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オリハルコンの秘密

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「わぁ!おっきな建物!これ、もしかして杖のお店?」
「その通り。杖は必需品だからね。この店は王都で最大級の杖を取り扱っている店だよ」
 立派な店構えの入り口には警備員らしき屈強な人達が睨みを効かせ、その上には杖を象った年代物の看板が掲げられていた。
 古くからある老舗というのは信頼の証でもある。怪しい杖のお店など、すぐに国や領主によって潰されるのだ。
 杖の流通を管理することは治安維持に繋がる。この国の、いや、この世界の常識である。
「杖が実際に売られているところなど初めて来ましたわ。何だかドキドキしますわね」
 キョロキョロ、ソワソワと辺りを見回すクリスティアナ様。この店のチョイスは間違っていなかったようだ。杖が嫌いな人などいない。みんな大好きである。
 高貴な貴族は杖を買いに店までは行かない。選りすぐりの杖を家まで持ってきてもらうのが常識だ。そこは王族も同じであり、こんなに大量の杖が並んでいる様子など見たこともないだろう。
 店は今日も盛況だった。多くの人で賑わっており、市民から商人、騎士、傭兵、ご隠居など、あらゆる職種の人が訪れている。
 ズラリと並べられた杖は、木製の物から金属製、石材を加工した物や魔物の一部を使った物まであった。
 杖の長さも色々である。短い指揮者が振るタクトのようなサイズ、山歩きにも使えそうな長い杖や腰に差す脇差しサイズの物、背中に背負って持ち運ぶ、先頭に鈍器が付いた杖まであった。
 それらに特に有利不利はなく、自分に合った杖を選ぶのが一般的だ。それに、一人一本、ではなく、一人で何本もの杖を持っているのが普通だ。杖を沢山持っていることがそれだけでステータス、と思っている人もいるらしい。まあ、それだけこの世界で杖が重要だということだ。
「あたしも杖を使ってみようかな~?」
 フェオが不吉なことを言ってきた。
 杖は魔法の発動媒体と共に、威力や精度をブーストさせるためのアイテムだ。既にとんでもない威力となっているのに、さらにブーストするなど考えるだけで恐ろしい。
「フェオ、俺はフェオが指をチョイチョイと可愛く振って魔法を使う方が好きだな」
 ほえ?と振り向いたフェオに極上の貴公子スマイルを向けた。
 一気に真っ赤になったフェオはすぐに、ばか、と言ってプイとそっぽを向いた。これで恐らくは一安心。危ないところだった。
「そういえば、シリウス様はあまり杖を持っていませんわね。それによくよく考えると、今使っている杖はあれなのでは?」
 首を傾げたクリスティアナ様が示した所には、初めて魔法を使う人はまずはこれから!と書かれた看板があり、同じ素材で作られた、同じ形をした量産品の杖が並べられていた。その杖は、まさに俺が持っている杖と瓜二つだった。
「ほんとだ!そっくり、じゃなくて、これだわ!沢山あるし!なになに、初心者でも安心して魔法が使えるように、特別に威力が弱まるように作られています、だって。ただの粗悪品じゃん。シリウス、こんなの使ってるの?」
 ひどい言い様である。事実かもしれないけど。
 なんて答えようか迷っていると、
「粗悪品であれだけの魔法が使えますの・・・!?」
 驚愕の目でクリスティアナ様がこちらを見ていた。あー、宜しくない、宜しくないぞこの状況。
「私ほどのレベルになれば、杖など選ばないのですよ」
 弘法筆を選ばず、ならぬシリウス杖を選ばず、である。
「な、なるほど」
 あ、納得するんだ、そこ。突っ込まれなくて良かった。
「シリウスは、杖、いらないもんね」
「・・・」
 そうだけど、そうじゃない。沈黙は金、と言う。ここは黙っておこう。
 杖販売店に俺が足を向ける理由はただ一つ。もちろん魔王の杖らしき物がないかを調べるためである。
 店で売られている杖は新しく作られたものばかりではない。古い遺跡から発見されたもの、古い蔵から見つかったもの、宝物庫から出てきたものまで、様々なものが売られている。
 この中には当然、怪しげな杖も含まれるのだ。それらの杖を調べ上げ、問題ないかを把握する。問題があれば購入して、へし折る。
 魔法の杖は折れたら終わりである。修復は不可能であり、直した所でただの棒切れとなっているので、博物館くらいしか行くところがない。
 完全に破壊する必要がないのでその辺りは楽である。
 新しく入荷した杖が置いてあるコーナーに行くと、片っ端から鑑定していった。
 そして、その鑑定のために魔法も創っていた。その名も鑑定眼。そのまんまである。眼にしたのは他の人に鑑定していることがバレないようにするためである。そうして俺は誰にもバレることなく、杖の鑑定を行っていった。
「あれ?シリウスのその目・・・もしかして、魔眼!?」
 フェオが驚きの声を上げた。
「え?魔眼!?」
 俺も驚きの声を上げた。なぜ魔眼が俺の目に・・・?まさか、フェオ。
