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第五章
ダンジョン? いいえ、ただの廃坑です
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ゴンさんはその当時のことを語ってくれた。それによると、俺の師匠のゴードンとゴンさんはお師さんの弟子の中でも一、二を争う腕を持っていたそうである。それで死期を悟ったお師さんは二人に砥石とオリハルコンを託した。
ゴンさんはお師さんの後を継いで工房を受け継いだが、どうやらうまく行かなかったらしい。貯蓄を食い潰し、オリハルコンも手から離れたそうである。
オリハルコンの鍛錬方法を模索していたようだがどうにもならない。どうにもならなければ無価値な代物である。しかし売れば金になる。ゴンさんはお師さんの工房を守るためにそれを売ったそうである。
そしてそのことを深く悔やみ、工房を弟子に任せて自分は隠居したそうである。
「そんなことが……。それではそのオリハルコンは今どこに?」
「分からん」
「分からない?」
「オークションで売ったのは間違いないが、その後は行方不明よ」
なるほど、行方不明か。見つけたとしても買うのは無理だろうな。売ったときの値段を聞いたが、とてもではないが手が出せない。これは別の方法を考えるしかないな。
探し出して盗みに行くという手もあるが俺たちは怪盗じゃない。無理だな。
「お師さんはどこでそのオリハルコンを見つけたのですか?」
「この山で見つけたらしい。この山にはダンジョンがいくつもあってな。その中の一つで偶然見つけたそうだ」
「ダンジョン!」
アベルがうれしそうに目を輝かせた。俺はどことなくうつろな気分になった。
ダンジョン、その響きだけでも危険な香りがプンプンする。どうせ階層ごとに中ボスがいるんでしょう? そして最奥にボスが待ち構えているんでしょう? 危険過ぎるわ。
「ダンジョン、そんなものが本当にあるのかしら?」
「ああ、あるぞ。行けば分かる。しかしエルフがドワーフと一緒にいるとは驚きだな」
ゴンさんは物珍しそうにリリアを見ていた。やはりエルフとドワーフのカップルはレアらしい。
「そうですか? でも、夫婦が一緒にいることは特におかしなことではないと思いますよ」
ゴンさんが固まった。しばらく微動だにしなかった。
俺たちはゴンさんが教えてくれたダンジョンへとやってきた。場所はゴンさんが住んでいる場所からさらに奥へと進んだところ。ゴンさんに教えてもらわなければきっと分からなかっただろう。こんなところにダンジョンがあっただなんて……。
「って、ただの廃坑じゃねーか! どこがダンジョンなんだよ」
目の前には入り口を木の板で封鎖された鉱山跡がある。おそらく鉱物が採れなくなって廃坑にしたのだろう。随分とくたびれており、閉鎖されてから随分と年月がたっているようである。ご丁寧にトロッコレールまであった。
「ダナイ、この二本の金属の道は何かしら?」
リリアが不思議そうにそれを見て首をかしげた。そう言えばこの世界では初めて見るな。鉄道網があれば移動が便利になりそうだが、材料費やメンテナンス費用を考えたら割に合わないだろう。魔道具の技術があるので、機関車もどきは作れそうな気はするがね。
「これは多分、トロッコのレールだな。この上に車輪の付いた台車を乗せてものや人を運ぶんだよ」
「トロッコ……初めて見たわ。これを使えば良いのかしら?」
レールは奥まで続いているようだが、先がどうなっているのか一切分からない。危険過ぎるだろう。
「やめておいた方がいいな。地道に歩いて行こう。どこにお目当てのものがあるか分からんしな」
残念ながら照明は取り外されているようである。ランプの魔道具のスイッチを入れて先へと進んだ。
ゴンさんの家では一つ大きな収穫があった。小指の爪ほどの大きさではあったが、オリハルコンの鉱石があったのだ。小さいがそれでも価値があるらしく、「これが俺の全財産さ」と自嘲気味に笑っていた。
俺はゴンさんからそのオリハルコンを見せてもらうことができた。そしてすぐにその性質を調べた。そこから得られたデータを元に、金属探知機のデータをアップグレードしたのは言うまでもない。
これで格段にオリハルコンを見つけやすくなった。過去に発掘された記録があるこの鉱山跡なら、他にもオリハルコンが眠っている可能性は十分にあるだろう。はやる気持ちを抑えながら先へと進んで行った。
中は当然のごとく広く、まるでアリの巣の中に入ったかのようだった。道は幾重にも分かれており、無策でそのまま進むと確実に迷うだろう。そこでジュラにお願いした。
「長いツタのロープを作ってくれないか」
「分かったわ。でもそんなものどうするの?」
「入り口からそのロープをひたすら伸ばして、帰り道が分かるようにしとくんだよ」
なるほど、とジュラがうなずいた。普通に考えれば、そんなロープを用意するのは無理だろう。植物を操ることができるジュラだからこそできる芸当だろう。これで俺たちは後顧の憂いなく先に進むことができる。
金属探知機を使いながらどんどん奥へと進んで行く。しかしオリハルコンの大きな反応はなかった。
嫌な予感が頭をよぎる。もしかしてこの廃坑にはオリハルコンはもう存在しないのかも知れない。だがしかし、『ワールドマニュアル(門外不出)』には王都から北にあると書いてあった。これは一体どういうことだ?
