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聖剣②
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「つまんない~。クリピーは何処か面白い場所は知らないの?」
宝物庫探検が不発に終わり、フェオが膨れっ面でクリスティアナ様に無茶振りを始めた。
「う~ん、私もお城の中を全部知っている訳ではないのですよね。困りましたわね」
頭に手を当てて考えこんだ。それもそのはず。ジュエル王国のお城は広く、まだ子供の王女殿下が城の隅々まで知っているはずはないだろう。しかし、無下にするとフェオに何されるか分からない。本当に頭が痛いことだろう。
「シリウスは何かいい案はない?」
どうやらフェオは何が何でも探険を続けたいようだ。長い時を経てようやく外に出ることが出来たのだ。色んな場所に行ってみたいという気持ちはよくわかる。しかし俺は一応無理を言ってお城に宿泊させてもらっている身。そう簡単にウロチョロする訳にはいかない。どうするべきか。
「そうだ、この城の中でクリスティアナ様が行った事の無い場所に行くのはどうかな?クリスティアナ様にも新しい発見があるだろうし、ちょっとした冒険にもなるよ」
「いいねそれ!クリピー、どっちに行く?」
「そうですわね・・・」
「お待ちなさい」
思案しながらも納得した様子のクリスティアナ様が答えを出そうとしたところに、後ろから老齢と男性と思われる人物からの声が聞こえた。
二人と一匹が振り返ると、そこには立派な白い髭に立派な身なりの老人が立っていた。
「お祖父様!」
クリスティアナ様が声を上げた。どうやら、先代の国王のようだ。俺が生まれた時にはすでに現在の国王陛下に王位を継承しており、この日初めてお顔を拝見した。引退した身とはいえ、王のオーラは未だ健在だった。
「お初にお目に掛かります。クリスティアナ様の婚約者のシリウス・ガーネットです。こちらは私と主従関係を結んだ妖精のフェオです」
「ふむ。噂は聞いておるよ。我が孫のクリスティアナの為に色々と良くしてくれているとな。ありがとう」
そう言って、暖かい眼差しをこちらに向けた。どうやら国王陛下のように敵視はされていないようだ。いや、親バカなだけで、敵視はされていないのかもしれない。
「いえ、お礼など不要です。当然の事をしているだけです」
「クリピーにゾッコンだもんね。ヒュー、ヒュー、熱いねお二人さん!」
フェオが茶々を入れてきた。ホントに何処からそんな言葉を覚えて来るのか。
クリスティアナ様は林檎の様に真っ赤になっていた。さすがピュアピュアお嬢様、全く耐性がないな。
それにしても、これから適当に探険しようとした所に都合良く登場したな、と思っていると、警備兵と目が合った。
なるほど。どうやらこの人が我々が手をつけられなくなる前に呼んだらしい。やるじゃない。
「何やら城内を探険すると小耳に挟んだが・・・そうだな。日頃のお礼も兼ねて、ワシが案内しよう」
ごく自然な流れで案内役を買って出た。さすがは元国王だけあって場の空気を読むのに長けている。見習わなければ。
先代国王を仲間に加えた一行は城から渡り廊下を通った所にある温室へとやってきた。
中に入ると、モワッとした、どこか植物園で嗅いだことのある独特の緑の香りが出迎えてくれた。
「ここは王宮自慢の温室じゃよ。薬になる薬草は勿論のこと、珍しい草花も育てておる。この部屋が暖かいのはこの部屋のほぼ全面がガラス張りになっており、光は通すが熱は通さない構造になっているからじゃよ」
「ふ~ん、ガラスを使うと暖かくかるんだね~」
「おや、シリウスは驚かぬか」
「ええ、まあ。家にもありますからね」
「え~!シリウスの家にも同じ物があるの!?もしかして、シリウスってお金持ち?」
「あはは、まあね」
とりあえず、笑って誤魔化そう。フェオに話すと長くなりそうだ。
フェオは感心している様子だったが、温室はガーネット公爵家にもあった。それも、ここよりも広く、温度、湿度管理が徹底されていた。
勿論、薬草や希少な草花を栽培したり、植物の品種改良を行って収穫量や品質の向上を高める努力を怠ってなかった。
さらに公爵家にはビニールハウスもあった。素材は勿論、俺が作り出した。水と空気から作り出せないかと試行錯誤していたら、なんかできた。
これにより我が領地では、ビニールハウスで苗を作り、それを畑に植え付ける栽培方法が可能になり、収穫量や品質が向上していた。そのため、特段ガラス張りの温室は特に珍しくもなかった。しかし、そのことを王家が知らなくても大丈夫なのだろうか?まあいいか。そこのところはお父様の仕事だよね?
