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第五章

滅びた都市

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 朝食を終えたテーブルの上には俺たちが作りあげた地図が広げてある。そしてその中央付近には「滅びた都市」の文字があった。

「ダナイはここが怪しいと思っているのね」
「ああ、そうだ。おそらく古代人が住んでいた都市だと思う」

 アベルの方を見ると、深くうなずきを返してくれた。アベルから望遠鏡を借りてのぞいて見たが、多分間違いないだろう。大森林で見かけたような建物の残骸がいくつも転がっていた。人が住んでいる気配はなかった。

「アベル、そこに魔力の反応はなかったのよね?」
「大きな反応はなかったよ。ただ、反応はあったから魔物はいると思う」

 うーん、とみんなが押し黙った。行くべきかどうか悩んでいるみたいだった。
 このまま後発の調査隊を待ってから行動を開始するのもいいだろう。しかし、そのほんの少しのタイムラグで最悪の事態になることも考えられる。
 せめて予言がもう少し正確だったら良かったのだが。いつまでは大丈夫、とかね。

「森には大した魔物もいなかったし、滅びた都市まで行ってみてもいいんじゃないか? そこまでの道を確保しておくだけでも、十分に意味はあると思う」

 ウルポがそう言った。確かにそうだな。強い魔力の反応はなかった。それならば大きな問題はないだろう。

「よし、ウルポの意見を採用しよう。この大陸で一番怪しかったのが滅びた都市だったからな。何もなければ、それだけでもひとまずは安心できると思う」

 反対の意見はなかった。それじゃ決まりだな。ここから滅びた都市までは二日くらいかかりそうだ。しっかりと準備して、全員で慎重に進んで行こうと思う。


 それから俺たちはすぐに行動を開始した。報告にあった通り、森の中に生息している魔物は大したことはなかった。魔物よけの魔道具のおかげで、俺たちに襲いかかってくる魔物はいない。

 拍子抜けな感じではあったが、油断することなく森の中を進んで行った。そして二日後、予定通りに「滅びた都市」にたどり着いた。

 そこは見れば見るほど、古代遺跡ととても良く似ていた。しかし長い年月をかけて風化しており、当時の姿をわずかにしのばせているだけで、とても寂しい場所だった。
 どの建物も崩れ去っており、道と思われるところを進んでも、すぐにガレキによって行き止まりになっていた。

 生き物の気配はあるがそれもほんのわずか。こんな草も生えていないような場所では生きて行くことはできないのだろう。しかしなぜ、この辺りだけ森に飲み込まれていないのだろうか。大森林にあった古代遺跡は森に飲み込まれていたはずだ。それはここでも例外ではないはずなのに、森の浸食はある一定の場所で止まっている。

「何だか不思議な感じがするわ。何でかしら?」
「そうか? 俺は何も感じないけどな」

 リリアと顔を見合わせた。エルフが何かを感じると言うことは魔力絡みかな? 周辺に漂っている魔力がほかの場所とは違うのかも知れない。

「ジュラ、何か分からないか?」
「んー、魔力が少ない気がするの。何でかな?」

 ジュラは首をかしげた。魔力が少ないか。だからこの辺りには植物が生えていないのかも知れない。植物が成長するのにも少なからず魔力が必要だ。この付近に魔力がないとなれば、植物が育たなくても何の不思議もないだろう。

「とりあえず、都市の中心に行ってみるか。もしかしたら魔力が少ない原因が分かるかも知れない」

 全員がうなずいた。今のところ、崩れ落ちた建物の残骸があること以外には特に変わった様子はない。中心部に向かうことに異存はないようである。そこに行けば何かあるかも知れないしな。

 ガレキの山を越えて中心部へと向かった。どうやら中心付近には大きなモニュメントが建っているようである。目の前に石碑のようなものが見えて来た。その姿はまるでオベリスクのようである。遠目に何かが刻まれているのが見えた。

 おかしいな。周りの建物はこれだけ風化しているのに、この石柱だけはそこまで風化している様子は見られない。もちろんところどころ欠けてはいるものの、全体的には形を保っていると言えるだろう。

 不思議に思ったのは俺だけではなかったようである。ほかのメンバーも押し黙っていた。石柱の近くは広場になっているようだった。そこだけポッカリとドーナツ状にあいている。

「あの石柱、変わった形をしてるよね。何か文字が書いてあるよ。一体何て書いてあるのかな?」

 その石柱の姿が完全に見えたところで、アベルがそう口にした。見たこともない文字であるのは確かだ。どことなく、俺が普段施している付与に似たような文字である印象を受けた。ということは、この石柱は神様関連であるような気がしてきた。

 石柱の近くまで寄ると、その不気味さが一層際立ってきた。書かれている文字がどことなくボンヤリと光っているように見えるのだ。まるでどこからかエネルギーが供給されているかのようである。もしかして、この石柱が周囲の魔力をかき集めているのか? だからこの辺りの魔力が他よりも少ないのかも知れない。

「アベル、魔力探知機でこの柱を調べてみてくれないか? 何か反応があるかも知れない」
「分かった。これでこの柱に反応があったら、何かしらこの柱には秘密があることになるね」
「そうだな。ただの石柱なら魔力の反応があるはずがないからな」

 アベルが探知機を使って調べ始めた。その様子を、みんなが固唾を飲んで見守った。これだけ怪しい物体だ。何かがあるはずだ。

「……かすかだけど、魔力の反応があるね。どうする?」

 明らかに全員の顔色が悪くなった。聖女様が予言したのはおそらくこれのことだろう。このまま放置しておくと、予言の通り「災い」に見舞われることになる。
 対処方法はある。これが俺の知っている付与と同じであるならば、文字の一部を破壊してしまえばこの石柱は機能しなくなるだろう。

 だが、そうすることで何が起こるのかがまったく予想できない。正直なところ、あまり良い予感はしない。でもやるしかないんだろうな。

「この石柱を破壊するしかないな。全部を壊さなくとも、あの怪しい文字の一部を破壊するだけでもいいはずだ」

 俺の意見に全員がうなずいた。すでに付近には何か怪しい気配が漂い始めている。万が一に備えて退路を確認すると、行動を開始した。

「それじゃあ俺がハンマーで壊してみるから、念のため離れていてくれ。何が起こるか分からんからな。警戒だけは怠るなよ」
「了解。ダナイも気をつけて」

 アベルはそう言うと、少し下がった。リリアが何かを言いたそうだったが、黙って指示に従った。ジュラもリリアに手を引かれて下がった。
 それを確認すると、ハンマーの先端が尖っている方で文字の一部に強く打ち付けた。
 ガン! という鉄板を殴ったかのような音が鳴り響いた。石柱の文字には傷一つ入ってなかった。

「ダメか。だがこの石柱が怪しいことはハッキリとしたな」
「普通の武器じゃ無理なのかも知れない。今度は俺の聖剣でやってみるよ」
「頼んだ」

 アベルと交代する。アベルが言うようにただの武器では壊せないのだろう。もしかすると、そのための聖剣なのかも知れない。
 俺の攻撃が跳ね返されたことで、みんなの顔つきが変わった。間違いなく何かが起こる。何が起こっても対処できるようにしっかりと身構えた。
 それを確認したアベルが聖剣で石柱を切った。

 聖剣の刃は先ほどのように止められることなく、石柱の一部を切り裂いた。二度、三度切りかかると、文字の一部が明らかに欠けた。
 その瞬間、石柱に大きなひび割れが走った。すぐにアベルが飛びのいて、俺たちがいる位置まで下がった。

 ひび割れはどんどん大きくなり、最後には石柱がガラガラと音を立てながら崩れ去った。
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