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第五章
伝説の鍛冶屋ダナイ
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国王陛下に報告したその日のうちに、アベルたちは残りの魔族の討伐を依頼されたようである。移動はもちろん魔導船での移動になった。魔導船はアベルたちの手元にある。操縦のやり方を何人かの兵士たちに教え、支援要員として一緒に連れて行くそうだ。
そのうち国に没収されることになるだろうが、それは仕方がないだろう。元々は古代遺跡で拾ったものだしな。何でもかなりの金額を支払って、国が買い取ってくれるそうである。もうないのか? と聞いてきたらしいが、残念ながらもうないんだよね。
面倒ごとに巻き込まれないように、俺たちは陸路でイーゴリの街へと帰った。最近では俺たちが作った「揺れの少ない馬車」が国中に行き渡っており、馬車での移動も快適になっている。よって、ジュラのお尻が二つに割れることもないのだ。
「何とか無事にイーゴリの街まで帰って来られたわね」
「ああ、そうだな。アベルたちに感謝だな」
「長い時間馬車に乗ってたからお尻が割れてしまったかも知れないの。確認して欲しいの!」
「いや、割れてねーから。ってか、元から割れてるだろうが!」
まったく、ジュラの頭の中は一体どうなっているんだ。どんな教育を受ければこんな思考になるんだ? おっさんか!
「ジュ~ラ~、私が代わりに確認してあげましょうか?」
「ヒッ!」
ジュラは慌てて俺の後ろに隠れた。これは一度リリアママにお仕置きしてもらった方が良いかも知れないな。尻百たたきの刑が良いかも知れない。
こうして俺たちはようやく家へと帰りついた。今考えたら、先に俺たちを魔導船でここまで運んでもらってから、アベルたちを送り出せば良かったぜ。
家に戻った俺たちは慌ただしく片付けを済ませると、疲れた体を休めるべく早めに床についた。
その夜、俺は夢を見ていた。
「ダナイ、私の声が聞こえますか?」
「神様? もしかして俺、また死んだんですか!?」
クスクスと笑う神様。どうやら違ったらしい。ふう、脅かしやがって。それにしても、どうしてこんな状況になっているんだ? 今までまったくのノータッチだったはずなのに。
「今日はあなたにお礼を言いにうかがいました。私の意図をくんでいただき、ありがとうございました。あなたがこちらに届けてくれた太刀は、私が責任を持って処分します。安心して下さい」
深々と神様が頭を下げた。
「いやいや、とんでもありませんよ。俺は俺の住む世界のためにやっただけに過ぎませんから」
俺は心からそう言ったのだが、神様はもう一度深々と礼をとった。これで俺たちの世界からは脅威が去ったのだろう。安心して次の世代にバトンタッチすることができるな。
「あなたには本当にお世話になりました。私に何かできることがあれば良かったのですが……」
神様が困ったような顔をこちらに向けた。それもそうか。神様は直接この世界に干渉できないみたいだからな。もしできるのなら、自分の力であの邪神を消していたはずだ。
「あ、それなら一つお願いがあるのですが。俺の「武芸者としての技術の全て」を取り消してもらえませんか?」
少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「本当に欲がない方ですね。あなたを選んで良かった。分かりました。その願い、聞き届けましょう」
よしよし、努力もせずに簡単に手に入る技術なんていらないからな。欲しけりゃ自分で努力してつかみ取るさ。
神様はにこやかな笑顔を浮かべながら遠ざかって行った。もう二度と会うことはないだろう。色々と世話になったのはこっちの方かも知れないな。
目が覚めた。隣にはリリアの顔、俺とリリアの間にはジュラがすうすうと気持ちよさそうに寝息を立てていた。やっぱり平和が一番だな。
後日、アベルたちが無事に残りの二体の魔族を退治したという知らせが入ってきた。その功績によって、アベルはこの国の勇者としての称号を受けた。魔族を簡単にほふることができる聖剣を持つ勇者の存在は、この国だけでなく、大陸中の人たちに大きな安心感を与えた。
聖女様の予言も「なべて世はこともなし」とのことであり、多くの人たちがあんどのため息をついた。俺たちも例外ではない。これでしばらくの間はゆっくりできそうだな。
その後アベルは領地をもらったようである。今では立派な伯爵になっており、その妻としてマリアを迎えていた。もちろん結婚式には参加した。そのときに「ダナイたちはいつになるの?」と聞かれたが「ジュラがすねるといけないから、ジュラが大人になったら二人一緒に結婚式を挙げる」と言っておいた。さて、何年先の話になることやら。
ウルポ、ローデ、スザンナの三人はアベルの家臣として仕えていた。かなりの出世になるらしく、ものすごく喜んでいた。
一方の俺たちはいつも通りである。イーゴリの街にある鍛冶屋ダナイで武具を作ったり、ゴンさんたちと悪巧みして、妙な魔道具を作ったりして日々を過ごしている。
人間に比べて俺たちの寿命は長い。アベルたちの子孫は俺たちが見守って行くことになるだろう。アベルが持っている聖剣は、代々アベルの子孫たちが受け継いで行くことになる。
それはきっと俺たちが死んだ後もこの世界を守ってくれるだろう。何せ伝説の鍛冶屋ダナイ様が作った、この世界に一本しかない本物の聖剣だからな。
柄にもなく感傷に浸りながら家に帰ると、驚きの光景が待っていた。
「ジュラ、お前、一体全体どうしたんだ?」
「大人になったの!」
そこには昨日まで子供だったはずのジュラが、豊満な体つきの、妖艶な大人の美女になっていた。その隣ではリリアがものすごく微妙な顔をしていた。
「何それチート!」
どうやらそろそろ、俺も年貢の納めどきのようである。まずはジュラの教育からだな。大丈夫かな? 何だかとっても不安だぞ。
Fin
そのうち国に没収されることになるだろうが、それは仕方がないだろう。元々は古代遺跡で拾ったものだしな。何でもかなりの金額を支払って、国が買い取ってくれるそうである。もうないのか? と聞いてきたらしいが、残念ながらもうないんだよね。
面倒ごとに巻き込まれないように、俺たちは陸路でイーゴリの街へと帰った。最近では俺たちが作った「揺れの少ない馬車」が国中に行き渡っており、馬車での移動も快適になっている。よって、ジュラのお尻が二つに割れることもないのだ。
「何とか無事にイーゴリの街まで帰って来られたわね」
「ああ、そうだな。アベルたちに感謝だな」
「長い時間馬車に乗ってたからお尻が割れてしまったかも知れないの。確認して欲しいの!」
「いや、割れてねーから。ってか、元から割れてるだろうが!」
まったく、ジュラの頭の中は一体どうなっているんだ。どんな教育を受ければこんな思考になるんだ? おっさんか!