次は調理場へとやってきた。突然現れた王家の面子にも関わらず、特に動揺することもなく粛々と対応していた。どうやら身分が高い人達が訪れるのに非常に慣れている様子であり、色々な無茶な料理の注文を日々されているようだ。
今は料理の下準備に忙しいらしく、長居はできなかった。また今度、落ち着いた時間帯に来たいと思う。
本日最後に訪れたのは城の中の最奥にある古びた扉の前だった。
「随分と年代物の扉ですね。この城が建設されるよりも前からあったのではないですか?」
「その通りじゃよ。この城はこの扉のある建物を囲むように作られたのじゃ。この古い建物は、我らの祖先がこの地にたどり着いた時にはすでにそこにあったと言う話じゃ。そして、この部屋の中には聖剣があるのじゃよ」
何処か遠い目をして、先代国王がその扉を見つめて語った。この国に聖剣が存在しているなんて驚きだ。そんな話は俺が調べた限りでは聞いたことがなかった。
「聖剣?そんな面白い代物があるの!?お宝を頂いていかなきゃ!」
聖剣がこの扉の先にあると聞いてフェオが鼻息を荒くしている。怪盗熱は収まってなかったか。
「お祖父様、この城に聖剣が眠っているなんて聞いたことありませんわ」
クリスティアナ様も聞いたことがなかったようで、大きな目を丸くして驚きを隠せないでいた。
「はっはっは、そうかも知れんのう。では、早速入ってみるかの」
建物の古い扉には鍵が掛かっていなかった。
ギィッと軋む音を立てながら、今にも壊れそうな扉が開く。部屋のなかはカビ臭く、人が出入りしている様子はなかった。
聖剣が在る割には無用心だなと思っていたが、その訳はすぐに分かった。
「何これ、石?」
「石ですわね」
「石じゃな。この石から突き出ている物が聖剣じゃ。ほら、持ち手のような物があそこにあるじゃろう?」
「ププッ、おじいちゃん、騙されてるわよ。確かに持ち手に見えなくもないけどね」
フェオがお腹を抱えて笑い転げている。まるでそれが偽物であることは見れば分かるじゃないといった感じだ。クリスティアナ様は頬を膨らませてちょっと怒った様子で言った。
「ちょっとフェオ!お祖父様に失礼ですわ」
「いいのじゃよ。私もそう思っておるよ。じゃが、若い頃は何度もここを訪れてその聖剣を抜こうとしたものじゃよ。しかし、ワシには抜くことが出来なかった。ワシは勇者じゃなかったという訳だな」
フォッフォッフォッと笑いながら、若かりし頃を何処か懐かしむような目をしている。まるでそこに若かりし頃の自分が聖剣を抜こうと必死になっている姿が見えるかのように。
しかし、ちょっと待って欲しい。君達にはその聖剣の声が聞こえないのかい?もしかして、俺だけが聞こえているのかい?ちょっとしたホラーじゃないですか。そして今も”私を手にしてくれ”と語りかけている。何これ怖い。
「せっかくだから、抜いてみようよ!」
もしかしたら何か楽しい事が起こるかも!と目を輝かせてフェオが言ってきた。
「そうですわね。せっかくですから」
何もリアクションしないままだと先代国王に悪いと思ったのか、クリスティアナ様も挑戦するようだ。
フェオもクリスティアナ様も聖剣を引き抜こうとしていたがビクともしなかった。
「やっぱりただの石だね。シリウスはやらないの?」
「あー、遠慮しておこうかな?抜けたら面倒、いや、勇者にされそうだし」
「勇者って、ププッ、シリウスもそういう本もやっぱり読んでるのね。難しい本ばっかり読んでるから興味がないのかと思ってたよ」
フェオが笑いをこらえながら言った。
「せっかくここまで来たのですし、試してみてはどうですか?」
「いや、せっかくですが・・・」
遠慮しておきます、と言おうとした瞬間、聖剣を固めていた石がボロボロと砕け落ちその姿が露わになった。呆気にとられていると、石に突き刺さっていたボロボロの聖剣が音もなく抜けてこちらを目掛けて飛んで来た。
思わず右手で聖剣の柄を掴む。
「あっぶな」
「え?」
「ワーオ!」
