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いつもと違う

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 ドスンと魔石が地面に落ちるとほぼ同時に俺たちは息をはいた。初めて戦う相手であっただけに、知らずに全身に力が入っていたようである。
 一息ついたエリーザが二人の元へと向かう。

「ちょっとアーダン、腕にヒビが入っているんじゃないの!? ほら、動かないの!」
「やっぱりか? 通りで痛いと思ったぜ」

 痛いですませるとはさすがアーダンだな。ミスリルゴーレムの攻撃は思った以上に重かったようである。普通のゴーレムの攻撃くらいならビクともしないアーダンにダメージを残すだなんて、とんでもない馬鹿力である。

「何とか倒せたね」
「そうね。ミスリルゴーレムを倒すことができるあたしたちって、結構すごいと思うわよ。ゴーレムキラーを名乗ってもいいんじゃないかしら?」

 冗談を言いながら地面に落ちた魔石を回収する。魔石の大きさはビッグファイアータートルくらいだろうか? かなり大きい。売れば結構なお金になりそうだ。
 ついでにミスリルを氷魔法で冷却する。ジュウジュウと音を立てながら白い蒸気を上げた。

「おほほ、これがミスリル!」

 念願のミスリルを手に入れたジルのテンションが妙なことになっている。地面に落ちているミスリルの塊にほおずりをしていた。
 そんな様子のジルをリリアが変な人を見るような目で見ていた。たぶん俺も同じ目をしていると思う。まさかジルがこんなことになるだなんて。よほど欲しかったんだな、ミスリル。

「これだけのミスリルがあれば、剣を二本作れそうだね」
「そうだな。どこか腕利きの鍛冶屋に持ち込んで作ってもらうとしよう」
「それならルガラドさんが良いんじゃないの? ドワーフだし、きっとミスリルを加工することができると思うんだよね」
「そうだな。帰ったら相談してみよう」

 俺たちの会話を聞いたジルの動きがピタリと止まった。そうやらすぐに作ってもらうつもりだったようである。ミスリルに手を置いたり、離したりを繰り返している。いかん、ジルが壊れたか?

「それじゃ、魔法袋にミスリルを収納して帰るとしよう」
「本当に王都に戻るまで剣を作らないのか? 俺の剣、ダメになっちゃったぞ」

 ジルが剣を見せてくれた。刃の部分はガタガタで、先端は欠けていた。これってもしかしてギリギリだったのでは?

「新しい剣を出しておこう。お、あと三本くらいあるな」

 ジルの顔が大雨に打たれたかのように悲しげになり、それを見たアーダンの声が詰まった。どうやら予想外の表情だったらしい。それを見たエリーザは困ったかのように眉を曲げている。

「そうだな、町の武器職人に作れるかどうか、聞くだけ聞いてみてもいいな」

 折れたアーダン。対してジルの顔は雲の間から日が差し込むかのように明るくなった。

「おお、そうしようぜ。せっかくミスリルがあるんだ。早く武器にしないともったいない!」

 ジルはそう言ったが、別にミスリルは腐るわけでも錆びるわけでもないので早く武器にする必要はない。俺としては急いで中途半端な物を作られるよりかは、時間をかけてでも良いものを作ってもらった方が良いと思うのだが。

 普段のジルならそのくらいのことは分かり切っていることだろう。だが「念願のミスリルを手に入れた」という事実がそれを完全に忘れさせていた。何とも罪な鉱物である。
 その様子を見たエリーザが首を左右に振っているが、止めはしないようである。きっと止めても無駄なことが分かっているのだろう。幼なじみだしね。

「それじゃ、早いところ町に戻って武器屋に相談するとしましょうか」
「そうね、それがいいわ。でもこの時間から山を下りるなら、エリーザの強化魔法が必要ね」

 四人と一匹の注目がエリーザに集まった。魔法を使いながら山道を走るのは大変である。強化魔法を使って街道を走るのとは全く別物なのだ。それを知っているがゆえに、エリーザは迷っていた。

「大丈夫だ、エリーザ。俺が責任を持って抱えて行こう」

 ジルがイイ笑顔でそう言った。エリーザのほほがピクピクと引きつっていた。
 こうなったジルはだれにも止められない。今回は良い勉強になった。



 山を下りて漁業の町ミズナに到着したときにはすでに日が暮れていた。先日泊まった宿に行くと、ありがたいことに部屋が空いていた。さっそく四人部屋を借りると、すぐに夕食を食べることにした。何とか営業時間には間に合ったようである。