そんな疑問を持ちながらも、ついに坑道の最深部までたどり着いた。
「ダナイ、金属探知機に反応はあった?」
「……いや、ないな」
俺の答えにアベルは肩を落とした。オリハルコンが見つからなくては聖剣は作れない。きっとガッカリしているのだろう。俺もすんなりとオリハルコンが見つからなくて消沈している。
「ダナイ、下の方に空間があるの」
「空間がある?」
俺の金属探知機はあくまでも金属を見つけるためのものである。当然地形の把握はできない。しかしジュラは何かに気がついたらしい。どうやら世界樹は自然との親和性が強く、土の中のかすかな変化や空気の流れに敏感なようである。
「そうなの。かなり広い空間があるの。ずっと続いているの」
ずっと続く? どこかの洞窟につながっているのかな? それならばその先にオリハルコンがあるのかも知れないな。
「分かった。それじゃ、試しに掘ってみることにしよう。ここから真下に掘ればいいんだな?」
「そうなの」
シャベルやツルハシは持ってきているが、さすがにそれで掘り進めると時間がいくらあっても足りないだろう。ここは魔法で何とかしよう。掘り出された土はマジックバッグに入れれば大丈夫。幸いなことに、俺とアベルが持っているマジックバッグの容量にはまだ余裕がある。
「それじゃ俺が魔法で穴を掘るから、出てきた土をマジックバッグに入れてくれ。俺のマジックバッグをアベルに渡しておく。うまく使ってくれ」
「了解!」
アベルにマジックバッグを渡すと、穴掘りを開始した。直下堀してロープを垂らせば何とかなるかな? どのくらい下まで掘れば良いのか分からないが、まあ何とかなるだろう。
俺は魔力を集中した。
「ダナイ忍法、土遁、マインクラフトの術!」
目の前に穴が掘られて行く。そこから出た土をアベルが次々とマジックバッグに入れて行く。土を入れるのはなかなかの重労働みたいである。初めは自分もマジックバッグで土を集めたいと言っていたマリアも、今は無言でアベルの方を見ていた。
これは掘るスピードを調節しながら進まないといけないな。
そんなことを思っていると、突如魔法がストップした。何事かと慌てて穴の中を見ると、何か固いものにぶつかったようである。固い岩盤にぶち当たったか? そう思いながらも穴の中をランプで良く照らしてみると、何やら人工的な構造物にぶつかったらしい。
そこには明らかに天然物ではない整った平らな壁があった。しかもそれは、どこかで見覚えがあった。
ゴンさんはお師さんの後を継いで工房を受け継いだが、どうやらうまく行かなかったらしい。貯蓄を食い潰し、オリハルコンも手から離れたそうである。
オリハルコンの鍛錬方法を模索していたようだがどうにもならない。どうにもならなければ無価値な代物である。しかし売れば金になる。ゴンさんはお師さんの工房を守るためにそれを売ったそうである。
そしてそのことを深く悔やみ、工房を弟子に任せて自分は隠居したそうである。
「そんなことが……。それではそのオリハルコンは今どこに?」
「分からん」
「分からない?」
「オークションで売ったのは間違いないが、その後は行方不明よ」
なるほど、行方不明か。見つけたとしても買うのは無理だろうな。売ったときの値段を聞いたが、とてもではないが手が出せない。これは別の方法を考えるしかないな。
探し出して盗みに行くという手もあるが俺たちは怪盗じゃない。無理だな。
「お師さんはどこでそのオリハルコンを見つけたのですか?」
「この山で見つけたらしい。この山にはダンジョンがいくつもあってな。その中の一つで偶然見つけたそうだ」
「ダンジョン!」
アベルがうれしそうに目を輝かせた。俺はどことなくうつろな気分になった。
ダンジョン、その響きだけでも危険な香りがプンプンする。どうせ階層ごとに中ボスがいるんでしょう? そして最奥にボスが待ち構えているんでしょう? 危険過ぎるわ。
「ダンジョン、そんなものが本当にあるのかしら?」
「ああ、あるぞ。行けば分かる。しかしエルフがドワーフと一緒にいるとは驚きだな」
ゴンさんは物珍しそうにリリアを見ていた。やはりエルフとドワーフのカップルはレアらしい。
「そうですか? でも、夫婦が一緒にいることは特におかしなことではないと思いますよ」
ゴンさんが固まった。しばらく微動だにしなかった。
俺たちはゴンさんが教えてくれたダンジョンへとやってきた。場所はゴンさんが住んでいる場所からさらに奥へと進んだところ。ゴンさんに教えてもらわなければきっと分からなかっただろう。こんなところにダンジョンがあっただなんて……。
「って、ただの廃坑じゃねーか! どこがダンジョンなんだよ」
目の前には入り口を木の板で封鎖された鉱山跡がある。おそらく鉱物が採れなくなって廃坑にしたのだろう。随分とくたびれており、閉鎖されてから随分と年月がたっているようである。ご丁寧にトロッコレールまであった。
「ダナイ、この二本の金属の道は何かしら?」