「ま、まさかに!?」
それぞれが声を上げた所で、聖剣が俺の手に納まった。
「これが伝説の聖剣?ボロッボロで今にも折れそうだよ」
確かに見た目はボロボロで錆びついており、今にもポッキリと折れそうだ。
「そうだね。このままだと何かあったら大変なので、元の場所に戻しておこうね」
そう言ってさりげなく元あった場所へ聖剣を戻そうとした。
「え?せっかく聖剣がシリウス様の物になりましたのに、置いていくのですか?」
「いやいや、聖剣を勝手に持って行く訳にはいかないでしょう?そもそも、抜いていないですし、向こうから勝手に抜けてこちらに飛んできただけですし」
何とか聖剣持ち出しを阻止すべく、必死の説得を試みた。
「何を言っておる。聖剣を手にすることができる者だけが、それを所有する権利が有るのじゃ。シリウスが持っていってしかりじゃ」
すでに伝説の勇者を見る目で先代国王がこちらを見ていた。
非常にまずい。これ以上に厄介事を抱えこみ、かつ、目立つのはゴメンだ。
「しかしですね・・・」
そういいながら聖剣を元の場所に置こうとした。がしかし、
「な、何だこれ!手から離れない!?」
「ププッ、聖剣じゃなくて、呪いのアイテムだったのね」
もう我慢できないとばかりにフェオが笑い転げた。
その様子にムッとしたのは他でもないこの聖剣エクスカリバーだった。
エクスカリバーは、手にした時から少しずつ吸い続けていた俺の魔力を、一気に吸いだし始めた。
「ちょ、ちょっと待てエクスカリバー!落ち着けって!」
「何その子、エクスカリバーっていう名前なの?名前は大層なのに、その姿はないわ~」
「ちょ!フェオ!煽るなって!」
エクスカリバーはさらにグングンと魔力を吸い上げた始めた。
クリスティアナ様と先代国王は飛び出そうなほど目を見開いて、古の輝きを取り戻しつつある聖剣を見ていた。
おい、誰か止めてくれ。転生してから初めて魔力が枯渇してきている感覚を覚えた。段々と体が重くなり、眠たくなってきた。きっと、意識が遠退きつつあるのだろう。足元もおぼつかない。
そうこうしている間に、エクスカリバーは完全に在りし日の姿を取り戻していた。
黄金色に輝く柄。素材が何で作られているのか全くわからない真っ白な刀身に、見た事の無い文字のようなものが、同じく黄金色で美しい絵柄を描いていた。
「とても美しいですわ。この世の物とは思えません」
ウットリした声色でクリスティアナ様が言った。
きっとフェオも含め、一同おなじ意見だろう。
「キラキラして綺麗!シリウス、あたしにこれ頂戴!」
フェオがクルリと手のひらを返して両手を差し出した。頂戴のポーズである。
「いいですとも!って、まだ手から離れない!あれだけ魔力をあげたんだからもういいだろ。こんなに目立つ剣を持って歩くなんて無理だからね?」
そう言った途端、エクスカリバーは小さな板状に変形し、俺の左手首に巻き付いた。
見た感じ、ちょっとお洒落なブレスレットだ。
「どう足掻いても、俺について来るつもりなのね・・・」
イエス、と頭の中にエクスカリバーの声が響いた。
「あ~!エクスだけずるい!新入りは先輩を敬うものよ!」
何がずるいのか分からないが、慌てフェオが俺の右腕にしがみついてきた。
「ちょっと、フェオ!シリウス様は私の旦那様ですわ!」
そう言って、今度はクリスティアナ様が左腕にしがみついてきた。
「さすがは勇者様、モテモテですな」
さも当然とばかりに先代国王が頷いているが、俺は勇者になる気は無いからね。
どうしてこうなった・・・
宝物庫探検が不発に終わり、フェオが膨れっ面でクリスティアナ様に無茶振りを始めた。
「う~ん、私もお城の中を全部知っている訳ではないのですよね。困りましたわね」
頭に手を当てて考えこんだ。それもそのはず。ジュエル王国のお城は広く、まだ子供の王女殿下が城の隅々まで知っているはずはないだろう。しかし、無下にするとフェオに何されるか分からない。本当に頭が痛いことだろう。
