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避暑地に行こう①
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今年も夏が始まった。
美しい王都の石畳は太陽の熱を吸収し、乱反射し、茹だるような暑さを繰り出していた。
そうなれば外を出歩く人影も少なくなり、貴族連中はこぞって避暑地へと向かった。
冷風機の魔道具が開発された今年も例外ではなく、窓を閉めきっていればお茶会は可能であるとはいえ、避暑地へ向かう人も多かった。
そして、夏の暑さは貴族連中だけではなく、庶民にまでもその影響を与えていた。そう、食べ物が日持ちしなくなるのだ。
それなりの資金力のある貴族は氷の魔法を得意とする者を雇い、冷蔵室を設けて食べ物を貯蓄していたが、そうでない多くの人達は、日に日に新鮮な食べ物が手に入り難くなり、同じような物を毎日食べる羽目になっていた。
流通事情も現代とは比べものにならないほど悪く、輸送は主に馬車で行われていた。
そんな訳で、王都に残る多くの人達は、夏なんか嫌いだ!と言う者が多かったのだが、今年は事情が違った。
まず、俺が冷風機を作ったことで室内では過ごしやすくなったこと。そして、もう1つ。
冷風機の原理を流用して、庶民向けに冷蔵庫を作ったのだ。
作り方は簡単。適当な箱に冷却の魔方陣を組み込むだけだ。もちろんそれだと保温性が低いので、断熱性の高い木材を利用し、扉の部分には気密性向上のために、まるでゴムのような素材であるスライムの皮を張りつけた。
クリスティアナ様とフェオには、うげっ、といった顔をされたが、エクスからは、
「スライムの皮をそんな風に使うなんて考えてもみなかった。マスターはやっぱり天才」
と極めて高い評価を頂いた。さすがはエクス。俺の心のオアシス。
試作品を商会に持ち込むと、全員が食いついた。冷風機も凄かったが、この冷蔵庫も凄いと。王都の庶民の生活を変える革命的品だ、と絶賛され、すぐに量産された。
出来上がった商品は瞬く間に庶民に売れた。もちろん貴族向けの、外装だけ豪華版、も作ったので、そちらも飛ぶように売れた。何でも、暫くは予約でいっぱいらしい。
そうして魔道具が大量に売れると、必然的に魔石が不足してくる。
魔石が徐々に高騰してくると、今度は冒険者達がこぞって周辺の魔物を狩るようになった。魔物の持つ魔石を売ることで生計が経てられるようになったからだ。
こうして王都周辺だけでなく、町や村の近くの魔物の多くが狩られるようになり、また、魔物狩りのついでに野盗狩りも行われ、ジュエル王国の治安はとても良くなった。大変喜ばしいことだ。
この功績は、数々のヒット商品を生み出しているラファエル商会のお陰だ、といつの間にか言われるようになった。そしてその原動力は、新しく就任した商会長にある、と噂され、注目を浴びることとなった。どうしてこうなった。
・・・副商会長を含む商会員全員が我が事のように俺の自慢をするからだよ!やめて!!
