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浄化の炎であちちちち

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 浄化すれば元に戻るのかな? でも、どうやって?
「どうやって穢れを落とせばいいんだろう?」
「そうね~、まずは纏わり付いてる怨念を何とかしないとダメそうね」
「怨念を何とかする・・・ここはフェニックス先生の出番なのでは? 浄化の炎とか、都合のいいもの出せない?」
【出せますけど、いいんですか?】
「モチのロンだよ」
 これはラッキーだ。どうやら今回は俺が新しい魔法を創る必要はなさそうだ。
「いいね、いいね! あたしもピーちゃんの実力を見て見たかったしね~」
 確かにそうだな。ピーちゃんの実力はまだ見たことがない。どう見てもただのインコにしか見えないので、物騒なことを言う割には、イマイチ実力が見えてこないのだ。
 ん? 何かクロが後退りしているぞ。
「クロ、どうしたんだい?」
【申し訳ありません、我が主よ。私は闇に生きて来た者。フェニックスの浄化の炎で焼けてしまうのではないかと・・・】
「大丈夫だよ、クロ。それはもうずっと昔のことだろう? 今はもう違うんだ。いつまでも過去に拘らないで、今を見ようよ」
【今を・・・】
 そう言ってクロの顔を撫でた。クロと目と目が合う。
「ちょっと、そっち方面の需要、ある?」
 フェオが呆れた様子で言って来た。ケモナーにはあるんじゃないかな?
「黒歴史なんて、みんな持ってますわ。いつまでも拘っていたら、前には進めませんわ。だから今に、今日の今に心を尽くしませんか?」
【奥方様・・・分かりました。もう大丈夫です】
 これでようやくクロも、闇の時代を生きてきたことを乗り越えることができたかな? せっかく今を生きているのだから、もっと好きなことや楽しいことをしてもいいと思うんだよね。
「そ、それではピーちゃん、よろしくお願いいたしますわ」
 若干顔が赤いクリスティアナ様がピーちゃんにお願いをした。
【畏まり】
 クリスティアナ様の肩に乗っていたピーちゃんが音もなく静かに浮かび上がった。見た目はインコだが、その動きはインコとかけ離れていた。正直言って、羽を閉じたインコがスッと飛び上がる光景は気持ち悪い。
 レスターの目線よりも少し高い位置にホバリングしたピーちゃんは、翼を大きく広げた。
 その瞬間、強烈な熱波が泉の中央付近に向けて放たれた。
【ギャアアァア!】
【アツイ、アツイィ!】
【ギョワァー!】
 怨念達の様々な声が泉に木霊した。どうやら問題なく浄められているようである。満足、満足。
「ん? あっつ! 熱いよ! ちょっと!?」
「あっちちちち! どうなってんの!?」
「ち、ちょっと!? シリウス様、フェオ、しっかりして下さいませ! こちらに炎は向かって来ておりませんわ!」
 クリスティアナ様が庇うように、俺達二人とピーちゃんとの間に割り込んだ。それに気がついたエクスも壁になるように間に入った。
 さすがは聖女クリスティアナ様に、聖剣エクスかリバー。何ともないぜ。見ると、レスターは困惑した表情でこちらを見ている。レスターは聖戦士だったのか。オーラ斬りとか使えるのかな? クロはやっぱり怖かったのか、頭を抱えて縮こまっていた。
 やがて木霊していた声は聞こえなくなり、辺りを静寂が包み始めた。
「だ、大丈夫ですか? お怪我は?」
「大丈夫っぽい?」
【浄化の炎は穢れた精神を燃やす炎。身体に損傷を与えることはありません】
 神々しくピーちゃんがクリスティアナ様の肩に舞い降りた。あの炎はヤバい。
【何か心当たりはありませんか?】
 俺達二人はしょんもりと黙ってうつむいた。その光景が全てを物語っていた。ありすぎてマジでヤバい。
【ありがとう、我らの愛し子達よ。これでようやく私も皆のところに行くことができます】
