上 下
124 / 137
第五章

オルハリコンを探しに行こう

しおりを挟む
 久しぶりに訪れた王都。そこはイーゴリの街とは違い、この大陸のありとあらゆるものが集まる、一大都市であった。そう言えば最近ライザーク辺境伯のところに行ってないな。たまには顔を見せた方がいいのかな?

「ねえダナイ、今回の依頼でかなりお金をもらったんだよね?」
「そうだぞ、マリア。だからマリアにも山分けしたお金を渡しただろう?」
「もらったけど……もうちょっとちょうだい!」

 マリアがちょうだいのポーズを取った。それを見て、隣にいたジュラも同じようなちょうだいのポーズを取った。二人とも両手を突き出して、片足を後ろに曲げて片足立ちしている。やめてくれ、マリア。うちのジュラが変なことを覚えるだろうが。

 しょうがないので追加のお金を渡した。もちろんジュラにも。マリアにはお金は山分けしたと言ったが、均等に分配したわけではない。マリアはきっとムダ遣いをするだろうと思って、少額しか渡していないのだ。そして案の定、ムダ遣いをしていた。
 何もかもが計画通りである。

 お金をもらうと、二人は駄菓子屋へと突撃して行った。本当に手間のかかる姉妹である。お父さん、将来がちょっぴり不安になってきたぞ。リリアを見ると、眉をハの字に曲げて困り顔だった。

「マリアも相変わらずね。まあ、アベルも相変わらずだけどね」

 当のアベルは我先にと武器屋へと走って行った。王都の武器屋の品ぞろえが気になるのだろう。アベルは俺たちが作った以外の武器を見る機会がそれほどないだろうからな。見た目が変わった武器とかがあるかも知れない。それとも、火を噴く剣、何てものもあるのかも知れないな。

 まあ、アベルは大丈夫だろう。問題はお嬢様方二人だな。俺たちは連れ立って駄菓子屋へと向かった。


「甘い! 美味しい!」

 口元を甘味でベトベトにしたジュラが、それでも飽き足らずに駄菓子を口に運んでいた。隣に座っているマリアも以下同文である。何とも言えない気分になった。大丈夫か? 主に乙女として……。

 リリアはお上品に駄菓子を食べている。なんやかんや、女性陣は甘いものが好きらしい。残念ながら俺は甘いものがそれほど好きではなかったので遠慮した。お酒があればまた別なんだろうけどな。

 待ち合わせ場所の広場のベンチに座って道行く人たちを見ていると、アベルが戻ってきた。しかし、その顔つきは渋い。何かあったのかな?

「どうだった?」
「ひどい。ひどすぎる。ダナイの剣を見たあとじゃ、どの剣もガラクタにしか見えない。何、あの装飾。いるの? バカなの?」

 相当ご立腹のようである。どうやら宝石がたくさん付いた剣がお気に召さなかったようである。アベル、多分それは家に飾るようの剣だよ。本物の剣は裏路地の寂れた武器屋にあるんだよ、きっと。

「アベルも食べなよ、ほら」
「え? ああ、ありがとうマリア。……って何これ!? 辛っ!」

 アベルが慌てて吐き出した。正直、ジュラの教育に悪いのでやめていただきたいのだが……。

「引っかかった」
「引っかかった~」

 マリアとジュラは楽しそうである。パチパチと手をたたいている。知らんぞ、アベルに捨てられても。あきれて二人を見ていると、リリアは頭を抱えていた。そうだよな、頭が痛いよな。

「ダナイ、イーゴリの街に帰ってからどうするの?」
「まずはアベルの剣を研ぎ直す。それが終わったら……」

 言葉を切った俺を、四人が見つめた。

「オリハルコンを取りに行こうと思う」
「オリハルコン!」
「しっ! 声が大きい!」
「ごめん」

 アベルがシュンとなったが、こんなところで口走った俺も悪いな。

「いや、良いんだ。こんなところで話すことじゃなかったな」
「それで、それはどこにあるの?」

 リリアが少し声のトーンを下げて聞いてきた。それに従ってみんなが俺の近くに寄ってきた。

「王都からさらに北に行ったところにあるらしい」
「王都の北? ルメール山脈があるけど、もしかしてそこかしら?」

 うーん、これは困ったぞ。「王都から北」としか書いていなかったから、正確な場所は行ってみないと分からないんだけどな。どうしよう。

「ねえダナイ、何でそんなこと知ってるの?」

 マリアが首をかしげて聞いてきた。う、これはまずい。

「そ、それはたまたま入手した古文書に書いてあったんだよ」
「ふ~ん。その古文書、私にも見せてよ」
「な、何言ってんだマリア。秘密の古文書だぞ? 見せられないよ」

 マリアが半眼でこちらをにらんでいる。これは怪しまれているな。

「ねぇねぇ、リリアもその古文書、見たくない?」
「え? 私はいいわ。ダナイを信頼してるもの」
「え~、ジュラは? ジュラも見たいよね?」
「私もいいの。ダナイを信頼してるの」

