上 下
111 / 214

新たな依頼

しおりを挟む
 俺たちの報告を聞いてから、何度も何度も巨大な魔石を調べるギルドマスターのラファエロさん。やがて大きなため息をつくと一つの結論を出した。

「リリアさんが言うように、これは間違いなくファイアータートルの魔石が巨大化したものですね。形状も、魔石の結晶方向も全く同じです」

 再びフウと大きく息を吐くと、頭を左右に振った。

「魔物が巨大化するなどと言う話は聞いたことがありません。そして、そのような技術をエルフは持っていません」

 キッパリとラファエロさんはそう答えた。エルフの中でも高齢のラファエロさんがそう言うのだ。恐らくは間違いないだろう。

「それじゃ、我々が知らないところで何かが起きていると?」
「それはまだ分かりません。ですが、このことは私から王国に報告しておきます。恐らくですが、王国の上層部は慌ただしくなるはずです。あなた方の力をまた借りることになるでしょう。そのときは、どうかよろしくお願いします」

 深々とラファエロさんが頭を下げた。その様子にジルが急に立ち上がった。いつもとは違うジルの様子に思わず目を見開いた。ジルがこんなに慌てるなんて。

「ギルマス、やめて下さいよ。俺たち冒険者なんかに頭を下げる必要なんてありませんよ!」
「そうですよ。いつものように『あとは任せた』って頼めばいいんですよ」

 エリーザは両手を激しく左右に振っていた。どうやらギルマスの思わぬ行動に焦っているようである。もしかすると、何か大きな恩があるのかも知れないな。
 魔石は研究用として、そのままギルマスに預けることになった。正式に国が買い取ることに決定したら、それを報酬金として俺たちに渡してくれるそうである。

「それじゃ、俺たちはこれで失礼しますね」
「わざわざの報告、感謝しますよ。何か分かったら君たちにも情報を提供するつもりです」
「ありがとうございます。ただの思い過ごしだと良いのですが……」
「私もそう思いますよ」



 それから数日間はみんなでお休みを取った。人間、働いてばかりではいけない。しっかりお金を稼いだら、その分、しっかりと休息を取らなければならないのだ。
 俺たちは二人で王都のうまいもの探しをした。さすがは王都なだけあって、毎日のように新しい食べ物が出現していた。とてもではないが、制覇することができなかった。続きはまた今度のお休みのときにだな。

 十分に休息を取った俺たちは久しぶりに冒険者ギルドに顔を出した。これまで俺たちが泊まっている宿に直接依頼が来なかったことから、緊急依頼がないことは分かっている。

「アーダン、依頼ってどんな基準で選んでいるの?」
「そうだな、俺の勘だな。何となくだが、この依頼を受けた方が良いって言うのが分かるのさ」
「本当かな~」

 勘で依頼を選ぶとは。そしてそれを当然と思っているのか、ジルとエリーザは依頼を見に来ない。単純に探すのが面倒くさいと思っているだけなのかも知れないが。

「お、この依頼が良さそうだな。ピンときた」
「遺跡調査~? 地味!」

 アーダンの手元をのぞき込んだリリアがキッパリと言い放った。アーダンが思わず苦笑いしている。リリアはどちらかと言うと、体を動かす方が好きだからね。だから討伐依頼を受けたがるのだ。それに討伐依頼なら、魔石を売ることでさらにお金を稼ぐことができるからね。

「なんでこの遺跡調査はプラチナランク冒険者の依頼になっているのかな?」
「うーむ、なるほど、場所がダロモア渓谷だからか。あそこはゴーレムだらけだと言う話だからな」
「ゴーレムか。確かに厄介な相手だね。それがたくさんいるからプラチナランク冒険者向けになっているのか」

 ゴーレムは耐久性が高く、魔法が効きにくい個体も存在する。一体ならゴールドランクでも何とかなるが、複数体なら厳しいかも知れない。
 ゴーレムは体の中に、スライムが持っているような核がある。その核を壊すことで、完全に倒すことができる。

 そのため、ゴーレムを倒すためには、攻撃しながらゴーレムの核を探す必要がある。
 普通は大変なその作業も、アナライズを使える俺たちにとっては話は別である。何せ、その核がある場所をすぐに見つけることができるのだ。そのような事情もあって、俺たちにとってはそれほど厄介な相手ではなかった。

「アナライズってそんなこともできるのね。本当に反則的な魔法ね」
「それなら余裕で倒せるな。よし、ゴーレム狩りの時間だ」

 アーダンが見つけた依頼を二人の元に持って行ったが反対意見は出なかった。これは相当、アーダンの勘を信頼しているようである。アーダンは何か特殊な能力を持っているのかな?

