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妖精の試練①
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この世界の創造者は始めに母なる海を用意した。
しかし、それだけでは何も始まらなかった。
次に創造者は父なる大地を用意した。
ほどなくして、海と大地だけの世界に魔力が循環し始めた。
しばらくすると、魔力の渦の中から精霊が産まれ、それは世界に彩りを加えた。
そして、様々な色に彩られた世界に、小さな、か弱い生命が産まれた。
これは創造神話の一節。太古の昔には精霊、もしくは妖精が沢山いたのかも知れない。
しかし今では、その存在が確認されていないどころか、童話や噂話としても伝わっていない。
まるでその存在を意図的に隠されたかのようだった。
神が居ない世界で最も力を持っているのは、魔力の塊であると考えられる精霊や妖精なのかもしれない。
その巨大な力を利用できるならば利用し、もしそうでなければ、人々はその力を恐れ、隠す、という選択肢を取るかも知れない。
魔王の杖も同じく、古のはるか昔に、それが持つ強力な力故に隠された杖なのだろう。もしそうならば、妖精がその在りか、もしくは存在を知っているかも知れない。
ますます妖精に会わねばならない。自分に降りかかる破滅フラグと言う名の火の粉を払わねば。
クリスティアナ様はこの城に妖精が住んでいるという噂があると言っていた。
今はこの情報にすがるしかない。引き続き妖精関連の本を探すつもりだが、長い歴史の中に隠された真実を見つけるには、しばらく時間がかかるだろう。
城に住む妖精を探すため、まずは聞き込みを開始した。
「お仕事ご苦労様です。妖精を見ませんでしたか?」
「は?妖精ですか?いえ、見てませんけど」
努めてフレンドリーに城で働く人達に聞いて回った。こちらが公爵家の嫡男だとバレると口を閉ざすかもしれないので、その辺のただの子供ですよアピールは必要だった。
そのお陰で、城の使用人達とはフレンドリーな関係を構築することができた。
しかし、残念なことに妖精の情報はほとんど集まらなかった。
そうして数日が経った頃、
「シリウス様、妖精を見てないか聞いて回っているそうですわね?」
なぜか不機嫌な様子のクリスティアナ様が頬を若干膨らませて聞いてきた。
「ええ。一度会ってみたいな、と思いまして。それで、なんで怒っていらっしゃるのですか?」
「怒ってなどおりません!そんなに妖精に会いたいだなんて、会って何をなさるおつもりですか?」
ああ、あれだ。これは妖精に嫉妬しているな。種族が違うので手の出しようがないと思うのだが、どうやらクリスティアナ様はそこのところが抜け落ちているようだ。
「クリスティアナ様、そもそも妖精がどんな姿をしているのか分からないのですよ?オスメスの区別があるのかも不明ですし、神話の時代から存在しているなら、かなりのご高齢のはずですよ。そんな存在に手を出したりはしませんよ」
「て、手を!?わ、私はそんなつもりで言ったわけではありませんわ!」
顔を真っ赤にして否定した。
ここはもう一押ししておこうかな。
「そう?でも、ティアナを不安にさせた事は事実だし、ここは先にティアナに手を出して安心させた方がいいかな?」
ジリジリと追い詰めるように、クリスティアナ様に迫った。
「ヒッ」
「お待ち下さい、シリウス様。婚前前交渉は問題になるかと」
ガシッと両肩を掴んできたのはクリスティアナ様の専属使用人だった。
オブラートに包みもせずにストレートに突っ込んできた。一応こちらは見た目は可愛い7歳児なんですけどね。
「もちろん冗談ですよ。ね?クリスティアナ様?」
返事がない。どうやらまたフリーズしてしまったようだ。王族だけあって、婚前前交渉が何たるかを知っているらしい。さすが、と言うべきか、それとも早すぎる、と言うべきか。とにかく国王陛下が飛んで来る前に何とか再起動させねば。
ところで、さっきからクリスティアナ様専属使用人が何やら手帳に書き込んでいるのが非常に気になるのだが、まさか国王陛下に報告する訳じゃないよね?
