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商会長就任
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コンコン。ドアをノックする音が聞こえた。俺は使用人に頷きドアを開けさせた。
「失礼いたします」
入ってきたのは部屋の清掃を担当している使用人だ。当然のことながら、俺が自分の部屋を掃除することはない。全て使用人任せだ。最初は戸惑いを隠せなかったが、自分が掃除すると使用人の仕事がなくなる。そうなると路頭に迷う人達が出ることになるので、今では使用人ができることは全て任せることにしている。決して怠慢ではない。
それでもせっせと働く使用人達を見ていると、なんだか悪い気がしてしまうのは前世の記憶があるからだろうか?もっと楽に仕事ができるようにしてあげられないだろうか。
「どうしたのシリウス?さっきからあの子ばかり見てるけど。あ!もしかして・・・」
「違うから。三人もいればもう十分だから。そうじゃなくて、仕事が大変そうだな、と思ってさ」
今も眼下ではせっせと乱れたベッドを直し、床を拭き掃除し、絨毯の汚れを取っていた。それが終わると、きっと汚れ物を抱えて洗濯に走るのだろう。実に大変そうだ。
昔ながらの箒で掃いてごみを集める方法は大変そうであり、絨毯の掃除に至っては、布団叩きのようなもので叩いてごみを浮かせ、専用の箒で掃き取り、さらにブラシで掃除するという非常に手間のかかる作業だった。
そして都合の悪いことに、この手の絨毯は貴族の家には数多くあった。何せ絨毯は庶民が手を出しにくい高級品だ。貴族の見栄として、どこの屋敷にも敷いてあるのだ。
この絨毯の掃除を楽にできるようになれば、仕事の負担は一気に軽くなるだろう。日本ではどうしていたか。そう、掃除機だ。掃除機の魔道具を作ってみよう。
次なる目標ができ、思わずニヤリとする俺を見てフェオが「やっぱり・・・」と言ってきたが、断固として否定した。フェオの言葉を真に受けたクリスティアナ様が不安そうに俺の腕にしがみついてきたからだ。あらぬ誤解を解くために、先の考えを三人に話した。
「確かに絨毯の掃除は大変そうですわね。でも、あの行程を一度に終わらせるのは難しいのではありませんか?」
「確かに1つの魔方陣でするのは難しいかもしれません。なので、複数の魔方陣を1つの魔道具に組み合わせようと思っています」
そう、これまでの魔道具は1つの魔道具につき、1つの魔方陣しか組み込まれていなかった。そこで魔道具を複数組み込み、多機能の魔道具を作ってみようという算段だ。
「1つの魔道具に複数の魔方陣、そのようなお話は聞いた事がないのですが、そんなことが本当にできるのですか?」
「やってみないと分かりませんが、やってみる価値はあると思いますよ」
「そしてまたとんでもない代物を作るつもりなんでしょ?シリウスもほんと、懲りないよね~」
そんな風に思われているとは、誠に遺憾である。俺はただ、使用人達が楽に仕事ができるようにと思っているという体で、思いついた物を作りたいだけだ。
「マスターは天才。どんな物ができるか楽しみ」
エクスの尊敬の眼差しが痛い。単に前世にあった物をこちらの技術で再現しているだけなので、そんな風に純粋な目を向けられると、なんだか騙しているようで罪悪感に駆られてしまう。
いつかは三人に、俺のことについて話すべきかも知れない。今はまだ三人にどんな反応をされるのかが怖くて言い出せないけど。
さて、まずは掃除機の形だが、本体を床に置くタイプにしようと思う。この世界にはまだプラスチックがないため、どうしても金属製になってしまい重量がかさむ。それをハンディタイプでやるならば重量軽減の魔方陣を組み込むことになり、余計な魔力を消費してしまう。それに、本体床置きの方がごみが沢山入る。ごみ捨ての手間も省けて、一石二鳥だ。
