上 下
15 / 48

イザベラ、やらかす

しおりを挟む
 私は疑惑に満ちた瞳をフランツに投げかけた。もしかしてフランツはこの国の王子を破滅させようと思っているのではないか。私の熱視線を受けてフランツは困ったような視線を返してきた。

「フィリップ王子の属性はお館様のご命令で見たことがあります。しかし、その……王子が持つ魔力量が少なすぎて、土属性が得意だ、ということまでしか分からなかったのですよ」

 申し訳なさそうにフランツは言った。
 何だ、そうだったのか。お父様もフランツも、フィリップ王子に何か優れているところがないか探していたのか。

 確かにあの魔力量の少なさなら、フィリップ王子をガン見しなければ黄金属性であることが分からなかったかも知れないわね。いくらランドール公爵家のお抱え魔法使いとは言っても、そんなことできないわよね。
 疑ってごめんなさい。でも私は信じていたわよ? フランツがそんな極悪非道な人でないことを。

 そんな風に家族と話していると、ようやく事態は収拾したようである。魔法の儀式が再開されることになった。
 次の番は、そう、私だ。

 私が静かに優勝カップに近づくと、何やら熱い視線を感じた。だれだろうと思ってそちらをチラリと見てみると、フィリップ王子がほほを赤くして、目をキラキラと輝かせてこちらを見ている。うおっ、まぶしっ!

 ……何だろう。何だがものすごく嫌な予感がしてきたのだが。イザベラには「関わった者から嫌われる」というチート能力が備わっているのではなかったのか?

 ……

 ……

 し、しまった! 確か、フィリップ王子が土属性ではなく、本当は黄金属性であることが判明するのは、ゲームの舞台である王立学園に入ってから起こるイベントでだった!
 それも確か、ヒロインとの好感度が上がったときに起こるイベントだったはずだ。
 いかんこれ。もしかして私、また何かやらかしちゃいました?

 思わず私が足を止めていると、進行役の神父が声をかけてきた。

「イザベラ公爵令嬢、もっと前へどうぞ」
「は、はい。すいません」

 いかんいかん。今は目の前のイベントに集中しなければ。確かゲームのイザベラは……この魔法の儀式のときは仮病を使って参加してないのよね。

 なぜイザベラが仮病を使ってまで魔法の儀式をボイコットしたのかと言うと、単純に自信がなかったからである。
 小さい頃のイザベラはわがままは言うものの、まだ傲慢さには磨きがかかっていなかった。そのため、「自分の能力が低かったらみんなにバカにされる」という強迫観念から、魔法の儀式を受けることができなかったのだ。多分、緊張でおなかが痛くなってしまったのね。それなら仕方がないわ。

 そして魔法の儀式を受けなかったというのは、その後のイザベラの人生でも尾を引くことになる。このときから、イザベラは一切の魔法の勉強をしなくなったのだ。
 魔法を使わなければ自分の能力が低いことがバレることはない。
 そんな風に思っていたことが、スピンオフでも語られていたわ。

 ……うん。これ、まずいんじゃね? このまま魔法の儀式を受けるのは非常にまずいのではなかろうか。私は存在しなかったイベントを引き起こそうとしているのではなかろうか。
 しかし、ここまで来てしまった。今さら逃げ出すのは不可能である。もしここから逃げ出せば、大魔神にコッテリと絞られることは間違いなしである。

 覚悟を決めて優勝カップに手を伸ばす。
 ええい、女は度胸。あとは野となれ山となれ、だ!

 黄金色のカップに手を当てると、私は魔力を流し込んだ。
 これって、どのくらい魔力を流せばいいのかしら? こんなことなら、あらかじめフランツに聞いておくべきだったわ。というよりも、あらかじめフランツが教えておくべきよね? 何で何にも言わないのかしら。本当に役に立たないやつだ。

 カップに魔力を流し込んだが、何の反応もなかった。
 あるぇ~? おかしいな~? もうちょっと魔力を込めてみるかな。う~ん、まだだめですか。それじゃ、ありったけの魔力をかき集めて、得意属性を探しにゆこうではないか!

 今思えば、これがいけなかった。

 私の魔力を受け、輝き出す黄金色のカップ。その直後。
 黄金のカップから七色の水が、まるで間欠泉のように天高く吹き上がった。
 ドン! という、力強い音とともに。

 勢い良く吹き上がった七色の水は、絵の具をぶちまけたかのように、大聖堂の高い天井を色とりどりに染め上げた。
 そして周囲に七色の毒々しい雨を降らせた。

 大惨事である。

 私がお母様にコッテリと怒られたことは言うまでもない。どうせ同じ怒られるのならば、とんずらして怒られた方がまだマシだった。一応ゲームの通りにもなるし。トホホのホ。そりゃないぜ。

 私が引き起こした「七色の間欠泉」事件のあと、さすがにこのまま魔法の儀式を続行するのは不可能だということになり、中止になった。
 長い時間待っていた、貴族の子弟のみんな、スマン。悪気はなかったんや。悪いのは何も教えてくれなかったフランツが全て悪いんや。苦情なら全てフランツに言ってくれ。きちんと責任を取らせるわ。フランツに。

「あああ、どうしてこんなことに……」

 人前ではいつもキリリとしているお母様も、このときばかりは頭を両手で抱えていた。

「お母様、私ではなく、フランツが悪いのよ。フランツが魔法の儀式の作法を教えてくれなかったからいけないのよ」
「作法と言われましても……」

 フランツがハンカチーフで額の汗を拭っている。一応は自分にもその責任があると思ってくれているようである。
 ほんとにまったく。私の魔力について日頃から魔眼で観察しているのなら、ヤバい予感がすることくらい分かるでしょうに。フランツ、しっかりしなさい!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

悪役令嬢なのに、完落ち攻略対象者から追いかけられる乙女ゲーム……っていうか、罰ゲーム!

待鳥園子
恋愛
とある乙女ゲームの悪役令嬢に生まれ変わったレイラは、前世で幼馴染だったヒロインクロエと協力して、攻略条件が難し過ぎる騎士団長エンドを迎えることに成功した。 最難易度な隠しヒーローの攻略条件には、主要ヒーロー三人の好感度MAX状態であることも含まれていた。 そして、クリアした後でサポートキャラを使って、三人のヒーローの好感度を自分から悪役令嬢レイラに移したことを明かしたヒロインクロエ。 え。待ってよ! 乙女ゲームが終わったら好感度MAXの攻略対象者三人に私が追いかけられるなんて、そんなの全然聞いてないんだけどー!? 前世からちゃっかりした幼馴染に貧乏くじ引かされ続けている悪役令嬢が、好感度関係なく恋に落ちた系王子様と幸せになるはずの、逆ハーレムだけど逆ハーレムじゃないラブコメ。 ※全十一話。一万五千字程度の短編です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

処理中です...