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第五章
折れた剣
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この壁には見覚えがある。間違いない。この壁は魔導船を見つけた遺跡と同じ壁だ。ということは、この壁の先には古代遺跡が眠っているのか? でも何でこんな山の中にあるのだろうか。
「どうしたの、ダナイ? 何か見えているのかしら?」
穴をのぞいて動きが止まった俺を、リリアが現実に引き戻してくれた。
「見てくれ、リリア。どうやらこの先に古代遺跡が眠っているらしい」
俺の声にリリアだけでなく、他のメンバーも穴の中を確認した。周囲が薄暗いためみんなの表情は分からないが、だれも言葉を発しなかった。
「よし、とりあえず、遺跡の中に入ってみるとしよう」
「大丈夫なの?」
リリアが心配そうな声を上げた。心配なのは分かる。だが俺も、一応は冒険者だったようである。この先に何があるのかが気になった。オリハルコンがあるかも知れない。いや、もっと他に何かが眠っているのかも知れない。
前回の古代遺跡では特に危険なことはなかった。良くあるような、遺跡を守るガーディアンみたいなものや、行く手を阻むトラップなども存在しなかった。今回も同じとは限らないが、危険性は低いように思う。
「無理はしないさ。危険そうならすぐに引き返そう」
「分かったわ」
リリアは俺の意見を尊重してくれた。大丈夫。何があっても俺がリリアたちを守るさ。俺にはチート能力があるからな。
穴の下まで降りると、やはり古代遺跡の壁に間違いなさそうだった。ツルハシを使って慎重に壁を壊して行く。壁は思ったよりも厚くはなく、それほど時間をかけずに建物の内部に入り込むことができた。
降り立った場所はどうやらどこかにつながる通路のようである。縦横三メートルほどの幅の通路が続いている。
少し進んでみたが、片方は土砂で埋まっていた。それならば、と俺たちは反対方向へと進んで言った。
どのくらい歩いただろうか。かなり長い通路である。何だろうこの感じ。どこか避難所へと向かっているような気がしてきた。みんなも不気味に思っているのか、無言で進んで行く。そのとき、金属探知機に反応があった。
「待った。どうやらこの先にオリハルコンがあるらしい」
「古代遺跡の中にオリハルコン……あまり良い予感はしないわね」
リリアにも緊張の色が見える。俺もそう思う。どうにもこの通路は不気味である。一体何のためにこの場所を古代人は作ったのだろうか。まるでこの先に核シェルターでもあるかのようである。……まさかな。
「どうする? 引き返す?」
不安そうにマリアが聞いてきた。どうやらマリアも何かを感じているのだろう。ジュラは俺にしっかりとしがみついている。
「先に進もう。なぜだか分からんが、オリハルコンを見つけないといけないような気がする」
俺の意見にみんなが神妙な顔をしてうなずいた。
恐れはあるが、前へと進んだ。きっと俺がここへ来たのには何か意味があるはずだ。ジリジリと慎重に進んだ。何が起こっても良いように、慎重に進んだ。
「ダナイ、あれ」
アベルが何かに気がついた。遠目にそれが剣だと分かる。そしてその剣からオリハルコンの反応があった。
「ああ、どうやらオリハルコンの剣らしい」
「お、オリハルコンの剣!? 何でこんなところにそんなものがあるのかしら」
「分からん。行ってみるしかないな」
慎重にその場所へと近づく。だれかが、あっ、と声を上げた。
「折れてる……オリハルコンの剣が折れてるよ」
そこにはアベルが言うように折れたオリハルコンの剣が転がっていた。どういうことだ? オリハルコンはそんなに簡単に折れるような代物じゃないはずだ。拾い上げてみたが、特に何もない。ただの折れた剣だ。ただし、アベルが持っている剣よりも一回りほど大きかった。どうやら両手で扱うことを想定した剣のようである。
「ダナイ、もしかしてそれが聖剣なの?」
「いや、違うな。ただのオリハルコンの剣だ」
「ただのオリハルコンの剣……」
沈黙が流れた。古代人はこの場所で何かと戦ったのか? オリハルコンの剣が折れるような何かと。この先には何があるんだ? 古代人を滅ぼした何かがいるのか?
