上 下
137 / 137
第五章

伝説の鍛冶屋ダナイ

しおりを挟む
 国王陛下に報告したその日のうちに、アベルたちは残りの魔族の討伐を依頼されたようである。移動はもちろん魔導船での移動になった。魔導船はアベルたちの手元にある。操縦のやり方を何人かの兵士たちに教え、支援要員として一緒に連れて行くそうだ。

 そのうち国に没収されることになるだろうが、それは仕方がないだろう。元々は古代遺跡で拾ったものだしな。何でもかなりの金額を支払って、国が買い取ってくれるそうである。もうないのか? と聞いてきたらしいが、残念ながらもうないんだよね。

 面倒ごとに巻き込まれないように、俺たちは陸路でイーゴリの街へと帰った。最近では俺たちが作った「揺れの少ない馬車」が国中に行き渡っており、馬車での移動も快適になっている。よって、ジュラのお尻が二つに割れることもないのだ。

「何とか無事にイーゴリの街まで帰って来られたわね」
「ああ、そうだな。アベルたちに感謝だな」
「長い時間馬車に乗ってたからお尻が割れてしまったかも知れないの。確認して欲しいの!」
「いや、割れてねーから。ってか、元から割れてるだろうが!」

 まったく、ジュラの頭の中は一体どうなっているんだ。どんな教育を受ければこんな思考になるんだ? おっさんか!

「ジュ~ラ~、私が代わりに確認してあげましょうか?」
「ヒッ!」

 ジュラは慌てて俺の後ろに隠れた。これは一度リリアママにお仕置きしてもらった方が良いかも知れないな。尻百たたきの刑が良いかも知れない。
 こうして俺たちはようやく家へと帰りついた。今考えたら、先に俺たちを魔導船でここまで運んでもらってから、アベルたちを送り出せば良かったぜ。

 家に戻った俺たちは慌ただしく片付けを済ませると、疲れた体を休めるべく早めに床についた。
 その夜、俺は夢を見ていた。

「ダナイ、私の声が聞こえますか?」
「神様? もしかして俺、また死んだんですか!?」

 クスクスと笑う神様。どうやら違ったらしい。ふう、脅かしやがって。それにしても、どうしてこんな状況になっているんだ? 今までまったくのノータッチだったはずなのに。

「今日はあなたにお礼を言いにうかがいました。私の意図をくんでいただき、ありがとうございました。あなたがこちらに届けてくれた太刀は、私が責任を持って処分します。安心して下さい」

 深々と神様が頭を下げた。

「いやいや、とんでもありませんよ。俺は俺の住む世界のためにやっただけに過ぎませんから」

 俺は心からそう言ったのだが、神様はもう一度深々と礼をとった。これで俺たちの世界からは脅威が去ったのだろう。安心して次の世代にバトンタッチすることができるな。

「あなたには本当にお世話になりました。私に何かできることがあれば良かったのですが……」

 神様が困ったような顔をこちらに向けた。それもそうか。神様は直接この世界に干渉できないみたいだからな。もしできるのなら、自分の力であの邪神を消していたはずだ。

「あ、それなら一つお願いがあるのですが。俺の「武芸者としての技術の全て」を取り消してもらえませんか?」

 少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。

「本当に欲がない方ですね。あなたを選んで良かった。分かりました。その願い、聞き届けましょう」

 よしよし、努力もせずに簡単に手に入る技術なんていらないからな。欲しけりゃ自分で努力してつかみ取るさ。
 神様はにこやかな笑顔を浮かべながら遠ざかって行った。もう二度と会うことはないだろう。色々と世話になったのはこっちの方かも知れないな。

 目が覚めた。隣にはリリアの顔、俺とリリアの間にはジュラがすうすうと気持ちよさそうに寝息を立てていた。やっぱり平和が一番だな。


 後日、アベルたちが無事に残りの二体の魔族を退治したという知らせが入ってきた。その功績によって、アベルはこの国の勇者としての称号を受けた。魔族を簡単にほふることができる聖剣を持つ勇者の存在は、この国だけでなく、大陸中の人たちに大きな安心感を与えた。

 聖女様の予言も「なべて世はこともなし」とのことであり、多くの人たちがあんどのため息をついた。俺たちも例外ではない。これでしばらくの間はゆっくりできそうだな。

 その後アベルは領地をもらったようである。今では立派な伯爵になっており、その妻としてマリアを迎えていた。もちろん結婚式には参加した。そのときに「ダナイたちはいつになるの?」と聞かれたが「ジュラがすねるといけないから、ジュラが大人になったら二人一緒に結婚式を挙げる」と言っておいた。さて、何年先の話になることやら。

 ウルポ、ローデ、スザンナの三人はアベルの家臣として仕えていた。かなりの出世になるらしく、ものすごく喜んでいた。
 一方の俺たちはいつも通りである。イーゴリの街にある鍛冶屋ダナイで武具を作ったり、ゴンさんたちと悪巧みして、妙な魔道具を作ったりして日々を過ごしている。

 人間に比べて俺たちの寿命は長い。アベルたちの子孫は俺たちが見守って行くことになるだろう。アベルが持っている聖剣は、代々アベルの子孫たちが受け継いで行くことになる。
 それはきっと俺たちが死んだ後もこの世界を守ってくれるだろう。何せ伝説の鍛冶屋ダナイ様が作った、この世界に一本しかない本物の聖剣だからな。

 柄にもなく感傷に浸りながら家に帰ると、驚きの光景が待っていた。

「ジュラ、お前、一体全体どうしたんだ?」
「大人になったの!」

 そこには昨日まで子供だったはずのジュラが、豊満な体つきの、妖艶な大人の美女になっていた。その隣ではリリアがものすごく微妙な顔をしていた。

「何それチート!」

 どうやらそろそろ、俺も年貢の納めどきのようである。まずはジュラの教育からだな。大丈夫かな? 何だかとっても不安だぞ。

 Fin
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

絶叫教会
2021.05.25 絶叫教会

間違えた。
タイトルがオルハリコンになってますよ。

解除
絶叫教会
2021.05.25 絶叫教会

タイトルがオルハルコンになってますよ。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。