「シリウスちゃんはもう時の人ね~。お義母様も鼻が高いわ~」
「は、はあ・・・」
ここは避暑地に向かう馬車の中。さすがに暑さが増してきたこともあり、我々も避暑地へと向かっていた。
ゴトゴトと道を進む馬車は、王都のように舗装されていない道を進んでいることもあり、非常に揺れが激しかった。
お尻に敷いているクッションがフカフカだから良かったものの、これ程の高級クッションを持っていない人達は尻が痛くて、相当苦労していることだろう。きっと2つに割れているはずだ。
などと現実逃避してみたものの、現状が変わることはなかった。
避暑地に向かう馬車の中にはいつものメンバーに加え、クリスティアナ様のお母様である第二王妃様が混じっていた。どうしてこうなった・・・。
ことの始まりはお父様が今年は避暑地には行けないと言い始めたことだった。
「あの国王が最近働きが悪くてな。なに、原因は分かっておる。愛娘の姿が見えないからどこか上の空なのだよ。全く、迷惑極まりない。そのうち何処かに嫁ぐことになるのだから、今の内から慣れるための練習と割り切ってしまえばいいのに。そのお陰で私が夏の間もここに残って仕事を手伝う羽目になってしまったよ。幸いにしてシリウスが作った魔道具や、この着けておくだけで快適になるネックレスのお陰で暑い王都に残っても問題なく過ごす事が出来そうだがね。え?もちろんアイツにはやらん。自業自得だ」
お父様はお母様と一緒に避暑地に行くのを楽しみにしていたため、不満タラタラだ。国王陛下をアイツって・・・まあ、それはさておき、そんなわけで今年の夏は王都で過ごすことになるのかと思っていたら、思わぬところから誘いが来た。
クリスティアナ様のお母様からだ。
何でも、クリスティアナ様と共に王妃様のご実家に来ないか、とのお誘いだ。
第二王妃様の実家は王都よりも寒い地方にある子爵家であり、広大な面積を誇る土地を有しており、農業だけでなく牧畜も盛んな地域だ。
子爵領内には国内有数の大きな湖があり、避暑地にはもってこいだった。そのため、もちろん多くの貴族達の避暑地にもなっており、大商人やお金の庶民も多数訪れていた。
王妃様が国王陛下の傍を離れると余計に不味いのではないかと思ったが、どうやらそこはしっかりと話し合ったようで、大丈夫、問題ないとのことだった。
そうなれば断ることもできず、了承せざるを得なかった。お母様も一緒に行きたがっていたのだか、お父様が泣いてまして譲らなかった。
国王陛下の娘への執着について色々と言っていたが、どっちもどっちである。敢えて言わなかったが。
そんなわけで、さっきの現実逃避のシーンに戻るのである。
「これから向かう所は牧畜が盛んなようですね。公爵領でも牧畜はやっていますが、農業ほど規模が大きくないのですよね。広大な土地に放し飼いにしていると聞いていたので、見るのが楽しみです」
「あら、そうなのね!領内では特に馬が優秀なのよ。足の速い馬が何頭もいるわ。シリウスちゃんにもいい馬を紹介してあげるわ。期待しててね」
なるほど、確かに俺は自分の馬を持っていない。今回の避暑地への旅行は馬を買いに行くという側面も含んでいるのかもしれない。
「あたしは馬よりも速く飛べるから馬なんて要らないけど、シリウスやクリピーには必要かもね。でもシリウスなら馬よりも速く走れるんじゃない?」
「走れるけど、疲れるしなぁ。楽に移動できるならそれに越したことはないよ」
それにフェオ、君は馬よりも速く飛べないだろう?いくら速度上昇の腕輪を着けていたってクリスティアナ様の全力疾走よりちょっと速いくらいなのだから。
ちなみに俺は身体強化魔法を使えば馬よりも速く走ることができる。もっと言えば、ガードラーとターボユニットの魔法を併用すれば、多分100m/sくらいで走れる。絶対やらないけど。