「危なかったな。もう少しで保存食を食べることになっていたぞ」
「妙なところで消費しちゃうところだったね」

 アーダンが大きく息をはいた。パーティーのリーダーとして、切り札となる保存食の消費は抑えたいようである。何と言ってもパーティーの生命線だからね。
 水なら魔法でいくらでも出すことができるが、さすがに食事は出せない。運良く野生生物を狩ることができればいいが、それが食べられるとは限らない。

「明日は武器屋を回るんだよね?」
「そうだ。まずは武器屋に乗り込む。そしてミスリルの武器が作れるかどうかを聞く」

 食事を食べながらジルが当然のことのように答えた。まあそこは決定事項だろうな。あとはそんな武器屋があるかどうかだな。こればかりは行ってみなければ分からない。

「この町にドワーフはいなかったような気がするんだけど?」
「そうね。あたしもドワーフの姿は見なかったわ。ドワーフ以外にミスリルやオリハルコンの加工ができる種族がいるのかしら?」

 果実ジュースが入ったコップを抱えながらリリアが首をひねっている。俺もミスリルの加工ができるのはドワーフだけだと思っている。それを聞いたアーダンもそれもそうかとあごに手を当てて考え始めた。

 エリーザは……ジルに抱えられての移動で気分が悪くなったのか、青い顔をして飲み物をチビチビと飲んでいた。どうやらこうなることが分かっていたから、ジルに抱えられての移動するのは嫌だったようである。早く回復すること良いんだけど。

「そんなこと、行ってみれば分かるって」

 ジルは完全に盲目になっているようだが、鍛冶屋の腕前も上から下まで様々だぞ。当然のことながら、ミスリルを加工できる人の腕前もそれぞれ違ってくる。良い職人に作ってもらわないと、途中で折れたりしかねない。

「もうちょっと慎重になった方がいいんじゃないかな?」
「……俺もそう思うな。やはり、王都に帰ってからにした方が良いんじゃないのか?」
「それじゃ、俺のだけ作ってもらうことにするよ。それならどうだ?」

 俺たちは顔を見合わせた。これはダメだ。ジルは止められない。俺たちは了承するしかなかった。
 翌日、ジルはさっそく武器屋へと向かった。一緒に行ったのはミスリルの入った魔法袋を持っているアーダン。俺とリリアとピーちゃんはエリーザと共に宿に残ることにした。
 エリーザのダメージは思ったよりもひどかったようである。

「エリーザも大変ね。あれならアーダンに抱えてもらった方が良かったんじゃないの?」

 いまだに背の低いテーブルにグッタリと倒れているエリーザ。リリアが心配そうにその頭をなでている。

「アーダンの鎧がなければそうするんだけど、あの硬い鎧で抱えられると、気がつくとあざだらけになってるのよ……」

 どうやらすでに経験ずみのようである。確かにそれは困るな。男性ならともかく、女性なら大問題だろう。いくら治癒魔法があるとはいえ、治療できないものもあるのだ。それがあざ。どうも皮膚が裂けたりとかしない限りは治癒魔法が発動しないのだ。きっとケガとみなされないのだろう。

「鎧がないアーダンはアーダンじゃないしなー」

 想像してみたが、あの硬い防御力とタフさがあってこそのアーダンだ。それがなければ戦力としては激減することになるだろう。

「そうだわ。フェルが私を抱えればいいのよ」
「あー、それも……」
「ないわね。ない。そんなことをしたらフェルが潰れちゃうわ。エリーザはフェルの貧弱さを知らないのよ」

 ム、ちょっと言い過ぎなんじゃないのか? これでも毎日、アーダンたちと一緒に筋肉を鍛えているのだ。賢者とは言え、その辺りの人たちよりも力はあると思っている。
 だがリリアは俺の筋肉を信頼していないのか、俺の顔に張り付いて断固拒否の構えである。
 そんな俺たちを見たエリーザがため息をついた。

「大丈夫よ、リリアちゃん。あなたのフェルを取るつもりはないわ」
「いつにも増して積極的ですね、姉御~」
「黙らっしゃい」

 リリアがピシャリとピーちゃんをたしなめた。なるほど、嫉妬か。
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