 キラキラした瞳でジュラが答えた。ナイス、リリア。さすがだな、リリア。分かってらっしゃる。味方を得られなかったマリアはがっくりと肩を落とした。

「それじゃ帰りはもちろんアレを使って帰るんだよね?」
「どうやらその方が良さそうだな。早く行きたいんだろう?」
「もちろん!」

 アベルがいい顔で答えた。それもそのはず。アベルのことだ。オリハルコンが聖剣を製作するために必要なものだと分かっていることだろう。すでに頭の中は聖剣で一杯になっているかも知れない。
 こうして俺たちは王都を後にすると、イーゴリの街へと戻って行った。


 イーゴリの街へ戻るとするに、ミスリルの剣を持って鍛冶屋ゴードンへと向かった。ここにはオリハルコンの刃も研ぐことができる砥石があるのだ。師匠が一体どこで手に入れたのか分からなかったが、これより優れた砥石をいまだに見たことはなかった。

 これでも王都に行ったときに、武器屋や商業ギルドに通って探していたのだ。だが王都でさえ見つけることはできなかった。
 師匠にミスリルの剣を見せると、大いに驚かれた。

「信じられんな。ミスリルの刃をここまで損耗させる木があるとはな。同じミスリル同士なら分からなくもないが……。エルダートレントとはよほどの魔物みたいだな。いや、無事に帰ってきて本当に何よりだよ」

 師匠が安堵のため息をついた。まあ、足は遅いし、死ぬことはないとは思っていたが、俺の作ったミスリルの剣が通用しなかったらどうしようかとは思っていた。
 聖剣が完成するまで放置? そうすればきっと常磐の森に接している街はなくなっていただろう。

 ミスリルの剣を研ぎ直した。さすがは師匠の砥石。アベルの剣は再び輝きを取り戻した。師匠は同じミスリルの剣同士なら互いに消耗する、と思っているようだが、俺の作った剣は相手のミスリルの剣を両断できると思っている。それだけ、以前見たミスリルの剣はひどかった。

 剣を研ぎ直したあとは、俺たちが使った武器や防具の手入れもしておいた。俺が使ったハンマーは持ち手の部分がグニャリと曲がり、先端部分は押し潰れた状態になっていた。
 一体あの一撃でどれだけの力が加わっていたのか、ちょっと想像できないくらいだった。
 良くもまあ、翌日の筋肉痛だけで済んだものだ。若いっていいね。五十歳を超えているけどな。ドワーフ最高。

 家に戻ると、待ちかねたように玄関先でアベルが待っていた。

「大丈夫だとは思うが、一応、庭で振って見てくれ」
「了解!」

 剣を受け取ると一目散に庭へと走って行った。庭から「ヒャッホーウ!」と言うアベルの叫びが聞こえてきた。
 あとやらなきゃならんのはマリアの魔法銃のメンテナンスだな。あれだけは外でやるわけには行かないからな。機密が多すぎる。

 俺が工房でカチャカチャとやっていると、物珍しいのか、ジュラが扉の向こうからコソコソとのぞいていた。すごく気が散る。それならまだ近くで見てもらった方がいい。
 ジュラを呼び寄せると、「邪魔をするつもりはなかったの」とシュンとなった。どうやら邪魔しないようにリリアによく言いつけられていたらしい。そのリリアは夕食の準備中である。

 ジュラは用意したイスに座り、俺の仕事をジッと見つめていた。

「気になるのか? コイツが」
「始めて見たの。魔法が飛び出す武器は見たことあるけど、あれだけたくさん発射できる武器は見たことなかったの」

 やはり魔法銃の取り扱いは気をつけた方がいいな。ミスリルの剣くらいなら「すごい剣」で済むかも知れないが、コイツは異端だからな。そう言えばジュラだけが俺のお手製のアイテムを持っていないな。よし、ここは一つ、何かとっておきのものをプレゼントしてやるとするか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...