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謎の治癒師②
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「ところでフェルさん、アンチ・カーズの魔法を使えたりしませんか?」
「アンチ・カーズ? だれか呪いにかかった人がいるのですか?」
「アンチ・カーズって、サンチョ、もしかして……」
リリアとミースさんもテーブル席へとやって来た。すぐに使用人が温かい飲み物を持って来た。何だろう、何だかサンチョさん以上の大物が出てきそうな予感。使えるけど、使えないことにしてこうかな……。
「アンチ・カーズなら使えるわよ。でも相手に呪いをかけるのって、ものすごく大変だったと思うんだけど?」
リリアが首をひねっている。どうやらリリアは魔法だけでなく、呪いも使えるみたいである。
呪いをかけると言えば、やっぱり生贄を捧げたりするのかな? ちょっと気になる。
「実はこのエベランの街を治めている領主の奥さんが、声が出なくなるという恐ろしい呪いにかかっているのです」
尋ねてないのにサンチョさんが語り始めた。どうやらすでに俺がその魔法を使って呪いを解く方向で進んでいるみたいである。リリアが余計なことを言うから……。
「声が出ない……相手から何か要求はあったのですか?」
「ええ、もちろん。領主を辞めろ、とのことでした」
領主を辞めろか。確かにそれだけじゃ、相手がだれなのかは分からないな。領主の退陣を望んでいるのはライバル貴族かも知れないし、この街の住人なのかも知れない。
だが呪いを解くのは良いとして、聞いておかなければならないことがある。
「その領主はどのような人物なのですか?」
「おお、フェルさん。もちろん、悪い人物では決してありませんよ。賄賂と不正で腐りきっていたこの商業都市エベランを浄化した、素晴らしい人物なのです」
なるほど、ますます呪いをかけた相手がだれなのか分からないな。そんなことをすれば、あちらこちらから恨みを買っていることだろう。それでもその浄化を成し遂げたということは、相当優秀で正義感のある人物なのだろうけどね。
「ねぇ、フェル、助けに行きましょうよ」
ミースさんからもらったお菓子を食べながらリリアが言った。すでに餌付けされているいる! 妖精にとって食べることは、ただの嗜好品に過ぎないんじゃなかったっけ? よく見ると、すでに高そうなお菓子をいくつも食べているようである。
これは断れないな。悪い人物じゃなさそうだし、まあ、いいか。目立たなければね。
「分かりました。やりましょう。ただし、条件があります」
「何でしょうか?」
ゴクリとサンチョさんが唾を飲み込むような音が聞こえたような気がした。
「俺の正体を明かさないようにしていただきたい。謎の治癒師が治療したということにして下さい」
「ええー! 相手がお金持ちなら、ガッポリとお金を稼げるのに。もったいない」
リリアが反対意見を述べた。確かにそうかも知れないが、そこから芋づる式に国につながって行くと非常に困る。俺は大金よりも自由が欲しい。何とか生きていけるだけのお金がありさえすれば良いのだ。
そしてそのお金は、今の状態でも十分に稼ぐことができる。
「分かりました。フェルさんの希望を全面的に聞き入れます。通りすがりの謎の治癒師ということで話をさせていただきます。衣装も私が準備します。すぐに話をつけますので、今しばらく、ここに滞在していただけますか?」
「分かりました。それまでお世話になります」
「お世話になるだなんて。これだけじゃ、全然恩を返せていないわ」
ミースさんがそう言った。俺としては別に恩に着せるつもりは全くなく、単にサンチョさんの奥さんが困っているから治療しただけである。それがどうやら思わぬ方向に進んでいるみたいだ。この辺りで軌道修正しないと、ズルズルと行ってしまいそうな気がする。
リリアは特に気にしていないみたいだけど、一体何を考えているのやら。リリアと一緒にお菓子を食べながら、一人不安を感じていた。
ん、なかなかおいしいな、このお菓子。
「アンチ・カーズ? だれか呪いにかかった人がいるのですか?」
「アンチ・カーズって、サンチョ、もしかして……」
リリアとミースさんもテーブル席へとやって来た。すぐに使用人が温かい飲み物を持って来た。何だろう、何だかサンチョさん以上の大物が出てきそうな予感。使えるけど、使えないことにしてこうかな……。
「アンチ・カーズなら使えるわよ。でも相手に呪いをかけるのって、ものすごく大変だったと思うんだけど?」
リリアが首をひねっている。どうやらリリアは魔法だけでなく、呪いも使えるみたいである。
呪いをかけると言えば、やっぱり生贄を捧げたりするのかな? ちょっと気になる。
「実はこのエベランの街を治めている領主の奥さんが、声が出なくなるという恐ろしい呪いにかかっているのです」
尋ねてないのにサンチョさんが語り始めた。どうやらすでに俺がその魔法を使って呪いを解く方向で進んでいるみたいである。リリアが余計なことを言うから……。
「声が出ない……相手から何か要求はあったのですか?」
「ええ、もちろん。領主を辞めろ、とのことでした」
領主を辞めろか。確かにそれだけじゃ、相手がだれなのかは分からないな。領主の退陣を望んでいるのはライバル貴族かも知れないし、この街の住人なのかも知れない。
だが呪いを解くのは良いとして、聞いておかなければならないことがある。
「その領主はどのような人物なのですか?」
「おお、フェルさん。もちろん、悪い人物では決してありませんよ。賄賂と不正で腐りきっていたこの商業都市エベランを浄化した、素晴らしい人物なのです」
なるほど、ますます呪いをかけた相手がだれなのか分からないな。そんなことをすれば、あちらこちらから恨みを買っていることだろう。それでもその浄化を成し遂げたということは、相当優秀で正義感のある人物なのだろうけどね。
「ねぇ、フェル、助けに行きましょうよ」
ミースさんからもらったお菓子を食べながらリリアが言った。すでに餌付けされているいる! 妖精にとって食べることは、ただの嗜好品に過ぎないんじゃなかったっけ? よく見ると、すでに高そうなお菓子をいくつも食べているようである。
これは断れないな。悪い人物じゃなさそうだし、まあ、いいか。目立たなければね。
「分かりました。やりましょう。ただし、条件があります」
「何でしょうか?」
ゴクリとサンチョさんが唾を飲み込むような音が聞こえたような気がした。
「俺の正体を明かさないようにしていただきたい。謎の治癒師が治療したということにして下さい」
「ええー! 相手がお金持ちなら、ガッポリとお金を稼げるのに。もったいない」
リリアが反対意見を述べた。確かにそうかも知れないが、そこから芋づる式に国につながって行くと非常に困る。俺は大金よりも自由が欲しい。何とか生きていけるだけのお金がありさえすれば良いのだ。
そしてそのお金は、今の状態でも十分に稼ぐことができる。
「分かりました。フェルさんの希望を全面的に聞き入れます。通りすがりの謎の治癒師ということで話をさせていただきます。衣装も私が準備します。すぐに話をつけますので、今しばらく、ここに滞在していただけますか?」
「分かりました。それまでお世話になります」
「お世話になるだなんて。これだけじゃ、全然恩を返せていないわ」
ミースさんがそう言った。俺としては別に恩に着せるつもりは全くなく、単にサンチョさんの奥さんが困っているから治療しただけである。それがどうやら思わぬ方向に進んでいるみたいだ。この辺りで軌道修正しないと、ズルズルと行ってしまいそうな気がする。
リリアは特に気にしていないみたいだけど、一体何を考えているのやら。リリアと一緒にお菓子を食べながら、一人不安を感じていた。
ん、なかなかおいしいな、このお菓子。
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