「確かに、妖精がどのような姿をしているか分かりませんわ。それならどの様にして探しますの?」
「妖精はイタズラ好きなので、何か不可思議な現象が起こっている場所に要るのではないかと思います」
妖精がイタズラ好きだなんていう話、あったかしら?とクリスティアナ様は首を傾げていたが、これは前世の知識なので現世では当てはまらないかも知れない。
だが、闇雲に探すよりかは幾分かマシだろう。
「というわけで、この城の七不思議を教えて貰えませんか?」
歴史あるお城だ。七不思議どころか100以上の不思議があるだろう。
「な、七不思議ですか」
クリスティアナ様の可愛いらしいお顔が引き攣った。
きっと何か嫌な思い出があるのだろう。お化けが出るとか?そう言えば、城内に幽霊が出るとか言っていたな。
「クリスティアナ様、幽霊の目撃例が多い場所はどこですか?」
「ひっ!や、やっぱり行くつもりですのね?わ、私は行きませんわよ?」
「そうですよね。幽霊がクリスティアナ様の部屋まで付いてきたら困りますからね」
ほんの冗談のつもりで言ったのだが・・・。
「・・・」
うわっ!クリスティアナ様の顔が真っ青に。これはまずい。踏んではいけない地雷を踏んでしまったようだ。
「でも、心配は要りませんよ。クリスティアナ様の部屋に幽霊が入れないように、私が責任を持って強力な結界を張っておきますから」
優しくクリスティアナ様の腰を抱き寄せて言った。
「や、約束ですわよ?絶対ですわよ?本当ですわよ?」
「ええ、約束します。何なら今からクリスティアナ様の部屋に結界を張りに行きましょう」
こうして身から出た錆とはいえ、クリスティアナ様の部屋に結界を張ることになった。
折角なので全属性持ちなのを利用して、全属性を重ね合わせた結界を幾重にも張っておいた。
しばらくして、いつの間にかクリスティアナ様のお部屋に強力な結界が張られている、と騒ぎになるのだか、それはまだ先の話だった。
自分の部屋に結界が張られて安心したのか、クリスティアナ様もついてくることになった。
それでも怖いものは怖いらしく、腕にひっしとしがみついていた。
「ここで幽霊が出ると聞いたことがありますわ」
そこはピアノなどの楽器が置いてある広い音楽室の用な場所だった。
城に雇われたオーケストラの練習場らしく、今も何人もの楽員が練習を重ている。
「なるほど。では、ここで幽霊を見たことが無いか聞いてみましょう。練習中すいませーん」
長くここで働いていそうな老齢の男性楽員を見つけ、話を聞いた。
「これはこれはクリスティアナ王女殿下ではないですか。ご機嫌よろしいようで何よりです。お隣にいらっしゃる方はもしかして、王女殿下の婚約者様ですかな?」
「ええ、私の婚約者のシリウス様ですわ」
ちょっぴりある胸を反らして、得意気にクリスティアナ様が言った。
「おお、やはりそうですが。仲睦まじいようで、噂通りですなぁ。それで、どのようなご用件ですかな?」
「この部屋で幽霊が出ると聞いたのですが、詳しく教えて頂けませんか?」
一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。どうやらお偉いさんのボンボンが偉そうな態度で接しなかったので、少々驚いたらしい。それに怪談話なんて、子供が好きそうな話題を聞いたことで、貴族の子供も庶民の子供となんら違うことはない、と分かってもらえたようだ。
「フム、幽霊ですか・・・そう、あれは確か私が今よりももう少し若かったころ、遅くまでこの部屋に一人残り、練習をしていた時の話です・・・」
こうしてプチホラー話が始まり、クリスティアナ様は益々腕にしがみついた。
それを微笑ましそうに見ているところを見ると、わざとホラー話にしたな、と解釈した。グッジョブ。
要約すると、窓辺のピアノが人が居ない時に独りでに鳴るらしい。
すごいベタな話だったが、魔法のある世界なので、遠くからピアノを弾く事は可能だと思う。
例のピアノの近くの窓からは、庭師が日々手入れを欠かさない見事に美しく調和のとれた中庭が見えた。中庭には今いる建物の他に、幾つもの建物が隣接して建っていた。
「ゆ、幽霊、怖い・・・」
いまだ震えるクリスティアナ様。そんなクリスティアナ様を安心させるべく、怪奇現象を再現してみることにした。