「フェオ、いつの間に俺の目を魔眼にしたんだ?気が付かなかったぞ」
「いやいやいやいや、してないって、そんな事!」
 両手をブンブンと振って全力で否定している。じゃあ何で?と首を捻った。
「シリウス、何か魔法使ってる?」
「ええと、鑑定の魔法を使ったけど?」
「なんて魔法?」
「鑑定眼と言う魔法だけど」
「・・・それだわ、きっと。その魔法、多分、一時的にシリウスの目を魔眼にするのよ。なんて魔法創り出してるのよ」
 いや、そう言われても・・・自分の目を魔眼にしようと思って創った訳じゃないですし。しかもかなり呆れた様子でこちらを見ている。
「ごめんなさい」
 取り敢えず、謝っておいた。
 鑑定眼の魔法を教えて欲しそうにこちらを見ているクリスティアナ様に向かって、魔眼いる?とフェオが両手をシュッシュッと突き出していた。
 クリスティアナ様は青い顔でブンブンと首を横に振っていた。

 本の大量購入と杖の調査も完了し、次なる目的地である工房地区へと向かった。
 この辺りは衣服、杖、武器、防具、装飾品、魔道具から日用品まで、様々な工房が立ち並び、男心をくすぐる地区である。
 先に購入した宝石の加工方法を学んだり、実際に物が作り出される現場を見ることで、この世界の技術水準を測ろうという算段である。
 もちろんここには、三人も来たがっており、出来上がり品しか見たことがない我々にとっては大きな刺激となるだろう。
 先程までの喧騒とは違い、ここではトントンカンカンと何かを叩く音、バタンバタンと何かを織る音、シュッシュッと何かを削る音が絶え間なく聞こえていた。人の話し声は僅かばかりで、まさに職人街といった様相を呈していた。
 そしてそんな場所に来る物好きな高貴な貴族はおらず、毎回ギョッとした目で見られることとなった。
「この大きな美しい布からドレスが出来上がるのですわね。どのようにしたらドレスになるのか、考えも及びませんわ。それにレースの刺繍もこんなに沢山!目移りしてしまいますわ」
 今まで見てきた服はそのごく一部、ということに気がついたようだ。そして、とても服を作ることに興味を持ったようだ。クリスティアナ様が考えた服、見てみたい気もする。
「フェオ専用の服を作ってみてはどうですか?フェオはいつも格好をしてますし、違うバージョンがあってもいいと思うんですよね」
「まあ、それはいい考えですわ!」
 パチンと両手を打ったクリスティアナ様。早速、実際に服を作る所を見せてもらいに行ったようだ。今の話はフェオには聞こえてなかったみたいだ。これはフェオの驚く顔が見れるかも知れないぞ、と一人ほくそ笑んだ。
 杖作りは思ったよりも簡単な作業だった。
 持ち易いように木や金属を加工し、場合によっては宝石や魔物の素材を取りつけたり、中に仕込んだりするだけである。
 杖作りに重要な物はその素材であり、素材を集めることが非常に大変であった。
 傭兵ギルドに頼むことである程度の物は揃えることができるが、それにかかる時間はまちまちであり、安定して供給することができない。その様な事情もあり、効果の高い杖のほとんどがオーダーメイドである。そして、強力な杖は値段もビックリするほど高価だった。
 杖や武器防具として使われている金属は、鉄や鋼が主であり、特殊な金属として魔鉄、ミスリル、オリハルコンなどがあった。オリハルコンは名前だけが伝わっている金属であり、本当に有るのかも疑わしいとのことだった。
 そこで、まさに金属の具現化とも言えるエクス先生に聞いてみた。
「エクス、オリハルコンっていう金属は存在するのかな?」
「ある。私がそう」
 え?何か予想外の答えだった。どういうことなのかと困惑していると、エクスが言葉を続けた。
「オリハルコンは魔力の塊。魔力を固めるとオリハルコンになる」
「えっと、じゃあエクスは魔力の塊というわけかな?」
「そう」
 なるほど、ある意味で妖精のフェオと同じ存在というわけか。だから自在に形を変えられる。金属であって、金属でない。
「それでは、魔力を固めれば誰でも作りだすことができるということですの?」
 少し期待の混じった目でクリスティアナ様が聞いてきた。
「そう。でもシリウス以外は魔力が足らなくて無理」
 そうなのか。俺、オリハルコン作れちゃうのか。作らないけど。じっとクリスティアナ様がこちらを見ているが、気づかない振りをした。気がついたら負けだ。
「じゃあさ、シリウスなら妖精も作れるんじゃない!?」
 物凄く期待に満ちた目でフェオがこちらを見てきた。
 確かに、その可能性はあるのかも知れない。それはすなわち、フェオとの間に子供を作ることが可能であることを示している。と、いうことは・・・。
「シリウスなら新しい聖剣も作れる」
 期待に満ちた目でエクスが見てきた。それはすなわち、エクスとの間にも・・・一応、私、人間のつもりなんですが、何か自信がなくなってきた。
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