上 下
80 / 214

後処理①

しおりを挟む
 ドスンと氷の海の上に大きめの魔石が落ちた。それなりに高い場所から落下したのだが、下の氷が砕けることはなかった。
 良かった、海底まで探しに行く手間が省けたぞ。

 俺は魔石に近づくと、魔法袋の中にそれをしまった。結構な大きさだけど、売れるかな、これ?
 今にも海に引きずり込まれそうになっていた船からは大きな歓声が上がっていたが、残りの氷に閉ざされた船は静まり返っていた。

「なんだか寒いわね」
「そうだね。早いところ氷を溶かさないと」
「まずは氷を割らないといけないわね。結構大変そうだわ。もっと手加減した方が良かったかも知れないわね。アイス・ソード」
「仕方ないよ。クラーケンを逃がすよりかは、一回で片付けた方が良いからね。警戒して姿を見せなくなったら、長期戦になるところだったよ。アイス・ソード」

 俺たちは、船を足止めしている氷を切り裂き、商船が通ることができる海の道を作った。そこを通って貿易商の船団が大海原へと出てゆく。
 それを見送ると、海の上を漂う氷を一カ所に集めた。このまま放っておいてもいずれ溶けるだろうが、その間に船にぶつかったりすると大変だ。処理しておかないと。

「よし、頑張って溶かすぞ。ファイアー・ウォール!」

 そそり立つ炎の壁が現れた。これを氷に近づけてやれば、その熱でどんどん溶けるはずだ。ジュウジュウと音がすると、真っ白な水蒸気が立ち上った。

「ちょっとフェル、近すぎるわよ。溶けた氷が蒸発してるわ。もう少し離れた場所から、ジワジワと蒸し焼きにしないと。ファイアー・ウォール」

 俺が作り出した、炎の壁の反対側に、リリアが作り出した炎の壁が現れた。そちらからは音がせず、氷がドロドロと溶けていた。なるほど、ああすればいいのか。リリアをまねて氷を溶かしてゆく。

 氷を溶かす作業は一時間後くらいには終了した。港に戻ると、漁師さんたちが食事を用意してくれていた。気がつくと、いつの間にかお昼の時間を過ぎていたようである。氷を溶かすのに必死になっていて気がつかなかった。

「昼食を用意しておきました。どうぞ、食べていって下さい」
「ありがとうございます。助かりました。お昼を食べ損なうところでしたよ」
「何を言っているんですか。お礼を言うのはこっちの方ですよ。これでようやく沖合まで漁に行くことができますよ。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」

 次々とお礼を言われた。これだけ多くの人たちからお礼を言われたのは初めてだったので、ちょっと恥ずかしかった。リリアも照れているのか、モジモジしながら俺の後ろに隠れていた。

「魚がいつもよりおいしく感じるね」
「味が濃い気がするわ。旨味が詰まってる感じがする」

 最近食事をするようになったからなのか、リリアの味に対する評価が鋭くなっているような気がする。もしかすると、リリアの新しい扉を開いてしまったのかも知れない。良いことだと思う。

「そうでしょう、そうでしょう。何と言っても取れたての魚ですからね。王都で食べる魚とは鮮度が違いますよ、鮮度が」
「なるほど。これが王都でも食べられたら良いんですけどね」
「もっと新鮮な状態で運ぶことができれば良いんですけどね。氷で冷やして運んでも限度がありますからね。気に入ってもらえたなら、また食べに来て下さいよ」
「ええ、そうさせてもらいますよ」

 リリアと二人で食事を食べたあとは領主さんのところに報告に行った。領主さんは館から俺たちがクラーケンを討伐していた様子を見ていたようであり、ひどく感激していた。
 ぜひ夕食を、と言われたが、王都の宿に帰ってお風呂に入りたい気分だったので断った。

 どうやらクラーケンと戦っている間に、いつの間にか海水が体にかかっていたようで、ベタベタするのだ。クリーン・アップの魔法を使えばすぐにキレイになるのだが、やっぱりお風呂に入ってスッキリしたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレ属性土魔法のせいで辺境に追放されたので、ガンガン領地開拓します!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:ハズレ属性土魔法のギフトを貰ったことで、周囲から蔑すまれ、辺境の僻地へ追放された俺だけど、僻地の村でガンガン領地開拓! アルファポリス第13回ファンタジー大賞にて優秀賞受賞! アルファポリスにてコミカライズ連載中! 「次にくるライトノベル大賞2022」ノミネート!(2022/11現在、投票受付中。詳細は近況ボードへ) 15歳の託宣の儀でハズレ属性である土魔法のスキルをもらった俺、エクト。 父である辺境伯や兄弟達から蔑まれ、辺境の寒村、ボーダ村へ左遷されることになる。 Bランク女性冒険者パーティ『進撃の翼』の五人を護衛につけ、ボーダの村に向かった俺は、道中で商人を助け、奴隷メイドのリンネを貰うことに。 そうして到着したボーダ村は、危険な森林に隣接し、すっかり寂れていた。 ところが俺は誰も思いつかないような土魔法の使い方で、村とその周囲を開拓していく。 勿論、辺境には危険もいっぱいで、森林の魔獣討伐、ダンジョン発見、ドラゴンとの攻防と大忙し。 宮廷魔術師のオルトビーンや宰相の孫娘リリアーヌを仲間に加え、俺達は領地を発展させていく―― ※連載版は一旦完結していますが、書籍版は3巻から、オリジナルの展開が増えています。そのため、レンタルと連載版で話が繋がっていない部分があります。 ※4巻からは完全書き下ろしなので、連載版とはまた別にお楽しみください!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...