本体から伸びる蛇腹のホースは軽銀製だ。軽銀とはアルミのことであり、その柔らかさゆえに利用価値が低い金属とみなされており、掘り出されてもそのまま放置されていた。アルミを利用することで安くて軽くすることができる。まさに夢の素材だ。
ノズルから先端までは悩んだ末に木製にした。やはり鉄製は重かった。木を削って作るのは大変そうだったが、クラフトの魔法によって何とか作成することができた。
本当に魔法様々だ。魔法があれば何でもできる。そりゃ科学技術が発展しないはずだ、と改めて感じた。
先端部分は細かく振動させる魔方陣が付けており、これで絨毯のごみを叩き出すようになっている。
本体側には空気を放出する魔方陣が付いている。本当は空気を吸引する魔方陣にしたかったのだが、生憎そのような魔方陣を見つけることができなかった。
そんなこんなで試作、改良を繰り返してようやく掃除機もどきが完成した。
「フッフッフ、ついに完成したぞ」
「やっとできたの?今回は結構時間がかかったわね」
「フェオ、騙されてはいけませんわ。本来ならこんな短期間で魔道具を一から作ることは不可能ですから。それこそ新しいの魔道具となれば、普通は何年もかかりますし、完成しないことの方が多いですわ」
「さすが、マスターは天才」
「あはは、ありがとうエクス。それじゃ早速、掃除機の魔道具を試しに使ってみようか」
そう言って床と絨毯に魔道具作成時に出たごみを設置した。三人が見つめる中、掃除機のスイッチを入れた。空気を叩きつける小さな振動音と、空気を吐き出す風切り音が部屋に鳴り響いた。思ったよりも五月蝿くはないようだ。
音の確認が済んだので、ノズルの先端を床のごみに向けた。先端部分が通り抜けた後にはごみはなかった。どうやら機構に問題はないみたいだ。
「ごみが無くなった!何で?」
「ごみは吸い込まれてこっちの本体の中に入ったんだよ。この先端から本体側に向かって風が流れるようになっているんだよ」
「風を送る魔方陣を使ってごみをこの本体側に送っているのですね。そして本体にはごみを集める袋がついているのですわね」
「その通りです。風は通すけど、ごみは通さないようにしてある袋が取り付けてあります。あとは溜まったごみを捨てるだけです」
「すごい、でもこの先端の音は何?」
エクスは首を傾げた。俺が無駄な機能をつけるはずがないと分かっているようで、どんな機能がついているのか楽しみ、と顔に書いてあった。
「これはね、先端が振動している音だよ。この振動で絨毯を叩いてごみを出すんだ。そうすることで絨毯の奥のごみも吸い込んで掃除できるはずだよ」
「いい考え。絨毯を叩くの、大変そうだと思ってた。それにうるさい」
「確かにバンバンうるさいよね~。早くこっちの絨毯のごみで試してみようよ」
「そうだね。では、上手くいくかな?」
絨毯の上を掃除機の先端が通ると、ごみは綺麗に無くなった。どうやら上手くいったようだ。これで絨毯も簡単に掃除できるようになるはずだ。
「素晴らしいですわ!こんなに綺麗になりましたわ。この掃除機を使えばお掃除も早く、楽にできるようになりますわ」
「そうですね。では試しに使用人達に使ってもらいましょう。後で使い心地を聞いて改良点を洗い出し、完成品としていくつか作ってみますかね」
試作機1号を見た使用人はこれが何の魔道具なのか分からないため、初めはギョッとした顔をした。だが、使い方と用途を説明すると、半信半疑ではあったが理解してもらうことができ、実際に仕事で使ってもらえることになった。
使うように命令すればいいのに、とフェオが言ってきたが、個人的には命令するのは好きではない。だが、将来公爵になる身としては命令する事に今のうちから慣れておく必要があるのかも知れない。郷に入れば郷に従え。わがままばかりは言ってられない。
