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サンチョ邸②

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 どうやら多種族国家と言えども、その中心に立っているのは人族のようである。お金をたくさん稼いでいるのも人族なのだろう。もしかすると、貴族も人族だらけなのかも知れない。もしそうなら、あまり近寄りたくないな。

「フェルさん、あそこが私の家になります」

 そんなことを考えている間にサンチョさんの家に着いたみたいである。指差された方向を見ると、青い屋根を持つ庭付きの一軒家があった。周囲の家よりも大きいことから、サンチョさんの財力の大きさがうかがえる。

「立派な家ですね。この辺りは貴族も住んでいるのですか?」
「いえ、この辺りには住んでいませんよ。もっと向こうの中央区画に住んでいますね」

 サンチョさんが街の中央付近を指差した。良かった。ちょっと安心した。どうやら貴族と会わなくて済みそうだ。このまま治療を終わらせたら、ここからさっさと立ち去ろう。
 馬車が止まり地面に降り立つと、モワッとした暑さが俺たちを出迎えてくれた。

 どうやらサンチョさんの馬車には、先ほどの冷たい風が出る魔道具が設置されていたらしい。なるほど、なかなか役に立つ魔道具なのかも知れないな。
 サンチョさんが俺たちを家の中へと案内してくれた。玄関の扉を開けると、すぐに使用人たちがやって来た。

「旦那様、お帰りなさいませ」
「こちらは私の大事な客人のフェルさんと妖精のリリア様だ。粗相のないように」

 その言葉に使用人たちの目が大きく見開かれた。妖精を見たのは初めてなのだろう。そして様を付けて呼ばれたリリアは何だか嫌そうな顔をしていた。
 リリアは様付けされるのが嫌いだもんね。リリアちゃんって呼ばれる方が好きなのである。

「さっそく妻のミースに会ってもらいたいのですが、よろしいですかな?」
「構いませんよ」

 俺たちはサンチョさんに連れられて二階へと上がった。二階は廊下沿いに個室がいくつか並んでいる。サンチョさんはそのうちの一つ、一番大きくて、豪華な扉をノックした。
 すぐに中から返事があり、使用人が顔を出した。

「ミース、私だ。中に入っても構わないかね?」
「ええ、それはもちろんですけど……?」

 部屋の中から困惑するような声が聞こえた。いつもはノックもそこそこに部屋に入っているのだろう。今回は俺たちがいるので、一応中を確認したようである。サンチョさんに促されて俺たちは部屋の中に入った。
 天蓋付きの大きなベッドに一人の夫人が横になっている。

「サンチョ、この方たちは?」
「二人は私が護衛として雇った冒険者だよ」
「まあ! もしかして、またご自分で仕入れに行ったのですか? 商人としての勘が鈍るからとはいえ、もうそろそろ他の人に任せてもよろしいのではないですか?」

 妻に小言を言われたサンチョさんが苦笑いしている。どうやら内緒でコリブリの街まで来ていたようである。

「まあまあ、それは置いておいて。そのときにな、私の右腕を治療してもらったのだよ」
「右腕の治療……まさか?」
「ああ、そのまさかさ。ミースの体も元に戻せるかも知れない」

 それを聞いたミースさんが目を輝かせてこちらを見ている。断るつもりはないので、最低限の口止めをお願いする。

「その代わりと言ってはなんですが、このことは内密にお願いします。どうも使う魔法が一般的には珍しい魔法のようでして……」
「約束致しますわ」

 ミースさんが強い意志を帯びた目でこちらを見つめた。

「それでは、エクストラ・ヒール」

 淡い光がミースさんを包み込むとすぐに消えた。これで治っているはずである。

「まさか、エクストラ・ヒールが使える人がいるだなんて!」

 何か同じことをサンチョさんに言われたような気がする。やっぱりレア度の高い魔法のようである。
 ミースさんが足をモゾモゾと動かしている。足の感触は戻っているはずである。ついでに失われた筋肉もある程度は回復しているはず。

「動くわ。私の足が動くわ!」

 そう叫ぶと、ミースさんがベッドから立ち上がった。
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