悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

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エリオットを狙う影

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 中等部三年生でもっとも大きなイベントであった学園対抗戦も終わり、俺達の学園生活はいつもの日常を取り戻しつつあった。
 俺達は今でもモフモフ研究クラブに所属しており、クロやピーちゃんを手入れしたり、猫化した俺をモフモフしたり、他の生徒が所有しているペットや使い魔をなで回したりする日々が続いていた。
 このまま中等部卒業を迎えるのかと思っていたが、そう簡単にはいかないようであった。というか、エリオットよ、俺を巻き込まないでくれ。俺が巻き込まれたら、クリスティアナ様やフェオ、エクスも一緒に巻き込まれることになるからさ。
 それはなんの変哲もないある日の昼下がり。俺達がペットを連れて学園の中庭でクラブメンバーとともに過ごしていたときのことである。
 俺達は中庭にシートを敷き、メイドさんにお茶とお茶菓子を用意してもらって優雅な一時を過ごしていた。そんなときに奴はやってきた。
「大変だ、シリウス」
「聞きたくない」
「どうやら、俺の命を狙う奴らがこの学園にやってきているみたいなんだ」
「知らんがな……」
 俺は心から思った。エリオットの事情など知らんがな。
「シリウス様、そうは参りませんわ!友好国の王子の危機を放っておいて何かあったら、この国の一大事ですわ!」
 くそ、エリオットの奴め。ワザとクリスティアナ様がいるときを狙ってここにやって来たな。王族のクリスティアナ様が王子の暗殺を聞いて、黙っているはずがないからな。
 それにさらに悪いことに、クリスティアナ様は一度狙われた経験があるために、命を狙われることの恐ろしさを味わっている。他人事には思えないのだろう。
 あのときはクリスティアナ様のピンチだったから頑張れたけど、エリオットのためとなるとやる気がイマイチ出ないな。
 俺にやる気がないことに気がついたのか、クリスティアナ様が俺の両手をとった。
「シリウス様、親友のエリオット様のピンチですわ。こんなときこそ手を差し伸べるべきですわ」
 いや、俺はエリオットの親友になったつもりは……。
 そう言おうと思ったのだが、上目遣いでこちらを見てくるクリスティアナ様を目の前にして、その言葉を口にすることができなかった。何という意志の弱さ。
「分かりました。私達でできる限りのことをしてあげましょう」
「え~、あたしもやるの!?ヤダー」
 フェオは嫌がったが、俺一人がやるのはしゃくだったので巻き添えにさせてもらった。恨むのならエリオットを恨むんだな。この俺のように。
「それでエリオット、追加の情報は?まさか何もないことはないよな?」
 やや圧を込めて言うと、エリオットが少し青くなりながら言った。
「もちろんだよ。どうやら俺の国の方での調査に進展があったようで、そこで押収した書類の中に俺を暗殺する計画があることが分かったらしいんだよ」
 暗殺計画とは穏やかじゃないな。そりゃ、慌ててこちらに危険を知らせる手紙が来てもおかしくはないか。
「それでその押収した書類のなかに、その責任をジュエル王国にもあるとするように仕向ける、と書いてある手紙が見つかったらしいんだ」
「なんですって!?」
 クリスティアナ様が食いついた。実家の危機に気が動転してしまっているみたいだ。
 ジュエル王国内でのジュエル王家の力はそれほど強いわけではない。どちらかと言えば、宝石の名前を持つ、ガーネット公爵、ダイヤモンド公爵、エメラルド公爵の三大公爵の方が力を持っていた。
 そのため、これ以上の何らかの失態があれば、ジュエル王家はお飾りだけの存在に成り下がってしまう可能性も十分にあった。クリスティアナ様は俺のガーネット公爵家に嫁入りするので問題ないが、両親は相変わらず王家にいることになるので、気が気でないのだろう。さっきよりもよっぽど心配そうに俺を見てきた。まだ何も事が起こってないのに、すでに涙目である。
「大丈夫ですよクリスティアナ様。私達が何とかしますから」
 俺がそう答えると、安心したのか、流れそうだった涙を拭いた。
 さて、まずは犯人捜しからだな。野鳥の会は魔力が他よりも高いなどの特徴があれば、犯人捜しに非常に役に立つのだが、今回は相手は同じ人間。特徴という特徴がないので、犯人捜しは難航することになるだろう。学園の職員や、生徒に混じっていたら、犯人を事前に発見することは不可能だろう。王国側も職員と生徒のチェックを改めて行ってくれるだろう。そこで怪しい人物が浮かび上がってくれば良いのだが。現在のところは打つ手がないので、なるべくエリオットと一緒にいるようにするしかないだろう。
「しばらくはエリオットと生活を共にするしかないですね」
「えー!やだやだやだー!シリウスとエッチなことができなくなるじゃん!」
「え?シリウス、君ってそんなことを……?」
「いや、してないからね、そんなこと」
 フェオは本当にエリオットが嫌いなようだ。どんな手を使ってもエリオットを俺達から遠ざけるつもりだ。しかも、エリオットと生活を共にすると言った途端に、クリスティアナ様とエクスの顔が明らかに嫌そうな顔に歪んだ。本当に嫌なようである。
 