それから数日がたった。試作機1号の評価は・・・大人気だった。掃除がとても早く終わり、楽で、綺麗になると。使い勝手の悪い箇所、例えば持ち手が握り難いとか、本体の動きが悪い、などの点を改良し、シリウス製掃除機は完成した。
広い公爵家を隅々まで掃除できるように5台ほど作成しておいた。そして何が気に入ったのか、クリスティアナ様も時々掃除機を使って俺達の部屋を掃除していた。
そう、俺達の部屋だ。クリスティアナ様専用の部屋は用意してあるのだが、彼女はほとんどその部屋に居なかった。どこに入り浸っているのかと言えば、当然、俺の部屋だ。
だったらもうシリウスの部屋にクリスティアナ様の必要な物を持ち込んで、そこに住むようにすればいいとのお母様の大変有難いお言葉により、ひとつ屋根の下、同じ部屋に暮らすことになった。
どうしてこうなった。
とある夕暮れの晩餐会。和やかに進む食事中に、その話はお母様の口から出た。
「シリウス、貴方が作った掃除機の魔道具をぜひ売ってくれないかとお友達から言われたのよ。当然、お母様はお断りしたのよ。でも、その友達は私の親友でね、どうしてもって言われちゃって・・・駄目かしら?」
両手を合わせながら上目遣いで聞いてきた。駄目だろう、その仕草。惚れて・・・いや、断り難い。両手を組んで考えた振りをしながら答えた。
「分かりました。今回だけですよ。私は魔道具製造を生業としてる訳ではないのですから。それでいくついるのですか?」
「えっとね、20機くらいかな・・・」
「20!?」
「20!?」
「たくさん」
思わず驚愕の声を上げてしまった。20機も、どこに配るつもりだよ。
「あの、お義母様、どなたに頼まれたのですか?」
「もちろん、クリスティアナ様のお母様よ」
やっぱり、という顔をするクリスティアナ様。確かに城で使うなら、その数でも足りないかもしれない。
それにそうだよね。公爵夫人に物を頼める人なんて、同じ公爵家か王族しかいないよね。
俺には、分かりました、と言う選択肢しかなかった。お金はちゃんとシリウスに渡すからと言われたが、別にお金には困ってないので公爵家の帳簿につけといて下さいと言っておいた。
いくらになるのか知らないが、子供がお金を持ってもねぇ。それに何か買おうとしたら、全て公爵家からお金が出てくるし、現金は必要ない。
「あ、そうそう!」
パチン、とお母様が両手を叩いた。何だろう、悪い予感がする。
「シリウスが改良したランプも評判なのよ。お母様も鼻が高いわ~。それでね、ランプも欲しいと言われちゃってね~・・・」
結局ランプも大量に作ることになった。俺は早めに設計図を工房に売りにいこうと決めた。
「こ、この設計図を売って下さると!?」
以前見学させてもらったラファエル商会に再びお邪魔した。相変わらず驚いた様子で迎えられたが、件の設計図を見せると物凄い勢いで食いついた。
結果、新型ランプと掃除機の設計図は高く売れた。それだけではない。なんとランプと掃除機が売れる度に利益の一部を還元するというのだ。設計図の売却費用だけでもかなりの収入があったので初めはお断りしたのだが、利益の一部を還元するのはこの業界の決まりなのでどうかお受け取り下さい、と言われたのでそれ以上は何も言えなかった。
今後も何か魔道具を作るかもしれないので、その時はよろしくね、と気軽に言ったら、ぜひこの商会のパトロンになって下さいと言われた。断る理由もなかったので気軽に了承したら、何故かこの商会が俺の傘下に、つまりはガーネット公爵家の傘下に入ることになった。パトロンは後援者であり、支配する立場にはならないと思っていたので困惑していると、商会名をシリウス商会にしたいと言ってきたので、全力でお断りした。
次にその商会を訪れると俺は商会長に就任していた。子供なのに。
