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第四章

自慢の旦那様

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 少し休憩を挟むことになった。さすがにその場に集まっていたメンバーにも考える時間が必要だろう。
 フロストは事態を重く見ているようだ。必要があるならば、エンシェント・エルフを滅ぼしても致し方なし、と言う姿勢だった。
 族長である彼は、今のエルフ族の繁栄を選択したようである。

 一方で、エンシェント・エルフの捜索に向かったメンバーは、その底知れぬ恐ろしさを垣間見たことで、近寄りたくないと思っているようである。

 ベンジャミンはこのことを予想していたのだろう。それで俺たちを呼んだのだ。ミスリルゴーレムを倒した実績があり、族長の娘リリアがいるのだから、当然と言えば当然だろうな。
 それに、この話にも大きく関わっている。

 休憩の間に、マリアの魔法銃の披露会が開催されていた。魔法銃から放たれる、合計六種類の魔法の弾丸を見て、フロストの庭はエルフたちによって驚きに包まれていた。

「あの無属性の魔力の弾丸は、俺たちがエンシェント・エルフの隠れ家で見たものとそっくりだな」
「ああ、間違いないだろう。しかし、他の属性魔法の弾丸は飛んでこなかったぞ?」
「おそらく、エンシェント・エルフが持っていたものでは、あの弾丸しか発射できないのだろう。そうなると、こっちの武器はアレよりも性能が上だということか。まさか、そんな武器が存在しているとは……」

 捜索部隊のメンバーはその時の様子を思い出し、それぞれが分析をしてくれていた。情報は多ければ多い方がいい。何でも良いから思い出してもらえるのはありがたい。

「あの魔法を打ち出す武器は、エンシェント・エルフが最盛期だったころの遺産なのかも知れないな」
「それじゃ、あの魔法銃は?」

 うん。まぁそうなるよな。これ、「ワシが作った」って言っていいやつかな? 言ったら言ったで、問題になりそうなんだけどな。

「この魔法銃は私の旦那様が作ったものなのよ!」

 どうだと言わんばかりにリリアが胸を張って答えた。
 アバー!
 その言い方って、色々とまずくないですかね、リリアさん。

「作った!?」
「旦那様!?」

 誰かが叫んだその声に、その場の視線が一気に俺たちの方を向いた。どうやらリリアはここで白黒をハッキリとさせるつもりのようだ。

「そうよ、お母様。ダナイは私の旦那様なのよ。時代の最先端の魔道具を作り、誰も作れなかった魔法薬を作り、趣味で規格外の馬車を作り出す。それが私の旦那様なのよ」

 どうだ、と言わんばかりである。しかし最後の規格外発言はどうなんだ。それはほめているのだろうか。

「あ、あの揺れない馬車は趣味で作ったものだったのか……」

 ベンジャミンは妙なところで面食らっていた。何でそこに。そんなにあの馬車が気に入ったのか。

「それに魔法だってすごいのよ。どんな魔法だって使えちゃうんだから!」

 アカン。これはアカンヤツだ。完全にリリアが変なテンションになっている。思わぬところで、何の心の準備もなく母親に会ったストレスが、どうやら爆発してしまったようである。
 いやそれとも、もしかしたらこのまま連れ戻されるのかもと思っているのかも知れない。

 まぁ、そんなことは俺が絶対にさせないけどな。たとえエルフ族を敵に回してもな。

「ダナイ、そろそろリリアを止めた方がいいんじゃない?」
「そ、そうだなマリア。俺も今そう思っていたところだよ」

 俺は恐る恐るリリアの方へと向かった。下手に突いて矛先が俺の方に向かうのを全力で避ける。

「あー、リリアさん、そのくらいで……。ベンジャミン、そろそろ会議を再開しようじゃないか」
「お、おう、そうだな」

 一人ではとても抑えられないと思い、ベンジャミンに助っ人を頼んだ。ベンジャミンもそのことに気がついたらしく、すぐに会議の再開を宣言してくれた。
 
 リリアの母親を呼んだのが自分である手前、責任を感じているのかも知れない。だったら呼ばなければ良かったのに。何かリリアの母親と約束事でもあったのだろうか?
 