「戻ろう。目的は達成した」
俺の意見にだれも反対しなかった。これだけのオリハルコンがあれば、剣を作ることができる。無理をする必要はない。それよりも、俺はこの先に行くのが怖かった。生き物の気配はない。あるとすれば古代人の亡骸くらいだろう。
すぐに先ほど降り立った場所まで戻ると、俺はこの場所を厳重に封印した。土を戻すとしっかりと魔法で押し固めた。これで大丈夫のはずだ。もうだれもあの場所へとたどり着くことはできないだろう。
古代人については分からないことが多い。一体彼らの身に何が起きたのか。だがそれでも分かっていることもある。
ジュラが言っていた。自分がいる場所以外は海に沈んだ。つまり、何かしらの地殻変動があったのだろう。そしてその地殻変動で古代人は絶滅寸前にまで追い詰められた。
その状態から何とか息を吹き返して作られたのが今の世界なのだろう。一体何があったんだ?
「……イ、ダナイ」
「あ、ああ、リリア、どうした?」
「どうしたじゃないわよ。名前をいくら呼んでも反応がないんだもの。大丈夫? 顔色が悪いわ」
「ああ、すまない。ちょっと考え事をしていたよ」
「ダナイ、しっかりくれよ。坑道の出口まではもうすぐだからさ」
アベルに励まされて何とか坑道から外に出ることができた。外は日が暮れかけていた。そのため、今夜はここで一晩過ごすことにした。魔法を発動させて秘密基地の中へと入る。
「ダナイは休んでおいて。あとは私たちがやっておくからさ」
マリアも俺のことを気遣ってくれているようだ。遠慮なくそうさせてもらった。どうやら今の俺は使い物にはならないらしい。それだけショックが大きかったということか。
一体何があったんだ? 聖剣を作れと頼まれたが本当にそれだけなのか? 地殻変動が起きたのは古代人の仕業なのか? いくら文明が発達したからと言って可能なのか? それとも何か別のものが引き起こしたのか? そして古代人はそれと戦ったのか? 『ワールドマニュアル(門外不出)』にその答えはなかった。
「ダナイ、これ飲んで」
ジュラが飲み物を差し出してきた。どうやらジュラにも心配をかけてしまっているらしい。これは行かんな。早くいつのも状態に戻らないと。ジュラが差し出してくれたハーブティーはどこかホッとするものがあった。
夕食が終わると、やはりあの話になった。見つけてしまったからには気にならないわけがない。俺は折れたオリハルコンの剣をテーブルに置いた。それをみんながジッと見ている。
あのときは薄暗くて良く見えなかったが、こうして光の下で改めて見ると見事な剣であったことが分かった。
「ダナイ、これを見て何か分かる?」
「そうだな……」
アベルはやはりオリハルコンの剣がどんな性能を秘めているのか気になるようである。俺は剣を手に取ると、あらゆる角度からその剣を観察した。
「きれいに途中から折れてるな。刃こぼれはまったくしていない。多分、今の状態でも十分に良く切れるだろう」
「折れてるのに刃こぼれがないの?」
不思議そうにリリアが聞いてきた。
「そうなんだ。何かと打ち合った形跡がないんだよ。一体何を切ったらこんなふうに折れるのか」
「やっぱりそうだよね。この剣は何か固いものを切って折れたんじゃないみたいだね」
そう。固いものを切ってはいない。それなら何を切ったのか。もしくは折られたのか。オリハルコンが折れるのか?