「シリウスは何かいい案はない?」
どうやらフェオは何が何でも探険を続けたいようだ。長い時を経てようやく外に出ることが出来たのだ。色んな場所に行ってみたいという気持ちはよくわかる。しかし俺は一応無理を言ってお城に宿泊させてもらっている身。そう簡単にウロチョロする訳にはいかない。どうするべきか。
「そうだ、この城の中でクリスティアナ様が行った事の無い場所に行くのはどうかな?クリスティアナ様にも新しい発見があるだろうし、ちょっとした冒険にもなるよ」
「いいねそれ!クリピー、どっちに行く?」
「そうですわね・・・」
「お待ちなさい」
思案しながらも納得した様子のクリスティアナ様が答えを出そうとしたところに、後ろから老齢と男性と思われる人物からの声が聞こえた。
二人と一匹が振り返ると、そこには立派な白い髭に立派な身なりの老人が立っていた。
「お祖父様!」
クリスティアナ様が声を上げた。どうやら、先代の国王のようだ。俺が生まれた時にはすでに現在の国王陛下に王位を継承しており、この日初めてお顔を拝見した。引退した身とはいえ、王のオーラは未だ健在だった。
「お初にお目に掛かります。クリスティアナ様の婚約者のシリウス・ガーネットです。こちらは私と主従関係を結んだ妖精のフェオです」
「ふむ。噂は聞いておるよ。我が孫のクリスティアナの為に色々と良くしてくれているとな。ありがとう」
そう言って、暖かい眼差しをこちらに向けた。どうやら国王陛下のように敵視はされていないようだ。いや、親バカなだけで、敵視はされていないのかもしれない。
「いえ、お礼など不要です。当然の事をしているだけです」
「クリピーにゾッコンだもんね。ヒュー、ヒュー、熱いねお二人さん!」
フェオが茶々を入れてきた。ホントに何処からそんな言葉を覚えて来るのか。
クリスティアナ様は林檎の様に真っ赤になっていた。さすがピュアピュアお嬢様、全く耐性がないな。
それにしても、これから適当に探険しようとした所に都合良く登場したな、と思っていると、警備兵と目が合った。
なるほど。どうやらこの人が我々が手をつけられなくなる前に呼んだらしい。やるじゃない。
「何やら城内を探険すると小耳に挟んだが・・・そうだな。日頃のお礼も兼ねて、ワシが案内しよう」
ごく自然な流れで案内役を買って出た。さすがは元国王だけあって場の空気を読むのに長けている。見習わなければ。
先代国王を仲間に加えた一行は城から渡り廊下を通った所にある温室へとやってきた。
中に入ると、モワッとした、どこか植物園で嗅いだことのある独特の緑の香りが出迎えてくれた。
「ここは王宮自慢の温室じゃよ。薬になる薬草は勿論のこと、珍しい草花も育てておる。この部屋が暖かいのはこの部屋のほぼ全面がガラス張りになっており、光は通すが熱は通さない構造になっているからじゃよ」
「ふ~ん、ガラスを使うと暖かくかるんだね~」
「おや、シリウスは驚かぬか」
「ええ、まあ。家にもありますからね」
「え~!シリウスの家にも同じ物があるの!?もしかして、シリウスってお金持ち?」
「あはは、まあね」
とりあえず、笑って誤魔化そう。フェオに話すと長くなりそうだ。
フェオは感心している様子だったが、温室はガーネット公爵家にもあった。それも、ここよりも広く、温度、湿度管理が徹底されていた。
勿論、薬草や希少な草花を栽培したり、植物の品種改良を行って収穫量や品質の向上を高める努力を怠ってなかった。
さらに公爵家にはビニールハウスもあった。素材は勿論、俺が作り出した。水と空気から作り出せないかと試行錯誤していたら、なんかできた。
これにより我が領地では、ビニールハウスで苗を作り、それを畑に植え付ける栽培方法が可能になり、収穫量や品質が向上していた。そのため、特段ガラス張りの温室は特に珍しくもなかった。しかし、そのことを王家が知らなくても大丈夫なのだろうか?まあいいか。そこのところはお父様の仕事だよね?
