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小さな英雄④

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「やはり分家の連中の仕業だったよ。まさか魔族と取り引きをしているとは思わなかったがね」
 国王陛下は深いため息をついた。まさか魔族と取り引きをしているとは、と再びため息をついた。よほどショックだったのだろう。魔族などお伽噺の中の話だと思っていたものが実際に存在していたのだから。
「よくまあそんなに簡単に話してくれましたわね」
 クリスティアナ様のお母様が首を傾げながら疑問を口に出した。
「それがな、どうやらウッカリ口から溢れてしまったらしい。自分で言っておいて、慌てた口を押さえておったそうだ。それも、何度もな」
「まあ!そのような者を利用するだなんて。侯爵家は余程の人手不足だったのかしら?お陰でこちらは楽に情報が得られてよかったのですけれどもね」
 懐疑的な部分もあるようだが「有用な情報を得られてよかったわ」と喜んでいた。
 ウッカリと口を滑らせる魔法、ウッカリハチベエを念のため犯人に使っておいてよかった。情報を制することはやはり正義だな。
「シリウスがあんなに脅かすからよ」
 フェオがニヤニヤしながら言った。確かに脅かしたけれども本気じゃなかったし。
「確かにあのときのシリウス様のお顔を見たら、何でも話してしまいそうですわ」
 その時を思い出したのか、クリスティアナ様がブルッと震えた。
「そ、そんなに・・・?オ、オッホン。それでな、魔族の力を借りる見返りとして、どうやら聖剣のことを探っていたようだ。おそらく魔族は聖剣が抜かれたことを察知したのだろう。魔族を滅することができる聖剣の復活を無視することは出来なかったのだろう」
「ですが、聖剣を私が抜いて、かつ、私が所有しているという情報は、どこにも出回っておりませんよね?」
「その通りだ。何の情報も得られず、そんな物は存在しなかった、と報告したようだ。今のところは聖剣の存在は表には出ていないようだ」
 聖剣は俺の左手に腕輪の状態で納まっている。そして、聖剣を抜いた理由は特に無し。なぜなら、独りでに抜けて俺の所に飛んできたのだから。何で独りでに抜けたのか、俺が聞きたい。
 え?なになに、俺と一緒に居たかったから?ナンデ!?
 ・・・・・・
 言わせんなよ、恥ずかしい!と言うことか。
 聖剣エクスカリバーは沈黙した。これには俺も閉口するしかなかった。まさかこんなにモテる日が来るとは・・・
「最終的な狙いはやはりお父様の地位だったのでしょうか?」
「ああ、恐らくな。侯爵家には兵を送っている。すぐに決着がつくだろう。これまでは手を出せなかったが、ようやくその機会がやって来た。必ず潰すつもりだ」
 さすがに腹に据えかねたのだろう。この時ばかりは獰猛な目をしていた。これが本気の国王陛下の姿か。
「シリウスは良くやってくれた。何か褒美を出さねばな」
 いつもの顔に戻った国王陛下はこちらを見据えてそう言った。
「いえ、国王陛下。この度の功労者は私ではなく、フェオですよ。彼女の力なくしては解決にもっと時間と労力がかかったことでしょう」
 フェオの方をチラリと見ると、胸を張って頷いていた。
「おお、そうであったのか!フェオ様、この度は本当にありがとうございました」
 深々と頭を下げた。妖精はこの国の、いや、世界各地で伝説の存在であり、神の使いでもあるので、たとえ国王陛下であっても自然とこの扱いになるようだ。
 普段、ぞんざいに扱っている感がある俺は、いつか信者に刺されるかもしれない・・・。
「フェオ様にはこの国を救って下さったお礼として、子爵位を授けさせていただきたいと思っております」
「子爵位~?そんなのもらっても食べられないしな~」
「それならば、この子爵位はフェオ様がひとまずはお持ちになり、必要な時に、誰にでも、フェオ様が授けられるように致しましょう」
 う~ん、と首を捻るフェオ。あげる人とか居ないしな~、とか呟いている。
「それならフェオ、俺の子供に授けてくれよ。子供は二人以上欲しいからさ。二人目の子にも爵位があれば、安心だしね」
「うん、分かった!そうする~!」
 なんとかフェオに褒美を取らせることに成功したようだ。これでこれ以上俺が目立つこともあるまい。
「これでクリピーも安心だね!って、どうしたの!?全身ゆでダコみたいに真っ赤だよ!?」
 そこにはゆでダコになったクリスティアナ様がいた。子供の作り方を想像したのか、それとも、早くも結婚後のことを俺が言い出したことに照れているのかは定かではなかったが、国王陛下の顔が険しくなったことだけは確かだった。
「あらあら、仲がよろしいこと。お母様は嬉しいわ。シリウスもしっかりとクリスティアナを守ってくれたのだから、何も無し、という訳にはいかないわね。何か欲しい物はないかしら?」
「それでは、透明マントをいただけませんか?」
「何?透明マントが欲しいだと?」
「シリウス、何に使うつもりなの?あ、分かった!いやらしことに使うつもりでしょ!あの角度はクリピーのおっぱいはしっかりと見えないもんね~」
 ハッ!と我に返ったクリスティアナ様が、ガバッと音がしそうな勢いで自分の胸を両腕で隠した。
「ち、違うし!クリスティアナ様にあげようと思っただけだし!」
「え?私に、ですか?」
 きょとんとした顔で首を傾げるクリスティアナ様。どうして折角もらえる褒美の品を私にくれるのか、と如実に語っていた。
「そうです。クリスティアナ様に、です。今回は偶然にも私とフェオがいたから事なきを得ましたが、次も同じようにいくとは限りません。せめて、私が駆けつけるまでの時間を稼げるようになって頂きたい。このマントがあれば、余程のことがない限り見つかることはありません。助けが来るまで安全に身を隠すことができるはずです」
「シリウス様・・・それほどまでを私のことを・・・」
 大きな瞳に涙を浮かべ、ヒタ、とこちらを見つめている。今にも涙が溢れそうだ。
「でも、シリウスなら転移魔法であっという間に駆けつけられそうだけどね~」
「それはそう・・・いやいやいやいや、無理だからね、そんなこと!」
「転移魔法、とは?」
 首を傾げるクリスティアナ様。転移なんて言葉はご存知ないようだ。
「あのね、どこでも好きな所に瞬時に行くことができる魔法だよ!」
「!!そんな魔法が使えるのですか!?」
「いや、使えないからね!?」
 使えるけど、そんな魔法使ったら、とてもよろしくない気がする。今は黙っておこう。
 チラリと国王陛下夫妻を見ると、完全に疑いの目を向けられていた。
 フェオめ、余計なことを・・・。
「透明マントが欲しい、か。そうか・・・」
「良いではありませんか。クリスティアナが持つのなら、王家が所有しているも同然。他家に渡る訳ではないのですから。陛下もクリスティアナの事が心配でしょう?」
 ああ、そうだな、と言いながらも、国宝級のアイテムを前に決断できない様子だった。
 これがあれば、他国の情報は簡単に知る事ができる。その情報を使えば有利に物事を運ぶ事ができるはずだ。国益を優先するならば、このマントは国が持つべきだろう。
「はぁぁ」
 王妃様がらしからぬほど深いため息を吐いた。
「あなた、小さな英雄を敵にまわすおつもり?」
「このマントをシリウスに授けよう」
 曇りなき笑顔で、国王陛下は即答した。
 後にフェオからは、シリウスが王様から脅し取った、と散々言われた。
 そんなつもりは微塵もなかったのに・・・
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