「オリハルコンって、こんなふうにポッキリと折れるものなの?」
「折れないと思うの。多分、曲がるはずなの。ものすごく頑張れば、だけど……」
部屋の中に沈黙が落ちた。折れることのないはずの剣が折れる。それは一体どういうことなのか。その答えはここにいるだれもが分からなかった。
俺は少しでも何かヒントがないかとくまなく調べた。そしてあることに気がついた。
「この剣、やはりただのオリハルコンの剣だな。何の付与もついていない」
「付与って何なの?」
ジュラが首をかしげた。付与を知らない? もしかすると、付与の技術は古代文明が滅んだあとに編み出された技術なのかも知れない。
「付与って言うのは、特定の文字を刻むことで効果を発揮する呪文のようなものだよ。ジュラちゃんステッキにも付与はついているぞ」
「初めて知ったの。すごい技術なの」
ジュラは興奮気味にそう言うと、ジュラちゃんステッキをまじまじと観察し始めた。
「どうしたの、ダナイ? 何か見えているのかしら?」
穴をのぞいて動きが止まった俺を、リリアが現実に引き戻してくれた。
「見てくれ、リリア。どうやらこの先に古代遺跡が眠っているらしい」
俺の声にリリアだけでなく、他のメンバーも穴の中を確認した。周囲が薄暗いためみんなの表情は分からないが、だれも言葉を発しなかった。
「よし、とりあえず、遺跡の中に入ってみるとしよう」
「大丈夫なの?」
リリアが心配そうな声を上げた。心配なのは分かる。だが俺も、一応は冒険者だったようである。この先に何があるのかが気になった。オリハルコンがあるかも知れない。いや、もっと他に何かが眠っているのかも知れない。
前回の古代遺跡では特に危険なことはなかった。良くあるような、遺跡を守るガーディアンみたいなものや、行く手を阻むトラップなども存在しなかった。今回も同じとは限らないが、危険性は低いように思う。
「無理はしないさ。危険そうならすぐに引き返そう」
「分かったわ」
リリアは俺の意見を尊重してくれた。大丈夫。何があっても俺がリリアたちを守るさ。俺にはチート能力があるからな。
穴の下まで降りると、やはり古代遺跡の壁に間違いなさそうだった。ツルハシを使って慎重に壁を壊して行く。壁は思ったよりも厚くはなく、それほど時間をかけずに建物の内部に入り込むことができた。
降り立った場所はどうやらどこかにつながる通路のようである。縦横三メートルほどの幅の通路が続いている。
少し進んでみたが、片方は土砂で埋まっていた。それならば、と俺たちは反対方向へと進んで言った。
どのくらい歩いただろうか。かなり長い通路である。何だろうこの感じ。どこか避難所へと向かっているような気がしてきた。みんなも不気味に思っているのか、無言で進んで行く。そのとき、金属探知機に反応があった。
「待った。どうやらこの先にオリハルコンがあるらしい」
「古代遺跡の中にオリハルコン……あまり良い予感はしないわね」
リリアにも緊張の色が見える。俺もそう思う。どうにもこの通路は不気味である。一体何のためにこの場所を古代人は作ったのだろうか。まるでこの先に核シェルターでもあるかのようである。……まさかな。
「どうする? 引き返す?」
不安そうにマリアが聞いてきた。どうやらマリアも何かを感じているのだろう。ジュラは俺にしっかりとしがみついている。
「先に進もう。なぜだか分からんが、オリハルコンを見つけないといけないような気がする」
俺の意見にみんなが神妙な顔をしてうなずいた。
恐れはあるが、前へと進んだ。きっと俺がここへ来たのには何か意味があるはずだ。ジリジリと慎重に進んだ。何が起こっても良いように、慎重に進んだ。
「ダナイ、あれ」
アベルが何かに気がついた。遠目にそれが剣だと分かる。そしてその剣からオリハルコンの反応があった。
「ああ、どうやらオリハルコンの剣らしい」
「お、オリハルコンの剣!? 何でこんなところにそんなものがあるのかしら」
「分からん。行ってみるしかないな」
慎重にその場所へと近づく。だれかが、あっ、と声を上げた。
「折れてる……オリハルコンの剣が折れてるよ」
そこにはアベルが言うように折れたオリハルコンの剣が転がっていた。どういうことだ? オリハルコンはそんなに簡単に折れるような代物じゃないはずだ。拾い上げてみたが、特に何もない。ただの折れた剣だ。ただし、アベルが持っている剣よりも一回りほど大きかった。どうやら両手で扱うことを想定した剣のようである。
「ダナイ、もしかしてそれが聖剣なの?」
「いや、違うな。ただのオリハルコンの剣だ」
「ただのオリハルコンの剣……」
沈黙が流れた。古代人はこの場所で何かと戦ったのか? オリハルコンの剣が折れるような何かと。この先には何があるんだ? 古代人を滅ぼした何かがいるのか?