次は調理場へとやってきた。突然現れた王家の面子にも関わらず、特に動揺することもなく粛々と対応していた。どうやら身分が高い人達が訪れるのに非常に慣れている様子であり、色々な無茶な料理の注文を日々されているようだ。
今は料理の下準備に忙しいらしく、長居はできなかった。また今度、落ち着いた時間帯に来たいと思う。
本日最後に訪れたのは城の中の最奥にある古びた扉の前だった。
「随分と年代物の扉ですね。この城が建設されるよりも前からあったのではないですか?」
「その通りじゃよ。この城はこの扉のある建物を囲むように作られたのじゃ。この古い建物は、我らの祖先がこの地にたどり着いた時にはすでにそこにあったと言う話じゃ。そして、この部屋の中には聖剣があるのじゃよ」
何処か遠い目をして、先代国王がその扉を見つめて語った。この国に聖剣が存在しているなんて驚きだ。そんな話は俺が調べた限りでは聞いたことがなかった。
「聖剣?そんな面白い代物があるの!?お宝を頂いていかなきゃ!」
聖剣がこの扉の先にあると聞いてフェオが鼻息を荒くしている。怪盗熱は収まってなかったか。
「お祖父様、この城に聖剣が眠っているなんて聞いたことありませんわ」
クリスティアナ様も聞いたことがなかったようで、大きな目を丸くして驚きを隠せないでいた。
「はっはっは、そうかも知れんのう。では、早速入ってみるかの」
建物の古い扉には鍵が掛かっていなかった。
ギィッと軋む音を立てながら、今にも壊れそうな扉が開く。部屋のなかはカビ臭く、人が出入りしている様子はなかった。
聖剣が在る割には無用心だなと思っていたが、その訳はすぐに分かった。
「何これ、石?」
「石ですわね」
「石じゃな。この石から突き出ている物が聖剣じゃ。ほら、持ち手のような物があそこにあるじゃろう?」
「ププッ、おじいちゃん、騙されてるわよ。確かに持ち手に見えなくもないけどね」
フェオがお腹を抱えて笑い転げている。まるでそれが偽物であることは見れば分かるじゃないといった感じだ。クリスティアナ様は頬を膨らませてちょっと怒った様子で言った。
「ちょっとフェオ!お祖父様に失礼ですわ」
「いいのじゃよ。私もそう思っておるよ。じゃが、若い頃は何度もここを訪れてその聖剣を抜こうとしたものじゃよ。しかし、ワシには抜くことが出来なかった。ワシは勇者じゃなかったという訳だな」
フォッフォッフォッと笑いながら、若かりし頃を何処か懐かしむような目をしている。まるでそこに若かりし頃の自分が聖剣を抜こうと必死になっている姿が見えるかのように。
しかし、ちょっと待って欲しい。君達にはその聖剣の声が聞こえないのかい?もしかして、俺だけが聞こえているのかい?ちょっとしたホラーじゃないですか。そして今も”私を手にしてくれ”と語りかけている。何これ怖い。
「せっかくだから、抜いてみようよ!」
もしかしたら何か楽しい事が起こるかも!と目を輝かせてフェオが言ってきた。
「そうですわね。せっかくですから」
何もリアクションしないままだと先代国王に悪いと思ったのか、クリスティアナ様も挑戦するようだ。
フェオもクリスティアナ様も聖剣を引き抜こうとしていたがビクともしなかった。
「やっぱりただの石だね。シリウスはやらないの?」
「あー、遠慮しておこうかな?抜けたら面倒、いや、勇者にされそうだし」
「勇者って、ププッ、シリウスもそういう本もやっぱり読んでるのね。難しい本ばっかり読んでるから興味がないのかと思ってたよ」
フェオが笑いをこらえながら言った。
「せっかくここまで来たのですし、試してみてはどうですか?」
「いや、せっかくですが・・・」
遠慮しておきます、と言おうとした瞬間、聖剣を固めていた石がボロボロと砕け落ちその姿が露わになった。呆気にとられていると、石に突き刺さっていたボロボロの聖剣が音もなく抜けてこちらを目掛けて飛んで来た。
思わず右手で聖剣の柄を掴む。