「ジュ~ラ~、私が代わりに確認してあげましょうか?」
「ヒッ!」
ジュラは慌てて俺の後ろに隠れた。これは一度リリアママにお仕置きしてもらった方が良いかも知れないな。尻百たたきの刑が良いかも知れない。
こうして俺たちはようやく家へと帰りついた。今考えたら、先に俺たちを魔導船でここまで運んでもらってから、アベルたちを送り出せば良かったぜ。
家に戻った俺たちは慌ただしく片付けを済ませると、疲れた体を休めるべく早めに床についた。
その夜、俺は夢を見ていた。
「ダナイ、私の声が聞こえますか?」
「神様? もしかして俺、また死んだんですか!?」
クスクスと笑う神様。どうやら違ったらしい。ふう、脅かしやがって。それにしても、どうしてこんな状況になっているんだ? 今までまったくのノータッチだったはずなのに。
「今日はあなたにお礼を言いにうかがいました。私の意図をくんでいただき、ありがとうございました。あなたがこちらに届けてくれた太刀は、私が責任を持って処分します。安心して下さい」
深々と神様が頭を下げた。
「いやいや、とんでもありませんよ。俺は俺の住む世界のためにやっただけに過ぎませんから」
俺は心からそう言ったのだが、神様はもう一度深々と礼をとった。これで俺たちの世界からは脅威が去ったのだろう。安心して次の世代にバトンタッチすることができるな。
「あなたには本当にお世話になりました。私に何かできることがあれば良かったのですが……」
神様が困ったような顔をこちらに向けた。それもそうか。神様は直接この世界に干渉できないみたいだからな。もしできるのなら、自分の力であの邪神を消していたはずだ。
「あ、それなら一つお願いがあるのですが。俺の「武芸者としての技術の全て」を取り消してもらえませんか?」
少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
「本当に欲がない方ですね。あなたを選んで良かった。分かりました。その願い、聞き届けましょう」
よしよし、努力もせずに簡単に手に入る技術なんていらないからな。欲しけりゃ自分で努力してつかみ取るさ。
神様はにこやかな笑顔を浮かべながら遠ざかって行った。もう二度と会うことはないだろう。色々と世話になったのはこっちの方かも知れないな。
目が覚めた。隣にはリリアの顔、俺とリリアの間にはジュラがすうすうと気持ちよさそうに寝息を立てていた。やっぱり平和が一番だな。
後日、アベルたちが無事に残りの二体の魔族を退治したという知らせが入ってきた。その功績によって、アベルはこの国の勇者としての称号を受けた。魔族を簡単にほふることができる聖剣を持つ勇者の存在は、この国だけでなく、大陸中の人たちに大きな安心感を与えた。
聖女様の予言も「なべて世はこともなし」とのことであり、多くの人たちがあんどのため息をついた。俺たちも例外ではない。これでしばらくの間はゆっくりできそうだな。
その後アベルは領地をもらったようである。今では立派な伯爵になっており、その妻としてマリアを迎えていた。もちろん結婚式には参加した。そのときに「ダナイたちはいつになるの?」と聞かれたが「ジュラがすねるといけないから、ジュラが大人になったら二人一緒に結婚式を挙げる」と言っておいた。さて、何年先の話になることやら。
ウルポ、ローデ、スザンナの三人はアベルの家臣として仕えていた。かなりの出世になるらしく、ものすごく喜んでいた。
一方の俺たちはいつも通りである。イーゴリの街にある鍛冶屋ダナイで武具を作ったり、ゴンさんたちと悪巧みして、妙な魔道具を作ったりして日々を過ごしている。
人間に比べて俺たちの寿命は長い。アベルたちの子孫は俺たちが見守って行くことになるだろう。アベルが持っている聖剣は、代々アベルの子孫たちが受け継いで行くことになる。
それはきっと俺たちが死んだ後もこの世界を守ってくれるだろう。何せ伝説の鍛冶屋ダナイ様が作った、この世界に一本しかない本物の聖剣だからな。
柄にもなく感傷に浸りながら家に帰ると、驚きの光景が待っていた。
「ジュラ、お前、一体全体どうしたんだ?」
「大人になったの!」
そこには昨日まで子供だったはずのジュラが、豊満な体つきの、妖艶な大人の美女になっていた。その隣ではリリアがものすごく微妙な顔をしていた。
「何それチート!」
どうやらそろそろ、俺も年貢の納めどきのようである。まずはジュラの教育からだな。大丈夫かな? 何だかとっても不安だぞ。
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