「クリスティアナ様、よく見て、聞いていて下さいね」
そう言ってピアノの方に杖を向けた。その直後、白い鍵盤が沈み、音が鳴った。
「!?ど、どういうことですの?」
「物を動かす魔法を使ったのですよ」
そう言って他の鍵盤も鳴らした。
「ムーブの魔法ですか?でもムーブの魔法ではピアノを弾くなどという細かな動作は出来ないはずですわよ?」
「今のはムーブではなく、念動と言う魔法です。この念動の魔法は、ピアノを弾くといった細かな動作も可能なのですよ」
そう言って、クリスティアナ様のほっぺたを念動の魔法でぷにぷにした。
「な、何だか気持ち悪いですわ」
独りでに動く頬に、大変微妙な顔をしていた。受けはイマイチのようだ。
「この魔法を使えば、遠くからでもピアノを鳴らせるというわけです」
「なるほど。ということは、妖精が念動の魔法を使って、イタズラしている可能性があるということですわね」
「ええ、魔法が得意だと言われている妖精なら、可能だと思います」
「でも、念動という魔法を聞いたことがありませんわ。一体、どこでそんな魔法を習ったのですか?」
「あー、どこだったかなー」
慌てて逸らした目の隅っこに映るクリスティアナ様のジト目が痛い。もちろん、自分で創った魔法なので、何処にも存在しない。言うべきか、否か。
未来の妻に隠し事は良くない。それに、最近ちょっとからかい過ぎたという罪悪感もある。ここはクリスティアナ様に見捨てられない為にも、ポイントを稼いでおこう。
「クリスティアナ様、ここだけの話ですが、この念動の魔法は私が創ったのですよ。私とクリスティアナ様の二人だけの秘密ですよ」
クリスティアナ様の耳元に顔を近づけて、専属使用人にも聞こえないように囁いた。もちろん、内緒であるという釘を刺すのも忘れない。
「し、シリウス様は新しい魔法を創りだせるほど無属性の魔法も得意なのですね」
顔を真っ赤にしてクリスティアナ様が囁いた。
その直後、専属使用人が飛んできてクリスティアナ様からベリッと剥がされた。
いやらしことはしてないのに、ヒドイ。
そういえば、念動を使えばあんなことやこんなことが・・・。
「シリウス様?何かいやらしい事を考えておりませんか?」
二人のジト目が痛い。
いやらしい事を考えてもいいじゃない、だって男の子だもの。
しかし、それだけでは何も始まらなかった。
次に創造者は父なる大地を用意した。
ほどなくして、海と大地だけの世界に魔力が循環し始めた。
しばらくすると、魔力の渦の中から精霊が産まれ、それは世界に彩りを加えた。
そして、様々な色に彩られた世界に、小さな、か弱い生命が産まれた。
これは創造神話の一節。太古の昔には精霊、もしくは妖精が沢山いたのかも知れない。
しかし今では、その存在が確認されていないどころか、童話や噂話としても伝わっていない。
まるでその存在を意図的に隠されたかのようだった。
神が居ない世界で最も力を持っているのは、魔力の塊であると考えられる精霊や妖精なのかもしれない。
その巨大な力を利用できるならば利用し、もしそうでなければ、人々はその力を恐れ、隠す、という選択肢を取るかも知れない。
魔王の杖も同じく、古のはるか昔に、それが持つ強力な力故に隠された杖なのだろう。もしそうならば、妖精がその在りか、もしくは存在を知っているかも知れない。
ますます妖精に会わねばならない。自分に降りかかる破滅フラグと言う名の火の粉を払わねば。
クリスティアナ様はこの城に妖精が住んでいるという噂があると言っていた。
今はこの情報にすがるしかない。引き続き妖精関連の本を探すつもりだが、長い歴史の中に隠された真実を見つけるには、しばらく時間がかかるだろう。
城に住む妖精を探すため、まずは聞き込みを開始した。
「お仕事ご苦労様です。妖精を見ませんでしたか?」
「は?妖精ですか?いえ、見てませんけど」
努めてフレンドリーに城で働く人達に聞いて回った。こちらが公爵家の嫡男だとバレると口を閉ざすかもしれないので、その辺のただの子供ですよアピールは必要だった。
そのお陰で、城の使用人達とはフレンドリーな関係を構築することができた。
しかし、残念なことに妖精の情報はほとんど集まらなかった。
そうして数日が経った頃、