 神々しい声が泉の中央付近から聞こえてきた。振り返るとそこには美しい女性が静かに佇んでいた。これが泉の精霊が持つ本来の姿のようだ。その姿に思わず息を飲んだ。巨乳ですな。眼福、眼福。
「皆のところに行くというのは?」
 クリスティアナ様が首を傾げた。
「この世界の一部になるということでしょうね。つまりは、消える、ということです」
「そ、そんな!」
「仕方ないよ、クリピー。ここにいたら、いつかまたあんな風になっちゃうよ」
 その言葉にクリスティアナ様は沈黙した。分かるような、分かりたくないような。俺はクリスティアナ様の手をそっと握った。
 やましいことは考えてないからね、ピーちゃん。
【悲しむことはありません。私達はいつも貴方達の傍にいますよ】
 そう言って静かに微笑んだ。その顔にはまるで当然のことと受け止めているかのように澄んでいた。
「全く頑固よね~。こんな泉なんか捨てちゃえばいいのに」
 フェオは精霊と同じ種族。こんな言い方をしているが、その気持ちは分からないこともないのだろう。
 せっかく見つけた同胞がまたいなくなってしまうのだ。悲しいはずはないか。俺はそっとフェオを抱き抱えた。フェオはギュッとしがみついてきた。
 やましいことは考えてないからね、ピーちゃん。
【貴女のような、力を持った妖精が人間と共にいるのは驚きですが、あなた達には心地好い風が吹いていますね。そうだわ、助けていただいたお礼をしなければなりませんわ】
 俺達は顔を見合わせた。まあ、相性は悪くはないとは思う。みんな可愛いしね。お互いがお互いを尊重し合っているのは確かかな。
 それにしても、お礼か。何かないかな? 今回はピーちゃんの活躍によって解決したわけだし、クリスティアナ様に選んでもらおうかな。
「何かありませんか、クリスティアナ様?」
「そうですわねぇ、あ、そうですわ!」
 名案が浮かんだのだろう。クリスティアナ様の顔がパアッと明るくなった。眩しい! 目が、目が!
「精霊様、エクスが魔法を使えるようにすることはできませんか?」
 そう言うと、エクスをズズイと前に押し出した。
【エクス? ま、まさか!?】
 精霊は口に両手を当てて驚いた。その目は真ん丸に見開かれている。今のエクスは人の形をしているが、本来は聖剣。そのことに気がついたのだろう。
【まさか聖剣が自我を持つなど。いや、人と同じ形をしているなど、一体どうなっているのですか!?】
 ものすごい驚いている。そこに妖精とフェニックスがいることよりも驚くべきことなのだろうか。
「マスターの色に染まった」
 それはそうかも知れないが、その言い方は誤解されるのではないだろうか? ほら、ピーちゃんが鋭い目でこっちを見てるじゃない。
【マスター? ・・・なるほど】
 俺の方を見ると、納得したようである。何でだ。精霊からも規格外認定されたようでツラい。
【私の力の一端をエクスに差し上げましょう。そうすれば、魔法の使い方を思い出すかも知れません】
「魔法の使い方を思い出す?」
【そうです。聖剣はその昔、我々精霊と人とが魔を祓うために協力して作り出した武器なのです。入れ物は人が作り、中に我々が入った】
「何だって!? ということは、エクスはその精霊なの?」
【もしかすると、そうなのかも知れません。しかし、聖剣となるときに、全てを失っているはずです】
「全てを失った、とは?」
 クリスティアナ様が青い顔をして聞いた。おそらく、想像の通りなのだろう。
【聖剣と一つになったのです】
「生贄、ということですね」
【その解釈に間違いはないでしょう。ですが、自ら進んでそうなったのですよ】
「理解できないわ」
 フェオがお手上げとばかりに手をあげた。俺も自己犠牲で物事を解決するのは避けたいかな。
「それで、目覚めたエクスに刺激を与えれば、魔法の使い方を思い出すかも知れないと?」
【そういうことです】
 大丈夫かな? 別の人格になったりしないよね? 今のエクスが好きなんだけど。
「どうする、エクス?」
「試してみたい」
「本当に? 大丈夫? 無理してない?」
