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森の異変②

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 朝食が終わると、すぐに登山を開始した。時刻は日が昇り始めたばかりだが、時間に余裕があることに越したことはないだろう。最悪、山中で野営をすることになるが、そのときは地下室を作って、そこで過ごそうと思っている。

 ゲーペルの村から山までは一時間もかからずに到着した。ここまでの道のりは短い草が生えた草原になっており、おそらくこの付近でも家畜を放牧していたのだろう。
 山につながる道はなく、村の人が山を訪れることはなかったようである。

「今のところ、異常なし」

 アナライズには何の反応もなかった。錬金術で使われる素材の反応すらない。

「そうか。何かあったらすぐに教えてくれ」
「うまそうな匂いもしないし、この山に食い物の気配はないな」

 うまそうな匂いがしない? もしかして、ジルは鼻がいいのかな? 三人のときにどうやって周囲の状況を把握しているのかと思っていたのだが、どうやらジルの鼻が異常を察知していたようである。それはそれで、すごい能力だと思う。

「どうやら何もない山みたいね。薬草すら生えていないわ」

 アナライズを使ったのだろう。エリーザが首を左右に振った。

「薬草も生えてないんじゃ、人も来ないか」
「何もない山、ね。そう言えば確かに、土の魔力が極端に少ないわね。どこかで地脈が詰まっているのかしら?」

 リリアが首をひねった。地脈って詰まることがあるんだ。魔法や魔力についての知識が豊富な妖精だからこそ、そういったことも知っているのかも知れないな。

「妖精は魔力の流れを見ることができるって、本で読んだことがあるわ。だからリリアちゃんは土の中に含まれる魔力が分かったのね。だから薬草が生えていないのか」
「え? 薬草と魔力って関係あるの?」
「そうみたいよ。土に含まれる魔力が多い場所の方が薬草がたくさん生えているって話を聞いたことがあるわ」

 それは知らなかったな。それなら、魔力が豊富な土地にはたくさんの錬金術素材があるということか。これは素材採取のときに役に立ちそうな情報だぞ。

「もしかして、魔物が寄りつかないのはそのせいなのかも知れないな。ほら、魔物は魔力を食べているって良く聞くだろう? 魔力が含まれない物じゃ、生きていけないんじゃないかと思う」
「なるほど、それは一理あるかも知れないね。それじゃこの山に魔物がいないのはそのためなのかも知れないな」

 そんなことを話ながらも、俺たちは山の中を進んで行った。魔物の気配や、錬金術素材はなかったが、小動物の気配はあった。やっぱりリリアを狙っているのかな? 大きな昆虫と思われているのかも知れない。本人に言ったら怒られそうだけど。

 道なき道を進んでは、時々空を飛んで場所を確認する。空から山を見下ろしても、特に変わったところはなかった。そうこうしているうちに、昼食をとり、ついに山頂付近の岩場へと到着した。

「結局何もいなかったな。この先の魔境の森に期待だな」
「ジルはどこまで行くつもりなのよ」

 エリーザが深いため息をついた。どうやらかなり疲労している様子である。ちょくちょくアナライズの魔法を使っていたので、そのせいなのかも知れない。

「おい、あれを見てみろよ」

 少し先を進んでいたアーダンが固い声を上げた。何があったのかと、みんながそれに続いた。

「何、あれ……」
「おいおい、魔境の森はどこ行った?」
「森が、森が枯れているの?」

 目の前には本来あるハズだった魔境の森はなく、山のふもとには枯れた木々が辺り一面に広がっていた。木々の間からは赤茶けた土が見えており、下草さえ生えていないのが分かる。
 アナライズを使うまでもなく、そこには生き物が何一ついないのが分かった。

「これがオーガたちが『何もない山』を越えてきた理由か。魔境の森がなくなってしまったのか……」

 その場にいた全員がぼう然とその光景を見ていた。
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