 例えば、リリアを見つけたら連絡を入れるように頼んでいたとか。でもそれは、連れ戻したいとかじゃなくて、単に娘を心配する親心だと思うんだけどな。当のリリアにはまったく通じていないみたいではあるが。

 俺たちは再び室内に戻り、今後のことについて話を再開した。

「ダナイのパーティーを連れて、もう一度、エンシェント・エルフのところへ行きたいと思っている。ダナイたちはどうかな?」

 ベンジャミンはそう言うと、俺たちの方を見た。

「もちろん構いませんよ。そのつもりで来ましたからね」
「それはありがたい。先ほども聞いた通り、魔法が一時的に使えなくなるが、その点は大丈夫か?」
「大丈夫です。問題ありません」

 俺たちには魔法封じを無効化するアイテムがあるからな。問題はない。

「リリアも、本当に大丈夫かい?」
「大丈夫よ、ベンジャミン。だって私たちには……」
「リリア!」

 俺は慌ててリリアの口を塞いだ。さすがに魔法封じのお守りがあることをこの場で知られるわけにはいかない。
 これまでの経緯を見れば分かる。エルフの国には魔法封じを無効化するアイテムがないのだ。そんなものがあることが分かれば、エルフの国からそれを欲しいと言うの者が後を絶たないだろう。

 何せ、自慢の魔法が封じられることがないのだから。それを良いことに、魔法を使える種族こそが最強だ! などと言って暴れられては困るからな。魔法封じという抑止力があることは、非常に大事だ。

「ダナイ、何か秘策があるのか?」
「ええ、ありますよ。この場で話すわけにはいきませんがね」

 ベンジャミンの問いに釘を刺しておいた。その問いに答える気はないと。ベンジャミンは小さなため息をついたが、それ以上の追求はしてこなかった。

 そんなベンジャミンの様子に、他のエルフたちも聞きたいのを抑えているようだった。

「それでは決まりだな。できれば捜索部隊の誰かに案内をしてもらいたいのだが――」
「分かった。案内しよう。これは俺たちの国の問題でもある。客人たちに頼ってばかりではいけないからな」

 捜索部隊の隊長らしき人が言った。隊長以外にも、もう一人ついて来てくれるようだったが、さすがに全員は参加を表明しなかった。
 魔法が使えないと言うのは、エルフ族にとって、よほどの恐怖だったらしい。

「私も行くわ」
「エリザ」

 追加の参加表明をしたのはリリアの母親だった。これにはベンジャミンも驚いたらしい。もちろんリリアも驚いていたが。

「危険なのは承知よ。それなら、戦力は少しでも多い方がいいでしょう? これでも、弓矢には自身があるわ。これなら魔法が使えなくても戦うことができるわ」

 決意は固いようである。ついにベンジャミンは断る口実を見つけられず、しぶしぶ了承することになった。

 リリアの顔色はすぐれなかったが、俺も反対できる口実を見つけることができず、そのまま話を進めるしかなかった。

「それでは決まりだな。さすがに馬車が通れるような道はないだろう?」
「ああ、ないな。途中から道すらない」
「荷物があるなら私に任せてちょうだい。こんなこともあろうかと、マジックバッグを持って来たわ」

 そう言うと、エリザは小さなポシェットをみんなに見せた。マジックバッグ……どうやら見かけによらずたくさんのものを詰め込むことができる魔道具の一種のようだ。

 正確には魔道具ではなく、マジックアイテムに属するようである。魔道具との違いは、エネルギー源としての魔石を必要としないこと。壊れなければ半永久的に使える品のようである。

 作り方は……適当な入れ物に空間を広げる魔法を付与するらしい。魔法付与か。この世界にはまだまだ俺の知らない技術が眠っているらしいな。
 せっかくなので、今度やってみることにしよう。
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