リリアが不思議そうにそれを見て首をかしげた。そう言えばこの世界では初めて見るな。鉄道網があれば移動が便利になりそうだが、材料費やメンテナンス費用を考えたら割に合わないだろう。魔道具の技術があるので、機関車もどきは作れそうな気はするがね。
「これは多分、トロッコのレールだな。この上に車輪の付いた台車を乗せてものや人を運ぶんだよ」
「トロッコ……初めて見たわ。これを使えば良いのかしら?」
レールは奥まで続いているようだが、先がどうなっているのか一切分からない。危険過ぎるだろう。
「やめておいた方がいいな。地道に歩いて行こう。どこにお目当てのものがあるか分からんしな」
残念ながら照明は取り外されているようである。ランプの魔道具のスイッチを入れて先へと進んだ。
ゴンさんの家では一つ大きな収穫があった。小指の爪ほどの大きさではあったが、オリハルコンの鉱石があったのだ。小さいがそれでも価値があるらしく、「これが俺の全財産さ」と自嘲気味に笑っていた。
俺はゴンさんからそのオリハルコンを見せてもらうことができた。そしてすぐにその性質を調べた。そこから得られたデータを元に、金属探知機のデータをアップグレードしたのは言うまでもない。
これで格段にオリハルコンを見つけやすくなった。過去に発掘された記録があるこの鉱山跡なら、他にもオリハルコンが眠っている可能性は十分にあるだろう。はやる気持ちを抑えながら先へと進んで行った。
中は当然のごとく広く、まるでアリの巣の中に入ったかのようだった。道は幾重にも分かれており、無策でそのまま進むと確実に迷うだろう。そこでジュラにお願いした。
「長いツタのロープを作ってくれないか」
「分かったわ。でもそんなものどうするの?」
「入り口からそのロープをひたすら伸ばして、帰り道が分かるようにしとくんだよ」
なるほど、とジュラがうなずいた。普通に考えれば、そんなロープを用意するのは無理だろう。植物を操ることができるジュラだからこそできる芸当だろう。これで俺たちは後顧の憂いなく先に進むことができる。
金属探知機を使いながらどんどん奥へと進んで行く。しかしオリハルコンの大きな反応はなかった。
嫌な予感が頭をよぎる。もしかしてこの廃坑にはオリハルコンはもう存在しないのかも知れない。だがしかし、『ワールドマニュアル(門外不出)』には王都から北にあると書いてあった。これは一体どういうことだ?
そんな疑問を持ちながらも、ついに坑道の最深部までたどり着いた。
「ダナイ、金属探知機に反応はあった?」
「……いや、ないな」
俺の答えにアベルは肩を落とした。オリハルコンが見つからなくては聖剣は作れない。きっとガッカリしているのだろう。俺もすんなりとオリハルコンが見つからなくて消沈している。
「ダナイ、下の方に空間があるの」
「空間がある?」
俺の金属探知機はあくまでも金属を見つけるためのものである。当然地形の把握はできない。しかしジュラは何かに気がついたらしい。どうやら世界樹は自然との親和性が強く、土の中のかすかな変化や空気の流れに敏感なようである。
「そうなの。かなり広い空間があるの。ずっと続いているの」
ずっと続く? どこかの洞窟につながっているのかな? それならばその先にオリハルコンがあるのかも知れないな。
「分かった。それじゃ、試しに掘ってみることにしよう。ここから真下に掘ればいいんだな?」
「そうなの」
シャベルやツルハシは持ってきているが、さすがにそれで掘り進めると時間がいくらあっても足りないだろう。ここは魔法で何とかしよう。掘り出された土はマジックバッグに入れれば大丈夫。幸いなことに、俺とアベルが持っているマジックバッグの容量にはまだ余裕がある。
「それじゃ俺が魔法で穴を掘るから、出てきた土をマジックバッグに入れてくれ。俺のマジックバッグをアベルに渡しておく。うまく使ってくれ」
「了解!」
アベルにマジックバッグを渡すと、穴掘りを開始した。直下堀してロープを垂らせば何とかなるかな? どのくらい下まで掘れば良いのか分からないが、まあ何とかなるだろう。
俺は魔力を集中した。
「ダナイ忍法、土遁、マインクラフトの術!」
目の前に穴が掘られて行く。そこから出た土をアベルが次々とマジックバッグに入れて行く。土を入れるのはなかなかの重労働みたいである。初めは自分もマジックバッグで土を集めたいと言っていたマリアも、今は無言でアベルの方を見ていた。
これは掘るスピードを調節しながら進まないといけないな。
そんなことを思っていると、突如魔法がストップした。何事かと慌てて穴の中を見ると、何か固いものにぶつかったようである。固い岩盤にぶち当たったか? そう思いながらも穴の中をランプで良く照らしてみると、何やら人工的な構造物にぶつかったらしい。
そこには明らかに天然物ではない整った平らな壁があった。しかもそれは、どこかで見覚えがあった。
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