どうしてこうなった。
ちなみに前の商会長は副商会長というポジションにいた。それでいいのかこの商会。
「失礼いたします」
入ってきたのは部屋の清掃を担当している使用人だ。当然のことながら、俺が自分の部屋を掃除することはない。全て使用人任せだ。最初は戸惑いを隠せなかったが、自分が掃除すると使用人の仕事がなくなる。そうなると路頭に迷う人達が出ることになるので、今では使用人ができることは全て任せることにしている。決して怠慢ではない。
それでもせっせと働く使用人達を見ていると、なんだか悪い気がしてしまうのは前世の記憶があるからだろうか?もっと楽に仕事ができるようにしてあげられないだろうか。
「どうしたのシリウス?さっきからあの子ばかり見てるけど。あ!もしかして・・・」
「違うから。三人もいればもう十分だから。そうじゃなくて、仕事が大変そうだな、と思ってさ」
今も眼下ではせっせと乱れたベッドを直し、床を拭き掃除し、絨毯の汚れを取っていた。それが終わると、きっと汚れ物を抱えて洗濯に走るのだろう。実に大変そうだ。
昔ながらの箒で掃いてごみを集める方法は大変そうであり、絨毯の掃除に至っては、布団叩きのようなもので叩いてごみを浮かせ、専用の箒で掃き取り、さらにブラシで掃除するという非常に手間のかかる作業だった。
そして都合の悪いことに、この手の絨毯は貴族の家には数多くあった。何せ絨毯は庶民が手を出しにくい高級品だ。貴族の見栄として、どこの屋敷にも敷いてあるのだ。
この絨毯の掃除を楽にできるようになれば、仕事の負担は一気に軽くなるだろう。日本ではどうしていたか。そう、掃除機だ。掃除機の魔道具を作ってみよう。
次なる目標ができ、思わずニヤリとする俺を見てフェオが「やっぱり・・・」と言ってきたが、断固として否定した。フェオの言葉を真に受けたクリスティアナ様が不安そうに俺の腕にしがみついてきたからだ。あらぬ誤解を解くために、先の考えを三人に話した。
「確かに絨毯の掃除は大変そうですわね。でも、あの行程を一度に終わらせるのは難しいのではありませんか?」
「確かに1つの魔方陣でするのは難しいかもしれません。なので、複数の魔方陣を1つの魔道具に組み合わせようと思っています」
そう、これまでの魔道具は1つの魔道具につき、1つの魔方陣しか組み込まれていなかった。そこで魔道具を複数組み込み、多機能の魔道具を作ってみようという算段だ。
「1つの魔道具に複数の魔方陣、そのようなお話は聞いた事がないのですが、そんなことが本当にできるのですか?」
「やってみないと分かりませんが、やってみる価値はあると思いますよ」
「そしてまたとんでもない代物を作るつもりなんでしょ?シリウスもほんと、懲りないよね~」
そんな風に思われているとは、誠に遺憾である。俺はただ、使用人達が楽に仕事ができるようにと思っているという体で、思いついた物を作りたいだけだ。
「マスターは天才。どんな物ができるか楽しみ」
エクスの尊敬の眼差しが痛い。単に前世にあった物をこちらの技術で再現しているだけなので、そんな風に純粋な目を向けられると、なんだか騙しているようで罪悪感に駆られてしまう。
いつかは三人に、俺のことについて話すべきかも知れない。今はまだ三人にどんな反応をされるのかが怖くて言い出せないけど。
さて、まずは掃除機の形だが、本体を床に置くタイプにしようと思う。この世界にはまだプラスチックがないため、どうしても金属製になってしまい重量がかさむ。それをハンディタイプでやるならば重量軽減の魔方陣を組み込むことになり、余計な魔力を消費してしまう。それに、本体床置きの方がごみが沢山入る。ごみ捨ての手間も省けて、一石二鳥だ。
本体から伸びる蛇腹のホースは軽銀製だ。軽銀とはアルミのことであり、その柔らかさゆえに利用価値が低い金属とみなされており、掘り出されてもそのまま放置されていた。アルミを利用することで安くて軽くすることができる。まさに夢の素材だ。