 あれから王立学園では身元の確認作業が行われた。生徒が暗殺者の可能性は限りなく低いが、万が一のことがあるといけないからと言うことで、生徒も全員身元の確認が行われた。その結果、生徒にはその可能性がないことが確認された。後は職員のチェックだけなのだが、これはグレーゾーンが非常に大きく、可能性は十分にあるとのことだった。というのも、誰がエリオットの国の中枢と結びついているのか、現時点では分からなかったからだ。
 現在、裏で繋がっていないことを確認する作業が行われているが、当分の間ははっきりしないとのことである。
 エリオットは俺達の部屋の近くの部屋に移ってきているため、今のところ安全は確保されていると言ってもいいだろう。しかし、飲み物や食べ物に毒を入れられる恐れがあると言うことで、エリオットはみんなとは別の食事をとることになっている。
「好きなものが食べられないのは窮屈な生活だね。だんだんとストレスが溜まってきている感じがするよ」
「それじゃ、飲み物や食べ物に毒が入ってないかを検出する魔法を使えばいいんじゃないの?」
「え?そんな魔法があるのかい?聞いたことないな」
 あるか、ないか、で言えば、そんな魔法はある。俺達は念のため、口にするものには全てこの魔法をかけている。クリスティアナ様も無詠唱で魔法を使っているから、気がつかないのだろう。
 さて、どうしたものか。この魔法をエリオットに教えれば、毒殺される恐れは大幅に減ることになるだろう。そうなれば、少しは窮屈な生活からも解放されるはず。
 そんなことを考えていると、俺達が利用しているサロンの外に見慣れない人物が接近していることに気がついた。
「クリスティアナ様、フェオ、エクス」
 俺が目配せすると、すぐにその意図に気がついたようである。即座に賊が接近しつつある窓から遠い位置へと移動した。
「エリオット、賊がこちらに向かってきているみたいだ。一先ず奥へ行こう」
「なんだって!?分かったよ」
 半信半疑ではあったが、エリオットは俺の指示に従ってくれた。その間にクリスティアナ様は警備兵を呼んで、指示を飛ばしていた。
 クリスティアナ様も随分と成長したものだ。もう俺があれこれ指示を出さなくても、阿吽の呼吸で動いてくれる。熟練の夫婦みたいだな。
 まあ、それもそうか。一緒にいる時間が長いからね。
 あっという間に賊を捕獲する包囲網は完成し、後は犯人の登場を待つだけとなった。そうとも知らずに賊が飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりに、窓からサロンへと侵入してきた。
 賊は窓から侵入したときに違和感を覚えたのだろう。すでに窓から距離をとっている俺達を見た後、自分の足下を見た。そして自分の足に何かベトベトするものがひっついて居ることに気がついた。
 そう。フェオの天敵、ベトベトスライムである。こんなこともあろうかと、窓の傍にベトベトスライムを仕掛けておいたのだ。
 ベッタリと賊の足に絡みつくベトベトスライムを見て、フェオは嫌そうな顔をした。賊も同じような顔をしている。
 自分の犯行がすでにバレていることに気がついた賊は、すぐに今しがた侵入した窓から逃げ出そうとしたが、ベトベトスライムが足に絡みつき、上手く逃げ出すことができないでいた。その隙に俺は武装解除の魔法を使い、賊を無力化した。こうなると賊は逃げる事も戦うこともできず、クリスティアナ様が呼んだ警備兵にしょっ引かれて言った。
 賊が情報を提供しやすいように、ウッカリハチベエの魔法も忘れずにかけておいた。実に親切だ。

 それからしばらくして、俺達は国王陛下に呼ばれ、そろって謁見することになった。
「シリウス、また世話になってしまったな。エリオット王子も、我が国の者がこの事件に関わってしまい、本当に申し訳ない」
 国王陛下が頭を下げた。他国と事を構えるのは得策ではないと考えているのだろう。それはそうだ。戦争など、しないに超したことはないからね。
「それで、犯人は誰なのか分かったのですか?」
 エリオットは期待に満ちた声で尋ねた。
「ああ、もちろんだ。エリオット王子の国での首謀者は割れたよ。すでに連絡済みなので、今頃首謀者は捕まっているはずだ」
「そうですか」
 エリオットはホッとした様子だったが、俺は国王陛下に聞いておかなければならないことがあった。
「国王陛下、この国で力を貸していたのはどこの誰なのですか?」
 俺の質問に国王陛下は黙った。分からないはずはないから、言えないということだろう。何となく誰なのかは察した。多分、以前からジュエル王家に取って代わろうと画策しているエメラルド公爵が裏で手を引いていたのだろう。
 しかし、残念なことに、今の王家の力ではそれを追求することはできない。仮に他の公爵家の力を借りれば、その公爵家との結びつきが強くなりすぎて、王家の独立性が保てなくなる。
 きっと国王陛下は板挟みにあっているのだろう。俺も将来の義父を追い詰めるつもりはないので、話を切った。
「お答えできないならば、それで結構です。これでエリオット王子はもう安全になったのですよね?」
「ああそうだ。だが、今しばらくエリオット王子の祖国ではゴタゴタがあるだろう。それが解決するまでは、こちらの学園に通わせてくれと言われている。エリオット王子には申し訳ないが、今しばらくこの国に留まることになるだろう」
「もちろん構いませんよ。この国も、この学園も私は好きですからね」
「そう言ってもらえるとありがたい」
 こうしてエリオットを巡る騒動は解決を迎えることになった。しかし一方で、新たに王家の転覆を狙う存在が動き出していることが判明した。
 今回の事件で、自分たちが裏にいることに王家が気がついたことを察知しているだろう。そうなれば、この先エメラルド公爵がどのような手段を使ってくるか分からない。
 これはますます油断できない状況になってきたな。
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