伝説の鍛冶屋ダナイ~聖剣を作るように頼まれて転生したらガチムチドワーフでした~

えながゆうき

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第四章

報告するまでがお仕事です

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 翌日、俺たちは早々にエルフの里へと向かった。予定の範囲内の日数だったが、なるべく早く戻って報告した方が良いだろうと、みんなの意見が一致した。

 エンシェント・エルフたちは痩せており、強行軍はちょっと辛いかも知れないが、各種ポーションを使って何とかすることになった。

 幸いにして大きな戦闘をすることはなかったため、ポーション類も潤沢に残っている。なので、遠慮なく使うことにしたらしい。

 そうして俺たちは、行きよりも早い日程でエルフの里に帰りつくことができた。


「そうか。そんなことがあったのか」

 ここはフロストの家である。族長の一人であるフロストには、これまでの経緯を残さず話すことになっていた。
 エンシェント・エルフのことも、俺たちのことも、エルフ族の権力者である族長が知っている上で処理してもらえれば問題ないとの判断だ。

 重苦しい空気を醸し出していたが、フロストは俺たちの意見を了承してくれたようである。

「ダナイたちには少なからずの恩ができた。何かあれば、いつでも頼ってくれ」
「ええ、そうさせてもらいますよ。俺たちはこれから冒険者ギルドへの報告があります。準備が整い次第、すぐに戻ります」
「慌ただしいな」

 フロストはそう言うが、俺は一刻も早くエルフの里から去りたい気分だった。何せ、リリアの母親のエリザがこの場にいるのだ。リリアの父親がいつ現れるか分かったものではない。安心して過ごすことなど不可能だ。

 俺はサッサと準備を済ませると、馬車に飛び乗った。リリアはすでに御者台に座っている。

「さあ、帰るとしよう。冒険者ギルドに報告するまでが、俺たちの仕事だからな。行くぞ、松風」

 俺が召喚した馬の松風はすぐにでも出発したかったようである。俺の声に応えて、力強く歩き出した。

「ちょっと待ってよ、ダナイ! 本当にゆっくりしていかないの?」

 馬車に飛び乗りながらマリアが言った。その後ろからアベルも乗り込んだ。

「そんな時間はないさ。帰ってからやりたいことがたくさんあるからな。まずはそうだな、マリアの秘密基地をパワーアップさせないといけないからな」
「そうだったわね!」

 さっきまでの渋りようがウソのようである。今度は急げ急げと言い出した。
 こうして俺たちはエルフの里を後にして帰路についたのだった。


 イーゴリの街までの道中は特に何もなかった。魔物が数体ほど現れたが、アベルとマリアが難なく倒していた。夜も魔除けの魔道具のお陰で特に問題はなし。実にスムーズに旅は進んだ。

「あ、やっとイーゴリの街が見えてきたわ。早く家に帰ってお風呂にゆっくりと入りたいわ。ね、アベル」
「あ、ああ、そうだね」
「ああ、はいはい。冒険者ギルドへの報告が済んでからね。今回ばかりは私たちだけではだめよ。何せ、魔族がからんでいたんだから。詳しい話を聞きたがるはずよ」

 報告を俺たちに丸投げしようとしたマリアに、リリアが釘を刺した。
 うーん、やっぱり魔族と遭遇した件については話さないわけにはいかないか。ややこしいことになりそうだから、出来れば避けられないかなと思っていたが、やはり無理そうだな。

「日付が替る前には家に帰れるといいな……」

 時刻は昼をちょっと過ぎたくらいである。報告することはたくさんあるので、厳しいかも知れないな。それなら「残りは明日で」となってくれればいいのだが。

 そんなことを思いつつ、一度家に帰った俺たちは、馬車と松風を庭に駐車すると、すぐに冒険者ギルドへと向かった。


 この時間帯になると、依頼から戻ってきている冒険者もチラホラと見かけた。俺たちは空いている受付カウンターに行くと、ギルドマスターのアランに報告することがあるから、と面会を頼んだ。

 俺たちのことはあらかじめアランから聞いていたのか、すんなりと冒険者ギルドの奥へと通された。

「この部屋にも行き慣れたよね」
「ああ、そうだな。あんまりうれしくないような気がするがな」

 アベルの問いに、それもそうだと返事を返した。出されたお茶を飲みながらのんびりと待っていると、ようやくアランと、副ギルドマスターのミランダがやってきた。何だか忙しそうだな。これは明日にすれば良かったかも知れない。

