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異常個体①

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 立ち枯れを引き起こした犯人を探す前に、まずは休息を挟みながら情報をまとめることにした。アーダンがコーヒーを入れるのを手伝いながら、魔法袋に入れていたお菓子をお皿に並べる。

 テーブルとベンチはリリアが準備してくれていた。飲み物と食べ物が並んだところで、一息ついた。辺りは荒涼としているが、心は少しずつ温まって来た。

「リリアのファイアータートル説が今のところ有力だな」
「ずいぶんと大きい個体がいるのかしら?」
「もしかすると、ファイアータートルが大量にいるのかも知れないよ?」

 うーん、と腕を組む俺たち。どちらにしろ、異常事態なのは間違いなさそうだ。それを倒せば問題は解決するのだろうか?

「匂いからすると、一匹だけみたいだな。同じ匂いしかしない」
「それじゃ、ビッグファイアータートルがいることになるわね」

 エリーザがそう結論づけた。それにしても、ジルの鼻は異常だな。似たような匂いを嗅ぎ分けることができるなんて。これまでアーダンたちが無事でいられたのは、ジルの鼻の恩恵が大きかったことだろう。

 休憩を終えた俺たちは再び調査を開始した。ここから先はジルの鼻に頼ることになる。ジルを先頭に、俺たちは周囲を警戒しながら先に進んだ。
 いい加減に立ち枯れの木を見続けるのにもウンザリしてきたときに、その魔物と遭遇した。

「大きい! あんなの初めて見たわ」
「あれがビッグファイアータートルか。まるで動く巨大な岩だね」
「しかも火を噴く岩ね。でも変ね。ファイアータートルがそのまま大きくなったみたいな姿をしてるわ」

 それを見たリリアが腕を組んでしきりに首をひねっている。どう言うわけか、ファイアータートルとビッグファイアータートルのことが相当気になるらしい。

「リリア、ビッグファイアータートルに近づくことはできるのか?」
「それは大丈夫よ。フリーズ・バリアを使えば、熱さを無効化できるわ。でも、ビッグファイアータートルなんて魔物、いたかしら? ファイアータートルの異常個体? そんなまさか……」

 リリアが先ほどから首をひねっていたのは、どうやらそのことを考えていたからのようである。リリアが知らない魔物か。リリアが封印されている間に生まれた新種なのかも知れないな。

「どうやら近づいて攻撃することはできるみたいだな。あとはどんな攻撃を仕掛けてくるかだな」

 さすがに魔物の情報が少ないな。一度エルフの国に戻ってから魔物の情報を収集するという手もあるが……。

「アーダン、一度戻ってから出直すのもアリだと思うよ」
「そうだな……一度、戻ろう」
「えー! 何でだよ! 今の話なら近づいてバッサリいけるだろう?」
「念のためだ。ここはすでにエルフ族の聖地なんだぞ? そこにいるやつが守り神とかだったらどうするんだ? あれは明らかに特殊な個体だぞ」

 その可能性があるのかは分からないが、確かに俺たちの依頼はエルフの森の調査だ。魔物の討伐ではない。調査依頼として見れば、十分な成果をあげていると思う。
 ビッグファイアータートルの存在と、立ち枯れが始まっている場所。その原因が、どうやら乾燥によるものだと言うことを報告すれば十分だろう。

「聖地に足を踏み入れたことがバレるけど、大丈夫かな?」
「そこは狩猟ギルドが何とかするだろう。そもそも、そのつもりで他国の冒険者を集めたんだろうからな」
「ああ、なるほど。エルフ出身なら、恐れ多くて聖地に足を踏み入れないだろうからね」
「そういうことだ。恐れ知らずの冒険者だからこその依頼なのだろう」

 こうして俺たちは、一度、エルフの国に戻ることになった。帰り道は行きよりも簡単だ。疲労回復魔法をエリーザに使ってもらって、一気に走って帰った。
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