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第四章

魔力増加ポーション

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 昼食を食べて家に戻ると、アベルとマリアが干からびかけていた。
 どうしたんだ、二人とも。まさか……。

「どうしたの、あなたたち」

 完全にあきらめた口調でリリアが尋ねた。答えはおおよそ分かる。

「おなかすいた……」

 マリアの言葉に盛大なため息をつくリリア。リリアの気持ちは分からなくもないが、動く様子はなかったので、適当に昼を作ることにした。
 パンとハムエッグ。それに野菜スープ。簡単ないつもの朝食スタイルである。匂いにつられたのか、二人がテーブルに座った。

「ダナイ、あなたが何でもやってあげるから、いつまでも二人がダメダメなままなのよ」
「それはそうかも知れないが、いきなりやらせても、ダメダメなものが急にできるわけないだろう? じっくり育てていくしかないさ」
「ダメダメって……」

 俺たちのダメダメ発言に、二人は多少傷ついたようである。これで少しは自覚してくれれば良いのだが。


 午後から俺は、早速通信の魔道具の作成に入った。何事もやってみなければ分からない。そして、面白そうなことを見つけたら、全力でトライしたい。
 紙を取り出してゴリゴリと設計図を書いていく俺を見たのだろう。マリアがリリアに話かけた。

「ねえ、ダナイ、どうしたの?」
「……何となく想像はつくわ」

 一呼吸の後に、リリアのあきらめた声が聞こえてきた。

「何かの設計図? また何か面白い魔道具を思い付いたの?」
「そうなの!? 今度は一体何を作るつもりなの?」

 うれしそうなマリアの声が聞こえる。そうだよ、みんな新しい物には飛びつくはずなんだよ。なぜリリアの理解が得られないのか、それが分からない。

「それは、できてからの楽しみにとっておきなさい」

 どうやらリリアは慎重に情報を扱って欲しいみたいだ。と言うことは、通信系の魔道具はかなり希少、もしくは、まだ存在しないのかも知れないな。これは何か制限をつけた方がいいかも知れない。


 ザックリと設計図が完成したことで、次の作業に入った。
 次は新しいポーションの作成だ。青の森で採れた新しい素材を使って、今持っているものよりもさらに高いグレードのポーションを作っていこう。

 こちらは魔道具よりも簡単そうだ。素材をそのまま入れ替えれば良いだけだからな。知識チート『ワールドマニュアル(門外不出)』で青色の素材の前処理方法を調べた。
 
 どうやらこれまで扱ってきた薬草類と同じでいいそうである。なるほど、単に色違いというだけか。調べた感じ、他にも赤色、黄色、紫色なんかもあるらしい。入手場所は火山だったり、ダンジョンだったりするらしい。そのうち機会があれば、採りに行ってもいいのかも知れない。

 自宅の作業場に籠もって作業をしていると、リリアがやって来た。何だろう、この何か監視されているような雰囲気は。

「どうしたんだ、リリア?」
「ダナイ、今度は何を作っているのかしら?」
「おいおい、普通のポーション作成だよ。素材に青の森で入手した物を使ってみようと思ってね」

 今度はどうやら納得してくれたようである。それ以上は何も言ってはこなかった。そのため、そのまま作業を続けた。

「ヒッヒッヒ、ヒーッヒッヒッヒ!」
「素材が変わっても、その声はいるのね……」

 その声を聞きつけたのか、アベルとマリアもやって来た。

「何か変な声がしたけど、大丈夫?」
「大丈夫よ。これがダナイのやり方みたいだから」
「ほんとに?」
「ほんと、ほんと」

 おい、外野うるさいぞ。用がないなら冒険者ギルドにでも顔を出しておけ。

 周囲のメンバーに邪魔はされたが、無事にポーションは完成した。見た感じでは、ポーションの色は濃い青色をしていた。まるで素材の色をそのまま引き継いだかのようである。

「リリア、コイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

 ただ一人、部屋に残っていたリリアに完成した回復ポーションを見せた。

「すごく色が濃いわね。これって本来、薄めて使うんじゃないのかしら?」
「世間一般ではそうなのかも知れないな。でも、このまま使う方が効果が高いみたいだな」
「そうだったんだ」

 リリアは濃い青色のポーションを不思議そうにマジマジと見入っていた。
 どのくらいの効果があるのか試してみたいところだな。今度、こっそりと試してみよう。

「……ダナイ、自分で試してみようとか、考えてないわよね?」
「え? ソンナコトナイヨー」
「セリフが棒読みよ! そんなことしたら絶対にダメだからね。私が絶対に許さないんだから」

 そのセリフ通り、その後しばらくの間、リリアは付きっきりで俺が作業するのを見ていた。俺のことを心配してくれる人がいるというのは力強いことだな。実演して試してみたかったけど。

 次は青の森の素材で魔力増加ポーションを作ってみることにした。
 出来上がった魔力増加ポーションの効果次第では、ひょっとしたら師匠でもミスリルを打つことができるようになるかも知れない。

 一人の鍛冶屋として、ミスリルで武器を作るのは長年の夢であるはずだ。師匠は自分の魔力では無理だと気がついていたが、それでもかなり落ち込んでいた。
 師匠にはいつもお世話になっている。そろそろ親孝行ならぬ、師匠孝行をしても良いのではなかろうか。

 俺は錬金術の鍋の前に立つと、用意していた素材を、煮立った鍋の中に慎重に投入した。すぐに色が青色に変わってゆく。

「今度は何を作っているのかしら?」
「魔力増加ポーションの効果の高いやつを作っているんだ」

 リリアが「え?」って顔になった。それはそうだよな。何でそんなもの作るんだと思うよな。

「まさか、マリアのために……?」
「違う違う。師匠に使ってもらおうと思ってな」

 そう言って事情を説明した。リリアも納得してくれたようだった。

「そうだったのね。どのくらいの魔力が要るかにもよるけど、うまく行くと良いわね」
「俺が明日、試しにミスリルを打ってみるよ。それでどのくらいの魔力が要るのかが分かるはずだ。なあに、全部が全部師匠がやる必要はない。事前に用意できる部分は俺が準備して、大事な部分だけ師匠がする方法もあるからな」

 リリアはうなずくと、ふと思いついたかのように、あごに手を当てた。

「それじゃ、事前に誰かがそのポーションを試してみないといけないわね。ここはやっぱり……」
「アベルだな」
「アベルよね」

 二人の意見は一致した。アベルの口を封じて実験に付き合ってもらうとしよう。
 間違ってもマリアに言ってはいけない。魔力増加ポーションを自分用に大量に用意して欲しいと絶対に言ってくるだろうからな。

 その後無事に魔力増加ポーションは完成した。黄色と青色のまだら模様をしており、パッと見、飲みたくない感じである。しかし、『ワールドマニュアル(門外不出)』で確認したところ、問題ないことが確認できた。

 その後は魔力回復ポーションも作成しておいた。こちらは後ほど自分たちで試すとしよう。効果次第によっては、今後はもっと気兼ね無く魔法を使うことができるようになるかも知れない。夢が広がるな。
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