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王妃様のご実家

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 子爵家はもっと奥の山に近い場所にあるらしく、到着まであと1日ほど掛かるらしい。
 避暑地としては王都から近いこちらも有名らしく、多くの人で賑わっていた。
 俺達も案内された部屋に入り、ようやく一息ついた。
「馬車での移動で疲れていませんか?」
「疲れてはいませんが、やはりあの揺れには慣れませんわね」
 肉体的な疲労はそれほどないようだが、精神的にはかなり疲労しているようだ。
 そういう自分も馬車には乗り慣れておらず、あの激しい揺れに辟易していた。もっと揺れない馬車があれば快適な旅になるのだろうけれど。
 冬に帰る公爵領はもっと遠い。当然馬車に乗っている時間も長くなる。考えるだけでもゾッとする。
 いっそのこと、瞬間移動で帰るか?いや、それは不味いだろう。じゃあ空を飛んで・・・も不味いだろうなぁ。
「そんなに大変なの?あたしはそうでもないけどな~」
「そりゃフェオは空を飛んでるからなんともないだろうけど、座ってる方はクッションがあるとはいえ辛いかな。それにあの揺れじゃ本も読めないし退屈だよ」
「じゃあ空を飛べば?」
 魔法で馬車を浮かせるか。そんなのありなのかな?軽量化の魔方陣を使って車体を軽くして、浮遊の魔法で馬車を空に浮かべて・・・あ、でも軽いと風が吹いたら簡単に煽られて危険だし、乗る人数によって重さが随分と変わるので、その度に魔方陣の出力を変えるのは面倒くさいな。やっぱり馬車自体を改良して、魔法や魔方陣は補助的に使った方が良さそうだなぁ。
「シリウス様、何をそんなに深刻に考えていらっしゃるのですか?まさか馬車で空を飛ぼうなどとは思っておりませんわよね?いくら何でも危険過ぎますわ」
「大丈夫ですよ。今のところ馬車で空を飛ぶつもりはありませんよ」
 馬車は無料そうなので、飛ぶなら別の方法を考えないとな。飛行機なんか作っても滑走路とかないし、飛ばすのは難しそうだ。
 今のところ?と首を捻っていたが、これ以上の発言は控えた。あまりクリスティアナ様を心配させるのは良くない。
「でも、あの馬車の揺れは何とかしたいところですね。せめて安眠できるくらいには静かにしたいですね」
「そ、そこまで静かにするのは無理なのでは?」
「そうだよ。ちょっとくらいうるさい方がクリピーとエッチなことしやすいよ」
「フェオ!」
「それも一理あるな」
「一理も二理もありません!」
 クリスティアナ様に顔を真っ赤にして怒られた。
 今はお義母様つきなのでなかなかスキンシップが図れない。上手くフォローをしなければ。クリスティアナ様はデリケートだからね。
「夕食までにはまだ時間があるので、町をみて回りませんか?何か面白いものがあるかも知れませんよ」
「そうですわね。連日の馬車での移動でかなりの運動不足になってますわ。いい加減に運動しないと、また・・・」
 クリスティアナ様はじっと自分の体を見た。
 今のクリスティアナ様は昔の太っていた頃の面影は全くなく、スリムで引き締まった素晴らしいプロポーションをしていた。それもこれも、連日俺と一緒にダイエットと称した鍛練を行っているからである。
 軽いランニングから始まり、護身術用の組手、魔法の訓練を毎日。剣術、槍術、弓術、を日替りで行っていた。
 お姫様に何を教え込んでいるんだ!と始めの頃は国王陛下に言われたが、クリスティアナ様が痩せるために必要なのです、と言ったらあっさり納得してくれた。
 太ったクリスティアナ様が引きこもりになった件は両親にとってはかなりのトラウマになっているようだ。当然、クリスティアナ様のトラウマにもなっている。少しぐらいは運動しなくてもすぐに太るわけではないとは思うのだが、動かないとどうにも気になってしまうようだ。
 そんなわけで、クリスティアナ様を連れ出して運動不足解消と共に、久々にゆっくりとスキンシップを図りたいと思う。多数の護衛がついているが、手を繋ぐくらいなら大丈夫だろう。
 クリスティアナ様の前に手をだすと、少し恥じらいながらも手を繋いでくれた。すかさず俺はクリスティアナ様に、繋いだ手を通してダイエット促進のための身体強化魔法をかけた。これでダイエットも捗るだろう。
 さすがは畜産が盛んな子爵領だけあって様々な乳製品や肉が店先に並んでいた。ヨーグルト、チーズ、バターにプリン、ウインナーに燻製肉などバラエティーにとんでいた。