 依頼書を受付カウンターに持って行くと詳しい内容を教えてくれた。話によると、ダロモア渓谷にある古代遺跡を調べて欲しいという内容だった。
 ダロモア渓谷に古代遺跡があることは昔から知られているらしい。しかし、その正確な位置はこれまで不明だったそうだ。

 それでも古代遺跡からの貴重な出土品を求めて、何度も捜索隊が送られた。だが、度重なるゴーレムの襲来によって、何の成果も得られていないそうである。
 ところが、つい先日、古文書を解読していた研究者が、ダロモア渓谷にある古代遺跡の場所を突き止めたそうなのだ。そしてすぐ国に報告した。

 だがしかし、その場所はダロモア渓谷の奥深くだった。大規模な捜索隊を派遣しようにも、そう簡単には派遣することができない。
 そこで、一刻も早く古代遺跡を調べたかった国が今回の遺跡調査を依頼したのだ。

「依頼主は国からになるのか。それなら、国のお墨付きであるミスリルやオリハルコンクラスの冒険者に依頼すれば良かったのに」
「それが、どうやら断られたみたいです」
「なんで?」

 俺たちはお互いに顔を見合わせた。受付嬢は苦笑いしている。
 そりゃそうだよね。国が頼んだら断ることはできないはずだ。それを断っただなんて……。もしかして、断ったんじゃなくて失敗したのかな? うん、あり得そうだ。彼らの名誉のためにも失敗したなんて公表できないのかも知れない。それはそれでおなかの中がモヤモヤするものがあるけどね。

「恐らくですが、少数人数では不死身のゴーレムの群れを突破するのは無理だと判断したのではないでしょうか?」
「不死身って言うが、核を潰せば倒せるぞ?」

 な? と俺たちを振り返るジル。うなずきを返す俺たち。それを見た受付嬢の苦笑いがさらに深くなった。

「それはそうですが、核を見つけて壊すまでが大変でしょう? それが複数体同時を相手にすることになったら、倒しきれないと判断したのでしょう。ですが、あなた方は違うみたいですね」
「まあな。俺たちには優秀な魔法使いが三人もいるからな」

 そう言って、俺、リリア、エリーザを見るアーダン。そして、どこか納得したかのようにうなずく受付嬢。

「それではこの依頼を受けると言うことでよろしいですか?」
「もちろんだ。引き受けよう。報酬がずいぶんと良いみたいだからな。研究者も確信があるみたいだし、行けば何かあるだろう」
「場所は極秘扱いになっていますので、取り扱いには十分に気をつけて下さいね」

 受付嬢は慣れた手つきで依頼の発行手続きを済ませてゆく。最後にリーダーのアーダンが書類にサインをして、無事に遺跡調査の依頼を受けることができた。

「期限は三ヶ月になります。時間にかなり余裕があると思いますので、しっかりと準備を整えてから向かって下さいね」

 三ヶ月か。これまで受けた依頼の中でも、かなり期限の長い依頼である。それだけしっかりと調査してもらいたいと言うことなのだろう。
 依頼書を受け取った俺たちはひとまず宿に戻り、今後の作戦会議に移った。

「ダロモア渓谷までは足がないな。一番近い町からでも、歩いて二日はかかる。現地に滞在することになるだろう」
「それなら、フェルに拠点を作ってもらわないといけないな」
「そうね。その点からも、私たちがこの依頼を受けるのは適任だったかもね」

 確かに俺たちなら他の冒険者よりも強固な拠点を作ることができる。人里離れたところに長く滞在するなら、最適なパーティーと言えるだろう。

「食料も買い込んでおかないとね。それでも、空を飛んで行けばすぐに町まで戻ることができるから、食料がなくなっても大した問題じゃないけどね」
「ふむ、空を飛ぶか……。フェル、リリア、現地に着いたら空を飛んで目的地までの地図を作ってもらえないか?」
「分かったよ。オート・マッピングを使えばすぐだからね」
「ついでにアナライズも使って、地面の中の様子も調べておくわ」

 アーダンの提案を俺たちは二つ返事で引き受けた。エリーザが言ったように、この依頼は俺たちにピッタリな依頼のようだ。アーダンの勘は本物のようである。そりゃ二人が無条件で従うわけだ。俺もその考えに賛成である。

「本当に何でも有りよね、あなたたち」

 エリーザが白い目でこちらを見ていた。いやぁ、そんな目で見られても困るなー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

最強の回復魔法で、レベルアップ無双! 異常な速度でレベルアップで自由に冒険者をして、勇者よりも強くなります

おーちゃん
ファンタジー
俺は勇者パーティーに加入していて、勇者サリオス、大魔導士ジェンティル、剣士ムジカの3人パーティーの雑用係。雑用係で頑張る毎日であったものの、ある日勇者サリオスから殺されそうになる。俺を殺すのかよ!! もう役に立たないので、追放する気だったらしい。ダンジョンで殺される時に運良く命は助かる。ヒール魔法だけで冒険者として成り上がっていく。勇者サリオスに命を狙われつつも、生き延びていき、やがて俺のレベルは異常な速度で上がり、成長する。猫人、エルフ、ドワーフ族の女の子たちを仲間にしていきます。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...