「そうなのね~。シリウスちゃんは足が速いのね~」
王妃様はただの子供の口から出た戯言だと思っているようで、微笑ましそうにこちらを見ていた。
「お母様、冗談ではありませんわ。シリウス様なら本当にやりかねない、いえ、馬なんかよりももっと速く走れてもおかしくはありませんわ。それこそ、弓矢よりも速いかもしれません」
真剣な表情でお義母様に語りかけるクリスティアナ様。付き合いが長いだけあってさすがに鋭い。そんな娘の様子に若干腰が引き気味だった。
これはあれだ。向こうでやらかさないように気を引き締めなければいけないな。
え?俺なら光の速さでも走れそう?いやいや、光の速さで走るくらいなら瞬間移動を使うよ。その方が楽だしね。
そんな話を腕輪型になって俺の左腕に絡まっているエクスにしていると、本日の目的地の町に着いた。
本来ならば、王妃たるものが多くの護衛を伴わずに移動することはあり得ない。それを可能にしたのは昨今の魔石をめぐる魔物狩りによる治安向上であった。
美しい王都の石畳は太陽の熱を吸収し、乱反射し、茹だるような暑さを繰り出していた。
そうなれば外を出歩く人影も少なくなり、貴族連中はこぞって避暑地へと向かった。
冷風機の魔道具が開発された今年も例外ではなく、窓を閉めきっていればお茶会は可能であるとはいえ、避暑地へ向かう人も多かった。
そして、夏の暑さは貴族連中だけではなく、庶民にまでもその影響を与えていた。そう、食べ物が日持ちしなくなるのだ。
それなりの資金力のある貴族は氷の魔法を得意とする者を雇い、冷蔵室を設けて食べ物を貯蓄していたが、そうでない多くの人達は、日に日に新鮮な食べ物が手に入り難くなり、同じような物を毎日食べる羽目になっていた。
流通事情も現代とは比べものにならないほど悪く、輸送は主に馬車で行われていた。
そんな訳で、王都に残る多くの人達は、夏なんか嫌いだ!と言う者が多かったのだが、今年は事情が違った。
まず、俺が冷風機を作ったことで室内では過ごしやすくなったこと。そして、もう1つ。
冷風機の原理を流用して、庶民向けに冷蔵庫を作ったのだ。
作り方は簡単。適当な箱に冷却の魔方陣を組み込むだけだ。もちろんそれだと保温性が低いので、断熱性の高い木材を利用し、扉の部分には気密性向上のために、まるでゴムのような素材であるスライムの皮を張りつけた。
クリスティアナ様とフェオには、うげっ、といった顔をされたが、エクスからは、
「スライムの皮をそんな風に使うなんて考えてもみなかった。マスターはやっぱり天才」
と極めて高い評価を頂いた。さすがはエクス。俺の心のオアシス。
試作品を商会に持ち込むと、全員が食いついた。冷風機も凄かったが、この冷蔵庫も凄いと。王都の庶民の生活を変える革命的品だ、と絶賛され、すぐに量産された。
出来上がった商品は瞬く間に庶民に売れた。もちろん貴族向けの、外装だけ豪華版、も作ったので、そちらも飛ぶように売れた。何でも、暫くは予約でいっぱいらしい。
そうして魔道具が大量に売れると、必然的に魔石が不足してくる。
魔石が徐々に高騰してくると、今度は冒険者達がこぞって周辺の魔物を狩るようになった。魔物の持つ魔石を売ることで生計が経てられるようになったからだ。
こうして王都周辺だけでなく、町や村の近くの魔物の多くが狩られるようになり、また、魔物狩りのついでに野盗狩りも行われ、ジュエル王国の治安はとても良くなった。大変喜ばしいことだ。
この功績は、数々のヒット商品を生み出しているラファエル商会のお陰だ、といつの間にか言われるようになった。そしてその原動力は、新しく就任した商会長にある、と噂され、注目を浴びることとなった。どうしてこうなった。
・・・副商会長を含む商会員全員が我が事のように俺の自慢をするからだよ!やめて!!