 肉の加工品は王都でもよく見かけるものだったが、乳製品については、チーズぐらいしか見たことがなかった。思わずこんなに色んな加工品があったのですね、と店主に言ってしまったほどだ。
 店主いわく、チーズ以外の乳製品は日持ちがしないので、王都までそんなに沢山の量は出荷できないらしい。そのため、王都では高級品であり、一部の貴族が買い占めるため市場にはあまり出回らないそうだ。
 都市への輸送は氷を満載した荷車を馬に引かせて行っているそうだが、氷の分の重さがかなりあるため、大量には送れないそうだ。どの乳製品も出来がよく、とても美味しいのに勿体ない。
 クリスティアナ様もフェオもエクスもプリンが気に入ったらしく、もう1個食べるかどうかと悩んでいた。
 結局、いくら食べても太らないエクスだけが満足そうにプリンをいくつも平らげていた。フェオはサイズ的に1つで十分食べ過ぎなので止めておいた。クリスティアナ様はトラウマからの自制心によりかろうじて我慢していた。
「エクスだけ太らないなんて・・・不公平ですわ」
 涙目だった。ちなみにフェオも太らない。泣き出しそうなので言わないが。
 翌日の夕暮れ時、俺達は無事にお義母様の実家へとたどり着いた。
 歓迎を兼ねた晩餐会の準備はすでに整っており、一息つくとすぐに食堂に案内された。
 お義母様の実家の子爵家は歴史が古く、王国が誕生したときから続く名門中の名門てある。最初期の頃から王国に忠誠を捧げ、国からの信頼も非常に厚い。
 だが、そんな最初期からある貴族であるにも関わらず、未だに子爵であった。それは歴代の当主が悪かったわけではなく、立地条件のためだった。
 良くも悪くも広い草原と山しかなく、周りは他の領地に囲まれており、ほとんど争いごともなかった。そのため、非常に手柄が立て難くかったのだ。
 現在の子爵家の面な収入源は領民からの税収と広大な平原を利用した馬の育成であり、その馬の売買によって成り立っている。馬は主に馬車として使われており、国内輸送に貢献している。さらに馬は戦時中に大量に必要とされるため、国内外で争いごとがあればかなりの金額を稼げるようだ。馬はその機動力から伝令や輸送だけでなく、奇襲や偵察、挟み撃ちなど、いればいるほど戦いが有利になった。そのため、ここのところ争いごとがないとはいえ、かなりの頭数を育成しているようであった。
「よくぞ帰って来てくれた。もう二度とこの家に帰って来ることはないと思っておったぞ」
 当主たる子爵が目を潤ませて言った。
 娘が王妃となり嫁いで行った。しかし、親の爵位は子爵。そう簡単に王妃が訪ねられるような地位ではなかった。
「お父様・・・ただいま戻りましたわ」
 王妃様もどこか儚げな表情をしている。きっと済まないと思っているのだろう。だが、王妃になるのは大変名誉なことであり、少なからず子爵家の評価をあげることになっただろう。だからこそ、双方とも国王陛下との結婚を認めたのだ。
 王に嫁げる身分としては子爵以上でなければならない。それでも王に子爵家から嫁いだのは長い王国の歴史の中でも数えられるほどしかいなかった。
「お祖父様、お久しぶりですわ。こちらは私の婚約者のシリウス様ですわ」
 クリスティアナ様に紹介されて礼を返す。
「噂は聞いておりますよ。ようこそいらしてくれた。公爵家よりかは狭いでしょうが、我が家と思ってゆっくりして行って下さい」
 自分の孫を見る目と同じ目でこちらを温かく見てくれた。
 そうしてこの日の夕食の時間がゆっくりと流れたのであった。
 その夜、考えた。何か自分にできることはないだろうか。子爵なので簡単に会いにはいけない。だが、1つ上の位の伯爵になればハードルがグッと下がる。
 俺は悶々としながら、夏用の薄いネグリジェを着たクリスティアナ様が引っ付いた状態の右腕を気にしながら寝ようとした。
 眠れるかっ!何で道中は別物のベッドだったのに子爵家では一緒のベッドなのか。まあそれはいつものことなのでヨシとするとして、何でクリスティアナ様は下着を身に着けていないのか。
 離れていた時はもしかして?と思う程度だったが、引っ付かれるとバレバレですよ!
 次の日の俺は完全に寝不足だった。心配したお義母様が次の日から一緒に寝ることになったが、余計に眠れなくなった。どうしてこうなった。
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