王子に、慌てて挨拶をした。

「イザベラ・ランドールですわ。フィリップ王子、お茶会にお招きいただき、ありがとうございます」
「フィリップ王子、さすがに可愛い妹を一人にするわけには行きませんから護衛としてついて来ました」

 淑女の礼をとると、その隣でルークが明らかにツンツンと礼をとった。
 顔を上げると、フィリップ王子の顔が真っ赤に染まっていた。まるで今にも「ほれてしまったやろ~」とか良いそうな雰囲気である。さすがはお母様仕込みの淑女の礼。効果はバツグンのようである。

 この場で王子がほれた発言をすると、ルークによってフィリップ王子は前が見えなくなることだろう。考えただけでも恐ろしい。これはルークを連れてきたのは間違いだったかも知れない。

「そ、そうだねルーク。私の配慮が足りていなかったよ」

 ルークの殺気を感じたのか、フィリップ王子は危険が危ない一言を避けたようである。
 この王子、長いあいだ虐げられていただけに、場の空気を読む能力は優れているのかも知れない。これは新たな発見だ。
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