ノズルから先端までは悩んだ末に木製にした。やはり鉄製は重かった。木を削って作るのは大変そうだったが、クラフトの魔法によって何とか作成することができた。
本当に魔法様々だ。魔法があれば何でもできる。そりゃ科学技術が発展しないはずだ、と改めて感じた。
先端部分は細かく振動させる魔方陣が付けており、これで絨毯のごみを叩き出すようになっている。
本体側には空気を放出する魔方陣が付いている。本当は空気を吸引する魔方陣にしたかったのだが、生憎そのような魔方陣を見つけることができなかった。
そんなこんなで試作、改良を繰り返してようやく掃除機もどきが完成した。
「フッフッフ、ついに完成したぞ」
「やっとできたの?今回は結構時間がかかったわね」
「フェオ、騙されてはいけませんわ。本来ならこんな短期間で魔道具を一から作ることは不可能ですから。それこそ新しいの魔道具となれば、普通は何年もかかりますし、完成しないことの方が多いですわ」
「さすが、マスターは天才」
「あはは、ありがとうエクス。それじゃ早速、掃除機の魔道具を試しに使ってみようか」
そう言って床と絨毯に魔道具作成時に出たごみを設置した。三人が見つめる中、掃除機のスイッチを入れた。空気を叩きつける小さな振動音と、空気を吐き出す風切り音が部屋に鳴り響いた。思ったよりも五月蝿くはないようだ。
音の確認が済んだので、ノズルの先端を床のごみに向けた。先端部分が通り抜けた後にはごみはなかった。どうやら機構に問題はないみたいだ。
「ごみが無くなった!何で?」
「ごみは吸い込まれてこっちの本体の中に入ったんだよ。この先端から本体側に向かって風が流れるようになっているんだよ」
「風を送る魔方陣を使ってごみをこの本体側に送っているのですね。そして本体にはごみを集める袋がついているのですわね」
「その通りです。風は通すけど、ごみは通さないようにしてある袋が取り付けてあります。あとは溜まったごみを捨てるだけです」
「すごい、でもこの先端の音は何?」
エクスは首を傾げた。俺が無駄な機能をつけるはずがないと分かっているようで、どんな機能がついているのか楽しみ、と顔に書いてあった。
「これはね、先端が振動している音だよ。この振動で絨毯を叩いてごみを出すんだ。そうすることで絨毯の奥のごみも吸い込んで掃除できるはずだよ」
「いい考え。絨毯を叩くの、大変そうだと思ってた。それにうるさい」
「確かにバンバンうるさいよね~。早くこっちの絨毯のごみで試してみようよ」
「そうだね。では、上手くいくかな?」
絨毯の上を掃除機の先端が通ると、ごみは綺麗に無くなった。どうやら上手くいったようだ。これで絨毯も簡単に掃除できるようになるはずだ。
「素晴らしいですわ!こんなに綺麗になりましたわ。この掃除機を使えばお掃除も早く、楽にできるようになりますわ」
「そうですね。では試しに使用人達に使ってもらいましょう。後で使い心地を聞いて改良点を洗い出し、完成品としていくつか作ってみますかね」
試作機1号を見た使用人はこれが何の魔道具なのか分からないため、初めはギョッとした顔をした。だが、使い方と用途を説明すると、半信半疑ではあったが理解してもらうことができ、実際に仕事で使ってもらえることになった。
使うように命令すればいいのに、とフェオが言ってきたが、個人的には命令するのは好きではない。だが、将来公爵になる身としては命令する事に今のうちから慣れておく必要があるのかも知れない。郷に入れば郷に従え。わがままばかりは言ってられない。
それから数日がたった。試作機1号の評価は・・・大人気だった。掃除がとても早く終わり、楽で、綺麗になると。使い勝手の悪い箇所、例えば持ち手が握り難いとか、本体の動きが悪い、などの点を改良し、シリウス製掃除機は完成した。