「すまない。遅くなってしまったよ」
「忙しいようなら、明日にでもしようか?」

 気を利かせて尋ねたが、大丈夫だ、と断られた。ミランダもこちらの話を聞く体勢になっているようで、抱えていた大きなファイルを机の上に並べた。

「それじゃ、エルフの里の調査について、報告します」

 俺たちが代わる代わることの一部始終を語るうちに、どんどんとアランとミランダの顔色が悪くなってきた。

 そして俺たちが魔族の討伐まで成し遂げたことを話したときには、ホッとした表情になっていた。

「魔族か。もしそれが事実なら、魔族が姿を見せたのは百年ぶりだぞ」
「確かにそうですね。本当に魔族だったのですか?」

 アランの言葉に、ミランダが付け加えた。とても信じられないといった感じである。そこでリリアが戦利品としてもらった魔族の魔石を異次元ポシェットから取り出した。

「これは……!」
「ほ、本物みたいですね」

 二人とも初めて見るのだろう。生唾を飲みこんでいるのがここからでも分かった。
 こうして俺たちがウソをついていないことは証明できた。だが、二人の危機感を募らせることになった。

「魔族の動きが活発化しているのかも知れないな。実はな、例の西の魔境に魔物が増えたのも、魔族が復活したからなんじゃないか、と噂されていてな。それについては、何か聞いたことはないか?」
「聞いてないな。俺たちが倒した魔族は随分と前から準備をしていたようだった。西の魔境の件との関係は分からないな」
「そうか」

 アランは腕を組んで考え始めていた。その隣で、ミランダは気になったことがあったようである。

「リリア、あなたの持っているそのポシェット、マジックバッグよね?」
「ええ、そうよ。とっても便利ね。もっと早く手に入れておけば良かったわ」

 得意気に話すリリア。何だか、嫌な予感がするのは気のせいか。

「どこで手に入れたの、それ? あなたのお母様から譲ってもらったわけじゃないんでしょう? エリザが持っていたものとは違うものね」

 さすがは副ギルドマスター。目ざといな。
 一瞬動きが止まったリリアはすぐに動きを再開した。自慢せずにはいられなかったらしい。

「ここだけの秘密だけど、私の旦那様が私のために作ってくれたのよ」

 実にうれしそうである。その顔は分かりやすくニヤニヤとしていた。別にリリアのために作ったわけではないが、まぁいいか。実質リリアのものみたいになっているしな。

「まあ、ダナイが!? まさかマジックバッグを作れる人がいるなんて!」

 ミランダの顔色が変わった。隣に座っていたアランの顔色も変わった。

「マジックバッグを作れる……だと……!? ダナイ、いくら払えば作ってもらえる?」

 あー、なるほど、こうなるのね。だがこれは、チャンスかも知れない。

「俺が作ったことを内緒にしてもらえるなら、無料で作ってやるよ」
「私も欲しいです!」

 ミランダがハイハイ! と手を上げた。
 こんなテンションの高いミランダを見たのは初めてだ。普段はほとんど感情を表に出さないのに。そんなにマジックバッグが欲しかったのか。

「分かった。二人分、作っておくよ」
「え? 私も欲しい!」
「マリアはいらないだろう? うちのパーティーの分はリリアが管理しているからな。それで十分だよ」

 と、言いつつ、自分とアベルの分を作る予定である。マリアがマジックバッグを手に入れたら、所構わず自慢せずにはいられないだろう。間違いない。危険の芽は先に摘んでおくべきである。

 なおもブーブー言うマリアをアベルになだめさせていると、今度はアランが聞いてきた。

「確か、アベルの剣でトドメを刺したんだったな。その剣、見せてもらってもいいか?」

 アベルから剣を受け取ったアランはおもむろに剣を引き抜いた。見た目はただのミスリルの剣である。魔族を切れるかどうかは、実際に対峙しないことには分からない。

「見たところ、名工が打ったミスリルの剣にしか見えないな。これが聖剣……」
「いや、ただのミスリルの剣だぞ、それ。アベルが勝手に聖剣だと言っているだけだ」

 俺の言葉にショックを受けたのは、アベルだった。

「えええ! 違うの!?」

 泣きそうである。何でだよ。これ泣かせてしまったら、何か俺が悪者みたいになるながれじゃないですかね?

「ああ、違う。違うが、そのうちアベルには本物の聖剣を作ってやるつもりだ」
「本当!?」

 今度は先ほどとは違い、目をキラキラと輝かせた。良いのかこれで?
 ……良いんだろうな。俺は無言でうなずいた。

「まぁ、ドワーフの鍛冶屋と言えば、聖剣を作るのが生涯の目標だったりするもんな」

 一人で納得したアランはウンウンとうなずいている。まさか、本物の聖剣を作り出そうとしているとは、夢にも思っていないようである。これはこれで、ラッキーだな。

「報告は以上です。何か聞きたいことがあったら、そのときに聞いて下さい」
「分かった。君たちも疲れているだろう。報告、ご苦労だった。あとは俺たちが処理しておこう」

 こうして俺たちは、ようやく家に帰ることができた。外は夕日が沈む寸前である。

「今から夕ご飯を作るのは厳しいわね。どこかで食べるか、買うかにしましょう」
「賛成ー! お金もたくさんあるもんね」
「帰ったらまずは家の掃除からだな」
「ようやくゆっくりと布団で眠れそうだよ」

 俺たちはそろってイーゴリの街を歩き出した。
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