「シリウス様、妖精を見てないか聞いて回っているそうですわね?」
なぜか不機嫌な様子のクリスティアナ様が頬を若干膨らませて聞いてきた。
「ええ。一度会ってみたいな、と思いまして。それで、なんで怒っていらっしゃるのですか?」
「怒ってなどおりません!そんなに妖精に会いたいだなんて、会って何をなさるおつもりですか?」
ああ、あれだ。これは妖精に嫉妬しているな。種族が違うので手の出しようがないと思うのだが、どうやらクリスティアナ様はそこのところが抜け落ちているようだ。
「クリスティアナ様、そもそも妖精がどんな姿をしているのか分からないのですよ?オスメスの区別があるのかも不明ですし、神話の時代から存在しているなら、かなりのご高齢のはずですよ。そんな存在に手を出したりはしませんよ」
「て、手を!?わ、私はそんなつもりで言ったわけではありませんわ!」
顔を真っ赤にして否定した。
ここはもう一押ししておこうかな。
「そう?でも、ティアナを不安にさせた事は事実だし、ここは先にティアナに手を出して安心させた方がいいかな?」
ジリジリと追い詰めるように、クリスティアナ様に迫った。
「ヒッ」
「お待ち下さい、シリウス様。婚前前交渉は問題になるかと」
ガシッと両肩を掴んできたのはクリスティアナ様の専属使用人だった。
オブラートに包みもせずにストレートに突っ込んできた。一応こちらは見た目は可愛い7歳児なんですけどね。
「もちろん冗談ですよ。ね?クリスティアナ様?」
返事がない。どうやらまたフリーズしてしまったようだ。王族だけあって、婚前前交渉が何たるかを知っているらしい。さすが、と言うべきか、それとも早すぎる、と言うべきか。とにかく国王陛下が飛んで来る前に何とか再起動させねば。
ところで、さっきからクリスティアナ様専属使用人が何やら手帳に書き込んでいるのが非常に気になるのだが、まさか国王陛下に報告する訳じゃないよね?
「確かに、妖精がどのような姿をしているか分かりませんわ。それならどの様にして探しますの?」
「妖精はイタズラ好きなので、何か不可思議な現象が起こっている場所に要るのではないかと思います」
妖精がイタズラ好きだなんていう話、あったかしら?とクリスティアナ様は首を傾げていたが、これは前世の知識なので現世では当てはまらないかも知れない。
だが、闇雲に探すよりかは幾分かマシだろう。
「というわけで、この城の七不思議を教えて貰えませんか?」
歴史あるお城だ。七不思議どころか100以上の不思議があるだろう。
「な、七不思議ですか」
クリスティアナ様の可愛いらしいお顔が引き攣った。
きっと何か嫌な思い出があるのだろう。お化けが出るとか?そう言えば、城内に幽霊が出るとか言っていたな。
「クリスティアナ様、幽霊の目撃例が多い場所はどこですか?」
「ひっ!や、やっぱり行くつもりですのね?わ、私は行きませんわよ?」
「そうですよね。幽霊がクリスティアナ様の部屋まで付いてきたら困りますからね」
ほんの冗談のつもりで言ったのだが・・・。
「・・・」
うわっ!クリスティアナ様の顔が真っ青に。これはまずい。踏んではいけない地雷を踏んでしまったようだ。
「でも、心配は要りませんよ。クリスティアナ様の部屋に幽霊が入れないように、私が責任を持って強力な結界を張っておきますから」
優しくクリスティアナ様の腰を抱き寄せて言った。
「や、約束ですわよ?絶対ですわよ?本当ですわよ?」
「ええ、約束します。何なら今からクリスティアナ様の部屋に結界を張りに行きましょう」
こうして身から出た錆とはいえ、クリスティアナ様の部屋に結界を張ることになった。
折角なので全属性持ちなのを利用して、全属性を重ね合わせた結界を幾重にも張っておいた。
しばらくして、いつの間にかクリスティアナ様のお部屋に強力な結界が張られている、と騒ぎになるのだか、それはまだ先の話だった。
自分の部屋に結界が張られて安心したのか、クリスティアナ様もついてくることになった。
それでも怖いものは怖いらしく、腕にひっしとしがみついていた。
「ここで幽霊が出ると聞いたことがありますわ」
そこはピアノなどの楽器が置いてある広い音楽室の用な場所だった。
城に雇われたオーケストラの練習場らしく、今も何人もの楽員が練習を重ている。