「戻ろう。目的は達成した」
俺の意見にだれも反対しなかった。これだけのオリハルコンがあれば、剣を作ることができる。無理をする必要はない。それよりも、俺はこの先に行くのが怖かった。生き物の気配はない。あるとすれば古代人の亡骸くらいだろう。
すぐに先ほど降り立った場所まで戻ると、俺はこの場所を厳重に封印した。土を戻すとしっかりと魔法で押し固めた。これで大丈夫のはずだ。もうだれもあの場所へとたどり着くことはできないだろう。
古代人については分からないことが多い。一体彼らの身に何が起きたのか。だがそれでも分かっていることもある。
ジュラが言っていた。自分がいる場所以外は海に沈んだ。つまり、何かしらの地殻変動があったのだろう。そしてその地殻変動で古代人は絶滅寸前にまで追い詰められた。
その状態から何とか息を吹き返して作られたのが今の世界なのだろう。一体何があったんだ?
「……イ、ダナイ」
「あ、ああ、リリア、どうした?」
「どうしたじゃないわよ。名前をいくら呼んでも反応がないんだもの。大丈夫? 顔色が悪いわ」
「ああ、すまない。ちょっと考え事をしていたよ」
「ダナイ、しっかりくれよ。坑道の出口まではもうすぐだからさ」
アベルに励まされて何とか坑道から外に出ることができた。外は日が暮れかけていた。そのため、今夜はここで一晩過ごすことにした。魔法を発動させて秘密基地の中へと入る。
「ダナイは休んでおいて。あとは私たちがやっておくからさ」
マリアも俺のことを気遣ってくれているようだ。遠慮なくそうさせてもらった。どうやら今の俺は使い物にはならないらしい。それだけショックが大きかったということか。
一体何があったんだ? 聖剣を作れと頼まれたが本当にそれだけなのか? 地殻変動が起きたのは古代人の仕業なのか? いくら文明が発達したからと言って可能なのか? それとも何か別のものが引き起こしたのか? そして古代人はそれと戦ったのか? 『ワールドマニュアル(門外不出)』にその答えはなかった。
「ダナイ、これ飲んで」
ジュラが飲み物を差し出してきた。どうやらジュラにも心配をかけてしまっているらしい。これは行かんな。早くいつのも状態に戻らないと。ジュラが差し出してくれたハーブティーはどこかホッとするものがあった。
夕食が終わると、やはりあの話になった。見つけてしまったからには気にならないわけがない。俺は折れたオリハルコンの剣をテーブルに置いた。それをみんながジッと見ている。
あのときは薄暗くて良く見えなかったが、こうして光の下で改めて見ると見事な剣であったことが分かった。
「ダナイ、これを見て何か分かる?」
「そうだな……」
アベルはやはりオリハルコンの剣がどんな性能を秘めているのか気になるようである。俺は剣を手に取ると、あらゆる角度からその剣を観察した。
「きれいに途中から折れてるな。刃こぼれはまったくしていない。多分、今の状態でも十分に良く切れるだろう」
「折れてるのに刃こぼれがないの?」
不思議そうにリリアが聞いてきた。
「そうなんだ。何かと打ち合った形跡がないんだよ。一体何を切ったらこんなふうに折れるのか」
「やっぱりそうだよね。この剣は何か固いものを切って折れたんじゃないみたいだね」
そう。固いものを切ってはいない。それなら何を切ったのか。もしくは折られたのか。オリハルコンが折れるのか?
「オリハルコンって、こんなふうにポッキリと折れるものなの?」
「折れないと思うの。多分、曲がるはずなの。ものすごく頑張れば、だけど……」
部屋の中に沈黙が落ちた。折れることのないはずの剣が折れる。それは一体どういうことなのか。その答えはここにいるだれもが分からなかった。
俺は少しでも何かヒントがないかとくまなく調べた。そしてあることに気がついた。
「この剣、やはりただのオリハルコンの剣だな。何の付与もついていない」
「付与って何なの?」
ジュラが首をかしげた。付与を知らない? もしかすると、付与の技術は古代文明が滅んだあとに編み出された技術なのかも知れない。
「付与って言うのは、特定の文字を刻むことで効果を発揮する呪文のようなものだよ。ジュラちゃんステッキにも付与はついているぞ」
「初めて知ったの。すごい技術なの」
ジュラは興奮気味にそう言うと、ジュラちゃんステッキをまじまじと観察し始めた。
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