悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

文字の大きさ
上 下
43 / 99

避暑地に行こう②

しおりを挟む
 シリウスの避暑地行きが決まる少し前の話。
 王の自室で国王陛下とクリスティアナ様の母である第二王妃が、顔が映りそうなほどに磨きあげられた豪奢な机を挟んで向かい合っていた。
「シリウスちゃんと一緒に実家に帰ろうと思っているのよ」
 唐突に告げられた王妃の宣言に驚いた国王は動揺を隠しきれなかった。
「な、ど、どういうこと?」
「あらあら、ごめんなさい。変な意味じゃないのよ。ほら、今は隣国との争いごともなく平和じゃない?それはとってもいいことなんだけれども、私の実家がね・・・ちょっと雲行きが怪しくなって来ているのよ」
「それは・・・何か争いごとが起きると?」
「いやいや、そうじゃないわ。その、実家の財政状況がね、火の車なのよ。ほら、争いごとがなくなって、馬がそんなに必要じゃなくなったじゃない?実家の主な収入源だった馬が売れなくなっちゃって、もう大変なのよ」
「・・・それは、すまん」
「何度も言うけども、平和が一番よ。それに、経済の変化について行けなかった実家が悪いのよ。ダーリンのせいじゃないわ。それでね、シリウスちゃんの力を借りようと思っているのよ」
 王に対してかなりぞんざいな口の聞き方だが、ここはプライベートゾーンであり、愛し合う二人なため、特に問題はなかった。
「シリウスが何かの役に立つのか?」
「あらまあ!ご存じないの?今、爆発的にヒットしてる魔道具を考案したのはシリウスちゃんなのよ?ラファエル商会が製造、販売しているけど、どうやらそれはシリウスちゃんが丸投げしてるだけみたいなのよね。利権を持っていれば莫大なお金が手に入るのに利権ごと商会に譲るだなんて、シリウスちゃんくらいしかできないわ~。クリスティアナの話によると、その画期的な魔道具も簡単にちょちょいと作り上げたそうよ~。他にも、ほら、見てちょうだいこのネックレス。これはね、身につけているだけで心地よい温度にしてくれるアイテムなのよ~。もちろん、シリウスちゃんが作ったのよ。何でも、アクセサリーに魔法の効果を付与してあるんですってよ」
「・・・」
 うふふ、と楽しそうに話す王妃。そんな話、聞いてないよと困惑する王。王の頭に、ひょっとしたら娘に嫌われているのでは?との思いがよぎった。
「シリウスちゃんを実家に連れて行けば、何かいい案を出してくれるかもしれないわ。だから今年の夏は、クリスティアナと一緒に実家に帰るわ~。実家は避暑地としても有名だし、何の問題もないはずよ~」
 妻の実家のためならば仕方があるまい。と、許可した国王だったが、妻だけでなく娘も行くのかと釈然としないものがあった。
 もちろん、王妃とシリウスだけが行く方があり得ない話なのだが、その事に気がつかないほど別のことを気にしていた。
 自分は娘に嫌われているのか、と。

 避暑地への移動初日に着いた町は王都から近いこともあり、それなりの賑わいを見せていた。多くの店が軒を連ねており、宿もいくつもあった。町に着いたのが夕暮れ時であったためにほとんど見て回れなかったのが残念だ。
 すでに用意されていたこの町で最も格式が高い宿に連れていかれ、夜はそこで過ごした。
 部屋割はどうなっているのかというと、なんと恐れ多くも王妃様と同じ部屋だった。もちろん、クリスティアナ様も一緒だ。
 さすがにお義母様付は不味いだろうと思っていたのだが、すでに親の公認であるため今更だろうと言われた。
 そうかも知れないが、これが普通なのだろうか?最近はちょっと常識から逸脱している感じがするので疑心暗鬼になっている。
 今、俺に必要な物は常識人であろう。
 翌日は早くから移動が始まり、本当にこの町は通過しただけだった。今度来るときは絶対にゆっくりと満喫したいと思う。
 その後も、休憩を挟みつつ、町や村で宿を取りつつ、出発から2日後に目的地である子爵領に入った。
 移動中に危険な目に会うこともなく、改めて治安が良くなっていることを感じた。もちろん危険な目に会えば容赦なく殲滅するつもりであったが。
 腐っても妖精と勲章持ちである。相手には運が悪かったな、と思ってもらうしかない。あー、新しい魔法の実験台が欲しかったなー。
 子爵領に入ると、田園風景と広大な草原がすぐ目の前に広がった。なるほど、これだけ広大な草原を有しているのなら、馬などの畜産が盛んであることも頷ける。
 見渡す限りの平原には小高い丘が幾重にも重なっており、木がまばらに生えていた。地表には青々とした草が繁茂しており、馬車の轍がまるでどこまでも続いているかのように彼方の山へと続いていた。
 ところどころに4、5軒ほどの建物があり、その近辺では羊飼いやカウボーイがのんびりと草を食む羊や牛、馬たちの世話をしていた。
 多くの領地では農業が盛んであるが、どうやら子爵領では畜産が主力のようだ。見ている限りでも馬が自由に走っており、イキイキと躍動していた。
 奥には青々とした裾野を持つ山々がそびえ立っており、自然豊かな場所である。その手前側には湖も見えた。湖に遊びに行くのもいいかもしれない。
 のどかな風景を眺めていると、本日の宿泊予定地についた。時刻はまだ昼をちょっと過ぎたくらいだ。いつもよりかずっと早い時間帯だけど。
「ここは子爵領の玄関口にあたるところよ。避暑地としても有名なところなので、少しゆっくりとしていきましょう」
 お義母様はそう言うとてきぱきと指示をだし、宿へと荷物を運び込んだ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

処理中です...