「あっぶな」
「え?」
「ワーオ!」
「ま、まさかに!?」
それぞれが声を上げた所で、聖剣が俺の手に納まった。
「これが伝説の聖剣?ボロッボロで今にも折れそうだよ」
確かに見た目はボロボロで錆びついており、今にもポッキリと折れそうだ。
「そうだね。このままだと何かあったら大変なので、元の場所に戻しておこうね」
そう言ってさりげなく元あった場所へ聖剣を戻そうとした。
「え?せっかく聖剣がシリウス様の物になりましたのに、置いていくのですか?」
「いやいや、聖剣を勝手に持って行く訳にはいかないでしょう?そもそも、抜いていないですし、向こうから勝手に抜けてこちらに飛んできただけですし」
何とか聖剣持ち出しを阻止すべく、必死の説得を試みた。
「何を言っておる。聖剣を手にすることができる者だけが、それを所有する権利が有るのじゃ。シリウスが持っていってしかりじゃ」
すでに伝説の勇者を見る目で先代国王がこちらを見ていた。
非常にまずい。これ以上に厄介事を抱えこみ、かつ、目立つのはゴメンだ。
「しかしですね・・・」
そういいながら聖剣を元の場所に置こうとした。がしかし、
「な、何だこれ!手から離れない!?」
「ププッ、聖剣じゃなくて、呪いのアイテムだったのね」
もう我慢できないとばかりにフェオが笑い転げた。
その様子にムッとしたのは他でもないこの聖剣エクスカリバーだった。
エクスカリバーは、手にした時から少しずつ吸い続けていた俺の魔力を、一気に吸いだし始めた。
「ちょ、ちょっと待てエクスカリバー!落ち着けって!」
「何その子、エクスカリバーっていう名前なの?名前は大層なのに、その姿はないわ~」
「ちょ!フェオ!煽るなって!」
エクスカリバーはさらにグングンと魔力を吸い上げた始めた。
クリスティアナ様と先代国王は飛び出そうなほど目を見開いて、古の輝きを取り戻しつつある聖剣を見ていた。
おい、誰か止めてくれ。転生してから初めて魔力が枯渇してきている感覚を覚えた。段々と体が重くなり、眠たくなってきた。きっと、意識が遠退きつつあるのだろう。足元もおぼつかない。
そうこうしている間に、エクスカリバーは完全に在りし日の姿を取り戻していた。
黄金色に輝く柄。素材が何で作られているのか全くわからない真っ白な刀身に、見た事の無い文字のようなものが、同じく黄金色で美しい絵柄を描いていた。
「とても美しいですわ。この世の物とは思えません」
ウットリした声色でクリスティアナ様が言った。
きっとフェオも含め、一同おなじ意見だろう。
「キラキラして綺麗!シリウス、あたしにこれ頂戴!」
フェオがクルリと手のひらを返して両手を差し出した。頂戴のポーズである。
「いいですとも!って、まだ手から離れない!あれだけ魔力をあげたんだからもういいだろ。こんなに目立つ剣を持って歩くなんて無理だからね?」
そう言った途端、エクスカリバーは小さな板状に変形し、俺の左手首に巻き付いた。
見た感じ、ちょっとお洒落なブレスレットだ。
「どう足掻いても、俺について来るつもりなのね・・・」
イエス、と頭の中にエクスカリバーの声が響いた。
「あ~!エクスだけずるい!新入りは先輩を敬うものよ!」
何がずるいのか分からないが、慌てフェオが俺の右腕にしがみついてきた。
「ちょっと、フェオ!シリウス様は私の旦那様ですわ!」
そう言って、今度はクリスティアナ様が左腕にしがみついてきた。
「さすがは勇者様、モテモテですな」
さも当然とばかりに先代国王が頷いているが、俺は勇者になる気は無いからね。
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そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
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