「私はもっとマスターの役に立ちたい。もっとマスターを喜ばせたい」
 俺は今でも十分役に立っていると思っているのだが、エクスの決意は固いみたいだ。エクスがどうしてもそうしたいのなら、断れないな。
「分かったよ、エクス。クリスティアナ様、お願いしてもいいですか?」
「もちろんですわ。精霊様、お願いしますわ」
【それでは、いきますよ】
 そう言うと、精霊の体から、光り輝くバレーボールのサイズくらいの丸い球体が現れ、エクスに向かってゆっくりと進んで行った。
 そしてそのまま、エクスの中へと入って行った。すると突然、エクスの体が発光し始めた。
 これは見覚えがあるぞ。そう、エクスが剣モードから初めて人型になったときと同じだ。きっとこれは進化、ということなのだろう。
 今度は一体どんな風に変わるのだろうか? 何だか心配になってきた。
 クリスティアナ様もフェオも固唾を呑んで見守っている。
 待つことしばし、エクスの光がだんだんと収まってきた。そして最後に、いつもと変わらない姿のエクスが立っていた。
 いや、違うぞ! これは・・・!!
 見た目そのままに胸だけ大きくなっている!
 フラットに近かったエクスの胸がクリスティアナ様並みに大きく膨らんでいる。一体どういうことなの!?
「あの、これは一体・・・?」
【おそらく、マスターである貴方の強い思いを反映した姿になったのでしょう】
 え? マジで!? 俺のせいなの!?
「シリウス様・・・?」
「スケコマシ」
「待って! 違うから! 誤解だから!!」
「マスター、この体、嫌い?」
「え? い、いや、嫌いじゃないよ。大好きだよ!」
 泣き出しそうになっているエクスを抱きしめて、そう言った。ええい、ままよ! どうにでもなれぃ!
 ん? 何だこの感触は? そうだった! エクス、穿いてないんだった! よくよく見て見ると、かなり余裕があったはずのエクスのワンピースの胸元はパツンパツンになっており、突起部分がしっかりと浮き彫りになっていた。しかも、ほんのりピンク色をしている。これはまずい。
 俺は慌てて、自分の上着をエクスにかけた。
「マスター?」
「い、いや、寒そうだなぁって・・・」
「あやしい」
「あやしい」
「二人とも、実は・・・」
 こしょこしょと二人にエクスが穿いてないことを告げると、驚きの声をあげた。
「い、いつからなのですか?」
「最初からかなぁ」
「何で今まで秘密にしていたのですか?」
「いや、秘密にしてたと言うか、確信がなかったんですよ。それに、二人ならすでに知っているだろうと思っていたんですよ。ほら、一緒にお風呂に入っているでしょう?」
「確かに、エクスが服を脱ぐスピードが早いとは思っていましたけど、まさか穿いてないだなんて考えてもいませんでしたので・・・」
 ですよね、普通は考えないですよね。でも、エクスが人間の生活様式を全て理解していないのもまた事実。
「宿に帰ったら、しっかりと教え込みましょう」
「そうですわね」
 方針は決まった。フェオはクリスティアナ様とエクスと自分の胸をしきりに見比べていた。何だが悪い予感がする。
【私のできることはここまでです。あとはエクスの思い次第】
「ありがとう。頑張る」
【羨ましいわ。私達にも生涯を捧げる相手がいれば、もう少し長く、この世界に存在していたかも知れません。ですが、私達はこの世界と一つになることを選んだのです。そのことに後悔はありません】
 精霊の姿がだんだんと薄くなっているのが分かった。この世界に自分の力を、存在を、還元しているのだろう。
 この場にいた全員が見守る中、ついその名も知れぬ泉の精霊は姿を消した。
 あとに残されたのは、清らかな水を湛える泉と、稀少な植生を有する湿地帯であった。
 あとにこの一帯は、ガーネット公爵領立自然保護区として保護されることとなり、世界有数の観光地として後世にその姿を残し続けることになる。
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