「なるほど。では、ここで幽霊を見たことが無いか聞いてみましょう。練習中すいませーん」
長くここで働いていそうな老齢の男性楽員を見つけ、話を聞いた。
「これはこれはクリスティアナ王女殿下ではないですか。ご機嫌よろしいようで何よりです。お隣にいらっしゃる方はもしかして、王女殿下の婚約者様ですかな?」
「ええ、私の婚約者のシリウス様ですわ」
ちょっぴりある胸を反らして、得意気にクリスティアナ様が言った。
「おお、やはりそうですが。仲睦まじいようで、噂通りですなぁ。それで、どのようなご用件ですかな?」
「この部屋で幽霊が出ると聞いたのですが、詳しく教えて頂けませんか?」
一瞬目を見開いたが、すぐに表情を戻した。どうやらお偉いさんのボンボンが偉そうな態度で接しなかったので、少々驚いたらしい。それに怪談話なんて、子供が好きそうな話題を聞いたことで、貴族の子供も庶民の子供となんら違うことはない、と分かってもらえたようだ。
「フム、幽霊ですか・・・そう、あれは確か私が今よりももう少し若かったころ、遅くまでこの部屋に一人残り、練習をしていた時の話です・・・」
こうしてプチホラー話が始まり、クリスティアナ様は益々腕にしがみついた。
それを微笑ましそうに見ているところを見ると、わざとホラー話にしたな、と解釈した。グッジョブ。
要約すると、窓辺のピアノが人が居ない時に独りでに鳴るらしい。
すごいベタな話だったが、魔法のある世界なので、遠くからピアノを弾く事は可能だと思う。
例のピアノの近くの窓からは、庭師が日々手入れを欠かさない見事に美しく調和のとれた中庭が見えた。中庭には今いる建物の他に、幾つもの建物が隣接して建っていた。
「ゆ、幽霊、怖い・・・」
いまだ震えるクリスティアナ様。そんなクリスティアナ様を安心させるべく、怪奇現象を再現してみることにした。
「クリスティアナ様、よく見て、聞いていて下さいね」
そう言ってピアノの方に杖を向けた。その直後、白い鍵盤が沈み、音が鳴った。
「!?ど、どういうことですの?」
「物を動かす魔法を使ったのですよ」
そう言って他の鍵盤も鳴らした。
「ムーブの魔法ですか?でもムーブの魔法ではピアノを弾くなどという細かな動作は出来ないはずですわよ?」
「今のはムーブではなく、念動と言う魔法です。この念動の魔法は、ピアノを弾くといった細かな動作も可能なのですよ」
そう言って、クリスティアナ様のほっぺたを念動の魔法でぷにぷにした。
「な、何だか気持ち悪いですわ」
独りでに動く頬に、大変微妙な顔をしていた。受けはイマイチのようだ。
「この魔法を使えば、遠くからでもピアノを鳴らせるというわけです」
「なるほど。ということは、妖精が念動の魔法を使って、イタズラしている可能性があるということですわね」
「ええ、魔法が得意だと言われている妖精なら、可能だと思います」
「でも、念動という魔法を聞いたことがありませんわ。一体、どこでそんな魔法を習ったのですか?」
「あー、どこだったかなー」
慌てて逸らした目の隅っこに映るクリスティアナ様のジト目が痛い。もちろん、自分で創った魔法なので、何処にも存在しない。言うべきか、否か。
未来の妻に隠し事は良くない。それに、最近ちょっとからかい過ぎたという罪悪感もある。ここはクリスティアナ様に見捨てられない為にも、ポイントを稼いでおこう。
「クリスティアナ様、ここだけの話ですが、この念動の魔法は私が創ったのですよ。私とクリスティアナ様の二人だけの秘密ですよ」
クリスティアナ様の耳元に顔を近づけて、専属使用人にも聞こえないように囁いた。もちろん、内緒であるという釘を刺すのも忘れない。
「し、シリウス様は新しい魔法を創りだせるほど無属性の魔法も得意なのですね」
顔を真っ赤にしてクリスティアナ様が囁いた。
その直後、専属使用人が飛んできてクリスティアナ様からベリッと剥がされた。
いやらしことはしてないのに、ヒドイ。
そういえば、念動を使えばあんなことやこんなことが・・・。
「シリウス様?何かいやらしい事を考えておりませんか?」
二人のジト目が痛い。
いやらしい事を考えてもいいじゃない、だって男の子だもの。
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