広い公爵家を隅々まで掃除できるように5台ほど作成しておいた。そして何が気に入ったのか、クリスティアナ様も時々掃除機を使って俺達の部屋を掃除していた。
そう、俺達の部屋だ。クリスティアナ様専用の部屋は用意してあるのだが、彼女はほとんどその部屋に居なかった。どこに入り浸っているのかと言えば、当然、俺の部屋だ。
だったらもうシリウスの部屋にクリスティアナ様の必要な物を持ち込んで、そこに住むようにすればいいとのお母様の大変有難いお言葉により、ひとつ屋根の下、同じ部屋に暮らすことになった。
どうしてこうなった。
とある夕暮れの晩餐会。和やかに進む食事中に、その話はお母様の口から出た。
「シリウス、貴方が作った掃除機の魔道具をぜひ売ってくれないかとお友達から言われたのよ。当然、お母様はお断りしたのよ。でも、その友達は私の親友でね、どうしてもって言われちゃって・・・駄目かしら?」
両手を合わせながら上目遣いで聞いてきた。駄目だろう、その仕草。惚れて・・・いや、断り難い。両手を組んで考えた振りをしながら答えた。
「分かりました。今回だけですよ。私は魔道具製造を生業としてる訳ではないのですから。それでいくついるのですか?」
「えっとね、20機くらいかな・・・」
「20!?」
「20!?」
「たくさん」
思わず驚愕の声を上げてしまった。20機も、どこに配るつもりだよ。
「あの、お義母様、どなたに頼まれたのですか?」
「もちろん、クリスティアナ様のお母様よ」
やっぱり、という顔をするクリスティアナ様。確かに城で使うなら、その数でも足りないかもしれない。
それにそうだよね。公爵夫人に物を頼める人なんて、同じ公爵家か王族しかいないよね。
俺には、分かりました、と言う選択肢しかなかった。お金はちゃんとシリウスに渡すからと言われたが、別にお金には困ってないので公爵家の帳簿につけといて下さいと言っておいた。
いくらになるのか知らないが、子供がお金を持ってもねぇ。それに何か買おうとしたら、全て公爵家からお金が出てくるし、現金は必要ない。
「あ、そうそう!」
パチン、とお母様が両手を叩いた。何だろう、悪い予感がする。
「シリウスが改良したランプも評判なのよ。お母様も鼻が高いわ~。それでね、ランプも欲しいと言われちゃってね~・・・」
結局ランプも大量に作ることになった。俺は早めに設計図を工房に売りにいこうと決めた。
「こ、この設計図を売って下さると!?」
以前見学させてもらったラファエル商会に再びお邪魔した。相変わらず驚いた様子で迎えられたが、件の設計図を見せると物凄い勢いで食いついた。
結果、新型ランプと掃除機の設計図は高く売れた。それだけではない。なんとランプと掃除機が売れる度に利益の一部を還元するというのだ。設計図の売却費用だけでもかなりの収入があったので初めはお断りしたのだが、利益の一部を還元するのはこの業界の決まりなのでどうかお受け取り下さい、と言われたのでそれ以上は何も言えなかった。
今後も何か魔道具を作るかもしれないので、その時はよろしくね、と気軽に言ったら、ぜひこの商会のパトロンになって下さいと言われた。断る理由もなかったので気軽に了承したら、何故かこの商会が俺の傘下に、つまりはガーネット公爵家の傘下に入ることになった。パトロンは後援者であり、支配する立場にはならないと思っていたので困惑していると、商会名をシリウス商会にしたいと言ってきたので、全力でお断りした。
次にその商会を訪れると俺は商会長に就任していた。子供なのに。
どうしてこうなった。
ちなみに前の商会長は副商会長というポジションにいた。それでいいのかこの商会。
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