「シリウスちゃんはもう時の人ね~。お義母様も鼻が高いわ~」
「は、はあ・・・」
ここは避暑地に向かう馬車の中。さすがに暑さが増してきたこともあり、我々も避暑地へと向かっていた。
ゴトゴトと道を進む馬車は、王都のように舗装されていない道を進んでいることもあり、非常に揺れが激しかった。
お尻に敷いているクッションがフカフカだから良かったものの、これ程の高級クッションを持っていない人達は尻が痛くて、相当苦労していることだろう。きっと2つに割れているはずだ。
などと現実逃避してみたものの、現状が変わることはなかった。
避暑地に向かう馬車の中にはいつものメンバーに加え、クリスティアナ様のお母様である第二王妃様が混じっていた。どうしてこうなった・・・。
ことの始まりはお父様が今年は避暑地には行けないと言い始めたことだった。
「あの国王が最近働きが悪くてな。なに、原因は分かっておる。愛娘の姿が見えないからどこか上の空なのだよ。全く、迷惑極まりない。そのうち何処かに嫁ぐことになるのだから、今の内から慣れるための練習と割り切ってしまえばいいのに。そのお陰で私が夏の間もここに残って仕事を手伝う羽目になってしまったよ。幸いにしてシリウスが作った魔道具や、この着けておくだけで快適になるネックレスのお陰で暑い王都に残っても問題なく過ごす事が出来そうだがね。え?もちろんアイツにはやらん。自業自得だ」
お父様はお母様と一緒に避暑地に行くのを楽しみにしていたため、不満タラタラだ。国王陛下をアイツって・・・まあ、それはさておき、そんなわけで今年の夏は王都で過ごすことになるのかと思っていたら、思わぬところから誘いが来た。
クリスティアナ様のお母様からだ。
何でも、クリスティアナ様と共に王妃様のご実家に来ないか、とのお誘いだ。
第二王妃様の実家は王都よりも寒い地方にある子爵家であり、広大な面積を誇る土地を有しており、農業だけでなく牧畜も盛んな地域だ。
子爵領内には国内有数の大きな湖があり、避暑地にはもってこいだった。そのため、もちろん多くの貴族達の避暑地にもなっており、大商人やお金の庶民も多数訪れていた。
王妃様が国王陛下の傍を離れると余計に不味いのではないかと思ったが、どうやらそこはしっかりと話し合ったようで、大丈夫、問題ないとのことだった。
そうなれば断ることもできず、了承せざるを得なかった。お母様も一緒に行きたがっていたのだか、お父様が泣いてまして譲らなかった。
国王陛下の娘への執着について色々と言っていたが、どっちもどっちである。敢えて言わなかったが。
そんなわけで、さっきの現実逃避のシーンに戻るのである。
「これから向かう所は牧畜が盛んなようですね。公爵領でも牧畜はやっていますが、農業ほど規模が大きくないのですよね。広大な土地に放し飼いにしていると聞いていたので、見るのが楽しみです」
「あら、そうなのね!領内では特に馬が優秀なのよ。足の速い馬が何頭もいるわ。シリウスちゃんにもいい馬を紹介してあげるわ。期待しててね」
なるほど、確かに俺は自分の馬を持っていない。今回の避暑地への旅行は馬を買いに行くという側面も含んでいるのかもしれない。
「あたしは馬よりも速く飛べるから馬なんて要らないけど、シリウスやクリピーには必要かもね。でもシリウスなら馬よりも速く走れるんじゃない?」
「走れるけど、疲れるしなぁ。楽に移動できるならそれに越したことはないよ」
それにフェオ、君は馬よりも速く飛べないだろう?いくら速度上昇の腕輪を着けていたってクリスティアナ様の全力疾走よりちょっと速いくらいなのだから。
ちなみに俺は身体強化魔法を使えば馬よりも速く走ることができる。もっと言えば、ガードラーとターボユニットの魔法を併用すれば、多分100m/sくらいで走れる。絶対やらないけど。
「そうなのね~。シリウスちゃんは足が速いのね~」
王妃様はただの子供の口から出た戯言だと思っているようで、微笑ましそうにこちらを見ていた。
「お母様、冗談ではありませんわ。シリウス様なら本当にやりかねない、いえ、馬なんかよりももっと速く走れてもおかしくはありませんわ。それこそ、弓矢よりも速いかもしれません」
真剣な表情でお義母様に語りかけるクリスティアナ様。付き合いが長いだけあってさすがに鋭い。そんな娘の様子に若干腰が引き気味だった。
これはあれだ。向こうでやらかさないように気を引き締めなければいけないな。
え?俺なら光の速さでも走れそう?いやいや、光の速さで走るくらいなら瞬間移動を使うよ。その方が楽だしね。
そんな話を腕輪型になって俺の左腕に絡まっているエクスにしていると、本日の目的地の町に着いた。
本来ならば、王妃たるものが多くの護衛を伴わずに移動することはあり得ない。それを可能にしたのは昨今の魔石をめぐる魔物狩りによる治安向上であった。
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